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ぶっ殺すぞ?

「搭乗士はレキ1人で行く予定だから、余程のモノでなければ無しだ。とりあえずは腕の良い整備士が欲しいな」


 各可動部位を動かし、異常が無いか確認する4機を一瞥したソラは、俺を見ずに言った。


「え? そーなの……」


「そうだ。そもそもボクが設計計画している鋼殻のスペックは、普通の1年生では無理だしな」


「……俺その1年生なんですが」


「ベースの機体は驚けトルクレックス社の最新鋭だぞ?」


 ソラの言葉でした……トルクレックス最新鋭で、軽く無視された悲しみと俺で良いのかの不安が吹き飛びました。


「最新鋭……だ……と?」


「そうだ、TRー35だ」


「TR-35……Jじゃなくて?」


「オリジナルだ」


 目の前に幼女ロリ神様がお出ででした。


「よし、ソラこんな茶番劇を観ている暇は無い。早くTR-35……乙女の下へ俺を案内してくれ。今すぐにだ」


 一瞬で1年生のアピールタイムに興味を無くした俺は、ソラに懇願した。


 が、ソラの言葉はひどく無情だった。


「搬入は明日だ」


 機体制御のアピールか、ストライクホークが軽く跳び上がり、スラスタを小刻みに吹かし空中浮遊をするダウンウォッシュがグラウンドの砂を巻き上げ、失意の俺に追い討ちをかけた。


 *




 ソラの無情なる言葉に心を折られた俺は抜け殻になった。

 しかしそんな俺を尻目にソラは生ける死骸の手を引いて、4機のストライクホークから少し離れた場所を目指したのだった。




「お、君も参加希望者かい?」


 幾つもの作業台の上に拡げられた数々の部品パーツ

 整備士や開発士の為に用意されたエリアに到着した俺達に、男は俺だけに声をかけて来た。

 そして男はソラに視線をやると、みるみるうちに表情が蕩けた。男は弛みきった表情のまま少し屈んで言った。


「お嬢ちゃんは付き添いか-。偉いなぁ。よしお兄ちゃんが偉い偉いしてやろう」


 危険人物発見の瞬間だった。おまわりさーん。

 しかしソラはそんな事には慣れっこらしく、ニッコリ笑顔で対応した。


「ありがとーお兄ちゃん♪ でも付き添いじゃなくて見学なので色々見させて貰いますね」


 キラッキラのどす黒い笑顔でした。ペコリ。



 *



 魂を抜かれた男を置いて、ソラはエリア全体を見回していた。


「……レキといいアレといい……実にいいぞ……」


 どす黒いオーラの残滓ざんしを纏いつつソラが目を細め呟いた。せわしなく手を動かしている男子生徒の事かと思い、ジっと観ていたら。


「違う。あっち」


 俺の顎を両手で掴んだソラがグキっと捻った。

 いてぇよ。


 文句を我慢しつつ、結構な痛みに目を瞑り首を摩る俺。

 そして痛みが引き目を開けた俺の目に映ったヒト。


 ソラとは対照的な黒い髪。

 ただ癖は良く似ておりクルクルと巻いて跳ねるショートボブのスタイル。パッチリとした大きな瞳だが、どことなく不安の色を塗った眼。


 その瞳と、頬にうっすらと残る青い痣……


 ソラが目をつけた1年生は、名前も知らないあの少女だった。



 *



「確かにレキの観ていたあの男子もまぁ悪くは無いが……アレが別格だな」


 黙っている理由が不満の為と勘違いしたソラが、作業台の上に直線直角に並べられた部品達を満足そうに眺めながら、説明を始めた。


「アレが組み立ててるのは動殻ムーブシェル用のヴァルジウムリアクターだろうな。選ぶパーツが実にボク好みだ。予算無視の性能重視、実にいい」


 しかし俺の頭にソラの説明は入っていかない。

 唐突に気付く。

 あの男がいない? と思った瞬間だった。



「よー。調子はどうだぁ?」


 いきなり俺の首に腕が回され、ネットリと絡み付く様な声色がした。耳障りな声で甦る1週間前の事。ブチブチっと何かが切れそうになるが、必死に耐え返事をした。


「普通っすよ先輩」


 乱暴に腕を外し、男を睨み付け感情を殺した声で言ってやると、声色よりも更にネットリとした笑みを浮かべた顔があった。



「おーそりゃ結構。そーいやぁ自己紹介がまだだったなぁ。俺は千代島ちよしま雪路ゆきじだ」


 ニタニタと笑う男は千代島と言うらしい。心の中だし敬称無しだクソッタレ。しかし流石に名乗られたのを無視する訳にもいかないので……


六木むつきれきです」


「おー六木君って言うんだなお前、でここに居るって事は整備士か開発士コースなのか?」


 千代島がヌラヌラと俺の全身を舐め回す様に見ていく。


 ……すげぇ不快なんですけど。


「いえ、俺は搭乗士コースです」


「だよなぁ、あのタックルが出来るなら当然そうだわな」


「……謝りませんよ?」


「綺麗な顔の割に気が強いこったな?」


 急激に悪化して行く空気に、ソラが敏感に反応した。


「先輩。事情は知らないですが、今日は折角の入校初日ですので後輩をからかうのは勘弁して頂けないでしょうか?」


 軽く会釈を交え、千代島と俺の間に身体を入れそう言った。


「お、何だ? 六木ロリコンなのか?」


 しかし千代島には逆効果だったらしく、彼女を指差し更にニタニタ顔を酷くした。ブチっとソラが行くと思ったが、平然とした口調で返す。


「いえ。ボクは18ですし、六木君は15です。よって彼はロリコンではありません」


「はぁ? お前18? そりゃアレか。六木~お前合法狙いか?」


 笑った千代島が俺の目の前で、ソラの尻をペチンとはたいた。刹那。俺のボルテージは振り切れ、視界が真っ赤に染まり殴りかかろうと拳を握った。


「ぶっ殺すぞ?」


 しかし凍える様な声が下から競り上がって来て、俺の拳は行き場を失う。


 あれ? ソラさんキレちゃった?


 ピクピクと頬をひきつらせ、尻をペチンとされたソラが、一切の感情を消し去った眼で千代島を睨み付けていた。


「あ? そりゃあれか? ケンカ売ってるんだな?」


「そのつもりだが、お前の足りない頭じゃ難しかったか?」


 千代島がニタニタと返した言葉に、ノータイムで更に挑発したソラ。目が据わっておいでです。彼女は怒らせてはイケナイ。



 ソラの挑発を受けついにニタニタは無くなった千代島は、ダンっと右足を踏み鳴らし眼を吊り上げてキレた。


「女だからって大丈夫とか思ってるなら、あめぇーぞ!?」


 唾を飛ばしながら、グラウンド全体に響く大声で叫んだのだった。

ブックマークありがとうございますm(__)m

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