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とある離島のインペリアルボーイ  作者: 須方三城
第3章 マジカル幼馴染
15/28

14,不穏の前触れ

 西暦2249年。

 地球衛星軌道上に浮かぶ球状の巨大要塞『安寧の要(シャンバラ)』。

 200年程前から地球に飛来し始めた宇宙怪獣『インバーダ』から地球を守るために結成された国連直属の組織『マザーウォール』が建造した、対インバーダの最前線基地である。


 その司令室にて、前線基地シャンバラに置ける現場最高指揮官を務める初老の男性は頭を抱えていた。


「……BJ3号機の反応を、完全にロストした……?」

『はい。地球上、太陽系宙域にはそれらしい反応がありません』


 それは、ついさっき失敗に終わった実験の結果報告。

 新たなワープ技術を使い、既存のワープでは行えなかった質量の転移を行おうとした実験だったのだが……

 その実験は完全に失敗。

 巨大な爆発を伴い、使用した機材を全て喪失してしまうと言う結果に終わってしまった。


 BJ3号機とは、マザーウォールが誇る最新型の自律式アンドロイド試作機の事。

 その装甲強度とAIの優秀さから、今回の実験の現場管理を任せていた存在だ。


『爆発の規模的から考えて、BJ3号機の装甲強度なら全く問題は無かったはずです』

「消滅した可能性は低い……やはり、転移暴走か」


 どこかへとワープしてしまった。

 そうとしか考えられない。

 しかし、地球上にも太陽系内のどこにも反応が無い。


「……一体、どこまで飛ばされたんだあの阿呆め……」

『それと、あの爆発の影響で地球圏から木星圏周辺宙域の次元境界線が不安定になっています。ワープ使用の際、何が起こるかわかりません』

「わかった、各方面にワープの使用を控える様に緊急通達しておけ」

『了解しました』


 通信のスイッチを切り、総司令は深く溜息。


 最新試作機のロスト……これはかなりの大事だ。

 地球でのほほんとアグラをかいてるお偉いさん連中に確実に小言を言われる。


 しかもその影響でワープ航行に障害をきたしていると言う。

 国営・民間の宇宙開拓企業からもクレームがわんさか入るだろう。


「……また、胃に穴が空きそうだ」


 今までの苦労の程が伺い知れるつぶやき。

 前線基地の司令官ってのは楽じゃない。


 ちなみにこの実験は総司令が提案したものでも承認したものでも無い。ただ認知していただけ。

 こう言った技術系統の事は管轄が別母体化しているのだ。

 でも、表向きの最高責任者はこの総司令。

 技術屋達は「人命さえ掛かってなけりゃ、総司令が面倒な後処理は全部やってくれるから」とやや無茶な実験でも敢行しやがる節があったりする。


 連中に責任に見合わない権力を与えている上層部の方針に対し、総司令は再度溜息。

 まぁ、技術の発展がどれだけ大事な事で、どれだけ素晴らしい事なのかはわかっている。

 今日の1歩が明日の誰かを救う事があるだろう。その歩みの積み重ねが世界を救う事もあるだろう。重々理解している。

 それでもだ。それを充分に考慮に入れた上でも、やはり個人の意見を率直に述べさせてもらうと……


 やってられん。


「……隠居したい……」

『あー、あー、司令どのー』

「……なんだ? インバーダか?」


 新たに入った通信は、何やら間延びした女性の声。オペレーター室の主任からの通信だ。


『インバーダ……でしたー』

「……でした?」

『なんかー、木星圏周辺ですっごい小型のインバーダが出現したんですけどー……消えちゃいましたー』

「消えた……?」

『何かー、ワープ? したっぽいでーす』

「…………」


 木星圏周辺は、先程の報告通りなら次元境界線が不安定になっている。

 そこでワープを使えば、何が起こるかわからない。

 少なくとも、まともな転移は行えない。


「そちらで捜索してくれ。捜索の指揮系統は君に一任する。私は胃薬を飲む」

『了解でーす。お大事にー……』


 やれやれ、妙な所に現れなきゃいいが……と、総司令は本日何度目かもわからぬ溜息をこぼした。






「いやぁ、地上のお笑い芸人のセンスはパねぇわ」

「……何当然の様にウチでくつろいでんだ、ガルシャークさん」


 俺とBJ3号機が日課の釣りから帰宅すると、居間でガルシャークさんがコタツに収まってテレビを見ていた。

 放送されているのは年末特番のお笑いネタ披露番組。

 明日がクリスマスイブと言う事もあり、それに関係したネタを披露している。


『どうも、お久しぶりです』

「おう、BJさんだっけか? ま、久しぶりっつっても1週間くらいしか経ってないけどよ」


 いや、挨拶してる場合か。


「……で、答えろよ、何で普段着のあんたがウチでテレビ見てんだ」

「休暇」休暇が取れたからくつろぎに来た。


 いや、そんな心の底から当然の如く断言されましても。

 まぁ大体察しが付くよ? 自宅じゃくつろげないから丁度良いオアシスを探し求めてここに来たんだろ?


 ったく、この人は……元は俺の生命狙ってた件についてどうお考えなんだろうか。


『休みが取れたのなら家族サービスしてあげれば良いのに……そんなんだから、奥さんやら娘さん達と上手くいかないのでは?』

「っ」

「BJ、丁寧に急所を抉るのは流石にやめてあげよう」


 俺もそう思うけど、そこは触れちゃダメなとこかと思って辞めといたのに。


「……いや、俺だって最初の頃ぁ頑張ったよ? 家族を喜ばすために色々さ、地上の事を調べて旅行の計画とかさ、張り切ったよ? でもさ、あいつらさ……」

「あーあー……」


 ほら見ろ、面倒臭い感じになった。


「……あれ、そう言えばトゥルティ卿は?」

「ああ、トゥルティさんは一旦龍宮帝国に帰ったよ」

「? 何でまた。トゥルティ卿、お前さんの護衛だろぉに」


 トゥルティさんは今、例の「皇家から籍を外して、ミストラル大臣に皇位継承権破棄しますアピール大作戦」実行のために龍宮帝国へと帰ったのだ。


 戸籍捏造ってのは、当然、後ろめたい事に分類される。

 タトスのおっさんならそう難しい作業では無いとは言え「法を犯させる以上、ちゃんと顔を合わせて頼むべきだと思うので……」と言うのが、トゥルティさんの意見。

 父娘でも礼儀を失しない感じが実にトゥルティさんらしい。


 その理屈で行くと俺も一緒に行くべきだったんだろうが……当然、行ける訳が無い。

 なので俺は嘆願書的な手紙をしたため、トゥルティさんの手でタトスのおっさんに渡してもらう事になった。

 護衛の件に関してはBJ3号機がいるし、頼めば悠葉も来てくれるから、って事であまり心配はしない様に伝えてある。


「成程なぁ、移籍で大臣サマにお前さんの意思をはっきり示す……か。……最初っからそうしてくれてりゃ、俺もあんま面倒せずに済んだってのに……」


 俺達にギャングファングをぶっ壊された後処理の事でも思い出しているのか、ガルシャークさんは深く溜息。


「……でもまぁ、おかげでオアシスを発見できたし、プラマイゼロか……」


 今後も定期的に来る気満々だなこの人。

 まぁ、その家庭事情はやや同情できる部分もあるし……少しくらいは寛容になってやるか。


「にしても、その分だとヘアティル卿は間に合わなそうだな」

「ヘアティル卿?」

「お前さんらがまだ会ってない、最後の四天王だ」

『その方が、どうかしたんですか?』

「ヘアティル卿の専用機……『キリキリザンキ』ってんだが、今そいつの超カスタム計画が進行中な訳でよぉ。明後日にゃ仕上がるって話だったが……」


 成程、そのカスタマイズの成果を、俺らで試そうって魂胆だった訳か。


 トゥルティさんの話じゃ、作戦完了には最速でも2・3日かかると言ってたからギリギリの線だな。

 でも、仕上がり次第すぐに出撃させる、なんて無茶な事はしないだろう。

 そのキリキリザンキとやらを投入できる様になる頃には、全部終わってるはずだ。


「ま、ヘアティル卿もお前さんの暗殺にゃノリ気じゃなかったし、問題はねぇだろう。技術部の連中は実戦データが取りたかったとボヤくだろぉが……ザマァミロって話だな」

「あんた、技術部とも不仲なのか……」

「不仲って程じゃあねぇが……あぁんなお小言集団とよろしくやってられっか」


 それは多分、あんたのBSMの扱いが雑だとか、その辺に起因しているんじゃないだろうか。


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