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ラグランジュ・ポイント  作者: かりんのいえ
ミックスアップ
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星間戦争

「うん。やっぱ二人共、センスがいいねぇ」


 腕組みをしたまま、ソラとヒノワの点検作業を見守る響教官は嬉しそうに呟いた。そしてソラが右腕の瞬発系統である白筋はっきんを点検し終わり、肘の可動部へ手を伸ばしかけると、教官から助言が入る。


「あ、神崎ちゃん。レッキーみたいなタイプが載ると、人工筋肉ソフトアクチュエータじゃなくて、浮遊関節の方が傷み易い傾向にあるよー」


「……これだけ人工筋肉が綺麗でもですか?」


 作業の手は休めずに、顔だけを動かし疑問を返すソラ。あ、ちなみに俺は真田教官の【覚えておいて損は無い】、との言葉で響教官と並んで見学中です。


「浮遊関節は衝撃緩和(ショックアブソーバ)も兼ねてるからネー。レッキーの載り方は綺麗に荷重を分散してるから筋肉には優しいけどね。関節部は生体部品ほど柔軟性が無いから、加減速の凄まじさもあって、確実に疲労ダメージは蓄積シテルヨ」


 手元を見ずにカバー類を外していくソラへ、身振り手振り(ジェスチャー)を使って、理由を説明する教官。


捻りトーションですか?」


「そうそう! 筋肉はある程度伸縮して対応出来るけど、関節は機構上どうしても捻りに弱いんだよ。と言っても、普通に載ってるなら、関節が先にヘタるなんて有り得ないから、一般的な整備理論には当てはまらないんだけどネー」


 ソラは自分の解答に満足そうに頷いた響教官を見て作業を中断すると、アシスタに早速メモを取って行く。それを左腕側で聞いていたヒノワも同じ様に書き込んでいた。そんな二人を優しい視線で見守る横顔に、この表情がきっと素なんだろうなぁ、と俺は思ったのだった。



 *



 そのまま流れで浮遊関節の点検作業に入った二人は、教官が指摘していた通りに疲労の蓄積を確認すると、最初は渋々だったのにも関わらず、掌を返した様に態度を改め質問を重ねて行くのであった。



 そして俺はと言うと……



「さて知ってると思うが、アイツ(ひびき)はラグランジュ・シックスでも指折りのマルチストだ。そのひびきが自ら指導したいと言った二人の才能は、きっと本物だろうな」


 ステップから降りた途端、真田教官に捕まり先程の言葉を頂いたのであった。しかし俺は真意が読めず言葉に詰まっていると、近くにあった椅子を指差され着席を促される。先に教官が座ったのを確認してから、俺も腰を据えると言葉が続いた。


「なぁ六木。なんで代表戦(レイド)なんて物があるか考えた事あるか?」


 手に持っていた二本のパックジュースを、一本俺の前に置いた真田教官が、不意に真面目モードで聞いて来た。


 代表戦(レイド)……

 各ラグランジュの精鋭による、毎年行われる国の威信をかけた大規模鋼殻戦。


「……言い方は良くないですが、武力による駆け引き(パワーゲーム)の一端だと認識しています」


 キャーキャーと賑やかな三人の声を背に答えた俺は、軽く頭を下げてからストローを挿し込み中身を吸い上げる。ほんのりとした甘味とライムフレーバーが口一杯に広がると、教官は更に問い掛けて来た。


「じゃあ何故駆け引きをする必要がある?」


「そりゃ、自分の国が有利になる為だと思うのですが?」


「有利か。ではヴァルジウムのお陰でエネルギー枯渇は無く、その無尽蔵な力を利用し、緑化に成功した広大な元砂漠地帯で生産される食糧。これらにより旧世紀の様な、物資の奪い合いは基本的に無いのに、何を有利にしたいんだ?」


「……基本的に、であってエレベーターやコロニー(ラグランジュ)を持っている、いない地域(エリア)で格差は開く一方じゃないですか。だから自国に友好的な国々の為に少しでも有利に、って思うのではないのでしょうか?」


 以前学校で習った内容を思い出しながら、俺は辿々しくだが何とか自分で考え答えを出した。すると、教官はギシっと音を立て背もたれに寄りかかった。


「なぁお前の言う国々の中に、火星は入っているのか?」


 真田教官は視線を俺の背後へ向けると、無機質で底冷えのする様な声で俺を貫いた。



 *



 火星


 今から約300年前に環境整備テラフォーミングが始まり、地球色に染められた惑星。と言っても短期間で完全な整備が終わる訳も無く、現在進行形で開発が行われている。


 その過酷な環境に対応すべく科学水準は地球以上だと学校で学んだが、反面まだ農業に適した土地が無く、慢性的な食糧難に瀕しているとも教わって来た。ただ、ほとんどの人が火星と聞いて最初に連想するイメージは、一つだと思う。



 それは150年前起こった、地球史上初となった争いの相手。



 地球側で始まっていた【大規模循環型コロニー】建造を手本に、火星側は食糧工場(プラント)として独自に設計変更したコロニーを造ろうと計画した。


 が、地球側はこれまで食糧を対価に火星で生まれた新技術を得て来た為、プラント完成によって両星間のバランスが崩れると懸念し、火星側へ一方的に建造中止を求めた。それに対し火星側は当然猛反発。これまで通り、新技術の共有も継続する旨を通達するが、地球側は納得せず強固な反対姿勢を崩す事は無かった。


 急速に悪化していく両星間。幾度となく話し合いが行われたが、平行線のまま意見が交わる事は無かった。そして地球側が行った食糧供給停止と言う強攻手段により、遂に火星側は我慢の限界を迎える。すでに環境整備テラフォーミングの枠組みから解き放たれ、軍事転用された鋼殻で【ラグランジュ・ポイント】を強襲した事を引き金に、戦火が切って落とされる。


 しかし同様に軍事転用を進めていた鋼殻を、【ラグランジュ・ポイント】に配備していた事が地球側に幸いする。不意打ちに近かった為に初撃こそ喰らったが、第二波以降を許す事は無かった。逆に物量に任せた防衛ラインの押し上げにより、火星側を弾き返していく。


 そうして瞬く間に人類初となる星間戦争へと発展していったと、俺は学校で教えられた事を、真田教官の一言で思い出したのであった


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