表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その他いろいろ

男女の貞操観念が逆転した世界で

作者: 鈴本耕太郎

 病院のベッドの上で彼は目を覚ました。

 寸前まで見ていた夢を思い出す。いや、夢なんかじゃない。

 あれは前世の記憶だ。

 

 前世の彼は三十歳を過ぎても彼女の一人すら作る事が出来なかった。

 安い賃金で過酷な労働をしていた。

 仕事が忙し過ぎて、友達も疎遠になってしまっていた。

 

 生きる意味を見失った彼は、電車へと飛び込んだのだった。


 ぼんやりとした頭で天井を眺めているとドアが開いた。そちらに顔を向けると、この世界での母親が立っていた。

「祐太!?目が覚めたのね!?」

 母親は今にも泣きだしそうな顔で駆け寄って来た。

 その姿を見て彼は安堵した。

 この記憶は確かに前世のものであって、今の自分ではないのだ。


 前世と比べると、この世界は前世でモテなかった彼にとって天国とでもいえる環境だった。

 なぜならこの世界は、前世と比べて貞操観念が逆転していたのだ。さらに人口は、男性が女性の十分の一以下である。

 結果として全てにおいて男性は優遇され、働かなくても楽に暮らしていけるような社会となっている。

 そのせいでほとんどの男性が女性を軽視していた。


 この世界では常に、女性が男性の機嫌を伺っている。

 この世界では常に、男性は女性をバカにしている。

 この世界では常に、女性が男性を求めている。

 この世界では常に、男性は女性を避けている。


 そんな世界において、女性に飢えていた前世の頃の記憶を思い出してしまったらどうなるだろうか。

 当然答えは決まっている。


 その日から彼は変わった。

 多くの男性が女性を無視して冷たくあしらう中で、彼は女性に対して優しく接した。

 たったそれだけの事で、効果は抜群だった。

 すぐに彼は人気の的になる。


 何もしなくても女性が寄って来てくれる。

 彼は嬉しくて仕方がなかった。

 毎日のように女性と遊んだ。

 日替わりで遊ぶ相手を変え、その全ての相手と当然のように身体の関係を結んだ。

 前世でそんな事をしていたら最低なクズ野郎なのだが、この世界ではそれが許された。むしろ推奨される程である。

 自分も相手もそれを望んでいるのだ。まさしくwin-winな関係である。

 最高だ!

 声を大にして叫びたい!

 前世の記憶を思い出して本当に良かったと彼は思った。


 その後の彼の活躍は実に凄まじい。

 生涯に渡って数千人の女性と関係を持ち、千人以上の子供を作る事になる。


 さて、そんな彼の活躍を彼以上に喜ぶ者達がいた。

「上手くいきましたね」

「私が言った通りだったでしょ?」

 少子化問題に悩む閣僚達である。

 彼女達は考えに考えを重ねた末、とある実験を行う事にした。

 その実験とは、女性に飢えていたという前世の記憶を植え付ける事だ。

 

 果たしてその結果はご覧の通り、大成功である。


 秘書が出て行ったのを確認した女性議員は喜びを噛み締めた。

「これで私もやっと、処女が卒業できる……」

 

 苦節四十七年。

 ようやく春が来るかもしれない。

「あっ」

 そして今更ながらに気が付いてしまった。


「熟女好きな前世の設定にすればよかった……」

 僅かに肩を落とした彼女だったが、すぐに気を取り直して今後のプランをまとめ始めた。

 そのプランの中の前世の設定に、熟女好きが追加されたのは言うまでもない。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ