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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第4章 INVADER
20/28

19,お姉ちゃんができた日

 インバーダは一片残らず駆除完了。

 ヘアティルさんはガルシャークさんが連れて帰った。

 これにてクリスマスの騒動は幕を閉じた。


 そして2日後、トゥルティさんが鉄軒家に戻って来た。


「全て滞りなく完了しました。こちらの思惑通りミストラル大臣らも、もう鋼助様暗殺は取り止めた様です」

「おお、ありがとうトゥルティさん、ご苦労様」

『これでもう刺客に悩まされる事は無いですね』


 ……ま、そんなに悩まされた記憶ないけどな。

 BJ3号機とトゥルティさんが優秀だったし、途中から悠葉まで加わったし。

 ヘアティルさんの夜襲に関してはマジで死ぬかと思ったが、それくらいだ。

 俺が油断さえしなけりゃ、全く何の危機も無かったって事だ。


「これでめでたしめでたし……ん?」


 なんだろう、トゥルティさんが何か口元に手をやって何かを考え込んでいる。


「鋼助様……その……折行って、お話が」

『どうしたんですか、急に改まって』

「話って?」


 なんだろう、もう諸問題は解決したはずだけど……


「私達は、正式に義理の姉弟となりました。形だけですが」

「ああ、まぁね」

「……それでその……まぁその……」

「?」


 トゥルティさんにしては珍しく、要領を得ないな。

 目が激しく泳いでるし、何かを声にしようとしているのか口型がパクパク変化しているも声が伴っていない。


 こう言う時のための絶対問答インペリアル・アシックだ。


「トゥルティさん?」

「そのですね……」トゥルティさんじゃなくて、お姉ちゃんと呼んで欲しいです。

「……あー、成程」


 義理の姉弟になったんだから、「トゥルティさん」じゃなくて「お姉ちゃん」と呼んで欲しいなぁとか思っちゃったり?

 ……みたいな事を言おうか言うまいか迷っている様だ。


 口にし辛いわな。トゥルティさんのキャラ的に、いくら裏の顔が知れているとしても。


「……あー……」


 まぁ、予想はしてたよこの要求は。

 だって俺が義理の弟になると決まった時すげぇ嬉しそうだったもんトゥルティさん。

 そりゃそういうのを期待し、求めてくるだろう事は容易に想定できるよ。


 で、この場合の対応も、ある程度決めていた。


「……今まで、俺を守ってくれてありがとう。トゥルティ…お、お姉ちゃん」


 以前リクエストされた上目使い云々とかは流石に無理だけど、これくらいは言ってあげるべきだろう。

 だって、俺のために戦ってくれたのだから。


「……………………」

「……………………」

『あ、そろそろニュースが始まる』


 俺の発言を受け、呆然と沈黙してしまったトゥルティさん。

 俺の発言を全く気にせず、テレビのリモコンを手に取ってニュース鑑賞を始めるBJ3号機。


「……鋼助様」

「……はい」

「……最高で、ごふっ」

「トゥルティお姉ちゃぁぁぁぁぁぁん!?」


 トゥルティさんが鼻血吹いて俺の視界からフェードアウトしてしまった。





「落ち着いた?」

「は、はい。ま、まだ若干脈が歪ですが……」


 それは落ち着いた内に入るのだろうか。


「……何だか筋肉ムキムキの天使に歓迎される幻覚が見えました」

「何で筋肉ムキムキの天使……」


 そこは幼気の少年じゃないのか。

 もしかして本当にいるのか、ムキムキの天使。


「鋼助様、思ったより破壊力ありますね」

「それは褒められてんのか?」

「はい。恥じらいが良い感じにスパイスになっていて……頑張ってる感も相まってそれはもう非常に濡れ…昂ぶりました」


 まぁ昂ぶり過ぎて鼻の血管弾けちまった訳だからな。


「とりあえず、頭を撫で撫でさせていただいてもよろしいですか」

「それはちょっとハードル高いな……」


 俺もう高校生だから、いくら年上で義姉が相手とは言え撫で撫では……


「……そう、ですよね。いくら形だけ義理の姉弟になったと言っても、あなたは皇族の血を引く者。無礼が過ぎました。猛省します」


 そんなあからさまにしゅんとされると心が痛い。


『……頭くらい良いじゃないですか』


 うぉう。我関せずな感じでニュースを見ていたBJ3号機が、ここに来てまさかの俺の軋む心へ追撃。

 ぬぅぅ……ま、まぁ確かに、それでトゥルティさんが費用対効果以上に喜ぶ訳だし……

 トゥルティさんがいなきゃ俺は今この世にいないレベルで恩がある訳だし……


「……その……10秒だけなら」

「本当ですか!?」


 わぁートゥルティさんすっごい良い笑顔。

 何か瞳が輝いて見えるよすっげぇな喜び方がハンパじゃねぇぞこの人ちょっと引くわマジで。





「……満足っすか」

「はい。至福の一時でした」


 そりゃ何よりで。

 まさかこの歳になって「良い子……本当に良い子! 私の弟マジ良い子!」と力強く頭を撫で撫でされる事になるとは思わなかった。


「私、もう今この瞬間に寿命尽きようとも笑顔で極楽浄土ニーラカーナへ逝けます」

「おぉう、そこまで喜んでもらえるとは思わなんだよ」


 なんだろう、もうこの人がこれで幸せならもう何も言うまいよ。


「……鋼助様、最後の最後に、とんでもないお願いをしてもよろしいでしょうか」

「一緒にお風呂とかは絶対NGで」

「ぬぐぅっ! 違いますよ、もっとジャブ的な事です!」


 今めっちゃ「ぬぐぅっ!」っつったぞこの人。

 多分今回は本当に違う案件だけど、いずれ要求するつもりだったんだろう。


「鋼助様がせっかく私の事を恥じらいと感謝と芽生えかけの姉弟愛を込めて『お姉ちゃん』と呼んでくれた訳ですから、私も鋼助様を弟ぽく呼びたいなと……」


 恥じらいと感謝は異論無いけど最後のには身に覚えが無いんだが。


「はぁ、まぁ別に良いけど……」


 元々、俺は様付けを強要していた訳じゃないし、むしろ年上の人に様付けで呼ばれるのは違和感があった。

 トゥルティさんはようやくかろうじて慣れてきた所だが、別に呼び捨てにされても問題は無い。

 第一、俺はもう完全に皇族との関係は絶った訳だし、まだ様付けする方がおかしいだろう。


「では……僭越ながら」


 僭越か、トゥルティさんは相変わらず堅いなぁ。


「鋼ちゃん」


 予想以上に弟っぽいの来たぁ。


「……よろしく、トゥルティお姉ちゃん」

「はい、頑張っていきましょう、鋼ちゃん!」


 違和感ハンパねぇぇぇええぇぇ……


『……ところで、頑張るって何をですか?』

「そう言えば……」


 BJ3号機の言う通りだ。

 俺、これから平々凡々の日常に戻る訳だ。トゥルティさんに護衛としての出番はもう無い。

 ってか、トゥルティさんは護衛としての任務を解除されて龍宮帝国に呼び戻されるのでは……


「そうですね。まずは就職活動を……」

「え……は? 就職?」

「はい。私、騎士辞めてきたので」

「…………は、はぁぁあぁぁ?」

「せっかく念願の義弟ができたのです……別居なんてお姉ちゃん嫌、絶対嫌」

「……そ、そこまで……」

「お姉ちゃんは一生っ、鋼ちゃんを支えてゆく所存です。例え中年となり、可愛気を失おうとも、脳内補正で姉的愛情を注ぎ続けます」


 やべぇ、やべぇ人がやべぇくらい本気の目でやべぇ事を言ってる。


 ……ああ、もう何だろう。

 あんなに幸せそうに笑ってるし、もう良いか。

 これは決して投げやりな思考放棄では無い。

 前向きな思考放棄だ。どの辺が前向きかは聞かないで欲しい。


「鋼ちゃん、お姉ちゃんは頑張りますから!」

「……まぁ、体を壊さない程度に」

『何事も加減が大事ですしね』


 ロボットと騎士に護衛される奇妙な生活はこうして終わった。


 今日からは、ロボットとお姉ちゃんと一緒に過ごす普通の生活が始まる。


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