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101 ひかりが襲いかかってきた

 それなりに読書家でもある私は、その剣の名前を知っていた。そう、古事記を読んだことがあるから分かる。

 三種の神器が一つ、天叢雲剣あめのむらくものつるぎ―――私の適当な神話知識によると、確か古事記においてアマテラスの弟であるスサノオがヤマタノオロチという怪物を倒したときに尻尾から出てきたという伝説の剣だったはず。武器というより皇室の権力を象徴する祭具という意味合いが強く、現代においてもどこかの神社に現存しているという……という。


 で、目の前にいる少女が握っている剣。あれが神話に語られる天叢雲剣と同じものなのかは私の目では判断がつかない。だが、今まで私が見てきた魔法少女の武器とは明らかに格が違うような、"神の力の象徴"に相応しい存在感を放っていることが、その剣から見て取れた。そんな剣を突然出すとか、一体何を考えてるのかね?


 ひかりは剣をゆっくりと大上段にかかげると、空から光が集まってきた。天叢雲剣に太陽の光が集まっているようだ。光を吸収したその剣は、まるで刀身自体が太陽のように輝き始めた。


「本気出しすぎると全部消し飛んじゃうからね。まぁ、このくらいでいっか」


 ひかりはそう言って剣の切っ先をこちらに向ける。マテ、待て待て待て待て……!


「ちょ、ちょっと待って、そんな危なそうなもので何をする気……」

「それじゃ……いくよ。覚悟はいいね」

「よくないから、全然よくないから!」


 駄目だこいつ、話聞く気ないんですか! というか私が何をした!? 私はとっさにあたりを見渡すが、壁になりそうなものも何もないし、味方は全員『決戦のバトルフィールド』とかいう円の外側だ。キッカ姉ちゃんがどんどんと空中を叩いているが、円を囲う透明な何かに阻まれてる。

 ……というか、私一人か! クロモは? あいつどこ行きやがった!? あ、いた。円の中にいるけどめっちゃ上空にいるわ。手を振ってやがる。あいつ最初から見ないと思ったら、ずっとあそこにいたのかおい。ひかりはクロモに眼中にないみたいだし、これ逃げ場なくない?


 ひかりがとんっと軽く地面を蹴ると、いつの間にか瞬間移動したかのように私の目の前まで間合いを詰めていた。あ、これあかんやつだ。

 私が逃げる間もなく、すでに剣が届く射程内。ひかりは余裕を持ってゆっくりと大きく振りかぶり、剣を下ろした。咄嗟に私は右腕を上げてその身を庇った。キッカ姉ちゃんの叫びが聞こえた。死の予感が頭をよぎり―――


 がきん!


 剣から発生した光が私を飲み込んだ。硬質な音が響き、腕に衝撃が走る……あれ?


 剣を受けた私の腕は一体……? 私は恐る恐る目を開けると、剣は私の腕に食い込んだまま静止していた。あの剣は三種の神器とか言ってたし、明らかにやばい感じがしていた。予想では腕が落とされる、または最悪死ぬと思っていた。だけど……うん、普通に無事だ。ひかりもそれに驚いていたのか、少し茫然としたかのように私を見つめ、ゆっくりと剣を引く。


「……ほ~~~? ふ~~~ん? へ~~~ぇ?」


 ひかりがひとしきり感心したかのように頷きながら、まじまじと自分の剣を観察し、斬った箇所の私の腕と見比べる。


「……予想はしてたけど、やはりそうか。でも、それにしたって無傷って……ねぇ」


 一人納得したかのようにブツブツ言うひかり。いや、いみわかんないんだけど。


「あの……何か?」

「うん、君に直接的な攻撃は効果が薄いことが分かった。では、これならどうだろう?」


 そう言ってひかりが素早く私の背中に回り、私が抵抗する間もないまま腋にぐっと手を差し込んだ。


「ちょ、え、なに?」

「こういうのは効くかな? こしょこしょこしょこしょ」

「ちょおっ、やめろこら、やめろぉ!」


 ひかりがわさわさと手を動かし、思いっきり腋をくすぐってきた。

 腋を這う繊細な指の動きが、神経の脆弱な部分を刺激する。ぞわぞわとする感覚が、容赦なく私を襲った。腋を急いで閉じたが、ひかりはおかまいなしに今度は脇腹をくすぐってくる。やばい、そこもやばい。


「ふっ、くっ…! や、やめ、ばか、ばか、あほ!」


 苦痛に耐え忍ぶように怒りを相手に向けるが、うまく罵倒の言葉が出てこないし、げんこつかましてやろうと腋を開けるとすかさず腋の下に手を伸ばしてくる。どうにもならなくなり、私は腋を閉じて亀のようにうずくまる。

 だが、そのような格好になってもひかりはわずかな隙間を狙ってくすぐりをやめないのだ。


「ひゃ、ひふ、ふっ、く、くくく」

「あはは、きいてるきいてる。ね、こっちはどう? どう?」

「ひゃめっ、ひゃめて、はぐっむ、ひゃっ」


 ぐ、くすぐったすぎて息が、息が! 笑いを必死に堪えてるが、その代わり体はぷるぷると震えている。もはや亀状態を解除出来そうにも無い。長くしつこく続く耐えがたい苦痛に、私が抱く感情は純然たる殺意100%だった。


 殺す。まじ殺す。


 私は確固とした決意をし、思い切って防御を解いて立ち上がると、そのまま振り向かずに後ろのひかりに思い切り肘鉄をかました。肘鉄は脇腹に当たったらしく、めきっと嫌な音を立てる。ひかりはうずくまり、脇腹を抑えて堪えるが、かすかにうめき声をあげていた。


 ……あれ? もしかして折れた?


「つぅぅー……っ! ったいたいいたい……」

「あの、大丈夫……?」

「だいじょ……ぶじゃないなー……っ。あーいてていててて。あーもうおわりおわり。試練はこれでしゅーりょー」


 そう言って脇腹を抑えながらよろよろと立ちあがるひかり。片手を上げると、屋外だった周りの景色が塗り替わっていき、元の神社の中に戻っていく。


「あ……」

「戻りましたわね」

「この空間、何でもアリっすか」


 そして円の外に場所にいた他の人たちも元の位置に戻っていた。ひかりはふぅっと息を吐いて、ぼふんという効果音と共に元の5歳児並みの幼女の姿に戻った。


「ま、きみたちの力は大体わかったよ。とりあえずお疲れ様だねー」


 どっこらせとひかりが座布団に年寄りくさくどっかりと座る。するとキッカ姉ちゃんが間髪入れずに彼女の頭にべちんとチョップを入れた。


「いたっ! こんな幼い子供に暴力を振るうなんてひどいよキッカー」

「ひどいのはどっちかしら? この子を剣で斬りつけておいて」


 キッカ姉ちゃんは割とガチに怒っていた。うん、いやマジで怖かったから、もっと怒られろと私は思います。


「まぁ、怒るのはよく分かるけど、いずれ誰かが検証しなくちゃならなかったことなんだよ。彼女にとっても、これは重要なことだった」

「……どういうこと?」


 ひかりは一息ついて私の目をじっと見つめた。幼い容姿とは裏腹に、その目は全てを見通す賢者のように達観した目だった。


「佐藤良子……いや、魔法少女シュガー。キミの使う力は魔法というものを超越してるんだよ」

「魔法を超越……それってどういう意味?」

「極めて限定的だけど……『覚醒』してる。魔法少女初心者にも関わらず、だ」

「まじっすか!?」


 なにそれ、すごいの?


「その、『覚醒』っていうのよく分からないんですけど……」

「ふむ、ゆっくり説明していこうと思う。さ、座って座って」


 私達は座布団の上に座り、円陣みたいな形になると、今度は中央にちゃぶ台が出現した。


「弟ー、お茶だしてー」

「え、弟?」


 ここに来てまた新キャラ?

更新遅いぞ!作者は何やってんだ!(ゲームしてた)

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