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ナイショの賭事

 The Impulseインパルス

 搭乗士でありオーナーでもある京野きょうやながれを中心とし、整備士は北条ほうじょうシノン、みなもとたまき。そして開発士の染井そめい吉乃よしのの4人組。


 事前にソラから教えられていた情報データが瞬時に浮かぶ。無骨な大岩を連想させる京野先輩に、サイトに載っていた顔写真はポニーテールだった為に、今まで気付かなかったが進行役の女性は、よく見ると北条先輩だった。


 その二人は、周囲からの視線とは桁違いの力を持っている様で、目が合った瞬間に周りの気配が薄れていった。



 *



「六木暦。ウチに来いよ?」


 野性的だが落ち着きのあるアルトで呼ばれた名前は、聞き慣れた自分の物なのに、何処かぎこちなく耳に入って来た。


 しかし妙に近距離からの声だなぁ、と思い顔を上げると、いつの間にか目の前に移動して来ていた北条先輩が、八重歯を魅せて笑っていた。


 着席している俺を見下ろす先輩。俯きぎみの為か、サラサラと前に流れる髪を耳にかける仕草にみとれていると、両脇腹に激痛が!?

 犯人(ソラとヒノワさん)の意図が、文字通り痛い様に伝わった俺は、潤んだままの目で起立する。


 しかし168センチの俺よりも上にある薄茶の瞳。パッと見で自分より高いだろうと予想していたが、実際に体験してしまうと……古い考えだが、男の自尊心ぷらいどに波が立ってしまう。


「北条。さすがに直球過ぎるぞ」


 俺が小さな問題と格闘している間に、なんと今度は北条先輩の後ろから、京野(きょうや)先輩が苦笑ぎみに近付いて来たのが目に入った。慌てて姿勢を正すが、にこやかに手で征されてしまう。


「んー? アタシは直球なのが好みなんだけど?」


「今お前の好みは関係ないし、多分六木君も興味ないぞ。なぁ?」


 すると日本ラグランジュで搭乗士、整備士それぞれトップに立つ二人の軽口がいきなり俺に飛び火して来る。見た目とは裏腹に、フランクな口調で俺に同意を求めて来た京野先輩は、イタズラ小僧みたいに笑う。演出なのか少し薄暗いホール内なのに、この二人がいる場所は華やいで見えた。


 ただ正直返答に困る内容だったが、ラグランジュに来てからのソラとヒノワさんで経験値増量の効果か、当たり障り無い言葉を選び声にした。


「興味云々は、まったく面識が無かったので正直何とも答えられないですよ」


 出来るだけ柔らかくを意識し答えたのだが、俺の返事に納得いかないのか触れる寸前までズイっと顔を前に出すと、野性的な彼女は目を細め言った。


「へぇ……君、鋼殻戦のイメージとは大分違うねぇ。千代島寄りかと思ったけども、ながれタイプか」


 比較に挙げられた千代島とは、別種類のネットリ具合で余す所無く観察された俺の額には、うっすらと汗が滲んだのであった。



 *



 それからホール中の興味と視線を集めたまま、少し雑談を交えた勧誘を受けたが、そんな事で揺らぐ事は無く俺はきっちりと拒否の意識を伝え深く頭を下げた。


 二人は駄目元で指名しただけだけど、気持ちが変わったら是非とも連絡してくれ、と強引に連絡先の交換をして進行役へと戻って行った。


 そして俺の替わりにインパルスに指名された男は、飛び上がって喜びを爆発させると、淡い光を落とす天井が抜けんばかりの拍手と歓声を浴びていた。その代わりに俺は周囲からの厳しい視線が突き刺さった。


 まぁある程度予想していた事だったが、思った以上に風当たりは強い様で、あからさまに睨み付けて来る連中も少なくは無かった。鋼殻戦カーニバルによって、多少は改善されたかと思っていた悪役ヒール感だったが、まだまだ敵は多そうな空気に俺は天を仰いだ。……一面の天井だったが。




 そして、それ以降は本当にスムーズだった。重複指名も無く、拒否も無し。トントン拍子で進んで行き、気付くと最終指名がコールされ、ソラとヒノワさんの表情に困惑の色が浮かんだ。


「……おいヒノワ?」


「……おかしいですよね……?」


「何でシスコン野郎から、指名が入らないのだ?」


「……って言うか会場に居なく無いですか?」


 キョロキョロと会場を見回すヒノワさんとソラ、と俺。

 千代島シスコンの所属チームだが、ヒノワさん以外を指名して行くのを見ていたので、意外だと思っていたのだけれど、まさか最後まで指名しないとは予想外過ぎた。合わせてあの男の不在……


 色々と妄想しつつ、念入りにホールを隈無く見ていたが、すでに退出が始まってしまった会場はごった返していた。


 一番身長の低いソラは早々に探すのを止めると、ヒノワさんに近付き耳打ちをする。


 ヒノワさんはコクコクと頷き、腰に巻いた小さなポシェットから取り出したアシスタをパパっと操作する。すると直ぐに相手が出た様で、会話が始まった。


 周りの音で、いまいち内容までは聞こえ無かったが、割りと短い時間で切るとすかさずソラへ耳打ちを返した。


 それを聞いたソラは大きく頷き、俺を手招きする。何故かコソコソしつつ俺が近付くと、俺の耳へ口を近付け言った。


「シスコンはまだPODの中らしい。まぁ命にも搭乗士生命にも影響ないらしいから気にする事でもないがな」


 軽く言うと、俺の肩を二度叩き、続ける。


「あとヒノワが指名されなかった理由がわかった。まずはBLUEチームCOLORシスコンが事前交渉で指名権を取っていた事。次はあの一戦において、シスコンとオーナーの間で一個の賭けがされていた事」


「賭け?」


 ピンと来ず、つい聞き直すとソラの代わりにヒノワさんの解説が入った。薄暗い演出は終わりなのか、本来の煌々とした明るさが戻って来た様で、跳ねた毛先に光が揺れる。


「えーっと今通話したの真田教官なんだけど、昨日の一戦後にドラフト終わったら連絡しろって言われた事、ソラさんは覚えてたみたいで……で、容態と一緒に実はお義兄様が勝ったら私を1位指名、負けたら指名はオーナーの意向で、って賭けだったらしいの」


「で、結果は引き分けだったが、あれは誰がどうみてもレキの勝ちだったからな」


 ソラの補足もあり状況を把握しつつしていると、徐々に喧騒が治まって行き、次第に静寂が戻って来るのであった。


染井芳乃→染井吉乃へ変更でございます。

読みはそのままですがw

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