FL-15J
カウンター気味にソラに弄ばれ、自分でも分かるほどに顔を真っ赤にして何とか返した。
「……これから宜しくお願い致します」
この瞬間ソラと俺の関係は知り合いから、仲間に格上げされ、同時に主従関係もハッキリと決まった。どっちがどうとは言わなくても察して欲しい。
*
そうして境界線を多分越えた俺の回答を聞いても尚、ソラは手を握ったままだ。浮かれた脳のせいか、早春の柔らかな陽射しに照らされた世界が桃色に染まって見えた。
そして……
「ここのまま、ちっぱいへ……既成事実……」
恐ろしいピンクな計画が進んでいました。
俺が慌てて必死に離れようと、ソラと格闘していたら、ザワザワと周りがしだした 。
「新1年生の諸君、入校おめでとう! で、早速だが我こそは、と思う元気な者は第一グラウンドに集まって欲しい! 鋼殻を4機待機させてある。是非君達の力を見せてくれ!!」
突如野太い男の声が、成績で一喜一憂していた新1年生達へかけられた。
なんとか手を引き剥がし声の方へ視線をやると、拡声器もマイクも持っていないガッシリとした体格の男が繰り返し呼び掛けているのが見えた。
地声?
凄い肺活量だなおい……
で、手首に巻かれているブレスレットの色は紫色。
7年生か。
で、ビシッと後ろで横1列に並んでいる生徒達は……
全員ブレスレットの色が違うって事は恐らく。
そう思っていたら計算幼女が口を開いた。
「ふむ。あの連中は多分、学年代表だな」
どうやら彼女も同じ様に推測したらしい。
白色が1年生で順に赤、橙、黄、緑、青、紫が7年生とブレスレットの色が決まっているのだ。ちなみに進級する度に色を更新していくので、学年=色となっていた。
「どうする?」
チームオーナーに立候補予定のソラは勿論、すでにドラフト指名を彼女から確約済の俺もアピールの必要性はない。逆に俺のアピールは指名が被る可能性を上げるだけだ。
「当然観に行くだけだぞ、ほれ」
当たり前、とばかりに彼女は第一グラウンドを指差すと、その手を俺に差し出した。ソラの頬が僅かに染まっている。
「畏まりました、ソラ様。ささ参りましょうか」
大きく腰を折り仰々しくソラへ言うと、俺は大好きな固い豆だらけの手を取り、しっかりと握った。
横目でチラリと覗いたソラの笑顔が、演技じゃない事を祈りながら足取りも軽やかに、第一グランドへ向かった。
*
鋼殻。元々は火星でのテラフォーミングや資源開発等、非戦闘用に開発された機体だった。
しかし人類の権力者はそれを善しとしなかった。ヴァルジウムリアクターの無尽蔵とも言えるエネルギーを、無駄なく効率的に使用する設計に目を付けたのは直ぐだった。
一度軍用に転用されれば、後は坂道を転がる様に鋼殻は兵器へと生まれ変わっていった。そして、末裔の4機が俺の視界に映っていた。
右膝を地面に着け、屈む様な姿勢で搭乗士を待つ鋼殻。
周りでは1年生と上級生達が何かを話し合っている様だったが、ソラの視線の先には鋼殻しか映らず、質問してもいないのに彼女は機体の説明を始めた。
「FL-15J。愛称はストライクホーク。フラックス社製の多任務戦闘鋼殻。日本の主力鋼殻。全高6.3メートル。重量2.6トン。双発の大出力ヴァルジウムリアクターはIHI製造の国産。その最大出力は各国の主力鋼殻の中でも最大だな。武装は右腕に内臓されている20mmのバルカン砲と左腕に内臓されている中性粒子銃が各一門ずつ。で、近接武装は超音波刀だ。そして……最大の特徴はあの装甲……BS装甲、双発の大出力にモノを言わせた鉄壁の装甲だな」
スラスラとストライクホークの特徴を挙げていくソラに、俺は思わず拍手をしてまった。
「本当に詳しいな。しかも語ってる時のソラの顔……実にいい」
そして彼女の口癖を真似て言ってみると
「そうやって直ぐにボクに、ちょっかいをかけたがるレキって可愛いな」
年上の余裕で返されました。
ニヤニヤするソラにちょっとムキになりかけた所で、双発ヴァルジウムリアクター特有の重なる起動音が響いた。
「おっと、レキ一旦休戦。始まるみたいだ」
俺へ手のひらを広げて休戦を申し込み、4機同時に動き始めたストライクホークへ視線を向けたソラ。
俺も同じ様に目を向けると、ゆっくりと立ち上がる灰色の人型の陰。流石に、いの一番でアピールするだけあって、動きもスムーズだな……
俺はゆっくりとだが、確実に立ち上がって行く動きを見て搭乗士の腕を感じた。ソラも頷いている所をみると、概ね俺の評価も間違ってはいない様だな。
ほぼ同時に4機は立ち上がった。
屈んだままでは分かり辛かったが、立ち上がった事で鋼殻のシルエットがハッキリとした。
全体的に細身のシルエットだが、スラリと延びる脚と腕。しかし華奢な造りではなく、西洋の甲冑の様な装甲を纏っていた。それらを繋ぐ胴体部分はコンパクトに造られておりコックピットも胴体中央にあり、機体全体には宇宙汎用機らしく、機体制御用のスラスタノズルが幾重も装備されていた。
双発のヴァルジウムリアクターは背面に装備されており、バックパックを背負った様にも見え、近接用武装は腰に携えられていた。そして鋼殻が人型に見える最大の理由である双眼の頭部に目が行く。
メインカメラやセンサー類を装備する頭部は、技術者達の妙な意地で昔のロボットアニメの様に人の頭部をモチーフとし造られているのだ。
そのおかげでズングリムックリでは無いのだが、当然デメリットもあった。やはり胴体との結合部が弱いのだ。ただメリットもあり頭部が可動可能な為に策敵行為が行い易い等だ。まぁセンサー類を発達させろとか、無粋な事は言わないで欲しい。
全体の印象としては騎士の装いが一番近いか。
おっと、そうしている間にも起動ルーティンも終わったみたいだな。俺から見て一番腕が悪いと思われる機体が動いた。騎士と言うよりもあれじゃ見習いだな。