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生死不問。本能男のプライド

 真田教官の一言で、押し黙る二人。

 静かになった二人から視線を外した真田教官は、おもむろに見上げる。


 すると、初日は閉まっていたシャッターが今日は開いており、全面ガラス張りの天井(ドーム)へと、様子を変えていたのだった。


 つられて上を見た俺。


 地球から眺めた星空とは、全く違う宇宙の景色。

 漆黒の海に浮かび、煌めきを放つ数多の恒星達。

 そして、審判員ジャッジが乗る鋼殻だろうか。そのヴァルジウムリアクターが放つ青白い光の残滓ざんし


「オレが審判員ジャッジ。千代島、その意味が分かるな?」


 薄暗い位に照明も絞られたステーションから広がる、幻想的な景観を思わずボーッ、と魅入っていた俺達をよそに、真田教官が千代島へ問いかけた。


「つまらない鋼殻戦カーニバルをしたらヤバいであります!」


 背中に何か入ってるんじゃないか、というくらい背筋を伸ばした千代島が、ノータイムでハキハキと答える。


 マジか。


 ふとアイツの横を見ると、ヒノワさんが驚愕の表情で「おにいさま」を見ていた。心なしか震えている様だった。


「その通り。そして六木と神崎も、今それを理解したな?」


 陽輪いもうとさんの反応など露にもかけず、満足そうに頷き答えると、俺達にも釘を刺して来た真田教官。


 しかしウチの幼女様は。


「ドラフト前の1年生が上級生をぶっ潰す。面白く無い訳が?」


 ツーンと顎を上げ、言い放つじゃありませんか。

 おーい実戦担当は俺ですよ?


「ほぉ……大した自信だな。では首席通過の眼鏡に叶った搭乗士に期待するか」


 しかしソラの態度に怒る事も無く、真田教官は俺を見てニヤリと笑った。


 え? やっぱりあの数字は首席なのね。



 *




 あの後、真田教官の指示のもと、ソラとヒノワさんは既に指揮席セコンドに。俺、千代島、真田教官の3名は搭乗ゲートの前に移動していた。


 ガランとした空間に漂う緊張感。

 非常口を印す緑の淡い光に照らされ、伸びる3つの影がボンヤリと床に寝転ぶ。空調の音が静かに、そして平坦に響く。


 そんな中で、真田教官が遂に告げた。



「よーし、じゃぁレギュレーションの確認だ。まず動殻と鋼殻は既に両陣営共にチェックしたが問題なしだ。で、勝敗は戦闘不能とジャッジが判断するか、ギブアップ。生死は不問。殺しても死んでも自己責任。まぁそれだけだ」


 極短くドライな説明。

 鋼殻戦カーニバルのレギュレーションは実に単純。


 出力に影響するヴァルジウムの積載量は厳しく管理されているので、その量の確認。ただリアクターの方は制限が無いので、いかにそこで差を着けるかが重要になってくる。


 後は勝敗の判断のみだ。間接的な妨害工作等は一切禁止されているが、直接戦闘の方は生死さえ不問だ。

 所詮は軍用機体。死亡リスクに怯える者は、端から鋼殻の搭乗士には向いていないし、なれない。当然俺もリスクを承知の上で、ラグランジュへ来ている。


 搭乗士として当たり前の思いを胸に、千代島の方へ視線をやると、相手も同じく俺を見ていた。


 パッと視線が交差した瞬間。

 頬を腫らした少女の姿が脳裏に浮かび、俺のボルテージはグラグラと煮え立ち、原因の男を睨み付けた。しかし、相手もただ睨まれるだけな訳も無く、スッと細めた鋭い目で返してくるが、遮る様にも声がかかった。


「では行くか」


 俺と千代島が静かに火花を散らす前で、真田教官がゆっくりと言った。



 *



 無機質な鈍色の大扉。

 疑似重力空間と無重力空間を隔てる扉だ。

 青い四角で囲まれた〔無重力(ノーグラビティ)〕の文字が、宇宙にいる事を俺に思い出させてくれる。




 天橋立で幼女と偶然にも知り合い宇宙に出た。少し強引な彼女に、流されるまま鋼殻戦(カーニバル)をする事になった自分を思い心が揺れる。


 普通、入校初日に上級生と揉め、即一騎討ちとかあり得ないだろう、と思いながらも何故か口元が緩んだ。そんな自分の反応に少し俺は驚き、そして喜んだ。


 この感じは……多分あれだ。


 闘争本能。

 (オス)としての(プライド)


 何て、格好をつけて言ってもしょうがないか。

 要は、男と男の喧嘩。

 理由は単純。自分の大事な仲間(パートナー)への侮辱。


 結果。

 気に入らないからぶっ潰す!


 想いの結論に至った俺は、短くだが強く息を吐いた。すると自然と目を瞑っていた俺へ真田教官が声をかけて来た。


「お前の動殻は自前か?」

「え?」

「だから六木、お前の動殻は神崎の用意した物じゃなくて、お前の自前かと聞いている」


「あ……そうです。自前っす」


 一瞬質問の意味が理解出来ずに聞き返した俺に、丁寧に質問を繰り返してくれた真田教官へ、実は親父のハンドメイドだと言う事は隠して答えた。


「自前か……神崎が用意した鋼殻も特級品で興味深いが、むしろオレはお前の動殻の方が更に興味を引かれるな。アレ大事にしろよ」


 俺から視線を外した真田教官はそう言うと、今度は千代島へ声をかけた。


「千代島。ドラフト前の1年生と鋼殻戦カーニバルをヤるのは史上初だ。だから無様な姿を晒すとお前のチームは厳しい事になるなぁ」


「……真田教官。いかに教官でもその言葉は頂けません。1年なんか秒殺です」


 真田教官の言葉にグワっと目を剥いた千代島が、俺を秒殺すると宣言しやがった。


 千代島の反応に頷く真田教官。


「まぁ二人共緊張でガチガチって事は無さそうだな」


 どうやら真田教官は、俺達の緊張をほぐそうと話しかけてくれたらしく、緊張はしていないと判断し更に続けた。


「なら入場だ」


 唐突な真田教官の言葉と同時に、鈍色の巨大な扉の多重ロック機構が解放されていく、重厚な響きが連続して伝わって来た。暫く続いた後、一際大きな金属音が鳴り響く。


 それを最後に解放は終わり、ラグランジュでの初鋼殻戦(ファースト・カーニバル)への入口が、いよいよ開かれて行くのだった。

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