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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第1章 浜辺のカオス
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4,見えた光明

『つまり、鋼助さんは龍宮帝国の皇子で……色々とゴタゴタがあり、弟さんの支持派の方々に命を狙われている、と』


 まぁ、俺の事情は大体そんな感じだ。


「で、トゥルティさん、龍宮帝国で動きって……ってか、寒くないの?」


 薄手のアンダーシャツとスパッツだけって……最新のヒートテックでもこの時期辛くないか?

 にしてもけしからんな。


「鍛えてますので」


 ついでに恥じらいも無い様である。

 まぁ俺的には眼福で大変よろしいけども。


「話戻すけど……龍宮帝国側の動きは期待できないって、ついさっき言ってなかったっけ?」


 この家に向かう道中での話だ。


 あんな機動兵器まで持ち出して来たんだし、ああいうのの出撃記録を証拠に俺を暗殺しようとしてる連中を摘発できないの?


 とトゥルティさんに聞いてみた所、答えはNO。

 ミストラル大臣とやらは軍務全般を担っていて、騎士の勤務記録・BSMの出撃記録なんていくらでも改ざんできるんだそうで。


「ええ、ですが、改ざんの形跡を僅かに掴むくらいならできます。それは例え摘発に至る程の物的証拠にはならずとも、人心を動かす事ができる程度にはなるのです」

「人心を動かす……って、誰の?」

「皇帝陛下です」

「!」

「具体的な容疑者の名を出す事はできずとも、あなたの身が危険を及ぼす何かが暗躍している事は明白。父はそれを皇帝陛下にご理解していただく事に成功したんです」

「おお、じゃあもしかして、俺の護衛が増えたりとかする訳?」


 クソ親父の助けってのは癪だが、そもそも原因はあいつだ。

 助けや借りと言うより、然るべき責任を取っていただいたと思えば良い。


「それは難しいです。皇帝陛下の命でも、出動する騎士や軍人の選任は軍事の最高責任者であるミストラル大臣の仕事」


 つまり、クソ親父が俺のために兵を送り込もうにも、その兵士を選ぶのは俺を殺したい奴。

 逆に刺客を送り込む口実を与えてしまう訳か……


「なので陛下は、根本的な問題の解決に向けて動き出したんです」

『根本的な問題……察するに、皇位の相続問題ですか?』

「その通りだBJ3号機とやら。カイドー様が引き継ぎ作業を全て終え、正式に皇位を継承する手続きを完了すれば、最早鋼助様が狙われる理由は無い」


 そらそうだ。

 弟が皇位を継げば、間違っても俺が皇帝になるって事は無い。


「って事は……カイドーとか言うのに皇位を明け渡したのか?」

「皇位と言うモノは思い立ったからすぐに譲り渡せるモノではありません。諸業務の引き継ぎはもちろん、前もって市民への告知等も必要です」


 じゃあ、さっき言ってた「半年」ってのは……


「半年です。どれだけ迅速に手続きを進めても、半年はかかる。父からそう連絡を受けました。ですが、この半年を凌げば鋼助様の安全は確保されるのです」

「でもさ、もう弟の皇位継承は正式決定した訳っしょ? それでも俺は狙われる訳?」

「はい、ミストラル大臣は詰めを怠らぬ方です。念のため、あなたを消しておこうとするでしょう」


 念のためレベルの杞憂で生命を狙われちゃたまらんのだが。


「とにかく、光明は見えました。半年逃げ切れば、我々の勝ちです」

「逃げ切る……」


 って事は、やっぱり……


「この島を出なきゃいけないのか……」


 ……流石に、あんな機動兵器が出てくるとなってはな……

 それに冷静に考えてみれば、戦いになれば俺を守るためにトゥルティさんが……と言う最悪の事態も有り得る。


 この島から出たくない。

 それはそうなんだが、その我侭は果たして人命と天秤に掛けるだけのモノだろうか。


「……鋼助様、この島を離れたくないと言うあなたの意思は、重々理解しました。ですが……」


 そう言って、トゥルティさんは俺に頭を下げた。


「私は、あなたを死なせたくは無い。半年で良いのです。どうか、我慢していただけませんか?」

「……あんたも大変だな、俺みたいなのが皇族だってばっかりに……」

「騎士として、主君の御家族を守るのは当然です。そして……」


 トゥルティさんは頭を上げ、真っ直ぐ俺の目を見据える。

 そして、堂々と言い放った。


「私は、目の前の理不尽を見逃せる程、堕ちてはいません」

「!」

「……だってそうでしょう。自分よりも若い少年が、何かの罰と言う訳でも無く、ただ特異な出自であると言うだけで生命を奪われようとしているのですよ?」


 皇族に仕える騎士云々以前に、人として見逃せる訳が無い、って事か。


「あなたを島から引き離すのは、心が痛みます。申し訳ありません。……ですが、わかってください」


 トゥルティさんの表情は、苦渋に歪んでいた。

 きっと、悔しいんだ。


 この人は、本当にただ人として、俺を守りたいと思ってくれている。

 きっと、俺をこの島から連れ出すしか手が無い自分自身を、情けないと心の中で罵っているのだろう。


「トゥルティさん……」

『あのー……1つ、僕から提案があるんですが』

「BJ?」


 多分、自分が関わるべき事じゃないと判断して黙っていたであろうBJ3号機が、ここに来て口を挟んできた。


『……要するに、迫り来る刺客を薙ぎ払えるだけの戦力があれば、鋼助さんをこの島から逃がす必要は無いのですよね?』

「まぁ、そうなるだろうな」

「はい、しかしそんな戦力は……」

『あの……僕が、力をお貸ししましょうか?』

「へ?」


 いや、だってお前……正規パイロットじゃない人に操縦させるのは不味いとか何とか言ってただろうに。

 今日の件は緊急だったから仕方無いとしてだ。

 俺が島から出たくないと言う我侭のために、これからもお前が俺らに協力するってのは問題があるんじゃないの?

 いやまぁ俺としては助かるから、是非そうして欲しいんだけど……


「……大丈夫なの、それ」

『僕はマザーウォールから指令を受け取れない状況に陥った場合、「自己判断で最善と思われる行動をせよ」と命令プログラムされています』


 実質マザーウォールが消滅してしまったとも言える現状は、その命令に従うべき状況と言う事か。


『トゥルティさんの意思には共感します。そして、それは正しいと判断しました』

「BJ……」

『それに、しばらくはお世話になる家の方々に少しばかり助力する事は、悪い事では無いでしょう』

「じゃあ……」


 こいつならきっと、あのBSMとか言うのが出てきても撃退できる。

 もし厳しくても、いざって時はワープ機能で逃げれるし。


 おお、俺に取っちゃまさしく救世主だ。


『……あ、でも……この島に留まる事で、周囲に被害が出たりとか……』

「その辺は心配無い。龍宮帝国はどんな事情があろうと時間外労働はさせない。そこはミストラル大臣の生真面目さを信用して良いだろう」

「クリーンだな、龍宮帝国……」

「はい、ですので日中さえ警戒していれば、察知は容易いかと。早い段階で刺客を察知できれば、周囲に被害を及ぼさない戦場誘導も可能なはずです」


 日中は刺客を警戒しつつ、刺客が現れたらBJ3号機の協力を得て迎撃する……それを、半年間。

 それに、もしかしたら撃退を続けていれば向こうが何かの拍子に諦めてくれるかも知れない。


 こうして、俺達の今後の大まかな方針が決まった。




 生垣島周辺海域には、世界的に見てもとんでもなく深い海溝がある。

 その深く暗い海底の奥底、水深9000メートル超。

 そこには、巨大なドームが存在する。ドームの内部は3層構造になっており、それら全ての層の敷地面積を合計すると東京23区がすっぽり収まる程度の広さになる。


 このドームの内部に広がる国こそ、20年程前にこの世界に転移してきた海底国家、龍宮帝国だ。


 深海の闇に同化する様な黒鉄のドームの内部は、暖かな光に満ちている。

 龍宮帝国が開発・保有する特殊技術の中には、BSMなどにも使われている特殊合金『マリンライト合金』と言うモノがある。


 マリンライト合金は配合次第で様々な性質を発現する。

 衝撃を受けると硬質化するモノ、赤外線を受けると発電するモノ、僅かな電気刺激で激しく発光するモノなど。

 そのバリエーションの中で「太陽光に近い光を放つ性質」を持つマリンライト合金が、このドーム内の天井には敷き詰められているのだ。


 そんな龍宮帝国の最深層、『ブリリアン・ステージ』。

 貴族階級の居住区・そして帝国の重要機関が集中している層である。建ち並ぶ建造物は個人邸宅も施設もどれもこれも壮大。

 その中でも最も大きな建造物、皇帝居城。


 城内にある、とある騎士の執務室。


「あぁん? 地上の機動兵器だぁ?」

「は、はい。そらもう小さいのに強いわ、大きくなるわで……」


 逃げ帰って来た龍宮帝国騎士フーグは、自身の直属の上司に事の次第を報告していた。


「そぉんな兵器、聞いた事が無ぇが……」


 執務用の高級デスクに足を乗せ、フーグの上司である中年男性がポツリとつぶやく。


 深い藍色の髪、やる気の無さそうな半開きの眼、雑に処理された髭。

 何と言うか、ワイルド方面でちょっと踏み外してしまい、だらしない感じに仕上がってしまった……そんな感じの、残念な雰囲気がある。

 もう少し目つきがキリッとしていれば、ワイルド中年と呼べたかも知れない。


「……まぁ良ぃわ。フーグ、お前さんは大臣様への言い訳でも考えとけ」


 ゆっくりと足を下ろし、中年が立ち上がる。


「あ、あの、ガルさん? どちらへ……」

「お前さんの尻拭いに決まってんだろぉ」


 壁に掛けていたロングコートタイプの白い軍服を羽織り、中年がドアノブに手をかける。


「戦闘は嫌いだが、苦手じゃあねぇ。ちゃちゃっとその機動兵器ごと第1皇子サマをすり潰してくらぁ」

「は、はい! いってらっしゃいませ!」

「おう、この龍宮四天王が1人、ガルシャーク様に任せとけ」



「ただ、ガルさん、もう定時です。無断で残業したら始末書モノですよ」

「……今日ぁ帰るか……」


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