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青い果実

 そんなこんなで、し崩し的に合法ボク幼女と御近づきになった俺は、ソラと鋼殻の話題で大いに盛り上がった。


 あ、名前で呼べとの事で「ソラ」って呼んでます。


 整備士メカニックコースの彼女は、ある人からの受け売り知識しか無い俺とは違い、本当の意味で鋼殻について詳しかった。


「で、ここまでの話があってこそ、トルクレックス社製鋼殻ハードシェルの魅力は際立つのだ」


 どうやら彼女ソラも俺と同じトルクレックスが贔屓ひいきらしく、これまで以上に熱の入った言霊を紡いでいく。



「分かっていると思うが、フラックスもドレイクも一流だ。だが! トルクレックスはまぁ……1.5流だろう。しかし。しかしだ! トルクレックスはただの半人前じゃーない。トルクレックスは挑戦者チャレンジャーであり開拓者パイオニアなのだ! ほらレキ見てみろ、あのヴァルジウムリアクターの放熱板を! 他のメーカーは効率の事を考え実に無難だが……トルクレックスは違う。違う……放熱板を機体制御翼と併用しているんだ! 大気圏内でしか使いみちはないが……主流どころか完全に過去の物とされていた物を、あえて装備させて来たんだトルクレックスは。この意味がわかるか? いやいい。答えなくていい。そんな事はいいんだ。ロマンは語ってはいけないんだ。いいか他にはな……そう、あのサイズだ。他のメーカーに比べ一回り小さいんだ。知っての通り攻めのドレイク、守りのフラックス。そして回避のトルクレックスだ。その回避能力向上の為にサイズを小さくしたと思ってる連中はボクに言わせれば……ニワカだ。脚や腕のフレーム構造や人工筋肉ソフトアクチュエータの公表値を信じるならば、今回の新型は攻撃特化の接近戦モデルだ。至近距離でかわしてズドンと物理。いい……実にいい。たぎる。」


 一気に説明をしてくれたソラ。

 クルクルパーマの銀髪を、頬に沿う様にカットしたショートボブの毛先を指で弄る表情は……整った顔だけに妙な迫力があるな。見た目幼女だけど。


 白い肌が興奮の為か上気し、大きな二重の翡翠眼も瞳孔が開いてランラン。筋の通った綺麗な鼻も、荒い鼻息でプックリ小鼻が膨らんでいた。実に残念美幼女。


 そんな事を考えてた間も、ソラの独演会は続いていった。



 *



 結局ソラの独演会はケージが天橋立あまのはしだての宇宙ステーションに到着するまで続いた。ちなみに語られた内容は、すっげぇ面白かったとだけ伝えておこう。詳細を綴るには時間が足りない。



「このままラグランジュ・シックスまで行く予定か?」


 とりあえず一緒に出てきたソラが、携帯端末アシスタを弄りつつ俺の予定を聞いて来た。俺も自分のアシスタを触りながら答えた。


「そそ。一気に行く予定。ソラは?」


 何件かの新着メッセージを確認していると、ソラから返事。


「奇遇ー。ボクも一気に行く予定。予約済んでるか?」


 ソラの言葉に返信メッセージを作るのを中断し、視線を上げると彼女は何やらアシスタを操作していた。そんな彼女へ俺はアシスタをポチポチして画面を見せた。


「お、レキは意外と几帳面なんだな。そしてボクも几帳面」


 俺のアシスタを確認して言ったソラも同じ様に端末を見せて来た。

 そこには俺と同じシャトル便の、予約済みチケットが写っていた。


「シャトル便まで一緒とは驚きだな。普通ここで一泊だろ?」


「普通ならばね。しかしボクは早くラグランジュ・シックスへ行って自分のチームメイト候補達と会いたくてね」


「あーそれ分かるわ! 実は俺もそれが半分の理由、残りは一泊する金が勿体ないと言う理由だが……」


「ふむ。益々いいな君は」


 ニヤリと口角を上げたソラと良い雰囲気で談笑しながら俺は、シャトルへ向かった。



 *



 宇宙ステーションからシャトルへ乗り込む為のボーディングブリッジは全面ガラス張りだった。流石にここまでは疑似重力システムの恩恵は無いらしく、中央に張ってあるムービングケーブルを伝って行く。


 すると、宇宙ステーションの周りに、幾つもの点滅する光が見えた。俺はこう言った事も詳しそうなソラへ聞いてみると、どうやら外隔壁の補修作業をしている動殻ムーブシェルのライトらしい。


 へ~っと感心しながら他へも視線をやると各所で、同じ様なフラッシュが見え俺の気分は嫌でも上がっていく。

 ふと宇宙ステーションから地球へ伸びている軌道エレベーターへ目をやると、こちらにも違う動殻チームがせっせと作業しているのが目に入った。1人が手慣れた仕草で張り付いている壁に、白くドロドロした粘性の高そうな液体を塗り込んでいた。それを又、別の1人が紫にボゥっと滲む光を当てて、細部まで形成している様だった。


 そして紫光をチラチラと遮る影に気付くと、宇宙ステーションや軌道エレベーターの周囲には、スペースデブリや隕石の衝突を防ぐ為に、無数の自動障壁シールドが浮遊しており大事故を未然に防いでいるんだよ、と後ろからソラが説明してくれたのだった。




 それからしばらくの時間、地球にいてはお目にかかれない貴重な作業を眺めた俺達は、搭乗時間ギリギリまでボーディング回廊ブリッジに居座ったのだった。



 *



 そして乗り込んだシャトルの中でもソラの独演会が始まり、俺は夢中になって聞いた。



「それでボクは整備士メカニックを目指したって訳だ。と言っても開発士デベロッパーコースも合わせて受講するのだがね」


 そう締めくくったソラの言葉に俺は驚き、手に持っていたドリンクを落としそうになって慌ててしまう。



「え? ソラ、開発整備士マルチスト狙い?」


 7年かかっても、それぞれの国際資格を取得する事すら合格率30パーセントを切ると言うのに、目の前の幼女ゴウホウロリは整備士と開発士の同時合格を目指すと言っているのだ。


 マジッスカ。そう思った瞬間、驚きと嬉しさの余り表情が緩んだのを、彼女は悪い意味で見逃さなかった。


「なんだ君もボクを笑うのか」


 視線を落とし感情を圧し殺した声に焦ってしまい、思わず愛想笑い仕掛けた俺を見る神崎ソラの表情は、泣きじゃくる子供の様だった。周りから届く他愛も無い余所の会話が、酷く心を粟立たせた。



 *



 ソラの言葉を最後に俺達の会話は無くなった。


 シャトルの窓から見える星々の煌めきが、逆に俺の心を落とし囁いてくる。


 またお前は繰り返すのか。

 断片的に脳裏に浮かんでは消える記憶イメージ

 光の無い濁った虹彩。

 そして最後に交わした言葉。


「「ありがとう。でもごめんなさい」」


 それを思い出した瞬間ガツンっと殴られた気がし、そして再び誰かが囁いた様な気がした。


 まだお前は繰り返すのか。


 …………否。俺は繰り返さない。

 意を決した俺は最初にすべき事をした。


「すまん」


「何に対してだ?」


「笑った事」


「それなら慣れているから平気だ」


「無理と思って笑ったんじゃないんだ」


「……じゃぁあの表情の真意はなんなんだ?」


「……実は俺も搭乗士パイロット管制士オペレーター狙いなんだ。と言っても管制士の方は受講だけで国際資格狙いじゃないけれど」


搭制士デュエリスト?」


「なんちゃってだけどな。でも中途半端な俺だからこそ、ソラが本気でマルチスト目指してるって分かったから……何か嬉しくって……あぁ眩しいなぁって……で表情が弛んだ瞬間……な?」


 そこまで俺が言うと、ソラの白桃の様な肌が真っ赤に変化していく。桃から林檎だな。心なしかプルプル身体が震えているじゃないか……ダメだ加虐のスキルに目覚めそうだ……


 そして


「ま、紛らわしい顔したレキが悪い! ボクは悪くないぞ!」


 上気しきった顔を隠す様に髪を弄るソラが、怖くもない目で睨んで来た。俺は「ごめん」と手を合わせ謝った。



 2つの甘酸っぱい果実を乗せシャトルは真空の海を航海する。

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