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鋼殻戦(カーニバル)

 急激な上昇からの反転にブラックアウト寸前の俺。


 しかし親父の動殻が俺を助ける。脳に血液を廻す為に(アンチ)Gが働き、下半身を中心に加圧され強制的に脳へ血を集め危機を乗り切る。


 親父に感謝しつつも、レプトムスラスタのじゃじゃ馬っぷりに翻弄されるが、しっかりと恩恵を受けたワルキューレはストライクホークの背後を取る事に成功した。


 躊躇する事無く動く俺の行動を、マスタースレーブ(master-slave)……実際の動きをトレースするのでは無く、「こう動く」といった搭乗士の筋肉動きや脳波等を受信し再現するシステムに依って、搭乗士(おれ)の動きをワルキューレがトレースした。


 共振刀レゾナブレイクをストライクホークの背中へ真横に振り抜くが、相手も然る者。鋼殻の命でもあるヴァルジウムリアクターを死守すべく、機体を反転させてきた。


 しかし、そのせいで露になった無防備な腹を、共振刀(レゾナブレイク)が食い破る。


 か、に見えたが無線から届く観客ギャラリーの悲鳴とは裏腹に、ストライクホークの虎の子、BSベクトルシフト装甲が共振刀(レゾナブレイク)の斬撃を食い破られる事無く耐えきった。


 さすがに衝撃までは殺し切れなかったストライクホークは、「ギャイィンッ!!」、と鈍く低い金属音を響かせ慣性に従い吹き飛んでいった。


「ちぃっ!」


 ソラから聞いていたが、レゾナブレイクの直撃を耐えきる装甲に思わず、盛大に舌打ちをしてしまう。


『舌打ちより攻撃を撃ち込めレキ!!』


 無線から叱咤が飛び込む。最もな指示を出しソラは更に続けた。


『BS装甲だって万能じゃない。レプトム粒子が枯渇すれば効力は切れる! だから、うって打って撃ちまくれ!!』


 俺はソラに言われるまでも無く、左腕に仕込まれた拡散電磁投射砲サブレールガンを、照準をつけず目測でストライクホークへ向け最大威力で撃ち放つ。

 バリバリっと紫電の筋を走らせると同時に、慣性の法則に従いマイナス方向への力が発生する。しかし腕に仕込まれた緩衝ゲルが吸収し蒸発と共に相殺している間に、電磁誘導ローレンツの力で爆発的に加速されたタングステンカーバイドの散弾が、表面積を小さくする為に丸まったストライクホークを飲み込む。


 BS装甲に無数に撃ち込まれる超硬の弾丸達は、容赦なく降り注ぎ衝撃に身を潰してき、レプトム粒子を消費させるべく、全身を蹂躙していった。しかし最大威力の弊害か、連続で3発撃ち込んだけで砲身強制冷却の為に、拡散電磁投射砲は冷却ジェルが蒸発していく白色煙を上げて使用不可となってしまう。


 更に、今の攻撃でストライクホークの吹き飛ぶ速度は加速してしまい、どんどんと距離が開いていって行き昨夜の話しで、恐らく中長距離では相手に分があるだろうから、と結論付けた事を思い出す。レプトムスラスタに火を入れた俺は、作戦(ブリーフィング)通り接近戦に持ち込もうと急速接近。


 圧倒的な機動性で鉄壁の鋼殻を追い込み、止めをさすべくオレンジの檻の中に、蒼白い粒子の尻尾を幾つも引いた真珠色の戦乙女。


 そして。


 今までの鋼殻の常識を覆す機動マニューバを魅せたワルキューレは、あっという間にストライクホークへ肉薄する。


 度重なる攻撃の衝撃で千代島が意識を無くしたのか、ピクリともしないストライクホークは、小さく丸まったまま、ただ回転しながら宙を進んでいた。


 死んだ様に動かない敵機を、直ぐに射程に捉えた俺は、止めをさすべく突きをリアクター目掛けて打ち込んだ瞬間だった。


『死ねよ?』


 オープンチャンネルで飛ばされて来た短いフレーズ。


 ぶわぁっ! と粟立つ肌。


『レキ離脱!』


 悲鳴に等しいソラの叫びと、ストライクホークが放った中性粒子銃ニュートロンガンの、黄色く鮮やかに伸びる一筋のビームが交錯した。


 避けられない。


 直撃を覚悟した俺は、ならば、と超反応でスラスタ全開。



 キュンッ!



 突き出したレゾナブレイクが中性粒子の光束と重なり、短く、そして甲高い音を出して()ぜた



 *



 共振刀レゾナブレイク

 名称の通り、触れた物質を共振崩壊させる最凶クラスの近接武装。そして共振崩壊の対象(えもの)は、粒子すらも含んでいた。


 高出力中性粒子である光の集束と衝突した共振刀(レゾナブレイク)は、鳴り響き光輝くビームを一瞬で四散させた。


 相討ち覚悟で突き出した共振刀(レゾナブレイク)に、偶然にも中性粒子砲(ニュートロンガン)の一撃が当たった事で、絶体絶命のピンチが反転、絶好のチャンスとなった。


『くそったれがっ!?』


 逆にストライクホークにとっては必中の一撃だったにも関わらず、あっさりと防がれたと勘違いした千代島が、呪詛の如く叫んだ。


 死んだ振りを止めたストライクホークは体勢を整えながらジグザグに後退していく間に、ヴァルジウムリアクターを全力で稼働させる。


 蒼白く光る残滓を吐き出しつつ、BS装甲へジェネレータがエネルギー供給を開始。しかし俺が黙って見ているはずも無く、レプトムスラスタを連続使用した反動で軋む全身に鞭を打って、最大推力で追撃に入った。


 ヴァルジウムリアクターから精製される膨大なレプトム粒子が、スラスタから噴射され、蒼白く吐き出された超高濃度の粒子群が、加速されていく機体の後ろへ薄く拡がって行った。


 必死の後退をしながらもストライクホークは、全弾撃ち尽くす勢いで20mmバルカンをワルキューレに放ってくる。


 散弾の様に撒き散らされた劣化ウラン(DU)弾が、逃げ場なく戦乙女を包囲し迫ってきた。


『レキ!!』

 再び悲鳴の様に叫ぶソラへ、俺も叫んで返す。


『ちょっと、しおらしいのが過ぎるぞっ!?』

 いつもの様にソラには超然としてて欲しい、と思い逆に発破をかけた。


 そして、ソラの叫びを消す為に俺は、今日何度目か解らない全開推力のレプトムスラスタへ身を委ねた。

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