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欲しいの

 そんな事を言うソラだったが今度は自分の番と言い、ホレっとブレスレットのディスプレイを見せて来た。


 ふむ……ソラ。君は勉強しかダメなタイプかと思っていたのに……俺の数字が霞む数字じゃないですか。なにこれいやー。

 本当に自分の数字が凄いのか解らなくなった俺は、失意に沈みソラは勝ち誇った顔で、無い胸を張っていた。


 無い胸を張っていた。せめてこれ位思ってもいいじゃない。まぁ薄いのが好きですが。




 *




「で、レキ。返事が欲しいのだが?」


 ガックリと項垂れていた俺へ、ソラがドラフトの件の返事をもう催促してきた。お早い事で。


「……つーか逆に俺何かでいいのか?」


 勧誘は素直に嬉しいのだけれど、いまいち入試の成績がピンっと来ないからなぁ。


「勿論だ。もう君以外をパートナーにする気は無くなった。君でいい、ではなく……君じゃなきゃダメなんだ」


「マジで?」


「マジだ」


 先ほど迄の弛んだ空気はすっかり霧散し、普段は飄々とした色を載せている翡翠の両眼は真剣な色に塗り替えられ、俺を真っ直ぐにい抜いていた。


「……分かった。俺で良ければ……是非お願いします」


 ここまで言って貰った上に、こんな表情をされたのに断ったら男が廃る。俺はペコリと礼をして右手を差し出すのだった。俺の右手を両手で握り返してくれたソラの両手は、幼く見える容姿からは想像出来ない程に、固くゴツゴツしたマメを携えた立派な手だった。




 *



 暫くソラの両手を堪能していた俺だったが、ふと疑問が。


「そー言えばドラフト1位指名って言ってくれてるけど、ソラの一任じゃ無理だろ?」


 チームオーナーの意見が最優先されるだろうし、そもそもオーナーが俺のみたいな、どこの馬の骨か分からない搭乗士を、指名してくれるのか疑問だし。


「なんでだ?」


「だってチームオーナーの意向があるでしょうに?」


 鳩が豆鉄砲喰らった表情もまた良い、とよこしまな想いを抱きつつ俺は言った。



「だからチームオーナーの意向で、レキ。君を1位指名すると言っているんだが」


 俺の疑問に、ソラは自分の薄い胸を人差し指で指して言った。


「ん?」


 薄い胸の意向なの?


「……抹殺するぞ?社会的に」


 羅刹が現れた。

 冗談ですよソラさん。つーかエスパーですよね?


「み、身に覚えがないですなぁ……って、それはさておき、ソラもしかしてチームオーナーに!?」


 身の危険を感じた俺は、強引に話題を戻した。

 まぁ薄い方が好みではあるのだが、それを言ったら色々な意味で終わりの様な気が……


「その予定だし、ルール上問題無いはずだが?」


「マジっすか。確かに問題ないだろうけど1年生でオーナーって厳しくないか?」



 何故か少しだけ機嫌を直したソラが言う様に、ルール上は問題無い。それは同意だ。でもデメリットが多すぎる、

 しかし目の前のソラは俺の言葉を聞き、不敵に笑った。


「普通は厳しいだろうな。人材は勿論、技術、コネ、経験、全てが無いしな。しかしそれがどうした?」


「どうしたって……それらの問題は重要だと思うし、先輩方がいれば大体片付くだろ?」


 ソラの笑みの理由が見えない。

 俺の言葉にソラの小さく少しだけプックりした唇が、赤い弧を形作った。


「確かにレキの言う通り、先輩方は色々与えてくれる。しかし逆に奪う物だってある。それが自由と才能だとボクは思っている。自由はそのままの意味、機体ハードシェルの開発、戦略、これらだけに限らず先輩方の意向に沿わなくてはならない事ばかりだろう。そして才能。これは技術系の事が多いだろうな。素晴らしい発想や技術をチームの為にと全て吸い上げられ手柄は先輩方。良く聞く話だ。ま、中には良い先輩もいるだろうから一概には言えないがな」


 ソラの赤い唇から淡々と語られる言葉。


「と、それっぽい理由は幾らでも言えるのだが……本音は単純。そうしたかっただけだ」


 相変わらずブレスレットにインプットされた自分の成績を確認しては、一喜一憂する生徒達の叫び声がこだまする中、俺とソラは見つめ合う。


 無言で俺を見つめるソラの深緑の瞳。

 真剣な色。

 でも俺は気付いた。否。気付いてしまう。


 彼女は×××××。


 真剣な瞳の色に隠された、もうひとつの色に気付いてしまった俺だったが、隠す彼女の為か踏み込めない己の為かは分からないが、俺はソラの言葉に返事をした。


「最後の本音は隠してくれよ……ま、ソラらしくていいけど」


「ボクは君と違って正直者なんだよ。で、ボクがオーナーじゃ嫌かい?」


 すごーく含みのある言葉と表情だったが俺は全力で無視。


「んーそもそも俺どのチームにも属するつもりなかったんだよね。国際資格だけ取れれば良いと思って此処に来ただけだったし」


 そう俺は無料ただでハードシェルの国際資格を取らせてくれるからラグランジュへ来たのだ。必要なのは食費とかの消耗費位で寮費も俺がいる寮は無料だ。


「……それって答えになっていないのだけれど?」


 ハッキリとしない俺の答えに、ちょっと声が低くなり半目で睨むソラ。結構甘えん坊なのかも、と妄想が湧き出る。


「俺が欲しいの?」


 そんな彼女へ、先ほどの言葉みせあいっこの意趣返しで意地悪をしてみたが……




「うん。レキの……が欲しいの。もう他の人の……じゃボク満足出来ないの……だから……レキが欲しい」


 俺の浅知恵ごときはあっさりと返され、挙げ句の果て反撃を受けた俺。


 ソラさん……それって演技ですよね?

 頬を上気させ、瞳は溢れんばかりにうるうる。

 しかも上目遣いで俺の指をギュっと握って……

 その手を胸の位置に引き寄せるだ……と……!?


 ……すまん親父、俺は越えてはイケない境界線を越えてしまいそうです。あ、でも18か。よし見た目だけ犯罪なんだな。実刑が無いなら大丈夫か……


 待ってくれ俺はロリコンじゃない。

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