105 ネズミパワーアップ
「ふーふんふんふんふーん、ふーん♪」
先頭で歩いてるゴスロリ少女、銀華が上機嫌にアメリカ合衆国国歌の鼻歌を歌う。
「機嫌いいわね」
私が声をかけると銀華はこちらを振りかえり、満面の笑みを向けた。
「だって、わたくしパワーアップしましたもの!」
「あー、そうかそうか。良かったね」
銀華がこんなに上機嫌な理由、それはこんなことがあったからだ。
◇◇◇
「とりあえず今日は解散ねー。解散」
私たちをこんなところに呼びつけたケモ耳幼女、天乃ひかりはそう宣言した。いや、なんかこう色んなことが投げっぱなしになってるんだけど……大きな魔女帽子をかぶった黒髪の少女、むつきが立ち上がって食い下がる。
「えと、あの、その……」
駄目だ、クソ雑魚すぎて食い下がれてない。代わりに私が言う。
「結局、何の解決策も出てないんだけど……」
「あー分かった分かってるって。ちょっとこっちも色々考えるからまたね」
「いや、またねって言われても……もう明日には帰るんだけど」
また伊勢まで来いとか言わないよな?
「だいじょうぶ、大丈夫だから。うん、とりあえず今日は伊勢観光楽しんでらっしゃいよ」
「いや、そう言われても……」
「あ、そーだ。キッカは残っててね。ちょっと色々話したいし」
「えぇ? 私?」
「そーそー。大人の話。だから子供はおかえりー」
いや、見た目あんたの方がよっぽど子供なんだが。5歳児並みの幼女が言うセリフか?
「うちは残らないんすか?」
「セラちゃんはその子らと遊んでていいよー」
「うちも大人なんすけど……」
残念そうに言う瀬良ちゃん。キッカ姉がにっこりと微笑んで、瀬良ちゃんの頭を撫でる。
「瀬良ちゃん、この子たちを頼むわね」
「もー、仕方ないっすね」
いや、監督役として不足がある感が否めないんだけど。
「また会えるっすよね」
「うん、またね」
そういって手を握り、別れの挨拶を済ます瀬良ちゃんとひかり。そして私たちはキッカ姉ちゃんを残して帰る事になったんだけど、その帰る直前にムシみたいに小さなスクナヒコナという神獣が話しかけてきた。
「ちょっち待った。そこのハイカラな嬢ちゃんについてるネズミっこに用がある」
「へ? あっしに?」
ひかりとの会話中、全く口を出さずに空気になってた銀華のネズミがぴょこっと銀華の肩に乗った。
「おめーさん、ちーと嬢ちゃんにつくにゃ弱すぎるな」
「が、がびーん」
「つっても今は別のやつ回すほどの余裕はねぇ。だから十二神将が一柱、子神のスクナヒコナ様が……ネズミの神獣のボスとしておめえさんに力を分けてやるよ」
そう言って、スクナヒコナが自分の身長ほどもある針を手に取った。まるでおとぎ話に出てくる一寸法師みたいな出で立ちだ。そしてぴょんっと銀華のネズミの前まで跳ぶ。
「ほらっ、ちっといてぇが我慢しろよっ!」
ぶすり。持ってた針がネズミの頭頂部に突き刺さる。
「あんぎゃあああああああああああああああああ!!!」
ネズミが悲痛な鳴き声を上げる。
「ちょっと、わたくしの従者に何しますの!」
「嬢ちゃんはだまってな。ほら、神力注入!!」
スクナヒコナの体が光り、そこから針を伝ってネズミの額に青き力がどどぅっと流れ込んだ。
「ぎびゃあああああああああああああああああああああ!!」
この世のものとは思えない痛烈な悲鳴を上げ、ネズミがぶっ倒れた。スクナヒコナはすっと針を抜き、地面に降り立つ。銀華は慌てて倒れたネズミを手のひらに乗せた。
「だ、大丈夫ですの!? ポッチン!!」
おい、前はチュースケとか呼んでなかったか? 名前を憶えられてないなんて、哀れなネズミ……
「ま、終わったぜ。これで多少は良くなっただろ。つーわけで起きやがれネズ公」
スクナヒコナが声をかけると、ポッチン(仮)はパチリと目を覚ました。すると、体から青いオーラがほとばしり、さきほどまでの灰色の毛皮が白く輝いているような姿になった。
「こいつは……この力は……」
「餞別だ。くれてやんよ」
「パワーアップ……かしら」
「あ、ありがとうごぜぇやす! ありがとうごぜぇやす! 子神の旦那!!」
涙を流して礼を言うポッチン(仮)。そういえば行く途中の車の中で、力が無いことに悩んでたのを聞いた気がする。良かったなネズミ。
「じゃあこれも受け取って」
唐突に聞こえた幼女の声。いつの間にかひかりが現れ、ネズミの額に人差し指を突きつけた。そして、その指から赤い光が解き放たれ、ネズミに注入される。
「ぐぃにゃああああああああああああああああああ!!!」
再び凄絶な悲鳴を上げるネズミ。光が止むと、今度はネズミはぐったりと倒れた。
「あ、アマテラス様よぉ。その力は渡して良かったのかい……」
「んー。ま、なんとかなるでしょ」
「ちょっと、ポッチン! しっかりしなさい!! ポッチーーーーン!!」
ネズミは起き上がらず、ぐったりしたまま横たわっていた……
◇◇◇
そんなわけで、そのネズミは起きたら赤いオーラと青いオーラが混ざり合い、紫のオーラを纏っていた。
「つーわけでぇ、オイラは新しい鉄鼠として生まれ変わったわけでごぜぇますよ」
「へー」
ハリネズミのようなトゲトゲの毛を逆立てて、安易なパワーアップしたネズミが語る。
「で、思い出したんだけども、どうやらオイラは昔は"妖怪"とか言われてて、どっちかというと悪魔側に近い扱いだったらしい。それが神獣になってからどうやら封印されてたみたいで、アマテラス様はそのときの力を返してくれたんでごぜぇます」
「へー」
「へー……って、扱い軽くねぇですかい!?」
まぁ、ネズミのことなんてどうでもいいし。
「つまり、わたくしの神獣もついに光と闇の力を兼ね備えたということですわね」
「そういうことでさぁ」
「んー、なんかそれってデメリットありそうな感じするんだけど大丈夫?」
「わたくしであれば大丈夫ですのよ!」
……まぁいいか。ひかりも別に大丈夫と思ったからそうしたんだろうし、単純にパワーアップと考えとこう。
「これであっしはしがない下位神獣から、実力的には中位神獣……このまま上位の神格になっちまうかもしれねぇでさぁ!」
「調子に乗るな鉄鼠」
「おやぁ、嫉妬でごぜぇますか雷電の旦那。そんなに小さくなっちまって、可哀そうになぁ……」
「このクソ鼠が……」
デンとネズミが言い合ってる中、私は銀華に尋ねる。
「なんか口調も性格も変わったような気がするんだけど、アレ大丈夫?」
「まぁ、別にいいんでは無いですの? わたくしもこれでパワーアップしましたし」
「ああそう、いいんだ……」
なんか楽観的すぎて心配するだけ無駄になる気がしてきた。一方、振り返ると暗い顔をした魔女帽子のゾンビっ子がとぼとぼ歩いている……まぁ、仕方ないか。結局こっちは何の進展もないんだし。溜息をついてむつきが言う。
「これから私たち、どうすればいいのかしら……」
一人深刻そうな顔をしたむつきを見かね、銀華がガシっと手を握る。で、空いた左手でなぜか私の手もガシっと握る。で、何故か瀬良ちゃんが私のもう片方の手をガシっと握った。おいおい、仲良しか。
「なんとかなりますわよ! それより、いい時間ですし食事にしませんこと!?」
「おお、いいっすねぇ! せっかく旅行に来たんだからいいもん食べたいっす!!」
「伊勢だから伊勢エビがいいですわね!」
「伊勢エビ!? 豪遊っすね! 奢って下さいっす!!」
「調子がいい人ですわね! もちろん奢りますわ! なんたってわたくしは朱鷺宮銀華! 日本でも十指に入る朱鷺宮財閥の娘ですもの!!」
「お嬢様! お嬢様!!」
「テレマスワー」
知り合ってそんな経ってないのに、なんだこの二人の仲の良さは。既に親友レベルのように感じる。でもまぁ、伊勢エビかぁ……今まで食べたことないな。じゅるり
「行きましょう、伊勢エビ」
「ええ! 伊勢エビのフルコースですわ!」
「わーい伊勢エビー!」
銀華が腕を引っ張って走っていく。元気だなぁ。なんか青春だなぁ。
……ところで、キッカ姉と天乃ひかりは今頃何話してるかな?




