再会と新たな仲間
「・・・・・・・・・でかっ」
思わずライムが呟いた。
「・・・・・・ほんとに此処が魔術研究所なのか・・・・・・?」
レキもまた、ライムと同じ様に呟いた。
今レキ達がいるのは魔術研究所。ザックが働いている場所だ。カルディアに住んでいる人達に場所は聞いて此処まで来た。・・・・・・それまではよかったのだが、今ルフィア達の目の前にある建物は、お城と間違えそうなほど大きな建物だった。
「・・・・・・ひとまず、中に入りましょうか。此処でじっとしていても、怪しい人物にしか見られないでしょうから」
「入ってみれば分かるって事よね」
ルフィア達は大きな門を開け、中へ入った。中は、綺麗な外側とは違い、薄暗く、不気味なところだった。
「なんか嫌な場所だぜ。ほんとに此処に居んのか?」
ライムがぶつぶつと独り言を言っていると、一人の髪の長い白衣を着た女性が現れた。ノンフレームの眼鏡をかけていて、肌は病人と間違えそうなほど白い。
「・・・・・・此処に何か御用でも?」
女性は目を細めルフィア達に尋ねた。
「私達は友人に会いに来たんです。ザック・ミッシェルと言う人物は此処に居るでしょうか?」
女性は眉間に皺を寄せた。まるで、ザックの名を嫌っているような感じだった。
「・・・・・・確かに居ます。ただ、今は休暇をとっています。どうしても、と言うならそちらに向かって下さい。今、地図を持ってきましょう・・・・・・」
そう言って女性は奥へと行ってしまった。
「・・・・・・何か変でしたね、先ほどの女性」
ルフィアは女性が去った後に言った。
「・・・・・・ルフィアもそう思う? なんか、ザックの事嫌ってるみたいな・・・」
「ま、そういう事はザックに聞く事にしよう。そうだお前等、俺が喋れること言うんじゃねぇぞ」
そう言ってレキがルフィア達の顔をそれぞれ見る。
「なんでだ?」
「・・・・・・なんか此処は嫌な感じがするんだ。それにモンスターの気配もして、どうも好かねぇんだよ」
「よく分かんねぇけど分かった」
ライムが返事をし終わったら、女性がまた現れた。
「・・・・・・此処に行けば着きます。それでは私は此処で・・・・・・」
そう言って女性はまた奥へと姿を消した。
「それじゃ、行ってみよっか」
「そうですね」
ルフィア達は此処からあまり遠くないザックの家へ向かった。
「此処が・・・・・・ザックの家、か・・・・・・・・・」
ルフィア達の目の前に広がる景色は、さっきの魔術研究所まではいかないが、それでも広さはそれの半分はあろうかという感じだった。
「・・・・・・は、はは。取り敢えず、ノックしてみるか・・・・・・」
ライムが扉の前に行き、コンコン、とノックした。するとドア越しから、
「え〜、只今、この屋敷には誰も居ません」
「・・・・・・・・・・・・」
男ののん気そうな声がした。ライムはもう一度ノックをした。
「え〜、ですから、今この屋敷は無人です」
確実に中から男の声がするが、居ないと主張している。
「え〜、今そこに居る男の方、今すぐ出てこないと、扉をぶち壊して殴りかからせていただきます」
ティアが黒い笑みを浮かべて、扉の後ろに立っているはずの男に言った。するとガチャリと音がして扉が開いた。
「・・・・・・誰だよ一体。俺に何の用だ?」
扉から出てきたのは・・・・・・白衣を着たひょろ長い男だった。髪は茶色色で長く、腰辺りまであり、先の方だけ蒼い紐で結ばれていた。肌は雪の様に真っ白で、右目には海賊がしていそうな真っ黒の眼帯をしていた。
「・・・・・・え〜と、貴方がザック・ミッシェルさんでしょうか?」
「そうだけど・・・・・・。お前等、研究所の人間じゃないな・・・・・・誰だ?」
ザックは怪訝そうにルフィア達を眺めた。どうやら、ルファア達だと気付いていないらしい。
「ひでぇな、ザック。オレ達の事忘れたのかよ?」
そう言ってライムが笑った。
「・・・・・・・・・もしかして・・・・・・ライム?」
「当たり前だろ」
ザックはティアの方を、向き指差した。
「ティア?」
「正解!」
「それじゃあ・・・・・・」
ザックはルフィアを指差した。
「ルフィアですよ」
「・・・・・・俺も居るんだからな」
レキがルフィアの方に飛び乗り、ザックに言った。
「・・・・・・! みんな、久しぶりだぜィっ!」
ザックは思いっきり声を上げると、ルフィア達を抱きしめた。
「ぐ、ぐるじいッ」
レキは抱きしめられる際、ルフィアの肩から落ち、腕に挟まれ苦しそうに呻いた。
「あ、レキ。悪い悪い。皆、よく来たな! 歓迎するぜィ!」
ザックはそう言うとまた強くルフィア達を抱き締めた。するとまたレキは挟まった。
「うぐぐ、中のもん全部出す! 全部出す!」
「あ、レキ、ごめんな。にしても、ホントに久しぶりだぜィ。此処で話すのもなんだから、中にはいると良いぜィ。遠慮なんかしなくて良いからなァ」
そう言うと、ザックは中へ入っていった。ルフィア達は置いていかれないよう急いで後に続いた。
屋敷の様な家の中は薄暗く、何かの資料や本などが山の様に積み立てられていた。お世辞にも綺麗とは言えない程だった。
「散らかってて悪いなァ」
そう言ってザックは苦笑いをし、あまり荷物が置かれていないソファーのところを軽く整理し、ルフィア達に座る様促した。ザックはその前に椅子を置き自分はそこへ腰掛けた。
「本当に懐かしいぜィ。村のみんな、元気にしてるかァ?」
ザックは嬉しそうに聞いてきた。
ルフィア達はあの村の惨状を思い出し、ザック何も話せずにいた。そんなルフィア達の代わりにレキが喋り始めた。
「ザック、よく聞け。リース村は・・・・・・・もう無い」
「・・・・・!? なんでだよ! レキ、冗談だろ? 質悪いぜィ」
ザックは不安げに瞳を揺らし、震える声でレキに尋ねた。
「・・・・・・こんな冗談付けれるばずないだろ。事実だ」
レキはあくまで冷静にザックに言い放った。
「・・・・・・何で、何で村が無くなっちまったんだよ!?」
ザックは手が白くなるまで握り締め、レキに怒鳴る様な声で尋ねた。
「・・・・・・ガイルが来たんだよ」
「・・・・・・ガイル・・・・・・!」
ザックはガイルと名に酷く怯えた様な反応をした。
「もう村は全て焼き払われてる。生き残ったのは・・・・・・・きっと俺達だけだ」
「そんな・・・・・・!」
ザックは苦しそうに、右目に付けている眼帯に手を添えた。
「だから俺達は旅に出て、ガイルを倒すと決めたんだ。たまたま此処を通ったから、お前に会いに来たんだ」
レキは静かに一度瞬きをすると、ルフィアを見た。
「ザック、もう俺とルフィアの正体、知ってるな?」
「・・・・・・え?」
何故レキがこのタイミングで聞いたかは分からないが、ザックは静かに答えた。
「・・・・・・知ってた。ニコラスじぃちゃんからな、教えてもらった」
ニコラスとは、ザックのお爺さんで、リース村の村長だった。雷属性の魔法が得意な人で、明るく陽気な性格で皆から好かれていた。
傷ついたルフィア達はニコラスによくしてもらい、家まで貰った程だ。その彼も、リース村が消えてからは、生きているかも分からない人となってしまっていた。
「本当の名前はルシファ。レキはシーガ。誰にも滅ぼされない国、ルーシャ国の姫。レキは守護神で、今の姿は仮の姿なんだろ?」
ザックの言っている事は全て事実で、ルフィアは驚いた。
「そうだ。やはりニコラスは話してたんだな」
「いいや。俺が気付いて、俺が話してくれるよう頼んだ」
ルフィア達はいつもと話し方が違うザックに少し違和感を感じながらも、話題を変えようと必死に話し始めた。
「もー、こんな暗い話しは止めよ! ていうより止め! ところでさ、おばさんとおじさんは? せっかく来たんだから、挨拶くらいしないとね」
ティアはザックの両親がいない事に気が付き、ザックに尋ねた。
ザックは一度体をびくりと震わせると、感情を押し殺した様な声で言った。
「・・・・・・父さんと母さんは死んだ。俺が此処にきてすぐ・・・・・・死んじまった」
「嘘だろ!?」
ライムは驚きのあまり、ソファーから達あがりザックに尋ねた。
「嘘なんかじゃない。・・・・・・病気で死んだ」
「そんな・・・・・・おじさん達まで・・・・・・。もしかして、だから村に来れなかったの?」
ティアはザックが忙しくて村に来れなかったと予測したらしい。
「・・・・・・・・・まぁ、それもある」
まだ理由があるらしいが、ザックのあまりにも悲しそうな顔に、誰も聞く事は出来なかった。
「・・・・・・その右目、どうしたんですか?」
暫く沈黙が続いていたが、ルフィアがザックに尋ね、その沈黙を破った。
「・・・・・・・・・怪我・・・・・・しただけだ」
ルフィアはそれ以上、何も聞けなかった。ザックが、その事を拒絶した様な反応で言い返したからだ。
「・・・・・さぁて、そろそろ行くか」
「・・・・・・もう行くのかァ? もう少しゆっくりしていけよ。おいらは気にしないぜィ?」
レキが立ちあがり、背伸びをした。ザックは少し寂しそうな表情をした。口調はいつもの様に戻っていた。
「あんまりのんびりできないんだ。もし、ガイル達に、リース村の生き残りがいると知られたら、俺らを殺しに来るかも知れねぇんだ。ゆっくりは出来ない。それに、ガイルを倒しに行く為に俺達は旅に出てきたんだ」
「・・・・・・ガイルを・・・・・・倒しに・・・・・・?」
ザックはまたガイルの名に怯えた様になった。
「・・・・・・俺も・・・・・・一緒に行く」
ザックは、いきなり立ち上り、呟く様に言うと、どこかへ行ってしまった。
「ちょと、研究所によってくれるか? 一応長期休暇届け出さないといけないんだ」
「・・・・・・ザック、ほんとに行く気かよ? ・・・・・・死ぬかもしれない旅なんだぜ? そんな簡単に決めて言いのかよ」
「もともと行くつもりだった。それが、早くなっただけだ」
そう言ってザックは着ていた白衣を脱ぎ、投げ捨てると、近くにあった新しそうな白衣を荷物の中から引っ張り出して着た。
「じゃ、行こうぜィ?」
「・・・・・・はい」
たまに変わるザックの口調を不思議に追いながらも、ルフィア達は外に出て行ったザックを急いで追いかけた。
「俺だ、出て来いジジィ。話がある」
ザックは魔術研究所にどかどかと入り、大声で言い始めた。すると一人の初老の男が出てきた。
「・・・・・・ザック・ミッシェル、用がない時は此処に来るな」
老人はザックを睨み付けながら言い放った。
「用があるから来たんだ、ジジィ。そんな事もわからなくなったのか?」
「・・・・・・・用とは、そんな事を言う為か?馬鹿馬鹿しい。ないのならとっとと帰れ。私は今お前が居て気分が悪いのだ」
老人はあからさまにザックの事を嫌っていた。ザックもまた、その老人を嫌っていた。
ザックはどんなに嫌いな人でも決して嫌いな素振りを見せなかった。むしろ、その人を好きになろうと一生懸命になるくらいだ。けど、今のザックは、表にそれを出して、全力で老人を拒絶していた。もしかしたら、きっかけがなければ、お互い永遠に会いたくない人物なのかもしれない。
「暫く休暇を貰う。それがいつまでかは決めていない。別にいいだろう? 今まで一度も休まなかったのだから」
「・・・・・・ふん、好きにすればいい」
老人は吐き捨てる様に言い、闇の中へ消えていった。
「ザック、今の方は・・・・・・」
「・・・・・・此処の最高責任者補佐だよ。それよか、やっとおいらも旅に出れるぜィ! みんな、これからよろしくなァ!」
「・・・・・・なんか展開早いけどよろしくね!」
「頑張って、ガイルを倒そうな!」
「おぅ!」
ザックは笑って返事を返した。
「・・・・・・あ、そう言えばさぁ、私達、ガイルの居場所知らないよ?;」
ティアはその事を思い出し、焦った様にレキに聞いた。
「その件なんだが、俺と同じ守護神がガイルの居場所分かるから、そいつに聞こうと思ってたんだ」
レキの方は慌てる事無く答えた。もう決まっていたみたいだ。
「さっすがレキっち! 頼りになるわねぇ」
「だからっちは余計だ!」
レキの言葉に皆が笑った。レキは不服そうにしてティアを睨み付けた。するとレキは突然歩きだした。
「・・・・・・ザック、ちょっとこっち来い」
レキはルフィア達から少し離れた場所でザックに手招きをした。
「・・・ん? どうしたんだァ、レキ」
ザックは笑いながらレキのところに来た。
「ザック、いつか・・・・・・話せよ?」
ザックは笑みを消し、レキをじっと見つめた。
「・・・・・・さすが、レキだな」
ザックは感情の籠っていない声でレキに言った。レキは苦笑いをし、ザックに言った。
「俺は、そこまで凄くない。皆が、そう勘違いしているだけだ。それと、俺とお前だけの時は、無理して作り笑いなんかしなくていい」
「・・・・・・やっぱ、レキは凄いよ・・・・・・」
「おーい、いつまで話してんのー?」
ザックはルフィア達の方に向きながらレキに言った。
「レキ、今の話、秘密な? ・・・・・・今行くぜィ!」
そう言って、勢いよく駆け出した。その後を、レキが悲しそうな表情でついて行った。