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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第2章 強襲、四天王筆頭
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6,精神タンクと呼ばないで


「つぅ訳で、今日ぁ忘れずに来たぜぇ」


 どう言う訳かさっぱりわからん。

 インターホンが鳴ったから玄関を開けて出迎えてみれば……何なんだこのおっさん。


 半開きの眼、雑な処理の髭、ダルそうな喋り方。

 なんつぅかこう……無気力系中年だ。

 身に纏っている軍服っぽいデザインのロングコートもシワが目立つ。


「俺の名前はガルシャーク。龍宮帝国の騎士で……まぁ龍宮四天王なんて大層な呼び名もあったりする。よろしくなぁ皇子サマ」

「はぁ……龍宮帝国、って事は……」

「まぁ……いわゆる刺客って奴だよ。あんたを殺しに来た感じだ」


 昨日「平和なまんま半年過ぎてくんねぇかなー」って話したばっかだってのに……空気読めよ。

 ってか刺客がインターホン押して来んなよ。真面目か。


「でもなぁ、俺としちゃあんま争い事とか好きじゃねぇ訳よ。面倒臭いし」


 じゃあ何しに来たんだ、このガルシャークとか言うおっさん。

 いや別に殺しに来て欲しい訳じゃないけどさ。


「……ぶっちゃけた話、ちゃちゃっとこの島から出てって来んねぇかな。あんたが行方をくらましてくれりゃ、手ぶらで帰っても多少は言い訳が立つし」

「その話……断ったら?」

「そん時は仕方無い。殺る事ぁ殺るさ。仕事だからなぁ」

「………………」

「……どぉやら……そぉいうつもりらしぃねぇ……」


 やれやれ、と面倒臭そうに重い溜息を吐き、ガルシャークは俺に背を向けた。


「地上人のモンとは言え、民家を壊すのぁ趣味じゃねぇ。東の海岸で待ってんぞぉ」





 とりあえず、居間でコタツに収まってるトゥルティさんとBJ3号機に報告した方が良いだろう。

 ってな訳で居間へ。


 そこには先程と変わらずコタツに収まってテレビを眺める2人。

 トゥルティさんは「流行りらしいですね」と胸開きタートルネックを着用している。

 防寒したいのか露出したいのかよくわからん服だが、まぁ絶景なので良しとしよう。


「ガルシャーク!?」


 俺の話を聞くと、トゥルティさんは驚愕の声を上げた。

 驚愕の余り、その手に持っていたミカンを握りつぶしてしまう程だ。


「が、ガルシャークって……龍宮四天王のガルシャーク卿ですか!?」

「ああ、そういやそう言う風に呼ばれてるって言ってたっけ」


 大層な肩書きだと思う。

 でも何か、そんなに強そうでは無かったぞ。

 絵に描いた様な「くたびれた無気力系中年」だった。


「良いですか……龍宮四天王と言うのは、個人の戦闘能力とBSMの操縦技術を総合した能力で選定された『龍宮帝国最強の4騎士』の事なんです」

「へぇ……じゃああのおっさん、相当強いのか……」

「相当どころか……ガルシャーク卿は四天王の中でもずば抜けていると聞いています。軍の養成機関で対人格闘やBSM戦闘に関して教鞭を取る事もあるそうですし……」


 えー……何でそんな明白にボス級の人がいきなり出てくるんだよ……

 前回のフーグさんとやらは即行で帰っちゃったから、今回が実質初戦だぜ、俺ら。

 もっとこう……肩慣らし的な人から送り込んで欲しい物である。朝の戦隊ヒーロー物とか見習って欲しい。


「彼が駆るワンオフのBSM『ギャングファング』は龍宮帝国の兵装技術の粋を集めた逸品。彼自身の持つ能力も『水流掌握アクアジャグラー』と呼ばれる戦闘向きのモノです」

「うわぁ……何か超強そうじゃん……どうBJ? 勝てそう?」

『BSMについてはデータが不足しています。断言できる状態ではありませんが……』


 BJ3号機は俺が貸した漫画を閉じ、卓上に置いてから静かに宣言した。


『僕は地球を守るために連合諸国が一丸となり開発した機体です。一国の粋を集めた程度の機体に、遅れを取るつもりはありません』


 おお、すっごい自信だ。

 自分を作ってくれた人を信頼してるからこそ、だろう。


『じゃあ、行きましょう』

「おう。頼りにしてるぜ」


 ってな訳で、コントローラーを……


「……? 何で鋼助様がBJに乗って戦う気満々なんですか?」

「え……だって、相手は俺を狙ってきてる訳だし」


 俺は普通の一般島民、戦闘なんて無理だって事で、当初はトゥルティさんにオンブに抱っこしてもらう気満々だったが……

 BJ3号機に乗りゃ俺でも戦える。だったら、俺が自分でどうにかすべきだろう。


 ……ぶっちゃけると、ちょっとロボットに乗って戦ってみたいっていう子供心も5割程あったりするが。


「鋼助様をそんな危険に晒す訳には行きません、私がBJと共に戦います」

『僕は「操縦者」……「精神エネルギーの提供者」さえ居れば戦えるので、どちらでも構いませんが……』

「あー……いや、でもさぁ」

「何故そこまで戦いたがるのですか? 鋼助様はそういうキャラじゃ……あ、もしかしてですが、ただロボットに乗りたいだけの好奇心……とかじゃないですよね?」

「…………チガウヨ」

「私の目を見なさい」


 うぐぅ……


「……ロボットに乗って闘うって、こう……男児の夢じゃん?」


 マジンガーなんちゃらとか、なんちゃらレンジャーの合体ロボットとかさ。

 子供の頃、男の子なら誰だって1度は操縦してみたいと思うモンじゃないか。


 そりゃあさ、普通に考えりゃBSMの操縦訓練やらも受けているであろうトゥルティさんに任せるべきだと思うよ?

 でもさぁちょっとくらい……


「却下です」

「いや本当にもうマジで、ヤバいと思ったら操縦変わるし」

「鋼助様、余り聞き分けが悪いと、この前よりも激しく締め上げますよ?」

「ひっ」


 交渉の手段カードに暴力を用いるのは卑怯だ。


「……じ、じゃあその……せめて一緒に乗せてください、お願いします……」

「それも当然却下です。わかっているんですか? 同じ機体に乗ると言う事は、万が一私が敗北、BJが撃墜される様な事態になれば……」

『あ、それは心配に及びませんよ』

「何?」

『僕にはパイロットの安全確保のため、万が一の時にはコックピットブロックを射出するオートプログラムがあるので』


 急時の際の安全面は保証します、と断言し、なおもBJ3号機は続ける。


『それに、僕のジョーカーシステムは供給される精神エネルギーが多ければ多いほど、その真価を発揮します』

「だったら何だと言うんだ?」

『トゥルティさんに加え、鋼助さんも精神エネルギーの供給者として搭乗し、2人分のエネルギーを受ければ、戦闘に置ける勝率が高くなるはずです』

「鋼助様にはエネルギータンク的な役割を担っていただくと言う訳か」

『はい、差し詰め「精神タンク」ですね』


 おいBJ、説得の援護はありがたいが、その呼称はやめて。


「ふむ……脱出機構もしっかりしていて、相乗りするメリットもあると言うのなら……」


 うむ、とトゥルティさんがうなずき、


「では鋼助様、精神タンクとしてなら、搭乗を良しとします」


 許しが出たのは嬉しいが、その役柄での搭乗は嬉しくない……





 まぁそんな訳で、俺ら3人はガルシャークの待つ海岸へ。


 ガルシャークは波打ち際にて中々のクオリティな砂城を建造中だった。

 ……あの宣戦布告から20分くらいしか経ってないはずだが、すごいな。


「おぉう、そっちの黒いのが、例の巨大化する機動兵器かぁ。……それと、あんたがマリーヌ大臣の娘さん……トゥルティ卿か。美人だねぇ。惚れたくなる」


 ガルシャークは「よっこらせ」と実に中年らしい掛け声と共に立ち上がり、微妙な愛想笑いをトゥルティさんへ向ける。


「ご冗談を。あなたは確か妻子がいるでしょう」

「……その辺は、触れないでくれるかなぁ……」


 何だろう、リストラされたサラリーマンがブランコをこぎながら吐く溜息級の重さの溜息を吐いて、元々高くもないガルシャークのテンションが一気に低下した。

 ……奥さんとあまり上手く行っていないんだろうか。


 四天王、しかも強めの人物と聞いていたから、そういう生々しい悩みを抱えているのは何か意外だ。


「ついでに言うと、あなたは私の好みではありません」

「おぉう、追い打ちかけてきたよ……じゃあこっちもついでに聞いとこうかねぇ。どんなタイプが好みなわけ?」

「……『頼りない歳下』系、ですかね」


 トゥルティさんはトゥルティさんで意外な好みが発覚した。

 トゥルティさん自身がしっかり者だから、頼りにされたいとかそういう願望があるんだろうか。


「おう、冗談混じりで聞いたんだけどなぁ。意外とノリ良いねぇ、トゥルティ卿」

「人付き合いは嫌いではありませんので」


 それなりに相手の冗談にノる事もある、と。大人だな。


「……それにしても……まさか、四天王がこの件に出張ってくるとは思いませんでしたよ、ガルシャーク卿。あなたたちは全員が無派閥主義だと聞いていたので」

「んー……しゃあないっしょぉ。軍事のトップ、ミストラル大臣サマの命令なんだし。派閥の問題じゃないんだよ」


 面倒臭そうに首をさすりながら、ガルシャークは溜息。


「軍人だ騎士だっつっても、結局本質はサラリーマンと変わりゃしねぇのさ。給金サラリーもらってる以上……」


 ガルシャークが、その手を天へ向け掲げた。


「与えられた仕事は、それなりにこなさねぇとなぁ」


 その手の動きを合図に、ガルシャークの背後で海面が弾ける。


 海から姿を現したのは、この前のマーマンとか言う機動兵器……に似てはいるが、大分違う。

 蒼白色の装甲や端々のデザインには通じるモノが多い。しかし大きな違いとして、まず頭部が人型じゃない。アレは……鮫っぽい。その繋がりなのか、背中に鮫の背ビレの意匠を感じさせる突起もある。

 ボディ部分は人型機と大差無い様だが、何かやや前傾で猫背。獣っぽさが出ている。

 それと、指先に鋭い黒爪も装備されていた。

 総合して、猫背な鮫頭巨人……って感じだ。


 あれが、ガルシャークに与えられた専用機『ギャングファング』か。

 何か、武装っぽいのが爪以外に見当たらないが……あれが龍宮帝国の兵装技術の最先端……なのか?


『何と言うか……暗殺の刺客って感じじゃないですね、あの人』


 確かに、玄関から来て宣戦布告するわ、周囲への被害を気にして場所を選ぶわ、正面切って戦おうとしてるわで、暗殺する気は皆無に思える。


「仮にも騎士道を説く立場なんでねぇ。例え汚れ仕事だとしても、しっかり正面かららせてもらう」


 暗殺は主義に反する、って事か。

 第一印象は飄々とした中年と言う印象を受けたが、中々真っ直ぐな所もあるらしい。


「よし、じゃあこっちも準備だ」

『はい』


 前もってBJ3号機から受け取っていたコントローラーの電源を付け、ジョーカーシステムを作動させる。


『ジョーカーシステム起動確認ドライブオン。エネルギー供給経路切り替え……エネルギー供給確認……問題無し(システムグリーン)。戦闘用に機体を再構築』


 コントローラーが俺の精神エネルギーを吸い上げ、BJ3号機へと伝達する。

 黒い旋風が吹き荒れ、そして巨大なBJ3号機が……ん? 何かこの前のと形が微妙に違うな。

 こう……背中がやや出張ってる気がする。何でだ?


 とか気にしてると、足元の空間が裂けた。


「どぉわぁ!?」


 俺とトゥルティさんは重力に導かれ、その裂け目の中へ。

 そのままパイロットシートにケツから落下する。


 ……もうちょい丁寧な転移のさせ方はできないのかよ……って、あれ?


「複座式になってる……」


 パイロットシートが前後に分かれており、前部に俺、後部にトゥルティさんが座る形で転移させられていた。

 ああ、シートを前後に分けた分、背中が出っ張ってたのか。


『カップルシートでは操縦が不便でしょうから、2人乗りを前提に操縦しやすい様にデザインしました。では、鋼助さん』

「おう」


 目の前の出っ張りの凹みに、コントローラーをはめ込む。

 コックピット内にパノラマ状に周囲の光景が映し出され、シートベルトと操縦桿代わりのパイプが飛び出してくる。

 トゥルティさんの分もパイプが出てきた。


 操縦機能が備わってるのはあっちだけ。

 残念ながら、俺の方のパイプは精神エネルギーの徴収だけを目的とした物だ。 


 良いモン、サブパイだろうが精神タンクだろうが。ロボットに乗ってるだけでもそこそこ満足…………本当はちょっと惜しい気もする。

 とにかく、パイプ内部のハンドルバーを強く握り締める。


 ガルシャークも鮫頭の機体、ギャングファング胸部のコックピットに搭乗。

 そのハッチが閉まり、ギャングファングがその首をもたげる。


「鋼助様、先にも言った通り、ガルシャーク卿は噂に聞くだけでもその豪傑さを知れる程の男。激しい戦闘が予想されます」

「わかった」


 一緒に乗る以上、それなりの衝撃は覚悟しろ、って事だろう。


『さぁて……』


 鮫頭のアイカメラに光が宿り、その外部出力スピーカーからガルシャークの声が響く。


『龍宮帝国海帝騎士団所属、第2師団団長、ガルシャーク・グランセット、戦闘行動に移るぜ』



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