99 自称最高神と自己紹介
目の前の獣耳幼女が言う。
「わたしが日本の最高神、天照大神様だー!」
「ええーーー!!?」
高らかに宣言する巫女服の獣耳幼女に、驚愕して叫ぶキッカ姉と瀬良ちゃんとデン。一方、初対面の私らはどう反応すればよいのか分からず、困惑したように顔を見合わせた。
えっと、整理しよう。私達は15年前にキッカ姉達と一緒に戦った魔法少女、天乃ひかりという人物を訪ねに来た。何故伊勢という場所を指定されたのか、遠いわ!と思っていたけど、とりあえず来たら異空間に案内された。そしてその奥で待っていたのは、アラサーの魔法少女ではなく、巫女服を着た5歳児くらいの獣耳幼女。そしてその幼女は自らを日本の最高神、天照大神と名乗った。なんかもうよく分かんないな。
目の前の幼女は、私達の反応に満足したかのようにふぅ……と息を吐いてあぐらで座る。
「はー、とうとう言ってやったぜ……」
いや、何一仕事終えたって顔で座ってるの。説明を続けて下さい。当然、私達は理解が追いついてない。
「あの、えっと……」
「というわけで皆よく来たねー。歓迎するよー」
戸惑う私達に対して、手を広げて歓迎のポーズをする幼女。瀬良ちゃんが少し言葉を選びながら言う。
「えーと、ひかりん……ですよね? 天照大神様って呼んだ方がいいんですか?」
瀬良ちゃんが緊張して標準語使ってるなんて珍しい。でも目の前にいる幼女が日本の最高神とか言うんだから、仕方ないか。いや、待った。まだ自称だよね。念の為、事情通そうなスクナヒコナに聞いてみる。
「あの女の子が天照大神様って本当……ですか?」
「本当だぜ、間違いなくな。疑うなら龍神や外で転がってるアンちゃんにも聞いてみるがいいぜ。もっとも、おめぇら日本人の知ってるアマテラス様たあちっと違うかも知れねぇがな」
うーん、どうやら本物なのかな……? 証言だけで証拠は無いが、伊勢神宮の中にいたこととか、なんかそれっぽい感じがするので信じることにした。というか、それでも信じられないところが、あの姿の幼さと神様っぽくない言動。神秘的な雰囲気をまとってるのは認めるけど。
「まー、確かにわたしは天照だけど、そう呼ぶ必要は無いよ。出来れば今までどおり、天乃ひかりの名前で呼んでほしいな。芸名みたいなものだし、表向きはそっちの名前で活動してる」
芸名なのか、天乃ひかりって。確かに安直なネーミングだけど。おそるおそるな感じで瀬良ちゃんが言う。
「ひかり……さん?」
「あーいいよいいよ、タメ口で。というかセラちゃんにそういう態度取られると悲しいからやめてよね」
ちょっとたじたじになる瀬良ちゃん。でも彼女はちょっと勇気を出して踏み込んで言う。
「じゃあ……ひかりん!」
「うんうん」
「抱きしめていいっすか!」
「うん、いいよー」
「わーい!」
いいんかい。ひかりが広げた腕の中に飛び込む瀬良ちゃん。背の高い方の瀬良ちゃんが何故か幼女の胸に頭をうずめる形になっている。瀬良ちゃんも十分背が低いんだけど、ひかりは更に低い。身長差が犯罪臭を感じさせる。
「突然いなくなって、寂しかったんすからねー!」
「ごめんねー。よしよし」
瀬良ちゃんの頭をなでなでしながら、慈愛に満ちた母のようなまなざしを向けるひかり。なんというか……幼女の姿なのに、すごい余裕があって懐が大きい感じがする。そしてひかりはちらりとキッカ姉を見て言う。
「キッカも抱きついていいんだよー?」
「いや、いいわ。というよりなんで小さくなってるの?」
即答で断るキッカ姉。おぅ、こっちは割とドライな関係だったり? しかし、お互い自然にタメ口だなぁ。気の知れた仲ではあったのかも?
「ひかりん、なんで魔王を倒してすぐいなくなっちゃったんすか!」
瀬良ちゃんも遠慮が無くなったのか、ぷんすこ怒ったように言う。
「んー、実は魔王倒すのに力を使い果たしちゃってね。君たちと別れた後、ずっとここで寝てたんだ。15年間ずっとね」
「15年間も?」
「うん、ついさっきまで寝てた。んで今起きた。15年ぶりにね」
15年て……寝過ぎでしょ。人間の常識が当てはまらない相手なのかもしれないけど。しかしまぁ、神獣の総本山とか言われてるらしい伊勢神宮の内宮が不思議と静かだったのは納得がいく。推測するに、きっと神獣たちは彼女を起こさないようにしてたんだ。
「……で、体が小さくなってるのは?」
「本来、完全復活までに60年はかかる見込みだったんだ。今回は無理して起きたから、こんな中途半端になったの。まぁ、小さくなった今の雷電と同じ感じかな。今もねむいよー」
「60年もかかるんすか!?」
「まぁ並の悪魔ならともかく、相手が魔王だったからねー。消耗度がすごいよー」
よく分からないけどすごい戦いをしたらしい。そのへんの話をよく聞きたいのだけどね。
「まぁそんな感じだから、君たちともう一度会えたとしてもおばあさんになると思ってた。正直、再び会うことはないと思ってたし」
「水くさいっすよ……再び会えて良かったっす!」
再会を心から喜ぶ瀬良ちゃん。そういえば、瀬良ちゃんはあまり私たち以外の友達と一緒になってるところ見たことないな。数少ない友達だから嬉しいのか。
キッカ姉ちゃんが尋ねる。
「それで、あなたには色々話を聞かせてもらいたいんだけど……」
「うんうん、いいよ。その前に、初めての人もいるしお互い改めて自己紹介からいこうか」
そう言ってひかりはどこからか座布団を取り出してぽいぽいっと置いた。何気なくやってるけど、何気にすごい。この人もクロモと同じでどこでもポケットみたいなの持ってるのか。
「まーまー座って座ってお客さん。ゆっくりしてくださいな」
まるで家に友達を連れてきた子供のお母さんのような台詞を言う幼女。この子、自称最高神とは思えないほどフレンドリーだわ。私たちは座布団の上に座ったら、円陣組んでるみたいな配置になった。
「じゃあ、わたしから改めて自己紹介するよ。わたしは天乃ひかり。さっきも言った通り天照大神でもあるけど、まぁそんな気にしなくてもいいよ。趣味は昼寝」
趣味昼寝って。太陽神なのに昼に寝ちゃ駄目なんじゃ?
「ああ、キッカとセラちゃんのことは知ってるからいいといて、君たちのことを教えてほしいな。新人の魔法少女さん」
私たち三人を指さして、尋ねるひかり。見定めるような目をしている。自称日本の最高神なのに、私達みたいな普通の魔法少女(一部ゾンビ)に興味あるのだろうか……まぁ、普通に自己紹介しますか。
「私は佐藤良子です。こっちの黒いのはクロモ」
「むつき……です」
「朱鷺宮財閥の朱鷺宮銀華ですわ!」
「天照様。あっしは銀華お嬢様の契約神獣、鉄鼠というんでさぁ」
あ、ネズミはチュースケ(銀華命名)の方じゃなくて、普通に名乗った。銀華も流石にこの場では突っ込まなかった。割と空気読める子?
ひかりは首を傾げて言う。
「……で、チーム名は?」
「え? チーム名?」
えーと、いきなり何言い出すんだろうかこの子。チーム名て。
「……無いわ」
「え、無いの? チーム名は必要だよー!」
腕をぱたぱたさせてそう力説するひかり。いや、チーム名とか聞かれても。私とむつきと銀華が顔を見合わせる。
「というか私達そもそもチームって感じじゃないんだけど……それぞれ勝手に動いてるし」
「そういえばわたくし、むつきさんのことをあまり存じ上げませんわ」
「……そうね」
うん、今更だけどそう言えばそうだった。銀華はむつきとあんまり接点はない。ただし、むつきのいた前回の時間軸では知らないけど。むつきは銀華のことを「面倒くさい子」とか言ってたっけ。銀華が出現しだしてから出会うのを避けてた感じだし……もしかして、結構相性悪い?
ひかりは私たち3人を順繰りに見回して言う。
「チームとしては統一感のない衣装だね。ふーむ、かろうじて共通点としてはイメージカラーが白、黒、銀って無彩色ばっかなところか」
「いや、だから別にまだチームってわけじゃなくて……」
確かにこの三人だとバラバラ感ある。可愛い系魔法少女の私と魔女風のむつき、そしてゴスロリお嬢様。うん、自分で可愛い系っていうのもあれだけど。デザイナーがそれぞれ違うみたいだ。
「モノクローズとかどう?」
唐突に思いついたように言うひかり。なんか、微妙な感じする。
「もっとかっこいい名前がいいですわ!」
「むう、せっかくこの日本の最高神であるわたしが名付けてあげたのにー」
文句を言う銀華と頬を膨らませる幼女。というかもうチーム組む流れになってるの?




