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おりゅ

 異常無しとは思うがセルフチェックを欠かす訳にもいかないので、ゆっくりと作業に入ろうとした俺の動きで、動殻の装着完了に気付いた幼女様ソラから無線が入った。


『異常はないか?』


 左右合わせての十指を、順繰りワキワキと動かしていると、やけに落ち着き払った声色で届いた一声に、俺の肌が粟立った。


『……とりあえずは異常はなさそうですが……ソラの落ち着き払った声が気になるんですがー?』


『ん? あー、それは多分アレだな。君の動殻の美しさに心が癒されたのだろう。あの千代島はじしらずの事など忘れ去るのは容易い。が、あの無礼だけは忘れられないから……解ってるよな?』


 中盤までは楽しそうな声色だったが、中盤を過ぎてから一気に温度急降下です。しかも「解ってるよな?」って……


 アレですか?

 アレですよね?

 アレしか無いですよね?


 地球で慣れしたんだ手順ルーティンで、無意識に指から、腕への作動確認に移っていたが、思わず冷や汗をジットリと背中にかきつつ、体勢を正しワルキューレの方を良く見てしまった。


 戦乙女ワルキューレの横で、銀に輝く癖のある髪を無重力にフワフワとさせながら此方を見ている人影が。

 とても18には見えない幼い容姿をした暴君のサムズアップ姿が、望遠映像で風防シールド表示(ワイプ)されていたのであった。彼女の様子を直視するのが辛かった俺は、一時現実逃避に走る。方法は至極単純。本日の対戦相手である千代島を見る事であった。


 ただし既に彼も動殻の装着は終え確認作業をしている様で、同じく此方を観察していた。ミラー処理されている風防のせいでお互いに表情は読めない中、見えない筈の視線をぶつけ合い2機の動殻は睨み合う。


 すると。


『レキ……その恥知らずもまぁ油断できる相手じゃ無いが、さらにイモウトの方が厄介そうだぞ』


 結構マジな感じでソラから無線が入った。

 が、意味がイマイチ分からない俺は、腕から脚部へ移行し、屈伸運動の要領で膝の曲げ伸ばしをしながら聞き返した。


『ん? 千代島……先輩が2年の上位って事は昨日ソラから聞いたから覚えているけど、イモウトの方は何か情報あったっけ?』


『……恐らく彼女、機体のOSを書き換えて来た様だ』


 まさかの説明だった。鋼殻に携わる者なら常識が吹き飛ぶ内容に声が低くなってしまう。


『……マジか』


『マジだ。と言ってもこの短期間じゃ流石に全書き換えしたら、搭乗士が乗りこなせないから限定的にだろうがな』


 書き換えと言っても一部。

 なんだ大した事無いじゃないか。と言える奴は大天才か馬鹿のどちらかだろう。


『むしろ一部の方がヤバくね?』

『その通りだ。君がその認識を持ってくれていてよかったよ。だから相手の一見ノーマルっぽいFL-15Jストライクホークをスペック通りに見るなよ?』


 念入りに俺へ釘を刺して来たソラ。

 一般的に、と言っては語弊があるかもしれないが、ラグランジュに所属する者は基本的にはアマチュアである。当然、元軍人やら研究者、そして火星人(マルスノイド)など例外も多数いるのだが。


 しかし一部の者を除けば、殆どのチーム……整備士や開発士はOSの改善や改良にはあまり手を出さず、機体側の改善改良開発に時間を費やすのが常識なのだ。


 理由は多々あるが最大のポイントはこれだろう。

 成功すれば効果は高いが難易度が激高の上、殆どの場合スペックダウンの効果しか得られないから。


 まぁ現実的な問題からOSを弄るチームは、ごく一部だったと思い出した所で俺は疑問に気付いた。


『ところで何でイモウトさんが機体に触れるんだ? 鋼殻戦カーニバルはチームでだろう? なのに何でドラフト前の……あ……』


 途中まで言ったところで、俺は気付いた。


『おいおい。その点はボク達もだろう。真田教官が今回は特例で、個人対個人の位置付けにしてくれたらしいから、ボク達が認められるならば、イモウトさんの参加も問題無いと言う事だ』


 そう。まさに、ただの喧嘩状態だ。しかし残る疑問はまだある。


『……了解。で、何でソラはイモウトさんがOS弄ったと思ったんだ?』


『それは! ……女の勘だ!』


 きっとドヤ顔なんだろう、と想像しやすい声で、ドンっと言い切った幼女の主張に、俺はちょっとイラっとしつつも、足首や股関節等の下半身の稼働部位も確認終了したので、センサーや計器類のオペを開始した。


 そして訪れた沈黙。


 暫くして俺からのリアクションも突っ込みが無いと分かると、シールドに写し出されているソラがワルキューレの横でアタフタし始めていた。


『う……嘘だ! 本当はさっき相手鋼殻の挙動チェックを見ていたら、ストライクホーク特有のスラスタを吹かす際の僅かな吸気ため癖が無くなっていたからだ! お、おい! 何か言ってくれよ!』


 さして長い放置では無かったのだが、銀髪の暴君幼女様の心はあっさりと俺へ屈した様で、シールドに映る彼女の表情は鬼気迫る物であり、オペ中だった動殻のサーモセンサーは、ソラの体温上昇を即座に捉え俺に報せるのであった。


 *




 キャッキャとソラとイチャついていると、唐突にその瞬間が訪れた。


『異常無しだなー。では鋼殻に乗り込め』


 真田教官から無線で催促が入り、機能確認オペも終了した俺は、ソラとの会話を締め括る様に口を開いた。


『ではソラ様。勝利をあなたに』


 知らず知らずの内に鋼殻戦カーニバルだと言う事で上がっていたテンションのせいか、思わず出た恥ずかしいセリフに俺の心拍数もバックンと上がり、顔が上気して行くのが分かった。ピピっとなったバイタルサインのアラートが、システムの正常さを教えてくれた。


 しかし、言われたソラはもっと凄かった。先ほどのやり取りで既に上気していた頬は、更に赤く染め上がり茹ダコの様に頭の先から湯気が出そうな程だった。


 毛先を指でクルクルと巻き、どうにか気を紛らわしてツーンと顎を上げ返事を試みたソラ。


『う、うみゅ。し、勝利を待っておりゅ!』


 案の定、噛みまくりの返事で小さな身体は、更に小さくなり庇護欲をそそる表情が、動殻の記憶領域に深く刻まれるのであった。

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