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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第1章 浜辺のカオス
2/28

1,海からロボ、空からもロボ


 とある離島にて、平々凡々なゆったりライフを過ごしていた俺。

 ある日、そんな俺の元に現れた甲冑姿の女騎士トゥルティ・マリーヌ。


「生命に代えても、ねぇ……」


 重いなぁ、いきなり生命云々とか……重いなぁ。

 トゥルティさんとやらを引き連れて橋へと向かいながら、俺は心中「重い」を連呼する。


 何かわからんが、この甲冑装備の外国人お姉さん、俺を命掛けで守ってくれるんだそうだ。


 ……って、待てよ。


「あのー、トゥルティさん?」

「はっ」


 ビシッ、とした応答。

 軍人かよ、とツッコミたくなる。

 甲冑やら剣からして、騎士って感じか?

 まぁどっちでも良いけど。


「守るって、何から?」


 俺、特にボディガードが必要になる様な覚えは無いのだが。


「はっ、では、説明させていただきます」


 橋に着いたので、釣った魚を突っ込むためのクーラーボックスを椅子代わりにして、釣りの準備を進める。


「あなたの身の上に付いては、先日、父から説明を受けていると存じます」

「あー、はい。お宅の国の皇子なんだっけ?」

「はい、それも皇位継承権第1位です」

「まぁ、破棄したけどね」


 先日タトスとかいうおっさんが来た時、その話をしたんだ。


 一緒に龍宮帝国に来て皇位を継がれるか、それとも継承権を破棄するか、選んで欲しい、と。

 いきなり皇帝になれとか言われても、無理。ってか嫌。

 俺もう婆ちゃんの酒屋継ぐって約束してるし。大体、1度も会った事の無い父親、しかも母さんの葬式にも顔を出さなかった奴の跡なんぞ誰が継いでやるモノか。


 つぅ訳で、俺は迷う事なく継承権の破棄を選んだ。


「もう俺、お宅らとは関わり無いはずじゃないの?」

「……そのはずでした」

「はず……?」

「現第1皇子カイドー様……つまり、あなたの弟君の一派は、あなたに懐疑的です」


 懐疑的……って、疑われてるって事か?


「何を疑われてんの、俺」


 餌を針にセットし、海へ目掛けて軽く放る。


「本当に皇位を継承する気が無いのか、と言う点です」

「はぁ……?」


 いや、継ぐ気無いって言ってんじゃん。


「この世界の地上人のバーバリアン染みた歴史は我々も学んでおります。正直、帝国民はほとんどの者が『地上人は蛮族だ』と考えておりますので」

野蛮人バーバリアンって……」


 まぁ確かに、今でこそ平和な世の中だが、この世界の歴史って言えば戦争戦争&戦争って感じだろう。

 でも異世界にまで侵略戦争しに来た連中に、その辺をとやかく言う権利があるのだろうか。

 あれか、灯台元暮らし的な感じか。


「故に、地上人の血を引き、地上で育ったあなたへの信用は皆無です」

「はぁ……」


 なんつぅか……理不尽だ。


「でもさぁ、皇位って、1度破棄しといて『やっぱやーめた、皇帝やります!』なんてノリが有効なの?」


 そんな小学生のクラブ活動じゃあるまいし……


「本来ならば、まかり通るはずがありません。ですが、それが通じかねない、と思える要素があるのです」

「それって一体……」

「陛下はあなたが継承権を破棄すると報告を受けた際、あなたを説得するための使節団を出そうとしていました」

「はぁ? 何でわざわざ……」

「皇帝陛下はあなたの母君の事を大層気に入っていた様です。その分、あなたへの思い入れも強いらしい」

「……どの口が言うんだか」


 母の葬儀には来ない。俺にも生まれてから1度も会いに来てない。

 それで気に入ってただの、思い入れが強いだの……ふざけた事を言ってくれる。

 皇帝とやらが殴れる距離にいたら、助走を付けて全力でブン殴ってるレベルだ。


「その事もあり、あなたが気まぐれに『やはり皇位を継ぐ』と言い出せば、陛下は喜んであなたを皇帝にするだろう、と皆は不安に思っているのです」

「……それで、俺を良く思わない人達に……」

「あなたは生命を狙われております」


 そんな気まぐれで皇帝になんぞなるか。

 ……と言いたい所だが、地上人ってだけでその発言も信用してもらえない訳か。


 皇帝も皇帝だ。

 今更皇位だなんだを譲り渡して、父親面でもしたいんだろうか。

 迷惑な話である。


「具体的に暗殺計画が始動している訳ではありませんが……カイドー様の支持派はもちろん、『蛮族の血を宿す者を皇帝にするなど冗談では無い』と言う純血派思想の者達もあなたを疎んでいます」


 俺には敵が多いって事か。

 今すぐには命の危険は無い様だが、時間の問題。


「で、トゥルティさんは何で、そんな蛮族の俺を守りに来てくれたの?」

「地上人の全てが蛮族、と言うのは歪んだ偏見だと、私も父も解釈しております。そして私は皇族に忠節を尽くす臣下の一族。皇族の血筋であるあなたのために生きる事に、不満はありません」


 ああ、そら地上に暮らしてるってだけで皆が皆野蛮人であってたまるか。

 少なくとも俺は争い事とかあんま好きじゃないし。

 ……つぅか俺のために生きるって……さっきからちょいちょい重いなぁ……


「それに、自身の告白のためにあなたが謀殺されたとあれば、陛下は嘆き悲しむ事でしょう。それを阻止するため、父は私を送り込んだのです」

「そりゃご苦労様……でも、1人でどうにかなるの?」


 今の話だと、俺、結構な人生デンジャーモードでは無いだろうか。

 トゥルティさん、めっちゃ強いのか?


「カイドー様の支持派、純血派は強大。その目を盗み多くの護衛を送るのは不可能でした」

「……じゃあ、大丈夫って訳では無い訳だ」

「……はい、なので、まずは私と共にこの島を出ましょう」

「ヤだ」

「ヤだ!?」


 まぁ、トゥルティさんの理屈はわかる。

 攻められたら守り切れるだけの戦力は用意できない、だから逃げ隠れしようって話だろ?


 ふざけんなって話だ。

 俺何も悪く無いのに、何でこの島を離れなきゃいけないんだ。


「しかし、刺客が来たら……!」

「話して、わかってもらおう」

「先に言ったでしょう、あの輩があなたの言葉を信用するとは思えません!」

「あんたの言葉なら信じてくれるっしょ?」


 トゥルティさんは龍宮人な訳だし。

 俺にそんな気は無いと説明してもらおう。


「そんな手段が通じるのなら、父がそうしています!」

「あ、ちょ」


 トゥルティさんがいきなり俺の腕を掴み、引きずりだした。


「島を出ます、強制です!」

「痛たたたたたた!? ちょちょぉい!? 荒い! 運び方荒い!」


 力強っ、ってか擦れてる、ケツが擦れてる! あと腕痛い! 握り潰されそうな勢いなんですがこれ!?


「痛い! つぅか絶対ヤだ! あと痛い! 俺はこの島から出る気なんて無いぞ! すげぇ痛い!」

「幼子の様な我侭は止めてください! 私としても可能ならば皇子であるあなたの意思にそぐわぬ事などしたくはありません、ですが……!」

「っぅぅぅちょ、タンマ! 一旦、一旦手ぇ離して! マジで骨が軋み始めてる!」


 これあかん。

 あかん軋み方だ。

 関西人でも無いのにあかんとか口走っちゃうくらいあかん軋み方してる。


「ああ、すみません、興奮の余りつい力が……」


 トゥルティさんが手を離した。


「今だ!」

「って、あぁぁ!? 鋼助様が脇目もふらず一目散に!」


 よっしゃこのまま逃げ切ったるわ!

 足には自信があるぞこの野郎。大自然の中で伸び伸び育った俺の足腰を舐めんなよ!


 島を出るだと? 冗談じゃない。

 俺はこの島で生涯を終えると心に決めている。

 母さんが愛し、俺を育んでくれた島なんだ。

 俺の遺骨はこの橋から海にばら蒔いてもらうんだい。


 橋を渡りきり、島へ戻る。

 この先に小さな交番がある。

 俺は誘拐されかけてるんだ、警察だって守ってくれるはず。


「えぇい! 待ちなさい鋼助様この野郎!」

「ってうぉぉぅ!?」


 あっさりとトゥルティさんに並走されてしまった。

 甲冑付けてるくせに何でそんな足早いのあんた。

 これが龍宮人の身体能力か。卑怯だ。


 とにかく逃げねば。

 だが真っ直ぐ走って逃げても追いつかれるのは目に見えている。

 地の利を生かして逃げるしかない。


 石を削った階段から飛び降り、砂浜へと着地する。

 すぐに走り出そうとした、その時、


「げっ!?」


 俺の頭上を軽々と飛び越え、トゥルティさんが俺の眼前に舞い降りた。


「確保ぉ!」

「ぐぇす!?」


 そして俺はあっさりと捕まり、ヘッドロックをキメられてしまった。


「痛たたたたた! 胸当てが顔にゴリゴリ当たって超絶痛い!」

「その痛みは逃げ出した罰です! 甘んじて受けなさい!」

「体罰だ!」

「そうですが、何か!」

「ぐぅおおおお畜生! 体罰上等主義か!」


 ぐぇぇぇぇぇ首もキツイし顔も痛い。

 やめろしマジで。せめてその胸当て取ってくれ。

 そしたらむしろおっぱい天国な気がする。胸当て取れマジで。


「畜生……! 離せ……! 痛いし、俺絶対この島から出ないしぃぃ!」

「聞き分けの悪い……! 我侭を言う奔放な青少年は素敵です、そそられます、じっくりしっかり教育したくなります……ですが、残念ながらそんな悠長にはやってられないんです! YESと言うまで締め上げますよ!」

「くそぉぉせめて胸当て外せ! 体罰ならせめてエロい体罰をぉぉぉぉ!」

「エロい体罰って何ですか! 夜伽なら後でいくらでも相手してあげますから、観念しなさい!」

「嫌だぁぁぁ! 俺はこの島で死ぬんだぁぁぁ!」

『そうか、良い覚悟だ!』

「へ?」


 不意に響いた声。

 スピーカーを通した様な音声だ。


『ならば、今ここで死んでいただこうか!』


 俺らのすぐ目の前で、海面が膨れ上がる。

 そして、弾けた。


「っ……!?」


 海から飛び出し、夕焼けの砂浜に降り立ったのは……


「ロボット……!?」


 巨大な8等身のシルエット。人型のロボットだ。全高10メートルはあるだろう。

 蒼白色の装甲、その側頭部や手足の細部には魚のヒレを意識した意匠が感じられる。

 その手には四又のもりを模した武装。

 魚人型ロボット、って感じだ。


「なっ……BSM(バトルシーマン)……!?」

「バトルシーマンって……」


 確か、龍宮帝国の機動兵器じゃ……


『おや、マリーヌ大臣の娘さんじゃあございませんか』


 目の前のロボットから発せられるスピーカー音声。


「その声……フーグか!」

「し、知り合い……?」

「私と同じく龍宮帝国軍海帝騎士団に所属する男……そして、カイドー様一派の者です……!」

「じゃあ……」


 まさか……刺客……!?

 ちょ、暗殺計画はまだ始動してないって……


「そんな、こんなに早く……しかも、BSMまで投入してくるなんて……!」

『ミストラル大臣も本気と言う事さ』


 誰だミストラル大臣って。

 まぁ大臣と言うくらいだし、カイドーとか言う俺の弟一派の筆頭的な存在、かな?

 それとどうでもいいけど、語呂悪いなミストラル大臣。大臣辞めた方が良いんじゃないか。


『しかし、マリーヌ大臣も勘づいていたか、あんたを送り込んでいるとは』

「っ……フーグ、聞きなさい! このお方は皇位を継ぐ気は無い、翻意もありえないと言っています!」


 おお、トゥルティさん、俺の提案通り説得作戦に乗り出してくれた。

 ただ、説得するならするで俺を解放してくれませんかね痛たたたたた……


『地上人の言葉を信用しろと……? 頭でも打ったか、マリーヌ嬢』

「いやいや、マジだからフーグさんとやら! 俺はこの島で暮ら…」

『うっさい』

「話を聞けよ!」

「だから聞いてもらえる訳ないと言ったのです……」

「いやいやいや、うっさいって……話聞かないにしてもあしらい方雑過ぎない!?」


 まさかここまで会話の成立が望めないレベルとは……偏見の力って恐い。


『さぁ、そこをどいてくれマリーヌ嬢。さもないと、その蛮族諸共……ねぇ?』

「くっ……フーグ、地上人は皆蛮族だと言う噂を信じ込み、命じられるままに動くだけですか!」

『例えその男個人がまともでも、そんなのは関係無いっつー話だよ』

「!」

『「地上人の血を引いている」と言うだけで、大半の民と臣下の心が離れていく。国が歪んじまう。……その男は、王にしちゃいけねぇ存在なんだ』

「だからそもそも俺は王様になる気なんて…」

『うっさい』


 っの野郎……!


「仕方ありません!」

「うおっ」


 ようやく俺を解放し、トゥルティさんが剣を抜いた。


「って、剣でどうにかなんの!?」


 あのロボット、全高10メートルはあるぞ……!?


『……そうですかい……心苦しいが……あんたを龍宮帝国の敵と見なすぜ』

「仮にも皇家血族を手にかけようと言う者が、何を言いますか……!」

『地上人でありながら龍宮皇家の血を宿す……だからこそ、抹消しなきゃならないんだよ!』


 巨大な四又の銛が、振り上げられる。


「トゥルティさん!」


 絶対無理だろ、避けろ、危ない。

 そう俺が叫ぼうとした時だった。


 トゥルティさんがロボットへと向けた剣の鋒から、黄色い光が吹き出す。

 その光は、まるで亀の甲羅の様な形へと変形。

 そして、振り下ろされた銛の一撃を見事、受け止めてみせた。


「光の、甲羅……!?」


 あ、もしかして、タトスさんが言ってた『龍宮人の持つ超能力』って奴か……!?

 超能力って言うか、魔法じゃん。

 しかしまぁ、あんなサイズ差のある一撃を受け止めるとは、すごいなあの甲羅。


「……キツい」


 俺が感心した瞬間、トゥルティさんがボソッと呟いた。

 光の甲羅が砕け散り、銛の一撃が砂浜を抉る。


「きゃあっ!?」

「どぅふっ!?」


 その一撃の余波で砂と一緒に吹っ飛ばされたトゥルティさんが、俺に直撃する。


「っぅぅぅ~……」


 鼻っ柱に思いっきり甲冑が……ぐぅふぅ……マジ痛い。

 甲冑堅い。すっごい堅い。鼻の骨折れたんじゃねってレベルで痛い。

 砂浜に寝っ転がり我を忘れて悶絶するくらい痛い。


「くっ……やはり、機動兵器相手では……!」


 剣を砂浜に突き立て、トゥルティさんがフラつきながら立ち上がる。


「逃げましょう、鋼助様!」

「う、うす……」


 まだ若干痛む鼻をかばいつつ、俺も立ち上がる。

 見た感じ、勝目は無い。逃げの一手は大賛成だ。


『フン、逃がすと……んん?』


 不意に、ロボットの方から怪訝そうな声が響いた。


『高エネルギー反応……!?』


 その声の後、何かが起きた。

 俺の視界が、舞い上がった砂塵に覆い隠される。


「っ……!?」


 何かが空から降ってきた。

 俺に理解できたのは、それだけだった。


『……ここは、どこでしょうか。「シャンバラ」との通信回線の途絶を確認しました』


 砂塵の向こうから聞こえたのは、またしてもスピーカーを通した様な音声。

 しかし、フッグとか言う奴とは声色が違う。


 寒風が砂塵を薙ぎ払い、その声の主が俺の目に映る。


「また……ロボット……!?」


 そこに立っていたのは、スレンダーな人型ロボット。

 その外観のパッと見の印象としては、中世の鎧に機械的な意匠を取り入れた感じ。

 装甲のカラーリングは全身真っ黒。関節部の隙間からは青白い光が漏れ出している。


 あのBSMとか言うのとは大分違う。

 まずデザインラインが別物だし、サイズも俺より少し大きいかな、程度。2メートルあるかないか、って所だ。


 ……ってか、ロボット、か?

 何と言うか、ロボットっぽいスーツを着てる人間、って感じがする。

 サイズもそうだし、何より、


『位置情報もロスト……内蔵GPSが機能してない……故障? すごい爆発だったしなぁ……うーん……マジでここ、どこでしょう?』


 何か、喋り方と困った様に頭をかく挙動が滑らか過ぎる。

 あれがロボットだとしたら、すごい技術だと思う。


『見た感じ地球上っぽいけど……あ、人がいる!』


 黒い人間大ロボットは俺らを見つけた途端、嬉しそうに駆け寄ってきた。


『すみません、ここはどこでしょうか?』

「……は、はぁ?」

『できれば詳しい緯度と経度を……』

「な、何だ貴様は! 怪しい奴め! 鋼助様に近寄るな!」

『わわっ、剣!? す、すみません! 怪しい者では無いです!』


 どの口が言うんだ……って、口が無いからこの指摘は正確では無いかも知れんが。


 にしても、何なんだ、このロボット(?)。

 あっちの大きなロボットと違って、こっちに敵意は無い様子だが……


『僕は地球防衛軍マザーウォール所属、第39世代量産型ガイアガーディアン先行試作型機、通称『バスタージョーカー』シリーズの3号機です』




 ………………はぁ?



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