10 クロモへの尋問タイム
「まず、根本的な話なんだけど」
家に帰った私はクロモへの尋問タイムを始めていた。今後の活動方針を決める為に重要なことである。有意義な話し合いになることを願う。
「そもそも悪魔って何なの?」
「世界を災いをもたらす存在だよ」
クロモの返答は曖昧だ。違う、私が聞きたいのはこういうのじゃなくて
「悪魔っていうのは人間の負の感情から生まれるものなのよね?私からも生まれるの?」
「良子から?可能性はあるけど……わかんないね」
あるのか……いや、私が悩んでるのはそういうのでもなくて
「ああいや、そうじゃなくて、そもそもの悪魔の出生とか存在する意味とか、そういうのが分からなくてモヤモヤするの!」
「ふふふ、分からないか」
何故かそこでクロモが得意げに言った。
「正体が分からないから怖いんじゃないか!」
なるほど、わからんのかこいつにも。
「あ……そう」
「何その白けた反応!?ねぇ、怖いでしょ!?わけわからなくて怖いでしょ!?」
「あー怖い怖い。でも存在してるのが分かってる時点で怖さ半減だわ」
はっきり姿が見えれば怖くも何とも無いんだよ。私にとって、いるかいないか分からないくらいの方が怖い気がする。
「ま、悪魔の正体については分からないものとして処理するわ。で、具体的に悪魔は何をするの?」
「それは人間を不幸に……」
「漠然としすぎ。何をどうやって不幸にさせるつもり?」
「何をするか分からないから怖いんじゃないか!」
この神獣は……何か有意義な情報を持ってないのか。
「じゃあ魔法少女と神獣って何?」
「悪魔を退治するためにいるんだと思う。昔からいたからよく分からない」
「昔にも魔法少女っていたのね」
「昔は巫女とか聖女とか言われてたね」
ふむ、巫女か。確かに巫女と考えると昔からいることになるね、魔法少女。
「ねぇ……神獣って神様なの?」
「神獣が神様?ナイナイ!」
クロモは私の質問を笑い飛ばした。
「まぁ……神獣が神様と思われて信仰されてる例もあるけど、それを言うなら悪魔だって神様扱いをされることがあるし、要するに神様ってのは人間が作り出した都合のいい偶像にすぎないよ」
「神はいないと?」
「いると思えばいるんじゃないの?想像の中ではね。とりあえずボク自身の経験として、実体をもった神様は見たことないよ」
「なるほど、神は概念か……」
ってなんか話が脱線している気がする。なんで哲学的な話題になってるんだ。修正修正っと。
「クロモの目的は何?神獣の目的じゃなくて、クロモ自身の目的」
「もっ、目的?ボク自身の?」
目的を聞かれて、クロモがちょっと動揺してる気がする。やがてクロモは笑顔を作って爽やかにこう言った。
「世の中を……平和にしたいのさ」
すげー嘘臭い。
もういいや。他の質問をしよう。
「あの助けてくれた魔女っぽい三角帽子の子は何なの?」
「多分魔法少女だね……って言っても、正体も目的も分からないけど」
「空間魔法って言ってたわね。それってすごいの?」
「んー。強いってレベルじゃないね。あんなの使える魔法少女見たことないから……」
「魔法少女では見たことない空間魔法とやらをクロモが知ってるのは何故?」
「悪魔が使ったのを見たことあるからねー」
「どんな悪魔?」
「それこそ神様に近い大悪魔だよ。魔王って言ってもいい」
魔王。新しいワードが出てきたな。神様はいなくても魔王はいるのか。
「その魔王って今もどこかに存在するの?」
「ふっふっふ。いつか現れることになるかもね」
何故か楽しそうに話すクロモ。魔王がくるのがそんなに面白いことなのだろうか。いつかっていつだろ?
「あと……悪魔を倒したら出てくる黒くてモヤモヤしたやつ」
「デビルエレメントね」
「そうそれ。あれは何なの?」
「悪魔のエネルギー源みたいなものだね。あれを浄化すると魔法少女や神獣の魔力となる」
「あんなの吸収して体に悪くないの?」
「ボクにとっては大丈夫。良子にとっては……何か変化あった?」
「何も。ただ、吸収するときに負の記憶ってやつが見えるのがイヤ」
「あー、あれね・・・」
そう、あれを見せられるのが嫌なのだ。だって赤の他人のトラウマをわざわざ私が追体験しているようなものじゃない。気持ち悪いったらない。
「でもさ、所詮は他人事だし、他人の不幸は蜜の味だと思えばいいんじゃない?」
だがこの神獣はドクズだった。
「……あんたの目的なんだっけ?」
「魔力を取り戻すことだよ?」
「さっきまで世界の平和がどうたらって言ってなかったっけ?」
「あっ」
クロモはハッとして失言に気づいたがもう遅い。なるほど、こいつにとって悪魔を倒すことは手段であり、目的はデビルエレメントなのか。
「ひどい! 誘導尋問だ!」
「そんなものしてない。あんたが勝手に言っただけ」
この神獣、なんか残念なやつだ。
そのとき、階下から弟の声が聞こえてきた。
「おねーちゃーん! ごーはーんー!」
「はーい、今いくー」
いつのまにか夕食の時間だ。クロモは尋問タイムが終了したことに、ホッとしたように息をつく。
全くもう……何を企んでいるのか知らないが、この分だと割とあっさりボロを出しそうな気がする。
「クロモ、あなたに言っておくことがあるわ」
「なーに?」
「貴方が何を企んでるか分からないけど、とりあえず魔法少女を続けてみるわ」
「そっか! ボクとしても新しい魔法少女探して、また説明するのは面倒だから助かるよ!」
「あんたね……あ、そうそう。最後に一つだけ。なんで私を魔法少女に選んだの?」
「あー、なんとなく」
「なんとなくなのか……」
クロモのこの性格では、本当になんとなく選ばれてそうだ。なんかこう、適性とかそういうのじゃなくて。
悪魔……神獣……そして魔法少女。今回の尋問タイムではそこそこ収穫はあったが、結局分からないことばかりだ。魔法少女を続けるとそのうち分かるのだろうか。
私は魔法少女として悪魔を退治したいとか人助けをしようとは思わない。それでも私が魔法少女を続ける理由……それは分からないことがたくさんあってモヤモヤするからだ。
私はクロモに選ばれたおかげで、普通の生活をしていたら知り得ない世界の秘密の一端を知ることができた。それはとても幸運なことだと思う。だから私はその秘密を解き明かしたい。
とりあえずクロモはアテになりそうにないことが分かった。だから別の人に聞こうと思う。そう、例えばあの魔女っぽい帽子の魔法少女とか。
直感だが、彼女は色々知ってそうな気がする。今度会ったらガッチリつかまえておこうと私は決心したのだった。
クロモにとっては色々とごまかせてメデタシメデタシでしたが、良子への信頼度と好感度はだだ下がりのようです。
元々ないですけど、信頼。




