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少女の涙と流れ鳥の民

 




 川のせせらぎ、鳥のさえずる声も聞こえるくらいの静かな村だ。たまに、子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。


「静かな村ですね。とても落ち着けます」

「本当だぜ。こんな平和な場所なんか滅多にねぇのにな」


 今はどこもかしこもモンスターだらけだ。町など、人々がたくさん集う場ならまだしも、こういった小規模な村などは、モンスターにとっては恰好の餌場にしかすぎなくなってしまう。それほどにまで、この様うな静かな村は滅多にないのだ。

 ルフィア達の住んでいた村は、もう町と言って良い程の規模にまでなっていたので、モンスターは入っては来なかったのだ。


「本当にこんな村の近くにガイルは居んのかァ?」


 ザックが言う様に、本当に此処は穏やかな村だ。争い事とは無縁に見える。しかし、ルーガが示した場所は、確かにこの村の近くにある洞窟だった。


「俺には分からないが、ルーガが言ったんだ。デマではないだろ」

「そうだよね。・・・・・・! ねぇ、あの子って!」


 いきなりティアがレキの耳を引っ張りながら、驚いた様に指差した。

 ティアが指差す先には、カルディアでルフィアの事を殺そうとした、暗殺者の八神煉が居た。初めて会った時は、痛い程の殺気を放っていたが、今彼女は子供達と楽しそうに遊んでいた。顔には笑顔が浮かんでいる。


「れーんー!かくれんぼしよーよ!」

「煉姉。私達と縄跳びしよう!」


 煉の周りを囲んでいる子供達は、煉の服の裾を掴んで自分達の方へ引っ張る。


「何言ってんだよー!煉はオレ達と遊ぶんだぞ!」

「違うよ!煉姉は私達と遊ぶの!」


 オレ達、私達と言い争う子供達に、煉は苦笑いの表情を向けたまま言った。


「お前達、喧嘩はするな。交換ずつやれば良いだろう?」

「じゃあ、どっちが先にやんだよー?」

「そうだな、ジャックが先に言ったから、先にかくれんぼをしよう。その後に縄跳びをすれば良い。それで良いか?」

「煉姉がそう言うならいいよー」


 一人の少女がそう言うと、煉は安心した様に笑った。


「じゃあ、決まりだな。あたしが鬼をやるから、お前達は十秒以内に隠れろよ」

「はーい!」


 子供達は元気よく返事をすると、皆が思い思いの場所に駆けていった。

 煉は数える場所を捜そうと、辺りを見回したとき、ルフィアと目が合った。


「貴様はッ! 今日こそその命、頂戴する! 楓陣!―ふうじん―」


 煉はルフィアの存在に気が付くと、音がするかと思うほどきつく睨み付け、技を放った。

 枯葉らしき葉が、ルフィア目がけて大量に飛んできた。葉の一枚一枚は鋭く見えて、刃物の様に感じた。


(避けられない・・・・・・ッ!)

「烈風!―れっぷう―」


 ルフィアが強く目を瞑ると、物凄い強い風がルフィアの隣を駆けた。


「なっ、きゃあ!」


 煉はライムの矢を寸で右にかわしたが、矢が横切った時の風圧で倒れてしまった。


「ルフィア、大丈夫かァ?」

「え、えぇ。大丈夫です。それより煉ちゃんは?」


 ルフィアは起き上がり砂を払いながら尋ねた。


「向こうで気を失ってるわ」

「た、大変です!」


 ティアが指差す方向には、仰向けで倒れている煉の姿があった。その姿を確認すると、ルフィアは慌てて煉に駆け寄っていった。


「おい、ルフィア! ・・・・・・行っちた・・・・・・・・・たく、命狙われてんの分かってんのかよ? ・・・・・・ルフィア!」


 レキは一言呟くと、駆け足でルフィアのもとへ向かった。







 あの後、ルフィア達は煉を連れてこの村の宿屋に来た。煉と遊んでいた子供達はかくれんぼをしていた為、探すのに苦労しつつ、子供達を見つけると煉が倒れた事を伝え、大人しく帰ってもらった。

 借りた部屋のベッドに煉を降ろすと、ルフィアはティアに頼んで煉の体が大丈夫か調べでもらった。ティアは仕方ないような表情を顔に浮かべつつ、煉を診察してくれた。


「ティア、煉ちゃんは大丈夫ですか?」


 心配そうに尋ねてくるルフィアに、ティアは笑顔を顔に浮かべ答えてくれた。


「全く、ルフィアはお人好しなんだから。だいじょぶよ。頭を少し強めに打ったみたいだけど、心配はいらないわ。もうすぐ目を覚ますと思うわ」


 ティアの言葉に安心し、ルフィアはほっと胸を撫で下ろした。


「ルフィア、こいつが起きてまたルフィアの事また狙ってくる前に、此処から離れようぜ?」


 ライムの提案に、他の皆も頷いた。しかしルフィアはとんでもないかの様に首を横に振った。


「そんな事駄目です! 私の所為で怪我をさせてしまったんです。ライム、お願いですからこの子が起きるまでは居させて下さい」


 ルフィアはライムの正面に行くと、頭を下げた。ライムは一瞬、固まっていたが、すぐに慌てた様子で言った。


「わ、分った! 但しそいつが起きるまでだからな!」

「ありがとうございます、ライム!」


 ルフィアは顔をあげ、ぱっと顔に笑顔を浮かべると、ライムの手を取り握り締めた。ライムは顔を真っ赤にしつつ、声にならない悲鳴を上げた。


「〜〜っ!」

「・・・・・・あっ!」


 ルフィアは自分でした事に気が付き、慌てて手を離した。二人共、顔を茹でタコのように赤らめている。


「いつもこんな感じなのかァ?」


 ザックは呆れているのか、口をぽかんと開けたままティアに尋ねた。ティアはすでにこの状況に慣れてしまっているのか、レキと他愛も無い話をしていた。


「そうよ」

「見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのいちゃつき具合なんだ」


 レキもまた、慣れてしまっているのか呆れた様子も無く言った。ザックは二人を見習いつつ、ルフィアとライムをじっくりと観察する事に決めた。






「・・・・・・・・・此処は・・・・・・」


 もうすぐ日が沈むと言うところで煉が目を覚ました。眠りかけていたルフィアは煉が目を覚ました事に気が付き、安心して顔に笑顔を綻ばした。ルフィアの後ろには、ライム達が皆立っていた。レキはザックの右肩の上に乗ってる。


「目が覚めたんですね。・・・・・・良かったです」

「! 貴様等はっ! ・・・・・・っ!」


 煉は慌てて起き上がろうとした時、頭に鈍い痛みが走った。頭に手を添えてみた時に、初めて煉は自分の頭に包帯が巻かれている事に気が付いた。


「・・・・・・やはり、痛みますか?」


 ルフィアは包帯の巻かれた煉の頭を見て、少し頭を項垂れさせた。


「これは・・・・・・アンタがしたのか?」


 ルフィアが済まなそうに項垂れていると、不思議そうに煉が尋ねた。


「はい。・・・・・・ごめんなさい、私の所為で怪我をさせてしまって・・・・・・」

ルフィアは本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。自分の所為で誰かに怪我をさせる事は、城が滅んだ時から二度としないと心に決めていた。なのに、また怪我をさせてしまったのだ。

「・・・・・・はっ! 馬鹿かアンタ達は!? あたしはアンタを殺そうとしたんだぞ? なのに・・・・・・なのに何故助けた! そんな義理なんかアンタ達にはないのに! 寧ろそのままにしとけば良かったものを!」


 叫ぶ様な声で言ってきた煉に対し、ルフィアは微笑みながら煉に言った。


「簡単な事ですよ。貴方が私を殺したいと思っていなかったからです。だから、私は貴方を助けたんです」

「馬鹿か貴様は! あたしは貴様を殺したいと思ってるから殺そうとしたんだ! なのにあたしが貴様を殺したくないと思ってるだと? ふざけるなッ!」


 煉は怒りに握り拳を震わした。

 ライムが何が言おうとしたが、ルフィアが静かにそれを制しながら煉に言った。


「ふざけてなどいません。私は、貴方が私の命を狙う理由があると思うんです。だいち、貴方は優しい子だと思うんです。そんな貴方が、好き好んで殺生などする筈無いと、私は思いますよ?」

「・・・・・・! ・・・・・・あたしはっ、優しい子なんかじゃない!」

「おいらは、優しくない奴がガキから好かれるはずないと思うんだけどなァ」


 ザックが煉に不思議そうに尋ねた。煉は一瞬、瞳を大きく見開いたが、すぐに下を向いた。


「・・・・・・あたしは、子供から好かれてなどいない」

「私達、見たのよね。貴方が楽しそうに小さな子と遊んでるところ」


 ティアもザックと同じように尋ねた。

 煉は言葉が思い浮かばず、言い返さなくなった。


「・・・・・・悪いけど、一人にしてくれないか? ・・・・・・考えたいんだ。あちらにつくか、アンタ達につくかを。安心しなよ。別に逃げ様なんて、思ってないさ」


 煉は頭に手を添えると、苦笑いの表情を浮かべた。その笑顔は何故か、ルフィアを悲しくさせる様な悲しく寂しい笑顔だった。


「一体、なんの話何だよ?」

「ライム、今は一人にしてあげましょう。・・・・・・煉ちゃん、明日の朝、また来ます。その時、その答えを聞かせて下さいね」


 ルフィアはそう言うと、煉の返事も聞かずに部屋から立ち去った。


(やはり、何か理由があったのですね。・・・・・・煉ちゃん、大丈夫でしょうか・・・・・・?)


 ルフィアが部屋から出る頃にはもう、億千の星と、猫が引っ掻いたような満月の光が静かに光り輝いていた。






 朝になり、ルフィア達は早速煉の部屋に訪ねた。あの後、ルフィアは煉の事が気になってなかなか寝付け無かった。その所為で少々寝不足になって、朝からレキに怒られてしまった。


「煉ちゃん、起きてますか?」

「鍵は開いてる。入ってきてくれ」


 ルフィアはごく控えめにドアをノックした。すると奥から弱々しい煉の声が聞こえた。

 失礼しますね、とルフィアは言い、部屋に足を踏み入れた。煉はベッドに上半身だけ起こし、ただ窓の外を見ていた。


「早速なのですか、昨日の言葉の意味を教えてくれますか? どちらに付くかと言う意味を・・・・・・」

「・・・・・・あたしが、アンタを殺そうとした理由から話した方が早いから、そっちから先に説明するよ。あたしがアンタを殺そうとした理由・・・・・・それは、アンタを殺せば、ガイルがみんなを解放してくれるって言ったからなんだ」


 煉は窓の外を向いたままルフィアに言った。表情は見えないが、ルフィアには微かに声が震えている気がした。


「ガイルが!? それに解放って・・・・・・」


 ティアはガイルの名前が出てきて、思わず叫んでしまった。ティア同様、ルフィア達も瞳を大きくして驚いていた。


「練ちゃん、もう少し詳しく教えて下さい」

「・・・・・・あたしは、『流烏の民』って言う流浪の民なんだ。流れる鳥って書いて、るうと読む」


 煉は窓の外を向いたまま言った。やはり、煉の表情は見えない。しかし声は震えている。もしかしたら、必死に涙を堪えているのかも知れないとルフィアは思った。


「『流烏の民』? レキ、何か知っていますか?」


 ルフィアの問い掛けに、レキは腕組をして考えていた。暫らくして、レキは思い出したらしく、ぽん、と手を叩いた。


「思い出した。『流烏の民』っつたら、情報屋の奴等だろ?」


 そう言い、レキは煉を見た。レキの言った事は正しかったらしく、煉は小さく頷いた。


「でも『流烏の民』は十年くらい前から姿を消しているぞ? 消息は誰も知らないらしいし」


 レキは不思議そうに煉に尋ねた。その途端、煉は怒りに耐えるかのように強く拳を握り震わせていた。


「・・・・・・それは、嘘だよ。『流烏の民』は、ガイルに攻め込まれたんだ。その所為で、みんな・・・・・・みんな捕まった」

「全員!?」


 ザックは目を大きく見開いた。煉は力なく頷く。


「その話が本当なら、大変だぞ。『流烏の民』は皆強者だ。それを、全員捕まえるなんて、いくらガイルでもそうとう苦労する筈だ。あいつ等は強くて素早いから捕まえるなんて不可能に等しいんだ」


 レキは悔しそうに眉間に皺を寄せた。


「みんな、ガイルに抵抗できなかったんだよ。・・・・・・あたしの所為で、みんなはっ、捕まったんだ!」


 煉は左手で顔の半分を覆い、苦痛の表情を浮かべた。


「・・・・・・どういう意味ですか?」

「・・・・・・ガイルは、あたしが六歳になった次の月に、『流烏の民』の皆の前に現われたんだ。奴は、あたしを見つけると、あたしを捕まえ、みんなの前に突き出した。あの頃は、今よりも修業不足で、皆の中では最も弱い存在だったんだ。・・・・・・ガイルは、知ってたんだ。あたしが一番弱い事を。しかもあたしは、長の孫だった。・・・・・・だから、奴はあたしをつかって皆を脅して・・・・・・!」


 今にも泣きだしそうな煉に、ルフィアはそっと近付き、優しく煉の手を取った。


「もう、良いですよ。理由は分かりました。ガイルは、私を殺せれば『流烏の民』の皆さんを解放してくれるともでも言ったんですね?」


 煉は、黙ったまま小さく頷いた。煉は下を向いてしまっているので、その表情は見えない。


「だから煉ちゃんルフィアを殺す様に命じたのね! 最低っ! なんて奴なの!?」

「みんな、煉ちゃんの事、許して下さいね?」

「当たり前でしょ!」


 ティアは下を向いている煉に、力強く言った。


「ありがとうございます。・・・・・・ところで、煉ちゃん。どちらに付くかというのは、ガイル側のまま、私を殺して『流烏の民』の皆さんを助けるか、私達に付いて、ガイルを倒し、皆さんを助けだすか。こういう事ですね?」

「・・・・・・そうだよ。それであたしは・・・・・・理不尽かもしれないけど、アンタ達と一緒に居たいんだ! 流烏の皆は、誰かを犠牲にしてまで助かりたいと思わないと思うんだ。・・・・・迷惑じゃなかったら、あたしも・・・・・・ルフィアの仲間に入れてくれないかっ?」


 煉は顔を上げ、ルフィアを見つめてきた。その瞳は、とてもルフィアよりも年下の少女が出来るはずがない、深い悲しみと怒り、それと、ほんの少しの希望が籠もっていた。


「そんな事、当たり前です! それに、拒む理由なんてありませんよ。私は大賛成です!皆も、良いですよね?」


 ルフィアはライム達に振り返り、嬉しそうな笑みを顔に浮かべながら尋ねた。

 ライム達は当たり前かという様に深く頷いた。


「流烏の文化は独特だ。良かったら教えてくれよ、煉」

「・・・・・・あぁ、勿論さ・・・・・・!」


 煉はありがとうと、小さく何度も言いながら泣きだしてしまった。


「今は、一人にして差し上げましょう」


 ルフィアはそう言うと、皆と一緒に静かに煉の部屋を出た。







 翌朝、ルフィア達は煉の部屋にきて様々な話をしていた。


「あっ! まだちゃんとした自己紹介がまだだったわね。私はティア・ルーベットよ。ティアっ呼んで良いわよ」


 ティアは右手に拳を作って軽く自分の胸を叩いた。


「おいらはザック・ミッシェルってんだァ! よろしくなァ」

「オレはライム・グラッセだ。悪かったな、怪我させちまって」

「別に良いさ。それよりアンタの弓の腕、なかなかのもんだね」


 煉の言葉に、ライムは照れた様に、ニカッっと笑った。


「俺はレキだ。ルフィアの守―――」

「ルフィアのペットよ」


 ティアはレキの言葉を遮り、さらりと笑顔で言った。


「なっ、だ、断じて違うぞ!? 俺はルフィアの守護神だからな!」

「守護神・・・・・・?」

「そうだ! ルフィア!」


 レキは叫ぶ様にルフィアの名を呼ぶと、煉の方をじっと見つめた。


「≪我が身を守る神よ、偽りの姿を捨て、我の前に真の姿を現し給え。火神、シーガ!≫」


 人の姿になったレキは、誇らしげに煉にたいし笑った。


『どうだ、煉。かっこいいだろう?』

「・・・・・・前のフサフサの方が・・・・・・」

「・・・・・・!」

「・・・・・・ぷぷぷっ! レキっち、めちゃくちゃ、かっこ悪いわよ〜! あははははっ! ひーっ、お腹痛ーい!」


 煉の一言でレキは固まってしまい、ルフィア、ライム、ザックの三人は必死に笑い堪えている。ティアは隠す事無く大笑いしており、レキを呼んではいけない呼び方で呼んだのに、レキはあまりのショックらしく、怒鳴る事すら忘れて固まっている。


「レキの事は放っておいて、自己紹介の続きをしましょう。改めて、私はルフィア・ミッシェルです。あ、本当の名前はルシファ・ゲルドンと言います。けど、ルフィアって呼んで下さいね」


 ルフィアはいつまでも固まったままのレキを無視して自己紹介の続きを始めた。


「あたしは、八神煉だ。好きな風に呼んで構わないよ」


 皆が一通り自己紹介をし終えると、一人の人を除いて、五人は楽しそうに他愛もない話をし始めた。


『フサフサの方が・・・・・・』

「あ、そうそう。皆に言い忘れたんだけど、あたしも守護神を従えているんだ」

『本当か!?』


 突然の煉の一言に、レキは驚いた様に顔を上げた。さっきまでのショックはもう忘れてしまったみたいだ。


「待ってて、今出すからさ」


 煉は何処からか、緑色と青色と赤色と黄色の長方形の紙を取り出した。紙には何やら不思議な文様が描かれていた。きっとこれは煉が言っていた苻だろう。


「≪我が声に応えよ。風花鳥、水氷鳥、火炎鳥、電雷鳥・・・・・・≫」


 煉が苻に囁き掛けるような声で言うと、その苻を煉は感覚を開けながら四か所に置いた。すると、その苻の上に、苻と同じ様な色の煙が立ち上った。


『・・・・・・我が主人煉よ。我等に命が出来たか?』


 緑色の煙のなかから出てきたのは、緑色の翼を持つ鳥だった。口調は物静かで、レキより少し低いくらいだ。


『久しぶりに出してもらえて嬉しいわ! ありがとう、煉。それにしても本当に久しぶりだわ〜。最近風花鳥ばかりだったものね〜』


 青色の煙の中から出てきたのは、青色の翼を持つ鳥だった。口調は明るく、歌う様で、声は高いので女性を思わせた。喋り方も女性のものだ。


『ぐーがー・・・・・・ぐーがー・・・・・・』

 赤色の煙の中から出てきたのは、赤色の翼を持つ鳥だった。大きさは、一番大きい。何故か飛んでもいないのに空に浮かび鼾を欠きながら寝ている様だ。


『煩いから、そのまま永眠につくといいんちゃう? ワイ等は気にせんで? むしろそのまま永眠しちまえ』

『・・・ぐがっ!? さ、殺気が・・・』


 黄色い煙から出てきたのは、黄色の翼を持つ鳥だった。何故か眼鏡をかけている。口調は独特で、ルフィア達は聞いた事の無いものだった。

黄色い鳥は、赤色の鳥に近づき言葉を述べるとまたすぐにもとの位置に戻った。赤い鳥は一度起きたが、またすぐに大きな鼾を欠きながら眠ってしまった。


『・・・・・・まぁ、姫様! お久しぶりね。こんな姿になってしまいましたけど、私の事分かりますか?』


 きょろきょろと辺りを見回していた青色の鳥は、ルフィアの姿をみるなり、目を輝かせ声を張り上げた。


「その声、口調・・・・・・まさか水生ですか!?」

「すいしょう・・・・・・?この青い鳥さんの名前なの?」

『そうよ。私の今の名前は水氷鳥だけど、本名は水鏡水生。でも今は水氷鳥と呼んでちょうだい。ちなみに、緑が風花鳥で、赤いのが火炎鳥、黄色いのが電雷鳥よ〜』


 そう言って、水氷鳥は目を閉じて少し飛び跳ねた。觜なので少しわかりずらいが笑っているようだった


「良かったね、水氷鳥・・・・・・っ」

『煉・・・・・・そろそろ我等を戻すと良い。体が持たぬ』

『そやな。ワイ等を同時に長い間出しとくんは危険や。・・・・・・いつまで寝てんのや。いい加減起きろや』

『ぐはァ!?』


 電雷鳥はまだ浮きながら寝ている火炎鳥の上にどかりと乗った。


「済まないね・・・・・・」

『私達は大丈夫よ〜。久しぶりに外に出れて、しかも姫様に生きて会えるとは思ってなかったわ〜。ありがとうね〜、煉。さあ、倒れちゃう前に早く戻しなさい』

「≪・・・・・・戻れ、我を守護する者共よ。風花鳥、水氷鳥、火炎鳥、電雷鳥・・・・・・≫」


 煉がそれぞれの名を呼ぶと、風香鳥達は白い煙に包まれ姿を消した。


「・・・・・・っ」

「れ、煉ちゃん!?」


 風香鳥達が消えた途端、煉が床に膝をついた。ルフィア達が慌てて傍に駆け寄る。


「・・・・・・大丈夫。少し、アイツ等を出しすぎただけだから。すぐ、治る」

「でも顔色が悪いわ。一応、横になって寝ると良いわよ」

「あ、あたしは大丈夫だから・・・・・・・・・」

「いいわね?」


 ティアは一言そう言うと、にっこりと煉に笑いかけた。その恐ろしいほどにこやかな笑みに、煉の顔が一気に引きつる。


「・・・・・・今はアンタの言う通りにしとくよ」

「それでよろしい」


 ティアは満足気に頷くと、煉をベッドに無理矢理入れた。


『煉、あいつ等をあまり同時に出さない方が良い。まだ、お前の器にはあいつら四人分の魔力は大きすぎる』

「分かっているさ。風花鳥達にも、しつこく言われている」


 そう言って煉は苦笑いをした。


「・・・・・・なあレキ。どういう意味だ?」

「そんな事も分かんないのかァ?相変わらず馬鹿だなァ。かっかっか〜」

「うるせぇ!」


 ザックはライムを馬鹿にする様に笑った。その行動に、ライムが本気で弓を構える始末だ。

 レキはため息を付くと、ライムでも分かる様に説明し始めた。


『俺達守護神と呼ばれる者は、一人だけでも相当な強さを持っている。だから魔力も、一般の魔法使いの魔力を十倍にしたくらいの量ある』

「かなり強いじゃない。そんな魔力、レキから全然感じないわよ?」


 ティアはレキの身体を不思議そうに眺めた。


『・・・・・・当たり前だ。俺は普段、魔力を制御してる。もし俺が魔力をなんも押さえずに流したら、お前等は立ってられなくなるのではないか? まあ、ガキの頃から守護神達の魔力浴びてたルフィアは平気だろうが』


 レキはルフィアの方を向き言った。


「初めてレキの魔力を浴びた時は大変でしたよ。半分も出されていなかったのに、立てませんでした。すごい重力で、体が押し潰されそうだったほどです。幼かった所為もあるでしょうけど・・・・・・」


 ルフィアはその時の事を思い出し、ついつい口がへの字にまがる。レキの魔力を浴びた後、暫く筋肉痛になり動けなかった時があった。あまりの重力に、右足首の骨を折ってしまった時もある。


『・・・・・・まあ、それほど俺達守護神の魔力は強い。そんな、守護神を煉四人も従えている。ルフィアみたく、俺一人とは訳が違う。ルフィアが俺を元の姿に戻してる間、俺の魔力の五分の一がルフィアに流れ込まれてるんだ。俺が今の仮の姿でも十分の一の魔力がルフィアに流れる』

「ルフィアは昔からレキの魔力受けてるから、そんな大量の魔力を受けても平気で生活できるんだな?」


 ライムがルフィアに尋ね、ルフィアはゆっくり頷いた。


『さっきみたいに等あいつ等が紙から出て来たのは、少しでも煉に負担が掛からない様にあの中に入っていたからだろう。普通に仮の姿の俺みたいな姿で居れば、一般の魔法使いの魔力の四人分の魔力を浴びるからな。あの紙にはなんか不思議な仕掛けがしてあるみたいだしな。紙からあいつ等を出した途端、四人分の五分の一の魔力が煉に流されたんだ。なんか知らないが、あいつ等は仮の姿でも、本来の姿に戻った時の魔力が煉に流れるみたいだ。ちなみに、一般の魔法使いの魔力の二十倍だ。しかも、一人出しただけで全員分の魔力が流れる仕組みになってやがる』

「その量は今の私でも立てないくらいすごい重力がのしかかります。かなり、辛い訓練をしたのでしょうね」


 ルフィアはいつのまにが眠ってしまった煉の方を向いた。

 起きている時の鋭さは消え、初めて煉がルフィア達の前で無防備な顔をした様に、ルフィアには見えた。


『だから、俺はさっき煉にあいつ等を四人同時に出すのは止めた方が良いと言ったのだ。もし長い間あいつ等を出しとくと、煉が魔力に押し殺される可能性があったからな』

「大変だよなァ。おいらじゃ即効潰されてるぜィ」

「・・・本当よね。よく耐えてると思うわ」

「オレ達より年下なのに、大変なんだな」


 ライム達は、悲しそうに顔を歪めた。


「・・・煉ちゃんも寝てしまった事ですし、各自、自由行動を取りませんか?」


 重苦しい沈黙がルフィア達の間に暫くの間流れていたが、ルフィアの陽気な声がそれを破った。


「そうね。それじゃ、私は此処に来る途中、珍しいな薬草見つけたから、それでも摘みにいくわ。ルフィア、レキをふさふさ、の方に戻してくれる?」

『・・・・・・!』

「分かりました。≪真の姿から偽りの姿になれ。レキ!≫」


 ティアはわざとふさふさと言うところを強調して言った。そのお陰か、レキは先程の煉の、ふさふさの方が・・・・・・と言う言葉を思い出し、また固まってしまった。そんなレキをほっとき、ルフィアはレキの姿を仮の姿にした。


「じゃ、護衛にレキっち連れてくからね」

「はい、気を付けて下さいね」

「だいじょぶだいじょぶ」


 ティアは笑いながら言うと、今だ固まっているレキを半ば引きずる様に連れて行った。


「おいらはちょこっと散歩にも行って来るぜィ」


 ザックは呑気にそう言うと、さっさと部屋を出てってしまった。残されたルフィアとライムの間には、気まずそうな沈黙が流れる。


「・・・・・・」

「・・・・・・あ、あのさ、取り敢えず、此処出ないか?」

「そ、そうですよね」


 ルフィアとライムは、風花鳥達を出したせいで疲れて寝てしまった煉に気を遣い、取り敢えず部屋から出た。

 その後、特に行く所も無く、二人は村の広場らしきところに来た。


「・・・・・・ライム、少し話をしませんか?」

「あ、ああ」


 ルフィアのいきなりの言葉に、ライムは少し驚いたがすぐに返事をした。


「私には、もう死んでしまったソシファと言う名の姉が居た事をご存じですよね?」

「ああ。『紅の花』、だろ?」


 ライムが自信ありげにそう言ったので、ルフィアはついつい笑みをこぼした。


「ええ、その通りです。・・・・・・まだレキには言ってないのですけど、実は、私の記憶が戻る前日、私の記憶にあるソシファ姉様を成長させた様な女性に会ったんです」


 ルフィアは微笑み、すれ違った程度ですけどね、と苦笑いをした。

「その時、女性が言ったんです。“復讐は何も生まない。ただ新たな悲しみを生むだけ―――”と」

「・・・・・・復讐は何も生まない。ただ新たな悲しみを生むだけ、か」

「私達が今している事は、復讐です」


 ルフィアはどこか遠くの方を見ていた。どことなく、悲しそうにも、切なそうにも見える憂いを帯びた表情だった。


「その事で、ライムはどう思います?」

「オレは・・・・・・良く分かんねぇけど、もしこのままガイルの事ほっとけば、オレ達みたいな奴が、さらにたくさん出てくると思うんだ」

「私達の様な人が・・・・・・?」

「確かに、その女の人が言ってる事は正しいとは思うぜ? けど、このままガイルを野放しにしとく方が、悲しむ人が増えるんじゃないか? 確かに、ガイルが死んでみんながみんな喜ぶわけじゃないかもしれない。それでガイルの為に復讐をする奴が居るかもしれない」

「あ・・・・・・」


 ルフィアはライムに言われて初めて気が付いた。

 もしかしたら、ガイルの事を大切に思っている人間は居るかもしれない。ガイルが死んだら、その人達は悲しみ、もしかしたらガイルを殺した人間に復讐を考えるかもしれない。

 その人達が復讐を果たしてしまえば、今度は復讐された人を大切に思っている人がまた復讐を考えるかもしれない。

 そうして悲しみと憎しみの連鎖が続くかもしれない。きっとあの女性はそれが言いたかったのだろう。


「・・・・・・やはり、復讐など止めた方が良いのでしょうか・・・・・・」

「ルフィア、でもオレは思うんだ。確かにガイルを倒したとしても、ガイルの為にさらに復讐を考える奴も居るかもしれない。けど、このままガイルをほっといたら、さらに犠牲が出続ける。だったら、オレ達は犠牲を最小限に食い止めるしかないんじゃないかって」

「最小限に食い止める?」

「ああ。今のガイルに、『人を殺すな』って言っても無理だと思わないか? もうガイルは、たくさんの人を殺した。そう簡単に俺達の言葉を聞き受けてくれるか分からない。けど、復習を考えている奴に、『復讐を止めろ』っていえば、少しは分かってくれるんじゃないか?」


 ルフィアは黙ってライムの話を聞き続けた。


「もしオレがの両親が、ガイルみたいに最低な事をたくさんしてたとする。でも、オレにとっては大切な存在だ。そんなオレの両親が殺されたら、そりゃ、殺した相手が憎くて憎くて、殺したいくらいになると思う。けど、オレの両親は、殺されてもしかたないくらいに、酷くて、人間としては最低な事をしている。たくさんの命を奪っている。もしそのまま両親が生きて、同じ事を繰り返し続ければ、さらに誰かの命を奪う。それを繰り返し続けるんだったら、両親は死んだ方がましだったんじゃないかって思う。酷い話かも知んないけどな。・・・・・・これはあくまでオレの考えだから、みんながみんなこんな考えをするとは思わないけどな」


 ライムは苦笑いしながら言った。


「ま、なるようになる、って方がオレの考えに多いけどな」


 ルフィアは、ライムほど深くは考えていなかった。何故、あの女性はあんな事を言ったのだろう? としか考えず、深い意味を理解しようとはしなかった。


「・・・・・・ライム、ありがとうございました! ライムに相談して良かったです」

ルフィアはライムの右手を取り、両手で包み込んでライムに優しく微笑みかけた。


 ライムはルフィアの公道に吃驚して少し後ずさっり、顔を赤くした。


「お、オレで良かったらいつでもルフィアの相談に乗るぜ?」

「はいっ!」

「・・・・・・あれー? ルフィアとライムじゃない。どしたの? こんなところで手を取り合って見つめ合ったりなんかしちゃってさ」


 ライムがルフィアの笑顔に照れた様に笑っているところに、ティアの声が響いた。

 ルフィアとライムが慌てて手を放し、声のする方へ振り返った。するとそこにはにっこりと笑っているティアと、ぐったりと山の様にある薬草らしき物を背負っているレキが居た。


「良い薬草は見つかりましたか?」

「ええ。なかなか良いのが見つかったわ。それもこれも、レキっちのおかげね」

「・・・・・・・・・っち、はいらん。っち、は・・・・・・」


 レキは力なくティアに抗議をすると、ばたりと倒れて薬草の山に潰れてしまった。

 ライムが慌ててレキに近付き、薬草の山を持ち上げた。ルフィアは気にせずティアと話を続けていた。


「レキっ! 大丈夫か?」

「ティ、ティアの奴。俺を犬の代わりにして薬草を探させやがった・・・・・・」

「・・・・・・災難だったな」

「あ、ああ・・・・・・」






 ザックは煉の部屋を出た後、まっすぐにある洞窟の前にきた。


「・・・・・・許さない。ガイル、貴様だけは、絶対に許さない・・・!」


 ザックはぎりっと奥歯を噛み締めると、洞窟に背を向け歩きだした。・・・・・・眼帯をした右目を押さえながら。





 煉が正式な仲間になってから二日後、ついにルフィア達はついに、ガイルのもとへ行く事に決めた。


「・・・・・・準備は良いか?」


 レキの静かな問い掛けに、四人はゆっくり頷いた。


「・・・・・・約束です。必ず、みんなが無事で帰る事を」

「あぁ! 約束だ!」

「守ってみせるわ」

「必ず、果たそう」


 それぞれ、誓いの言葉をのべていたが、ザックだけは右目を押さえたまま何も言わなかった。

 普段なら、真っ先にザックが言葉を述べるのでルフィア達は何故か、少し不安な気持ちになっていた。


「・・・・・・・・・ザック?」

「! な、なんだ?」

「・・・・・・いいえ、なんでもありません」

「そうか・・・・・・」


 ザックは素っ気なく言うと、一人で歩きだしてしまった。


「ま、待てよっ!」


 その後を、慌ててルフィア達は追い掛けた





 

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