オーバーニーソと黒いタイツ☆挿絵有
「は……る」
ソラと一緒に笑顔の余韻に浸っていると、真後ろから物理的に押し潰されそう、と勘違いしてしまう位の重圧を含んだ呪詛が聞こえた。
凄まじい勢いで膨れ上がる圧力に甘い空気は消し飛び、俺は恐る恐る振り返る……
「私も絶対に!! 神崎ソラのチームに入りますからっっ!」
いきなりの絶叫。そしてそこには、食堂の床をガンガン足で踏み鳴らし、何故か真っ赤になり怒り狂うヒノワさんがいるのであった。
頭から煙が出そうな程に染まった彼女は、俺とソラの手を手刀で断ち切ると、食堂中に響く声で再び宣言した。
「神崎ソラ!! 私をドラフト1位指名しなさいっ!」
ビシィッ! と指を突きつけたヒノワさんは、神崎ソラに向けて言った。
あ……ヒノワさん。俺の足踏んでますよ。いてぇ。
*
「……えーっと、ドラフトの時間まで、あ」
「黙れ」
言葉半ばでソラに被された俺は、忠犬顔負けの従順さで姿勢を正し安物の椅子へ座り直すと、命令通り口を閉ざした。
ちなみに今俺達がいる部屋は、先ほどまでいた食堂では無く、ドラフト会場内であるメインホールに隣接しているブリーフィングルームの一つである。……食堂は、俺とソラの一件のみならず、ヒノワさんがキレた事による騒動で、さすがに我慢出来なかったのか、厨房から出てきた三人娘に強制退去を命じられたのだった。
まぁ周囲の視線も痛かったし、ドラフト対策の件もあったから、場所の移動は問題無かった。それに個室じゃなきゃ話しにくい内容だし。
だがしかし。
中心にテーブル、奥の壁にモニター兼タクティクスボードが埋め込まれた、白を基調とした6人も入れば満員御礼な広さの部屋で二人……否。
二頭の肉食獣が睨み合い、そして鎬を削っていた。
「……食堂の件、悪い話しでは無いと思うのですが?」
予想通り先手は、やはりヒノワさん。
シンプルなパイプ椅子に浅く腰掛け、薄っぺらな笑みを貼った顔でテーブルを挟んだ正面に座るソラへ切り込む。対してソラは腕を組み、無言で俺を睨んで来た。
……この流れで何故俺を睨む。
オーナーの行動が理解出来ないが、とりあえずソレは置いといて、直近の問題へ思考を移す。
ヒノワさんのチーム入り。
個人的には受け入れる事が正解だと思う。親父の作業をずっと目の前で見てきた俺をして、ソラは勿論の事、少ししか見ていないが、グラウンドでのヒノワさんも並みじゃないと感じたからだ。サイコ野郎がいる点を含めても、彼女の能力は必要だ。
そしてソラも、あのイオンスラスタの性能向上を目の当たりにしては、彼女の能力を認めざる得ないだろうと思うのだが……俺からヒノワさんに視線を移した我が主は、顎を上げ胡乱な表情をしていた。
……
…………
………………
……………………
誰も殆ど音を立てる事無く過ぎて行く時間。
三人の小さな呼吸音だけが聞こえる中、静寂を破ったのはあの人だった。
大きく息を吐くと、小さく咳払い。
「……基本的にはボクの指示に従って貰うぞ?」
腕組みを解き、顎を下げたソラは意外にも落ち着いた口調でヒノワさんに答えた。
すんなりとした答えにヒノワさんも面食らったのか、半開きの口から白く綺麗な歯を披露しつつポカンとなるが、気が変わってはいけない、とばかりに直ぐに返事をする。
「意見は言わせて貰いますよ?」
「それは当然の権利だ。遠慮無く言ってくれ」
ソラの返事を受けると、再び表情を貼り付けた笑みへ戻したヒノワさんの纏う雰囲気が激変した。
「……へぇ……随分と自信が、おありなんですね?」
「自信じゃない……余裕だ」
しかしソラは余裕綽々とばかりに口角をあげると、先ほど俺と絡め合った右手をゆっくりと持ち上げ、焦らす様にヒノワさんに見せた。
ヒラヒラと前を舞うソラの右手に釣られる様に、左目がピクピクと痙攣したヒノワさんは、青筋を付けた満面の笑みを浮かべ、ソラへ小刻みに震えた右手を差し出したのだった。
*
「しかし、ドラフトなんだろ? 指名制なのにどうやって上位ランカー二人もゲットするんだ?」
卓上でにこやかに握手する二人に向けて、携帯端末を使い例のページで、搭乗士3位と整備士2位に入っている、二人の獲得方法に対する疑問をぶつける。
俺の言葉を受け、手を離した二人からちょっと可哀想な人を見る視線が返って来た。もちろん返事も来たが、無性に切ないのは俺がノーマルだからだろうか。ご褒美です、とか言っちゃう人間にはまだ成れていないらしい。しかし……美幼女のオーバーニーソと美少女の黒タイツ……かなり厚手のデニールなのだろうか、まったく透けた感じが無く、ヌラリとした艶やかな質感が妙な背徳感をもたらし……
「レキ……下に何かあるのか? あと、その表情は実にだらしないぞ……」
ソラからの返事は視線の先についてだった件。邪な情熱バレテーラ。まぁ誤魔化すに決まってますが。
「あーごめん。美少女二人を正視するのが恥ずかしくてな……話の腰を折って悪い。で、方法はあるのか?」
しれーっと口から出たアレでソラの疑惑の眼を逸らすと、唇を尖らせつつも幾分緩んだ感じで、彼女は教えてくれた。
「簡単だ。まずボクはドラフトで誰も指名しない。そしてレキもヒノワも、どこから指名されても拒否する。結果、君たち二人は自由契約だ。そして最後の話し合いで、ボクのチームに入ればいい」
「え? そんな方法でいいの?」
「問題ない。毎年行われる由緒正しい方法だ」
「まじか……でも、なんかそれだと、ドラフトの意味無くないか?」
「そうだな……だがそもそも、ドラフトは序列を知らしめる為の方法だとボクは考えている」
「序列?」
思い当たる節も無きにしにも有らずだったが、相槌も兼ねて聞き返すと、今度は黒タイツの人がご教示くださった。
「あーソラさんの言う通りかもね。既存のチームには前年度の成績に応じて資金や施設等が割り当てられるから。上位程優位なスタートがきれる。でも下位のグループはその逆。だから環境を良くしたいなら、上に登れ。指名された順番がお前達の価値だ。そう言われてるのと同じよね」
至極単純な抜け道があると知った俺は、目の前で組み直される肉付きの好い脚に見とれつつ、黒と翡翠の視線に刺され冷たい汗を背中一杯にかくのだった。
hal様より、いただきましたイラストです。
本当にありがとうございますm(__)m
素晴らしいイラストに負けない様に
文章も頑張ります!




