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ラグランジュ・シックス

 ラグランジュ・シックス。

 国連保有の人類初大規模循環型コロニー、「ラグランジュ・ポイント」を周回する6つの内の1つだ。


 日本が保有する衛星コロニー。軌道エレベーターと同じく名称を持っており「天岩戸あまのいわと」と言うらしい……まぁ、殆どの人はラグランジュ・シックスとそのまま呼ぶのだけれど。名称の意味無し……




 黒い宙に浮かぶラグランジュ・ポイントは、円筒型で大きな葉巻に見える。そして各衛星コロニー達もスケールダウンするが、同じく円筒型だ。衝突防止灯ビーコンライトのストロボが赤、青、白、緑など様々な色を主張し存在しており、単体晶ガラスを基礎ベースとした外部隔壁は、少しでも多くの太陽光を取り込もうと透明度の高い仕上がりに見えた。

 またソラの説明では、電圧をかける事により作動する、遮光ガラスの機能も有するとの事だ。


 俺はシャトルの窓から見えた雄壮なコロニー群に感動を覚え、想いを分かち合おうと隣を見ると。


「すぴぃ~すぴぃ~」


 可愛らしい寝息を立て、涎で光る口を半開きにした幼女が寝てました。

 複雑な気持ちになったが、あの後恥ずかしさを隠す様に激しく語り、疲れて寝てしまったであろう彼女を起こす事を善しとせず、とりあえずそのままにした。


 ソラの愛くるしい寝顔から視線を再び窓に戻すと、先ほどよりも大きく鮮明にラグランジュ・シックスを俺の視界は捉えた。視界の端で一時係留される別のシャトルが、オーパイ(オートパイロット)でテザーケーブルと結合ドッキングしたのが見える距離だ。

 俺はようやく来た。心に波紋が出来るが、じっと食い入る。


 そう今日から彼処あそこが俺の居場所だ。



 *



「何で起こしてくれなかった!?」


 ラグランジュ・シックスのシャトルステーションに入った所で目を覚ました彼女は、頬をパッツンパッツンにして文句を言って来た。


 しかし俺はちょっと意地悪をする。


「あんなに興奮してたから疲れてるのかなーって?」


 額に手を当て考える振りをしながら、ニヤニヤと笑って返す。


「き、君って奴は!」


 結果、もっと怒らせてしまいました。

 うーん、面白い。奥歯が疼いてしまい、更に弄ってやろうと思い口を開こうとしたら。


「「間もなくゲートが開きます。前の席の方から順にお降り下さい。長旅お疲れ様でした」」


 スピーカーから渋目の声でアナウンスが入ってしまい、おふざけの時間が終わってしまった。

 どうやらソラも同様に思ったらしく、まだ幾分赤みは残っていたが大きく深呼吸をしてから、真顔に戻ると手荷物を纏めていた。


 俺も習って出していた携帯端末アシスタを腰のポーチへ片付け、準備万端とするのであった。



 *



 シャトルを降りステーションの外へ向かおうと、電工掲示板の表示に従い歩いて行く道中、結構な数の新ラグランジュ生が乗っていた様で、俺達と同じ真新しい制服に身を包んだ者が目についた。


 そして暫く歩き外へ出ると、俺達を含めた殆どの新入生は目の前に広がる景色に目を輝かせた。降りたステーションはラグランジュ・シックスの端だったらしく、人類の叡知を詰め込んだ空間せかいを一望出来たのだ。


 円筒型の外観通り中も円筒なのだが、その内部に4枚の巨大な長方形の地面プレートを2枚1組で向い合わせに設置した上に建造されている街並みは圧巻だった。



 白い壁が目立つ研究施設が集まるラボエリアが1枚。


 住居と商業施設が混在するカラフルなライフエリアが2枚。


 そして、灰色が目立つ、ラグランジュの育成エデュケーションエリアが1枚。


 資料や映像で多少の知識は付けて来ていたが、地球上ではありない地面が頭上にある光景を、いざ直接体感してしまうとやはり興奮してしまった。キョロキョロするとプレートの中間地点の中央を通るシャフトに気が付き、軌道エレベーターの物と同じで人や物資が運搬されている様子が見てとれた。



 そんな夢にまで見たラグランジュ・シックスに降り立った俺達に、更なる幸運が訪れる。


 突如、男子生徒が歓喜の叫び声が、夕暮れに差し掛かった空に響き渡る。


「おい! あれ!」


 彼の隣にいた友人らしき人物も気付いたらしく、周りへ身振り手振りで何かを伝えていた。

 興奮した彼らの頑張りのお陰で、直ぐに皆気付き騒ぎだした。


 茜色に調光された人口太陽光を背に、灰色グレーをベースにした日本仕様の機体こうかくカラーが浮き上がっていた。

 大出力ヴァルジウムリアクター特有の蒼白い粒子を撒き散らしながら、1機の鋼殻が俺達を歓迎するかの様に向かって来ていた。


 そして、あっという間に接近すると、鋼殻ならではの機動マニューバを披露した。


「レキっ! ほらっ!」


 興奮からか、いつの間にか俺の制服を握り締めたソラが、螺旋を描く鋼殻に向かって叫ぶ。

 すると彼女の声が届いたのか、鋼殻は更にパフォーマンス仕様だと思われる、両腕を広げた先から白い尾を引いた見事な連続バレルロールで垂直上昇した。


「バーティカルクライムロール!」


 子供の様にはしゃぐソラ。


 戦闘機でも観られる機動なのだが、そうやって人型ひとがたで魅せた動きはなんと言うか……俺の心にも、ぐっと来た。暫く鋼殻は俺達を歓迎する様に舞ってくれたのだが、猛スピードで別の鋼殻が接近してくると、逃げる様に飛んで行ってしまった。



 しかし逃げる機動マニューバですら、俺達の心に火を着けるには十分過ぎた。




 *



「あのパイロットいい腕だった!」


 興奮冷めやらぬソラは何度も俺に向かって繰り返した。


 その度に俺は頷きソラの説明に聞き入った。


 ソラがブンブンと腕を動かし鋼殻の機動を再現していると、不意に彼女のアシスタが鳴る。どうやらメッセージではなく音声通話の着信らしく、着信音が鳴りやまない。



「いいのか?」


 かばんを指差し、一向に出る気配が無いソラへ聞いてみた。


「……じゃごめんけど」


 ソラは一言断りを入れ、アシスタを取り出し相手を確認していた。そして大きく溜め息をつき受話する。


「直ぐ行くわ」


 出た端に、そう短く言ってさっさと通話を終らせてしまった。ぶっきらぼうと言うか、少し機嫌の悪くなったソラへ俺は戸惑ってしまう。


 そんな俺に気付いたのか、困った表情に変化したソラが、アシスタを片付けながら謝ってきた。


「悪いな、母からだ」


 ドクンっと俺の心臓が跳ねる。

 しかし俺は自分の心臓に構わず返した。


「なんだって?」


「……着いたなら早く来いとご立腹だったよ」


 表情を固くしたソラは、ぽつりぽつりと話してくれた。

 どうやら彼女の母親はこのコロニーで研究者として働いているらしく、当然娘であるソラは母親と一緒に住む事になっているとの事だった。


「なるほど。なら早く行ってあげなよ」


 少しソラの様子が気になるが、俺は無難な言葉をかけた。

 若干の間が空くもソラは頷き、1週間後の入校式での再開を約束して母親の下へ去っていった。


 夕暮れと夜の帳のあいだ、何度も振り返り手を振るソラを見送り終わると、俺はアシスタで寮までの道順を調べると、ナビアプリを起動させ彼女とは別の方向へ足を向けるのだった。



 まぁ余談だが、神崎ソラのプライベートナンバーとアドレスを、無事ゲット出来た事をここに報告しよう。

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