107 ひかりの説明
網の上で手のひらサイズくらいある大きなアサリがじりじりと黄金色に焼けていく。アサリ? いやハマグリなのか? よくわかんないが、大きい。アサリによく似た得体が知れない食材にちょっと畏怖を感じる私。
「何この……アサリみたいな謎貝?」
「え? どう見てもアサリですわよ」
「いやいやいや、でかすぎだから」
私、むつき、銀華、瀬良ちゃんの4人と神獣たちは炭火焼きの飲食店にいた。お嬢様の銀華が伊勢エビのフルコースとかを奢ってくれるとか言ってたからフレンチ的な店かと思ってたら、思いっきり大衆的なとこだった。で、伊勢エビを食べるつもりだったのに、銀華は謎のでかい貝に興味を示して焼いている。このお嬢様、ゴスロリの服装をしてるくせに感覚がすごい庶民である。
「ウチムラサキ……通称オオアサリ。このへんの名産っすね! 検索したら出てきたっす!」
「えーとなになに……? へぇ、ラッコがよく割ってる貝もこいつがモチーフになってるの?」
「ラッコさんの貝ですのね! 素晴らしいですわ!!」
「でも大味でアサリより味は劣るとか書かれてるんだけど」
「そんなことないですわよ! こんなにおいしそうですのに!」
そんな感じで私たちはわいわいやってた。銀華に対して苦手意識を持ってたらしいむつきも、段々打ち解けてきているように思える。なんかこう、銀華は思ってたよりずっと普通の子だ。私の中で中二病のお嬢様キャラからゴスロリの変人キャラにランクアップした。私はいつも突っかかってくる銀華をツンケンした態度で追い返すことが多いが、ちょっと対応を柔らかくしてあげた方がいいかもしんない。
あと、謎にでかいアサリは普通に美味しかった。アサリより劣るとか大味とか言ってごめんね伊勢の人。さて、キッカ姉とひかりは今頃何を話してるんだろう……
◇◇◇
「もぐもぐもぐ、おいしー!」
ひかりは牛串をガツガツ食べたり酒を飲んだりしてしていた。食べてるときはとても幸せそうな笑顔だ。菊花は呆れながら突っ込む。
「ひかり……重要な話をするんじゃなかったの?」
「だって料理が運ばれてきたから」
「だってじゃないわよ。普段そんなに食べなかったでしょ?」
「わたしは15年間眠りっぱなしで食事取ってなかったんだよ! ちょっとくらいいいでしょ!」
「はいはい、分かったわよ。ゆっくりでいいから、食べながら話しましょ」
実はひかりは20品くらい料理を注文していたので、次々と料理が来る。食べることこそ至上の喜びと言わんばかりの食べっぷりである。元々ひかりはそんなに食べないから、菊花は少し驚いていた。そんなに飢えてたのか……
「はー、おいしい。15年前より食事のくおりてぃーが上がった気がするねぇ。で、何の話してるんだっけ?」
「あなたねぇ……」
「あー、良子ちゃんのことだっけ? うんうん。わかってるよ。さて、どこから話したものか……」
ひかりはふむ、とあごに手を当てて考え込む。
「まず、わたしが試練と称してあの子たちと戦ったのは、あの子たちがわたしを脅かす存在だと思ったから」
「脅かす? そんな子たちじゃないわよ」
「キッカはそう言うけどね……良子にはホント気を付けた方がいいよ。なんせあの子の使ってる力はわたしの管轄外だ。わたしたち神獣の力じゃない。つまり、あの子はわたしたちのような巫女や魔法少女とは成り立ちが根本的に違う」
さっきと打って変わって真面目な雰囲気を出して話すひかりに、菊花も気を引き締めた。
「……どういうこと?」
「つまりあの子は、謎の力で魔法少女っぽいものに変身しているってこと」
「それって、あの子は偽物の魔法少女だとでも言うの?」
「んー……どうだろ。魔法少女って概念自体が新しいし、変身して戦う少女ならそれで魔法少女でいいじゃんって感じするけど……じゃあ、まぁいいか魔法少女でも」
「えー……なにそれ」
散々言っておいて前言撤回するひかりの適当さに、菊花は呆れてしまう。ひかりは自分の意見を即座に変えることが出来るという柔軟性があるが、思いつきで発言したり行動したりすることで周りの人をツッコミに回らせる傾向があった。
「まぁ、わたしが言いたいのはあの子の力が規格外ってこと。ほら、ここ見てよ」
ひかりが服をつかみ、ぺろりと自分のお腹を露出した。見た目中学生なのに全く恥じらいの無い行動を大衆居酒屋でしていることを菊花は慌てて制止に入る。といってもここはカウンター席じゃないのでそこまで目立たないと思われるが、一応公共の場でそういう露出は憚られる。
「ちょっと、突然何してるのよ!」
「ほらここ見て、良子ちゃんに殴られた跡」
そう言って指差した場所はろっ骨のあたりで、そこは痛々しい大きな痣が出来ていた。
「それ、大丈夫なの……?」
「んー、大丈夫じゃない。たぶん骨折れてる。すごい痛いもん」
「治さないの、それ?」
「治りがよろしくないんだよなぁ……私が万全な状態じゃないというのもあるかもしれないけど、これもあの子の力なのかも」
「……あの子の力って一体何なの?」
「んーとそうだね、キッカは自分が覚醒したときのこと覚えてる? どんな感じだった?」
ひかりはたくしあげた服を戻しながら、菊花に聞いた。そして菊花はゼドと戦って自分が覚醒したときの感覚を思い出しながら拳を握る。
「なんというか……あれだけ怖かった相手の攻撃が全く怖くなくなって、戦ってみたら実際全然痛くなくて……ちょっと怖いくらいだったわ」
「ふむふむ」
「かといって、自分自身はすごい魔法が使えるようになったとかそういうんじゃなくて、どこまでも普段通りって感じで、むしろパワーやスピードは神獣合身のときより下がってたと思うんだけど……なんでかしらね」
「うん、それなんだよね。覚醒って」
びしっと指を立てるひかり。尚、その動作には特に意味は無い。
「窮地に陥って強くなるとか火事場の馬鹿力とか、そういうのはよくある現象だ。それを覚醒っていう人もいるけど、わたしらが言うところの『覚醒』はもっと違うものなんだ。いうなれば、存在の超越というべきかな。その瞬間だけ魔法少女は『神』に近い存在になる」
「存在の超越? 神? 何言ってるのか分からないけど、あなたは元々神じゃないの?」
「確かにわたしは天照大神だけど、ここで言う『神』とはちょっと違うんだよね……ところでキッカは覚醒する直前のこと覚えてる? そこで何を見た?」
「何って……なんか今までの走馬灯のようなものは見たわ」
「それは『どこで』見た?」
「どこでって変なこと聞くわね……走馬灯なんだから、私の頭の中に決まってるでしょう?」
「それは、たぶん違う。キミの見たものは想像の産物じゃない。それはおそらく、『特異点』が見せたものだ」
「……とくいてん?」
「そ、特異点。ちょっとここから説明長くなるから、図で説明するよ」
ひかりはどこからか白い紙を取出し、そこに鉛筆で図を書いていく。まず書いたのは「現世界」と書かれた大きな円。そして隣り合うように「異空間」と書かれた小さな円。その異空間を囲む「巨大異空間」と書かれた大きな円。
「この『現世界』って書かれた円が私たちの住む世界。で、悪魔はその現世界から外れた場所に『異空間』という小さな空間を作る。私たち魔法少女もこの異空間に行くことはできる。だけど、その異空間を取り囲む大きな世界がある。まぁ便宜上『巨大異空間』というけど、この空間は無秩序すぎて侵入するのは困難だ」
「巨大異空間……こんな場所があるの?」
「うん、行ったら戻れないかもしれないから魔法少女には広めてない。でも私たちの世界に隣り合うようにあるんだよ、この空間は」
ひかりが「巨大異空間」の円の中に「特異点!!!」と書かれたぐるぐるマークを書き加える。
「そしてこの空間に突然発生するのが『特異点』という巨大エネルギーの集積場所。何故発生するのかは分からない。これが15年前、吹津町で発生した。この特異点は凄まじいエネルギーを持ってて、魔王ブラックモアはこれを狙って出現した。そして恐らく、キミが覚醒まで至った理由でもある」
「特異点……ってなんか聞いたことあるわね。これが……どういうこと?」
「15年前にもここらへんは話した気がするけど、もしかしてこれも忘れさせたのかなぁ? まぁいいや、説明を続けるよ」
ひかりは黒いスライムのような物体の上に「魔王」と書いて、「特異点!!!」からそこに矢印伸ばした。そして自画像と思われるかわいいデフォルメ犬耳少女の上に「魔法少女」と書いて、同じように「特異点!!!」から矢印を伸ばす。その矢印の上には「ぱわー」と書いた。「特異点!!!」が「魔王」と「魔法少女」に「ぱわー」を送ってるような図が出来あがる。
「魔王ブラックモアは15年前にこの特異点に到達し、特異点は魔王に世界を滅ぼしかねないほどの力を与えた。それを打ち破る為に、我々もこの特異点に到達し、同様に力を得て『覚醒』した。まぁ、それには多くの犠牲と代償が必要だったけど……」
「ちょっと待って、図がほんわかすぎてシリアスな雰囲気に合ってなさすぎる」
「特異点は悪魔にも魔法少女にも力を与える存在なんだよ……」
「え、無視?」
次々と明かされる真実。そしてシリアスな話をしてるのに図が気になりすぎて、菊花はあんまり話についていけてなかった……




