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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第4章 INVADER
18/28

17,INVADER


 最近のスマホってのは、強い。

 昔はいくら防水仕様でも海水に浸るとジ・エンドだった。

 何故そんな事を知ってるかって? 防水だからと油断してジ・エンドさせた事があるからである。

 何が防水だよ! と心の奥底から叫んだが、取説にきっちり「この防水機能は水道水以外は想定してません」的な1文があった。お湯・プールの塩素消毒水・海水等はアウトなんだそうだ。先にしっかり読んどきゃ良かった。


 俺のこの2代目のスマホさんは、前の奴より1世代後に生まれただけだが……取説には同じ1文があったはずだ。

 期待せずに確認してみた所……きっちり作動してくれている。アドレス帳やラインとかのデータも無事だ。

 最近のスマホは気合が違うな。


 そう言えば、スマホに名前を付けるのが流行っていると聞いた事がある。

 今夜の生存記念にこいつにも名前を付けてやろう。


 ……2代目だし、二階堂にかいどうあたりでどうだろう。

 うん、良いと思う。下手に凝った名前より俺らしい。


 なんてどうでも良い事を考えつつ、俺はスマホをポケットにしまう、


 現在時刻20時少し過ぎ。

 道端にカミキリザンキを停めさせ、俺達もとりあえず戦闘態勢を解除していた。

 BJ3号機はアンドロイドモードに戻ったが、悠葉は魔法戦士形態を解除しない。

 まだヘアティルさんを警戒してるのだろう。


 そして、俺達はヘアティルさんがカミキリザンキから降りてくるのを待つ。

 早く降りてきてくれ、寒い。俺今ビショ濡れだからね。


「……とりあえず、殺してください」


 カミキリザンキから降りた途端、流れる様に土下座に移行したヘアティルさんの第一声。

 すっごい泣きそうな声だ。その丸まった背中はチワワの如くプルプルしてる。相当恥ずかしい様子。


 まぁ、そりゃそうか。

 勘違いで仮にも皇子である俺を私怨殺傷しかけた挙句、ガルシャークさんのリアクションからして、彼女の性癖は秘匿にされていた物。

 それを自ら大音量で俺達の耳にお届けしてしまったのだから。

 テンション上がり過ぎてたのか、聖戦ジハードとか言ってたしな。

 黒歴史直行間違い無しだろう。


「殺してって言ってるけど、どうする?」


 とか聞きながら、悠葉はその手に風の刃を顕現させる。


「この流れで殺せるか」

「でも、向こうは鋼助を殺そうとしてた」

「そんな事言いだしたら、ガルシャークさんもだ」

「おう、まぁね」


 結果論として、俺は殺されてない。

 戦闘の結果どっちかが死ななきゃいけないなんて殺伐としたシステムはこの島にはございません。

 つぅかサラっと恐ぇよ悠葉。


「甘い」

「じゃあ、甘いくらいが俺にはベターだよ」

「…………あっそ」


 少し不満気に、悠葉は風の刃を虚空へと消滅させる。


 さて……とにかく、ヘアティルさんには顔を上げていただこう。

 確かに彼女の非は大きいだろうが、噂に踊らされてしまっただけ、と言う考え方もできる。

 何より、もうその恥ずか死しそうにプルプル土下座してる様は見るに耐えない。

 そして寒い。早く帰りたい。


「あの……もう帰っていいんで、今日は家でゆっくり寝ててくれ」


 とりあえず色々と落ち着いてから、謝罪でも何でもしに来てくれ。

 このままだとこの場で切腹しかねない雰囲気もあるし。

 何より寒いから今は一刻も早く家に帰りたい。


「ほれ、ヘアティル卿、皇子サマが直々にこう言ってんだ。とりあえず今夜一晩頭冷やして、日を改めろ」

「し、しかし……」

「そぉんな精神状態グラグラで謝罪すんのぁ、相手にも失礼だぞ」

「う……了解」


 おお、ガルシャークさんが大人っぽい事言ってる。





「とんだクリスマスになったな……」


 沖の方へと飛んでいくカミキリザンキの背を見送りながら、率直な感想に重い溜息を乗せる。


「いやぁ、まさかの理由でまさかの展開だったなぁ、皇子サマよ」

『全くですね。まぁ人の趣味嗜好をとやかく言う趣味はありませんが……世の中色んな人がいる物です』

「とにかく、これで一件落着」


 そうつぶやいて、悠葉は魔法戦士モードを解除。普段の姿に戻る。


 この手のドタバタはもうこれっきりにして欲しい物だ。

 今日はマジで今までの人生で1番死に瀕した日だと思う。

 食べ物と恋愛関係の恨みは恐いと聞いていたが、まさにその通りだろう。


「さ、帰ろうぜ」


 カミキリザンキが海中へと潜ったのを確認し、もう見送りは充分だろうと判断。帰宅を提案する。


 とりあえず今日あった事はさっさと忘れよう、忘れてあげよう。

 そのためにも、さっさと帰ってとりあえず風呂入って温まって、婆ちゃん特製グリルチキンを食ってさっさと寝よう。


『……!?』

「ん? どうした? BJ」


 何か、不意にBJ3号機が周囲を警戒する様にあっちこっちを見回し始めた。


『……次元境界線の湾曲……!?』

「?」


 じげん……何?


『っ……沖の方に、何か転移してきます!』

「転移?」


 ワープの事か? でも、ワープの技術が確立するのって今から200年も先の話だろ?

 今この時代に、お前以外にワープできる奴なんて……


 と、その時、沖の方で大きな水飛沫が上がった。


「え……?」


 爆ぜた海水が雨の様な形で海へと還っていく中、そこに佇んでいたのは、4本腕の紅鬼。カミキリザンキだ。

 何で戻ってきたんだろ、何か忘れ物か? とか何とか俺が平和的思考を働かせる中、BJ3号機がとんでもない事を口にした。


『この反応は……小型の「インバーダ」!?』

「インバーダって……」


 確か、未来の地球に襲来してるっていう地球外生命体じゃ……


「あのロボットの様子、おかしい」


 悠葉の言葉の直後、沖の方でカミキリザンキに異変が起きた。

 その頭部が、歪に膨張し、変形した。


「っ!?」


 頭部だけでは無い。全身の至る所が膨張・変形・変色を繰り返していく。

 装甲は徐々に白く染まり、装甲の隙間からは赤黒い光が漏れ始める。


『不味い! 早く中のヘアティルさんを救出しないと!』

「え、あ、お、おう!」


 何が起きてるかさっぱりだ。でも、何かヤバい事だけはわかった。

 急いでジョーカーシステムを起動……


「そっちじゃ多分間に合わない、私が先行する」


 一瞬、悠葉が緑光に包まれたかと思うと、次の瞬間には突風が吹き荒れた。

 緑光を引き裂き、翡翠色の光の筋がカミキリザンキの方へと飛ぶ。

 翡翠の流星は、白い歪な塊と化したカミキリザンキの元々は胸部だったであろう場所に突貫、直後、反対側から飛び出した。


「獲ったどー」


 軽いノリで宣言しながら舞い戻ってきたマジカルモードの悠葉の手には、襟首を掴まれて運ばれるヘアティルさんの姿が。


「ちょ、悠葉! 持ち方! 持ち方雑!」


 ヘアティルさん、泡吹いてらっしゃる。

 多分、色々あって失神したとかじゃなくて、エラい勢いで襟首掴まれて引きずり出されたせいだろう。


「ふむ……私はあんまりレスキュー作業には向いてないかも知れない」


 完全に意識がフェードアウトしているヘアティルさんを道路に寝っ転がせ、そのザマを確認した悠葉の一言がこれである。

 おい、正義の味方って設定だろお前。


「……で、BJ、あれ一体どういう事なんだ」


 刻一刻と、カミキリザンキは変形を続けている。悠葉がぶち抜いた穴も、既に塞がっていた。


『説明は、ジョーカーシステムを起動してからにしましょう』


 とりあえず、BJ3号機に言われた通り、ジョーカーシステムを起動。

 ガルシャークさんと共に、巨大化したBJ3号機に乗り込む。

 俺はいつもの前部座席、ガルシャークさんが今回は後部へ回る。


『ガルシャークさん、僕の操縦と海面の操作、お願いします』

「おう」


 ガルシャークさんの能力を借り、BJ3号機は海面に立つ。そして、今もなお変形し続けるカミキリザンキだったモノへ向かって走り出す。

 悠葉もBJ3号機の隣りに並ぶ形で飛行。


『……あれは、反応や起こっている事象からして間違いなく……インバーダです』


 さっきも言ってたな、インバーダだって。

 確か、今から10年後くらいから地球に飛来し始める宇宙怪獣の事、だよな。

 生命体の捕食を目的とした、全生命体の天敵、それがインバーダって奴だったはずだ。


『インバーダの中でも小型のモノは、周囲の鉱物などと同化し、巨大化、生存・戦闘能力の増強を図る事があります』


 成程な、じゃあカミキリザンキは今、そのインバーダとやらの同化を受けている……って訳か。

 まぁ、そこは納得しよう、インバーダとやらは専門外過ぎる。突っ込んだ話を聞くには知識が足りない。

 だが、どうしても1つだけ聞きたい。


「何でこの時代にインバーダがいるんだよ……!?」


 インバーダの初襲来は10年も後の話なんじゃないのか。


『僕の中に記録されていない、非公式の襲来記録……と言う可能性は極僅かですが存在します。あれが「黒いインバーダ」だったなら』

「……はぁ?」


 見た感じ、今アレは真っ白だ。もうカミキリザンキの見る影も無い。

 歪だったその形は綺麗にまとまり、真っ白な白い楕円形……まるで蛾の繭の様な形状になっている。繭の所々には赤黒く光るラインも確認できる。

 同化、って事は、あれは徐々にカミキリザンキを取り込み、インバーダ本来の姿に近づいているのだろう。


 でも、黒か白かで何か変わるのか?


『地球襲来当初、インバーダは全個体黒色をしていました。しかし、襲来から50年程過ぎた頃からインバーダは種として進化を遂げ、白いインバーダへと変わって行ったんです』


 じゃあ、仮にこの時代にインバーダが襲来していたとしても、黒色じゃなきゃおかしいって事か。


「じゃあ、あの白いのは……」

『おそらく……僕と同じく未来から飛ばされてきた……そう考えるべきでしょう』

「!」

「まぁ、話はよくわかんないが、アレはヤバい奴で、さっさと駆除した方が良いって事だろ」

『その通りです!』


 ガルシャークさんのまとめを力強く肯定し、BJ3号機はコックピット内のディスプレイにあるサインを転送してきた。

 目標のインバーダまでの距離、約50メートル。バスターナックルで充分な破壊効果をもたらせる射程内に入った、と。


『まだ同化を終えていない今がチャンスです、ぶっ放してください!』

「おうよ」


 スラスターの出力に任せて、BJ3号機が空高く跳ぶ。そして、右手を大砲へと変化させた。

 大砲の砲門を眼下の繭へと向ける。


『ターゲットポイント確定!』


 ディスプレイに映る白い繭、その中腹より少し右に逸れた辺りに、赤いターゲットマークが表示される。


『インバーダは高い再生能力を持っています、頭部…脳に当たる部分を潰さなければ仕留められません、ですが、逆に言えば……』

「脳さえぶっ壊せば、仕留められるって事か」


 あのターゲットマークは、インバーダの脳に当たると思われる部分って訳か。

 流石は対インバーダ兵器、その辺を判別する機能が備わっているらしい。


 ガルシャークさんが狙いを定め、そして、放つ。


 BJ3号機の右手から放たれる、青白い光の拳。バスターナックル。

 その一撃はいとも簡単に白い繭のターゲットマークを貫……


『!?』


 白い繭は、無傷だった。傷どころか、焦げ1つ残っちゃいない。


「なっ……うっそだろ……」


 アレは、ガルシャークさんの専用機の下半身をさっくりと消滅させてしまう程の威力を持っているはずだ。

 その脅威を身を以て知っているガルシャークさんの口から、渇いた笑いが響いた。


『くっ……そんな……』


 とにかく、エネルギーの消費を考えて一旦海面に降りるべきだ。

 そう判断し、BJ3号機は降下。


「……頼りにならないわね」


 軽く吐き捨て、今度は悠葉が突進。

 この前のビッグプレッサをぶっ壊した白銀の光を拳にまとわせる。

 そして、BJ3号機が撃ち抜こうとしていたポイントを、全力で殴り付けた。


 ガギャアアァンッ……と言う、激しく鉄骨と鉄骨を衝突させた様な音が響き渡る。……繭は、無傷だ。


「………………」


 悠葉は無言でBJ3号機の隣りまで戻ってくると、


「ごめん、あれめっちゃ堅い」


 めっちゃ痛そうに右手を庇いながら、静かにそうつぶやいた。


 …………これは、意外とヤバくないか?


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