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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第1章 浜辺のカオス
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2,波打ち際のマシンバトル

「……何言ってんだ、お前……」


 俺達の前に突如現れた謎の人間大ロボット。

 何やら名乗りも長すぎて、こう……わからん。

 何だこいつ。


『ええ!? 流石に冗談がキツイですよ。マザーウォールは知っているでしょう?』


 いや、知らないけど。

 そんな当然の如く言われても困る。

 自分の常識が世界の常識と思わないでいただきたい。


「ごめん、知らない」

『そんな訳無いでしょう!? 地球防衛の要ですよ!? 小学生男子の将来なりたい職業ランキングとかマザーウォール関係職が上位を埋め尽くす程ですよ!?』

「んな事言われても……」

『何でそんな意味不明な意地悪するんですか! 僕、試作機なんでメンタル弱いんですよ! すぐ泣きますよ!? 涙出ないけど!』

「っていうか……え? マジでロボット?」

『はい。まぁ、この通常活動形態だと「アンドロイド」と言う表現が的確でしょうか』

「あ、あんどろいど……? 鋼助様、一体こいつは……」


 いや、だから俺も知らんて。

 つぅかアンドロイドにしても感情表現豊かな喋り方するなこいつ。

 話している感じ、完全に普通の人間だ。いきなり装甲が剥げ落ちて中から人が出てきても何も不思議では無い。


『そうやってすぐトボける! 人類史初の自律制御型ガイアガーディアンって事で僕らは大々的に世間に告知されてる事くらい知ってますよ!』


 ……いや、本当にもうマジで全く聞き覚えが無いんですが。

 つぅかガイアガーディアンって何……って聞いたら、「またトボける!」とか言い出すノリだなこいつ。


 本当に勘弁してくれ、こっちはただでさえ急に命狙われて混乱気味だってのに、意味不明な単語を羅列するロボットとかキャパオーバーだよマジで。


『っ……何なんだ、このエネルギー量は……!?』


 何かに戦慄するような声。

 あのBSMとかいうロボットの外部出力スピーカーからだ。


『あの機体……ガイアガーディアンとは別系統の機種の様ですが、何ですか、あれ』

「俺が聞きたい」

「あの機体は『マーマン』、我が龍宮帝国が誇るBSM(バトルシーマン)の量産型機体の1つです」

『龍宮帝国……データに無い国名ですね……国連非加盟国で、あんな機体を製造する技術を有しているなんて……』


 謎のアンドロイドが興味深そうにつぶやきながら、マーマンと言う名前らしいBSMを観察し始める。


 するとそのマーマンが銛の先をこちらへ向け、臨戦態勢を取った。


『地上の機動兵器か……! あのサイズでこのエネルギー反応……脅威っ……! だが、邪魔をすると言うのならばやるしかないな!』

『ちょ、何かあの機体、こっちに敵意剥き出しなんですが!』

「うん、だって、あの機体は俺を殺そうとしてるからね」

「そうだ、ノンキに騒いでいる場合では無い! 逃げましょう!」

『い、命を狙われているのですか!?』

「まぁ……しかも、かなり理不尽な理由で」


 本当にもう泣けてくるくらい理不尽に殺されかけてんだよなー俺。

 命の危機なのに実感が湧かないのも、多分理不尽過ぎてこの現実を受け入れきれて無いからだと思う。


『っ……事情はわかりませんし、僕はいわば公務員……民事には介入すべきではありません……しかし!』


 謎のアンドロイドが、拳を固く握り締め、構える。


『人々の命を守るのが僕の仕事です! この現状、不介入と言う訳には行きません!』

「……手助けしてくれるって事か? えーと……」

『バスタージョーカーシリーズ3号機……略称はBJ(ビージェイ)3号機です』

「手を貸してくれるのはありがたいけど……大丈夫なの?」


 やっぱ戦闘に置いて、サイズ差ってのは純粋かつ大きな要素だと思うんだ。

 2メートルあるかどうかのこのBJ3号機が、あの10メートル級の機体を相手にするってのは、少しキツそうな予感もする。


『僕は地球防衛のために開発されたんですよ、戦闘能力はそこそこ自信があります』


 そう言って、BJ3号機が砂浜を蹴りつけた。

 大量の砂をまき散らしながら、漆黒のアンドロイドがマーマンへと突貫する。


『ぬぅっ!? 速いっ!?』

『はぁっ!』


 BJ3号機が、跳ぶ。

 黒鉄の拳で、マーマンの胸部を思い切り殴りつけた。


 その一撃で目に見えるダメージは無い、が、マーマンの巨体が少しよろめいた。


『やあぁっ!』


 間髪いれず、BJ3号機がその体を大きく捻る。

 空中で回転し、回し蹴りでマーマンを追撃。


『むぅっ! バランスが……!』


 マーマンは完全にバランスを失い、背面から砂浜に倒れてしまう。


「おおっ……」

「凄まじい……あれが地上の兵器……!」


 いや、地上の兵器って言うか……あんなん、俺見た事ないけど……全くもってよくわからん、でも、とにかく良い流れだ。

 このままBJ3号機があいつを倒してくれれば……


『……これは、勝てないですね』

「諦めちゃった!?」


 なんでだよ、押せ押せじゃんお前。


 BJ3号機が一気に後退し、俺らの目の前まで戻って来る。


『今の内に逃げましょう』

「いや、お前絶対勝てるじゃん、今の見た感じ」

『いえ、あの機体、中々厄介です。装甲が衝撃を機体全体に拡散する仕様になっています』

「それのどこが厄介なんだ?」

『一点集中的に衝撃を与えられない以上、あの装甲を破るには相当の火力が必要です。「ジョーカーシステム」無しの僕では破壊・無力化は難しい』


 えーと、つまり……わからん。

 とにかく、今みたいに「張り倒す」くらいはできても、装甲をブチ抜いて「破壊する」には力が足りないって事、か?


「……待てよ……『ジョーカーシステム』って何だ?」


 何かそれさえ使えば勝てる風な言い草だったが。


『ジョーカーシステムはその名の通り、僕の切り札的システムです』


 BJ3号機が自らの胸に手を当てる。


『僕は普段、「磁気単極子モノポール加速発電機関エナジープラント」を動力源としています』

「も、モノポ?」

『同極性質の単極性磁石モノポールマグネットの反発作用を利用した発電機関です』

「…………よし、俺には一生理解できそうにないって事はわかった」

「私にもさっぱり」

『……いいですか、磁力と言うモノにはSとN、2つの「極」がありまして、同極性質同士の磁力は……』

「それは良いから! 早くジョーカーシステムってのに付いて説明してくれ!」


 マーマンが起き上がりそうだ。急がないとヤバい。


『ジョーカーシステムは、僕の動力をこの磁気単極子モノポール加速発電機関エナジープラントが精製する電力エネルギーから、「操縦者」の「精神エネルギー」へ切り替えると言うモノです』

「せ、精神エネルギー……?」

『まぁ、気合とか、そういう類のモノですね』


 いや、それは大体察しが付いてるけど……


「そんなモンで機械が動くのか……?」

『……? 本当に何も知らないんですか?』


 もうトボけの域じゃない、そうBJ3号機はようやく理解したらしい。


『詳しい詮索は後にしましょう。とにかく、このシステムを起動すれば僕の戦闘能力は跳ね上がります。あのマーマンと言う機体も、難なく止められるでしょう』

「おお! じゃあそれ使えば良いではないか!」


 トゥルティさんの言う通りだ。


『……え、でも正規パイロットじゃない人に操縦させるのは……問題があるんじゃないかと……』

「そんな事言ってる場合じゃなくね?」


 一応、アレは俺を殺そうとしてるんだ。

 人助けって事で、その辺は融通してくれたって良いじゃないか。

 乗りかかった船って言葉を知ってるかい、BJ3号機さん。


『う、うーん…………わかりました。でも、マザーウォールには内緒ですよ? 絶対怒られるんで』

「わかった」


 そもそもそんな組織は全く知らんからチクリ様が無い。


『では……コントローラーを取って、電源を入れてください』


 バシュ、と言う小さな音と共に、BJ3号機の背中の装甲が開いた。

 その装甲の下、メタリックなボディに埋め込まれる形で、何かパッと見スマホみたいな端末が収まっていた。

 これがコントローラーって奴でまず間違い無いだろう。


 端末を取り外し、側部に1つだけあったボタンを押してみる。

 すると端末の液晶画面が発光。

 画面に2つのタップボタンが浮かび上がる。

 1つは『NORMAL・SYSTEM』と記された緑色のボタン。

 もう1つは『JOKER・SYSTEM』と記された赤色のボタン。


 英語は得意では無いが、これくらいは読める。

 緑は通常作動ノーマルシステム、で、赤い方が切り札発動(ジョーカーシステム)だろう。

 赤い方をタップする。


『ジョーカーシステム作動を確認。エネルギー供給経路切り替え』

「……!」


 ……妙な感触だ。

 何か、この端末に掌から何かを吸い出されている様な、そんな感覚。

 先程言っていた、精神エネルギーって奴を徴収しているのか。


『エネルギー供給確認……問題無し(システムグリーン)。戦闘用に機体を再構築します』


 そのアナウンスの直後。

 BJ3号機の体から、黒い色の付いた風が放出された。


「うおぉう!?」

「何事だ!?」


 その風から俺を庇う様に、トゥルティさんが俺の前に立つ。


 黒い風が、夕日に焦げた茜色の砂を巻き上げていく。


『ぬ!? 何をする気だ!?』


 体勢を立て直したらしいマーマンからの声。

 そんな事聞かれても、俺らもわかんねぇよ。


 直後、茜と黒のカーテンが吹き飛ばされる。


 そこに顕現したのは……


「で、デカくなった……!?」


 姿形そのまま、マーマンよりも少し大きな機動兵器と化したBJ3号機がいた。

 その関節部から漏れ出す青白い光の質が、何やら変わっている様にも感じる。

 先程まではLED的な、こう機械的発光だったのに、今はこう……よくわからないけど、何か熱い血潮の様なモノを感じる光だ。


『そこの甲冑の女性、少年に捕まってください。コックピットへ転移させます』

「転移……?」


 トゥルティさんが俺の肩に手を置くやいなや、俺の手の中にあったコントローラーが激しく発光。

 俺の足元に、何か楕円形の穴……と言うか、裂け目が開いた。


「って、ちょ、おぉぉう!?」

「わ、きゃぅあ!?」


 この星には重力と言うモノがある。

 当然、俺達はその裂け目の中に落ちた。


「だっ……う、あぁ?」


 落下した先は、薄暗くちょっと手狭な空間。

 そして俺達が落っこちたのは何やらフカフカのソファーシート。カップルサイズだ。


『本来は1人用ですが、2人で座れる様に構築しておきました。その分やや狭めになりましたが』


 空間全体にBJ3号機の声が響く。

 この声の響き方からして……BJ3号機の、体内?

 つまり、コックピットか。


「……マジで?」


 機体の巨大化、簡易テレポート……オーバーテクノロジーっつぅか、最早魔法、ファンタジーじゃねぇか……

 ちょっと今更ながらワクワクしてきた。


「って、コックピットって言う割りに、何も無いな」


 ボタンも操縦桿も、ディスプレイの類も無いぞ。計器類っぽいのは手前に飛び出した出っ張りに付いてるが……

 ん? この出っ張り……何か丁度このコントローラーを嵌め込めそうな凹みがあるな。

 とりあえず嵌めてみるか。よいしょ。


 瞬間、この空間を包んでいた壁に、外の景色が映った。

 まるでパノラマだな……ってうおっ、何か巻きついてきた。

 ……シートベルト、か? まぁ乗り物に乗る訳だし、そら出てくるか。

 まさかオートで巻きついてくるとは思わなかったが。


「ふむ、中々ハイテクだな」


 トゥルティさんの感想、以上。

 ……流石、人型機動兵器を有していた龍宮人。

 このファンタジックとも言えるオーバーテクノロジーのオンパレードに対して、リアクションが実に淡白なモノだった。

 何か、めっちゃワクワクしてる自分が少し恥ずかしい。


「って、おぉう」


 今度は手前から何か飛び出して来た。

 先端に丁度手を突っ込めそうな筒が付いたバーだ。


『その筒の中のハンドルバーを握ってください。それはあなたと僕を繋ぐパイプです』

「パイプ?」

『あなたの精神エネルギーを僕へ供給する管であり、そしてあなたの意思を僕に伝える操縦桿でもあります』


 俺の意思に応じて行動してくれる、って訳か。


 こりゃ良い。

 宅配用の原付くらいしか運転できない俺が、まともなやり方で機動兵器の操縦なんてできる訳が無いからな。非常に助かる親切設計だ。


「よっしゃ……!」


 俺だって、まぁ男の子だ。

 ロボットアニメってのはまぁ好きな部類な訳である。

 自分が巨大ロボットを操縦するって言うのは、中々ナイス展開だ。

 強いて言えば、戦う理由が「理不尽に脅かされるヒロインを助けるため」とかだったら完璧だったんだがな。

 生憎、俺自身がそのヒロインポジである。

 こればっかりは仕方無い。


「一丁、やるか!」

『事のほかノリノリですね、では……って……』

「…………あれ?」


 …………いない。

 マーマンが、いない。


「……逃げた……?」

「おそらく、この機動兵器を警戒し、撤退したのでしょう」


 そらそうか、ほぼ人間大の大きさで巨大ロボを張り倒す様なアンドロイドが、目の前で巨大化すれば……撤退を決断するのも当然と言えば当然だ。


 ……つまり、あれか。

 もう俺らの勝ちか。

 まさかの決着か。


「……えぇぇぇ……」


 撤退する気持ちはわかるけどさ……空気読めよフーグとか言う奴……


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