フォーチュン・ゴッデス
ソラと別れてからの1週間は飛ぶように過ぎて行った。
まず寮に着くと、寮長さんに挨拶をすませ部屋まで案内してもらった。ドアを開けると、先に送ってあった荷物は無事寮に届いた様で、部屋に運び込まれていた。ホッとしたのも束の間、さっさと終わらせようと自分に鞭を入れ、荷ほどきを済ませた。
それから寮までの間で買った弁当を食べた俺は、備え付けのシャワールームで簡単に入浴と歯磨きを済ませると、強行軍で来た疲れか、一気に睡魔に襲われスパッと意識を手放し記念すべき1日目を終了させたのだった。
翌日からは日用品の買い出しや街の散策。
残りはの時間は、慣れない疑似重力へ適用する為のトレーニング等で忙しく過ごした。ただ目の回るような忙しい中でも、時間を見つけてはソラとメッセージ交換に勤しみ、そんなやり取りで幾つか彼女の情報が更新された。
彼女はここ、ラグランジュ・シックスで産まれたらしい。
でも直ぐ両親が別居。母親はここに残り、ソラは父親と一緒に地球へと降りたとの事だ。
そして父親の勧めもあり、高校を卒業したタイミングでラグランジュへ入校した、等の情報を手にいれつつ、本当に飛ぶように入学式当日になったのだった。
*
「レキー!」
俺がアシスタのメッセージ履歴を読み返していると、遠くから呼ぶ声。
ソラだ。
弾む心内を隠しつつ俺は顔を声の方へ向ける。
灰黄緑の制服をしっかりと着こなした幼女……なお姉さんが、手を振りながら駆け寄って来ていた。
足を着く度に癖の強い銀髪を揺らす。
1週間前はラグランジュ・シックスやら色々と興奮する事が多く、ハッキリと認識していなかったけど……
滅茶苦茶可愛いんですけどー。
幼女でもいい、と思ってしまう位に可愛い。
でも合法。これ重要。神様……ありがとうございます。
「おい……なんだその……イヤらしい顔は……」
いつの間にか正面に立っていたソラは、俺の顔を凄く汚い物を見つけたと言わんばかりに睨んでいた。ごめんなさい。まだ蔑まれる視線を悦べる程堕ちてはいないのです。
俺は何とかその場を誤魔化す事に成功し、ソラを伴い一路ラグランジュ日本校を目指した。すでに歩き慣れた道をエスコートしつつ、俺とソラは朝日で照らされる街を、他愛もない話しで盛り上がりながら、1週間の空白を埋めていった。
*
「「入校式」」
殺風景な建物の脇にシンプルに書かれた看板が設置してあり、横に置かれた椅子に座る1人の男。その男の手にはアシスタ。そして前に並ぶ生徒達の緊張に強張った表情が目についた。
順番に男……恐らく教官であろう者が持つ端末へ、事前に贈られて来ていたブレスレットを翳していっていた。
俺達も列に並び順番を待つが、これがラグランジュの入校式とは驚きだ……
実はラグランジュの入校式はたったこれだけ。
挨拶も式典も無し。最初入校の書類に書かれていた内容に驚きましたよ。
覚悟と言うか何と言うか……ちょっと味気ない。
そうして浸っている間にも、あがっては消える生徒の叫び声。
「皆入試の結果……点数に一喜一憂か」
悶える生徒達を見ながらボソッと横でソラが呟いた。
そう。試験結果を今ブレスレットにインプットしてるのです。それを確認して一喜一憂。
さて、何故一喜一憂するかと言えば。
「いやに余裕だな?」
「そう言うレキも結構余裕に見えるが?」
「んー筆記は問題無いと思える位は出来たし、実技も……まぁボチボチだったと思う」
「ほー中々の自信だな、ドラフトにかかる気満々か?」
そうドラフト。
ラグランジュは「生徒による生徒を対象にしたドラフト」でチームが決められる。
当然、成績の良い人物ほど上位チームから声が掛けられるので、新入生の皆は自分の入試の成績に一喜一憂している訳だった。
既に上級生達はチームを組んでいるが、卒業してしまった者の穴埋めや、1年の若き才能を取り込む為にドラフトに参加するらしい。
で、その方法は。
1.チームオーナーになりたい生徒は立候補制。7年から1年まで誰でも問題ない。既にチームオーナーである人物は自動継続。
2.1チーム最大5名。最低でも搭乗士1名がルール。他はどんな組み合わせでも問題無し。
3.立候補したチームオーナーはまず1位指名者を一斉に発表。被らなければ、指名者がその場で拒否しない限り指名確定。被ったら抽選。で、惜しくも抽選に外れたチームオーナーは再度人物を変えて指名。この流れを繰り返しチームメンバーを決めていく。即答ってのは、判断力と考察力を見る為と言う噂だ。
4.ドラフトから漏れた生徒達は、その場で話し合いチームを決める。
5.それでも選ばれなかった人物は別カリキュラムへ一旦流れ、訓練をこなしつつ声がかかるのを待つ。結構ドライなシステム。
以上がドラフトの概要だ。
だがしかし。ドラフト後であれば、メンバーの交換や移動はラグランジュに申請すれば問題無いらしい。実際に将来有望な1年ゲット。即、欲しい技術と交換。とか普通にあるらしい。
まぁ、それも含めて戦略なのだ。的な事なんだろうが、ドラフトの意味が薄いと思うのは俺だけじゃないはずだ。
「おい、もうすぐ順番だぞ」
思考に耽っていたらソラが、俺の脇をつつきながら言ってきた。
げっ次じゃん。
慌てて制服を腕捲りして備えると、手首に付けられたブレスレットが照らされ、陶磁器の様に白い身を輝かせた。
「つぎー」
微妙にヤル気の無い声が俺を呼んだ。
ドクンッ
さっきはソラの手前格好をつけた俺だったが、正直な話し自分がどの位出来たかなんて比較対象が無いので、彼女への態度は虚勢だ。
証拠に……心臓は不安からか激しく脈打つ。
そんな内情を隠して俺は、運命の携帯端末へブレスレットを翳したのだった。