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守りの国と風の番人

 




「≪その冷たさは、時に炎の如き熱となろう≫」


 ザックはカマキリを大きくしたモンスター二匹のうち一匹を指差した。するとモンスター氷に包まれた。近くにいたもう一匹がそのモンスターに近づいていったが、その氷りに触れた途端、モンスターの鎌が張りついた様に離れなくなった。


「今だ! ≪烈火!―れっか―≫」


 ライムの炎を纏った矢が、モンスターの頭を貫いた。


「がぁぁぁあ!」


 頭を貫らぬかれたモンスターは、叫び声をあげ崩れ倒れた。


「止めです! ≪風剣!―ふうけん−≫」


 凍り付けになっていたモンスターに、ルフィアの素早い早さの剣に貫かれた。


「あぁぁぁああ!」


 モンスターの周りの氷は砕け、砕けたと同時に青い血を噴きながらモンスターは倒れた。





「ひゃ〜はっはっ! おいら達の大大勝利ィ! ざまーみろ、モンスター共ォ! ぎゃはっはっは〜!」

「此処ら辺は何だかモンスターが多いわね」


 戦闘が終わった後、ティアはザックを無視し疲れた様に言った。


「本当だぜ。これじゃ倒しても倒してもキリがねぇな。何でこんなにモンスターが多いんだ?」


 ライムもまた、疲れた様に言った。

 ライム達がこの様に言ったのは当たり前だ。ルーシャ国に近づけば近づくほどモンスターと出会う回数も増え、強さも高くなっていた。


「・・・・・・・・・此処ら一体には、昔、死体がたくさんありました。その所為じゃないでしょうか?」


 ルフィアは弱く微笑んだ。その笑みは、ひどく切なそうに見えた。


「・・・・・・そうなのか。それより、ルフィア、どうかしたのか?」


 ライムはルフィアに視線を向け、心配そうに眉間に皺を寄せた。


「・・・・・・・・・え? 何故ですか?」

「ルーシャ国行こうとしてから何か変だぜ?」


 ライムはルフィアの事を、じっと見つめた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ルーシャ国っつうのは、ルフィアが住んでいた国だ」


 いつまでも黙っているルフィアの代わりなのか、レキが話した。


「・・・・・・! でもそこはもう廃墟なんじゃ!」


 ティアが声を荒げ聞いてきた。


「あぁ、そうだ。だがあいつは、ルーシャ国の番人だから、一緒にこなかったんだ」

「・・・・・・そうか。ルフィア、無理すんなよ。嫌なら待ってても良いんだぜ?」


 レキの話を聞いたライムは、心配そうにルフィアに言った。


「・・・・・・大丈夫、です。私もちゃんと行きます」


 ルフィアははっきりとした口調で言い、ライム達を心配させまいとした。


「そっか・・・・・・。無理ならちゃーんと言えよ!」


 ニッと笑ったライムに、ルフィアは顔を少し赤らめ、小さく、はい、と言った。








「・・・・・・すごい匂いだぜィ・・・・・・気分が悪くなるくらいだなァ」


それもその筈。今ルフィア達が居る場所は、そこらじゅう固まった血だらけで、たくさんの身体が腐り、骨が剥き出しになった死体が転がっていた。


「・・・・・・早く用事を済ませましょう」


 ルフィアは簡潔に言うと、一歩前へ進み出た。


「そうだな・・・・・・。確か此処等辺で呼べばくるはずだったな」


 レキもまた、一歩前へ進み出た。


「えぇ、確かにこの辺りです」

「じゃ、久々にいくか。来い、≪ルーガ≫!」


 レキが空に向かい、誰かかの名か分からないが呼ぶと、どこからともなくつむじ風が起こり、つむじ風達が重なり合った。するとつむじ風は消え、一人の男が現れた。

 目には赤い鉢巻きらしきものをつけており、額に薄緑色の宝玉が埋まっていた。髪はライムより少し濃い緑で、肩に掛かる程度だった。


『・・・・・・姫とシーガか』


 男は静かに口を開いた。声は少し低めで、落ち着く感じだった。


「えぇ。よく分りましたね、ルーガ」

『姫とシーガの発する気を間違える訳が無い・・・・・・ところでその者達は』


ルーガと呼ばれた男はライム達の方を向いた。


「三人は、私の友達です。右から、ライム、ザック、ティアです」

「よろしくね」

「よろしくなァ! あ、アンタの事ルーガって呼んでいいかァ?」

『別になんと呼んでも構わん』

「よろしくな、ルーガ」


 全員がルーガに挨拶終えてから、レキが重たしげに口を開いた。


「・・・・・・さっそくで悪いが、ルーガ、ガイルの居場所を教えてくれ」

『少し待て・・・・・・・・・今居る大陸、のジーク村だ』


 ルーガは暫らく口を閉ざしていたが、静かに口を開け言った


「ありがとよ、ルーガ。・・・・・・ところでルーガ、一緒に来ないか?」


 レキはルーガに近付きこっそりと話し掛けた。


『・・・・・・私は、此処を守る者だ。だから、無理だ。2000年も一緒にいたんだ。他の理由も分かるだろう? シーガ』


 ルーガはレキを宥めるように言った。その声には、少し淋しさも含まれているような感じだった。


「・・・・・・そうだよな。分ったよ。ルフィア、俺をもとの姿に戻してくれ」

「あ、はい! ≪我が身を守る神よ、偽りの姿を捨て、我の前に真の姿を現し給え。火神、シーガ!≫」


 ルフィアは慌てて返事をすると、急いで詠唱を唱えると、レキは赤白い光に包まれ、もとの人の姿に戻った。


『ルフィア、お前達は先に宿屋に行っていろ。俺はこいつと話してから行く。心配しなくて良い。ちゃんと次の朝にくらいは戻っている』

「分かりました。それじゃあ・・・・・・また会いましょうね、ルーガ」

『あぁ。・・・・・・・・姫』


ルフィア達がレキ達に背を向け歩き出そうとした時、ルーガがルフィアに声をかけた。


「どうかしたんですか? ルーガ」

『王と、女王に挨拶しなくて良いのか?』

「・・・・・・」


 ルーガは、黙ってしまったルフィアに対し、城の方を指差した。


『それと姫。“祈りの奇跡”を』

「・・・・・・・・・分かりました」


 ルフィアは一度下唇をかみ締めると、ゆっくりと城の方に歩き出した。その後を、ライム達が黙って追いかけた。

 城の中に入ると、まず目に引いたのが肖像画だった。

 入ってすぐ正面にある肖像画には、凛々しい顔をした茶髪の男性と、優しそうな雰囲気を持つ蒼髪の女性。その腕には、蒼い瞳をした赤子が抱かれている。女性と男性の間に嬉しそうに立っているのは、紅い髪をした少女だ。皆、嬉しそうの微笑んでいる。

 ライム達はすぐ、この肖像画が誰を描いているのか分かった。男性はルフィアの父親。女性は母親。少女はルフィアの姉のソシファ。そして、蒼い瞳をした赤子がルフィアだ。

 城の中は、あちらこちらが崩れて通れなくなっているところも少なくなく、死体もたくさんあった。どの死体も、白骨化、または腐っており、どんな顔だったのかも認知できない状態だった。


「・・・・・・ライム達は、先に宿の方に戻っても構いませんよ? お世辞でも、此処はあまり良い所ではありませんし」


 ルフィアは石で出来ている階段を登りながら、後ろに居るライム達に振り返らず言った。


「・・・・・・俺達はルフィアを一人に出来ねぇだけだよ」

「・・・・・・」


 ライムの言葉に、ルフィアは何も言葉を返せなかった。

 暫く歩くと、謁見の間らしき広い場所に出てきた。

 奥には立派な椅子が二つ並んでおり、その二つともに立派な服を着込んだ骸骨が座っていた。


「・・・・・・お久しぶりです、お父様、お母様。ルシファです」


 ルフィアは骸骨に向かって跪いた。ライム達もルフィアと同じ様跪く。


「この方達は私の友人でございます。ライム、ティア、ザックと申す者共です」


 だんだんと、ルフィアの声が震えてきた。ライムは、きっと必死に涙を堪えているんだと思った。


「・・・・・・ごめんなさい、この国を守れず、私だけ生き残ってしまいました。ソシファ姉様も、生きているかは分かりません。ですが・・・・・・きっとガイルに・・・・・・っ」


 ルフィアはぎゅっと拳を強く握り立ち上がった。ライム達も一緒に立ち上がる。


「今日は、剣を受け取りに来ました。私に受け取る資格があるのかは分かりませんが・・・・・・」


 ルフィアは骸骨になった両親に話しかけながら、右の王座の後ろに回った。

 王座の後ろの下には、一つだけはみ出た石があった。ルフィアはそれをゆっくりと押す。すると、謁見の間の中心の石が一つだけ、何もしてはいないのに勝手に取れた。


「・・・・・・穴が開いちゃったわね・・・・・」

「そういう仕掛けになっているのです。この国に伝わる聖剣を守るために」


 ルフィアはティアに説明しながら、謁見の間の中心に向かった。


「聖剣ってのはァ、さっきルーガが言ってた“祈りの奇跡”ってやつかァ?」

「はい。それが剣の名なんです。代々この国の王となる者に受け継がれていく剣なんです。本来なら、この剣はソシファ姉様が受け取るべきものだったんですが・・・・・・」


 ルフィアは中心に出来た穴に手を入れた。手探りで剣を探し、何かに触れたのでそれを引き上げる。


「・・・・・すげぇ・・・・・・」


 ルフィアの手に握られ暗闇から出てきた剣は、柄の部分が深い蒼色していた。中心に赤い宝玉が埋められている。鞘は塚より薄い蒼色だ。そこには青い宝玉が埋められている。

 ルフィアは鞘を抜き取った。そこから現れた刀身はなんと、透明なガラスの様になっていた。


「凄く、綺麗な剣ね」

「・・・・・・はい」

「・・・・・・ん? なぁなぁルフィア。なんか彫られてるぜィ?」


 ザックが剣の柄に近いところを指した。透明なので分かりづらいが、確かにそこには何か彫られている。


「・・・・・・“剣信じ祈り戦え。さすれば、奇跡起こらん”・・・・・・」

「・・・・・・? どういう意味だ?」

「これは・・・・・・この剣の名前の由来だと思います。この剣は、神からの贈りもとしてこの国に授けられた物だと、聞いています。この剣に祈りながら戦った時、その祈りが心のそこからのものだったら、神が現れ、剣を所持している者に奇跡を起こしてくれると言い伝えられています」


 ルフィアはそっと、刀身に彫られた文字を指で撫でた。


「へぇ。じゃあ、どんな絶望的な状況でも、祈ればどうにかなるって事か」


 ライムが、本当に凄ぇな、と呟く。けれども、ルフィアは悲しそうにライム達に首を振った。


「この剣は聖なる剣。使う者は聖なる心を持っていなければ、剣の真の能力は発揮できません。確かに、絶望的な状況だとしても、この剣に祈ればどうにかなるかもしれません。しかし、この剣に悪しき心を持つ者が祈れば、その者はさらに絶望的状態に陥ってしまうでしょう」

「・・・・・・聖剣は使う人によって魔剣変わる。って事かァ」


 ザックが呟いた。

 ルフィアは静かに頷く。


「・・・・・・じゃあ、その剣は使わない方がいいの?」

「いいえ。ただ、祈らなければ良い話です。祈らなければ、この剣は聖剣でも、魔剣

でもありませんから」


 祈りの奇跡を、鞘に収めた。

 ルフィアは剣を持ったまま、骸骨になってしまった両親のもとへ行き、剣を示しながら、跪いた。


「暫くの間、祈りの奇跡をお借りします。ガイルとの決着がつきましたら、必ず、この剣を再びこの場に封印します」


 ルフィアは立ち上がると、ライム達の方に向き直った。


「ごめんなさい。もう終わりましたので、宿に行きましょう?」


 ルフィアの無理をしている笑顔に、ライム達は何も言葉をかけられなかった。







 城を出た後、ルフィア達は真っ先に宿屋に戻った。来た時よりも魔物に会う機会も少なく、大分楽に進んでいた。


「・・・・・・レキ、ルーガに会えて本当に嬉しかったんですね」


 ルフィアが、宿屋に向かっている途中にぽつりと呟いた。


「なんか知らないけど、喜んでたわね〜」

「やっぱり仲間に会えて嬉しいのかねェ?」

「きっと、そうだと思います。もう10年近く会えなかったんですから。それに今の私とレキが知るかぎり、守護神の居場所はルーガでも分かりません。・・・・・・ルーガは守護神の居場所は探せないのです」


 ルフィアは悲しそうに微笑んだ。

ライム達は何も言えず、ただ黙る事しか出来なかった。

 暫くみんなが黙りながら歩いていると、村が見えてきた。


「・・・・・・なぁ、久々に競争しようぜ」


 ライムが村の方を見ながら楽しそうに言った。


「昔、よくやってたじゃんか。せっかく四人揃ってるんだしさ、久々にやろうぜ?」

「・・・・・・おいらに勝ち目無くないかァ? ずっと部屋に篭ってて、やっと最近運動し始めたんだぜィ? いつも戦闘後は息切れ多いしィ」


 ザックは不服そうに言い、ライムを見た。瞳が完全に輝いていて、ザックは諦めるとにした。


「それでは、宿屋までという事で」

「いっくよー! よーい、ドンッ!」


 ティアの掛け声と共に、ルフィア達は一斉に走りだした。







「・・・・・・なんで勝ったオレが・・・・・・」


 結局、競争の結果は、一位ライム。二位ルフィア。ティアとザックが同着で三位だった。四人は宿屋に着くなり、レキをそっきのけでさっさと寝てしまった。

 朝になったらいつの間にかレキが居て、ルフィアを起こして来いと言ったので、ライムは昨日負けたティアとザックに頼もうとしたが、二人とも見事に筋肉痛になっていたので、やはり起こしに行くのはライムになってしまったのだ。


「ルフィア〜、入るぜ?」


 ライムは部屋のドアをノックしてから入り、ベッドのそばまで行くと、ルフィア揺すって起こそうとした。が、


「・・・・・・んんぅー?」


 手を何故か蹴り飛ばされた。


「・・・ルフィア?」


 今度はもう少し強く揺すってみた。


「んー、枕・・・・・・」

「!」


 ルフィアはライムに抱きつくと、そのまま眠り続けてしまった。その時、ライムの悲鳴が聞こえたとかなんとか・・・・・・。






 

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