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TR-35

「おー。いいんじゃね。レギュレーション守りゃオレは良いと思うし、ジャッジも集めてやるわ」


 事情を把握した真田教官は、意外にもあっさりゴーサインを出した。まぁソラが肝心な部分をボカして話したお陰だろうが、幼女恐るべし。


「ではジャッジの件宜しくお願い致します。で、戦域フィールド使用許可も合わせてお願い出来ないでしょうか?」


「あーいいよ。ついでに格納庫ハンガーの使用許可もやっとくわ」


「ありがとうございます。では明日朝一で機体搬入させて頂いても?」


 どうやら諸々の手続きも真田教官がやってくれるらしく、トントン拍子に鋼殻戦カーニバルの話しは進んでいった。


「オッケーオッケー。しっかしお前確か……おっと、すまんね……」


 ん?


 最後何か濁した? 

 そう思ってソラを見たら……何故かどす黒かったです。

 ちなみに千代島は直立不動のまま、俺達を睨み付けていたのは言うまでも無い。




 *




 そうして真田教官の参入で、大波乱の入校初日を終えた俺達は、千代島と険悪な雰囲気のままそこで解散となった。他人事だと思い軽口を叩く野次馬達の声が、やけに遠くに感じられたなぁと思った。


 だが翌朝、そんな些細な事は忘れていた。

 白のペンキで塗られた床面から延びた鉄骨が、規則正しく組み上げられ格納庫ハンガーの内壁を構築し、そのまま天井まで続いていく。その剥き出しの構造部材が武骨に彩る、だだっ広い空間で俺は、喜びに全身を震わせていた。


「ワルキューレ……純真無垢のワルキューレが今……俺の目の前に……」


 俺は朝一で搬入されたTR-35を前に正座をしているのだ。初対面の戦乙女ワルキューレたんを前に砕けた態度は失礼。万死に値する。そんな俺へ残念なモノを見る様な目を向け、例の説明好きの口が滑らかに動き始めたのだった。


「TRー35。愛称はワルキューレ。トルクレックス社製の多任務戦闘鋼殻(マルチロールファイター)。先日ロールアウトされたばかりのTR-35Jの原型機だ。まぁJは劣化版ダウングレードだからアレだが……む。気を取り直していくぞ。君が天橋立あまのはしだてで見たのはコイツだな。で、全高5.7メートル。重量1.8トン。単発の大出力ヴァルジウムリアクターはMHI製造の国産。最大出力はIHIの双発に劣っているが、その分軽く機動力の向上に繋がっている。そして武装。左腕に内臓されているのは拡散電磁投射砲サブレールガン。右腕には中性粒子砲ニュウトロンカノンだ。近接用の武装は共振刀レゾナブレイク、こいつは切って良し当てて良しのエグい仕様だ。で、コイツが他の鋼殻よりも一回り小さくシェイプされている理由は前に少し説明したので省略だ。さてレキ……コイツの最大の特徴……そう! 新開発のレプトムスラスタだ! 今まではヴァルジウムリアクターで発生させたエネルギー……レプトム粒子でジェネレータを回し電気に変換して鋼殻のエネルギーにしてきたのだが……遂に……遂にトルクレックス社はヴァルジウムリアクターで発生させたレプトム粒子をダイレクトに推進力へ使用したスラスタを開発したのだ! これはヴァルジウムリアクターが実用化されて以来の大発明だとボクは思っている。まぁ欠陥が無い事も無いがメリットが大きいので充分に搭載意義があるし、機体ワルキューレのストロングポイントである近接戦闘能力を最大に生かす為に、このレプトムスラスタは不可欠だ! そして造形は……従来機よりもシェイプされたおかげか更に人型に近づいており、立ち姿は凛とした女性的に見える。人工筋肉を覆う各装甲は一点一点が美術品並みに美しい出来映え。塗装は真珠白色をベースした極上の肌、それをきわ出させる銀の差し色が実に上品だ。で、纏う本体は……下から、脚部は機動性重視で長めになっており、まさに女性アスリートの脚線美。臀部も余分を残らず削った仕上がりになっており、引き締まった小尻。胴体と下半身を繋ぐ腰は細くしなやかなラインが卑猥だがポイントだ。そこから延びる胴は搭乗士を受け入れるにはキツそうなサイズだが、逆に締まりが良さげだとも言える。少し広めの肩から延びる腕はしっかりとした造りになっており、繊細さと力強さを兼ね備えた雰囲気だ。そして……頭部は単眼(モノアイ)では無く双眼。流線形と相まって髪を後ろに流した女性を彷彿とさせる造りだな。ヴァルジウムリアクターを大筒的に背負い、共振刀(レゾナブレイク)も腰裏に差す姿もまた、豪気で良い。まさに戦乙女に相応しい造形美だ!」



 滑らか処の騒ぎじゃなかったです。一気に言い切ったソラは、ゼーゼーと肩で息をしていたその姿……貴女こそ残念ですよ?

 と思ったが、言ったら最後だろうと保身に走った俺は、真面目に返す。


「確かにレプトムスラスタは魅力的だが、すげぇピーキーだって聞いているんだけど?」


「その通り。それこそがレプトムスラスタの特徴と言い切れる程に、扱いにくいらしいが……それがどうした?」


 ドヤ顔の幼女。いや美幼女。微笑ましいですな。


 可愛過ぎてニヤケそうになった顔を、緊急時に備えてワイヤーが繋がれた棚などが並べられた格納庫ハンガーに視線をやり、どうにか耐えた俺は得意ドヤ顔の美幼女へ再び返事をする。


 銀髪に翡翠の瞳のドヤ顔とか反則ですよ?


「どうしたって……扱えなきゃ唯の無駄でしょうが?」


「ん? あ、何だ自信が無いのか……はぁ……君もあの恥知らずと同じで情けない男なのか?」


 ドヤ顔から瞬時に、大型猫科の様に爛々とした眼を持つ、小悪魔美幼女に進化しやがった。


「はっ……まさか。自信とか云々(うんぬん)じゃねーし。レプトムスラスタ? 1日ありゃ楽勝だし!」


「ふむ、1日で楽勝か。それは豪気な事で嬉しいぞ。では男には二言が無い事を見せてくれよ? ボクのレキ♪」


 そして進化した煽りを受け、俺は自らハードルをブチ上げ、笑いながら泣くと言う器用な真似をしつつ、サムズアップをしたのであった。



 *



 尚開始ワンミニッツで俺は知る。レプトムスラスタのじゃじゃ馬さ。そしてハマった時の有効性を。



 *



 そして、たった1日だけのTR-35ワルキューレの試運転ブレイクダウンを挟み、あっという間に鋼殻戦カーニバル当日になった。


 基本的な鋼殻戦カーニバルは宇宙空間に設置された戦域フィールドと呼ばれるエリアで行われる。

 今回もその例に漏れる事無く宇宙空間での鋼殻戦カーニバルとなっており、俺とソラは初日にラグランジュシックスへ降り立った宇宙ステーションへと来ていたのだが。


「おー逃げずによく来たなぁ?」


 俺とソラを見つけるや、開口一番に千代島が煽って来たが、挑発にソラが黙っている訳も無く、ねっとりと煽り返した。


「いーえぇ。先輩こそよくもまぁ……いたいけな1年生相手に……まぁ……あ、そーですよね……ごねんなさい先輩……その……察してあげらてなくて……」


 チラチラと小馬鹿にした演技を入れつつ、クスクス笑うソラ。ビキビキっとデジャブの様に青筋を貼り付けた千代島。


 だが、今回はそこから舌戦には発展しなかった。

 何故ならば。


「うるぜーぞ?」


 静かだが圧倒的な破壊力で、二人を黙らせる一言を放った男がいたからだ。


 真田さなだまこと教官。

 やる気の無さそうな雰囲気を、一切感じさせる事が無い表情をソラと千代島に向けていたのであった。

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