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謎の少女と似ている女性

 

 シルアとは比ものにならない程の大小連なる建物に、たくさんの人々。此処は大都市カルディア。

 此処には魔術研究所という建物があり、そこにはルフィア達の友達であるザックと言う少年が働いている。

 彼は十一歳にしてこの都市にきて、先に働きに出ていた両親の手伝いをしているそうだ。昔からとても賢く、普通の大人ならば、そのザックの知恵には勝てなかった。それ程頭が良く、俗に言う天才なのだ。


「噂には聞いてたけど、本当におっき〜!」

「本当ですね!」


 ティアとルフィアはきょろきょろと辺りを見渡して、思い思いの歓喜の声をそれぞれ上げている。

 人とぶつかりそうになっても、構わず辺りを見渡し続けるティアは、傍から田舎者とすぐに分かってしまうだろう。


「おいお前等! 遊びに来たんじゃないんだぞ!」


 いつまでもはしゃいでいるルフィア達に対し、保護者役でもあるレキが注意をするが、ティアはあまり聞いていない。

 皆にそっぽを向き、何か遠くの方を見詰めていた。


「まぁまぁ。レキ、怒らないで下さい」


 今にでもティアに怒鳴りつけるような勢いで歯を剥き出しにして怒り出したレキを宥めた。

 宥めるのに骨を折っているその時、ティアが何かを見つけたらしく、目を輝かせてルフィアに話し掛けてきた。


「ねぇねぇルフィア! あっちに大きい噴水があるよ! 行ってみよ〜」


 指差された方を見てみると、確かに見た事もないような、巨大で立派な噴水があった。思わずルフィアも、それに興味を示してしまった。

 静かに瞳を輝かせていると、ティアに腕を引っ張られ、ずるずると人を掻き分けそちらに向かった。


「あっ! 待てティア!」


 慌ててレキがティアを留めるが、その声に耳を傾けるようなティアではなかった。


「ちゃんと戻ってくるから大丈夫よー!」


 レキに大きく手を振り、そのまま人に紛れて姿が見えなくなってしまった。


「いやそうじゃねぇよ! って、もう見えねぇし・・・・・・」


 レキがツッコミをいれているうちに、ティアはルフィアを引きずりながら完全に姿を消していた。

 当然、噴水に向かったのだろう。


「まぁまぁ、落ち着こうぜ? ンなにカリカリすんなよ」

「・・・・・・してねぇよ」

「・・・・・・十分してんじゃん」


 一人と一匹は、それぞれ別の意味で溜め息を吐いた。







 噴水の前に来ていたルフィアとティアは、驚きのあまり固まってしまっていた。周りに居る人々も例外でなく、同じように固まっている。

 何故ならば、ルフィア達より一、二歳くらい年下に見える、黒髪のツインテールの少女が噴水の流れ出る水の上に立っていたからだ。服装は独特なもので、服の袖が妙に長かったりしている。

 勿論、少女が立っている間にも水は止めど無く流れ続けている。


「そこの青い髪の者!」


 噴水の上に立っている少女が、ルフィアの方をじっと黒い瞳で睨みつけ言った。

一瞬ルフィアは辺りを見渡し、自分以外に青い髪の人が居ないか確認にする。しかし、青髪の人はルフィア以外一人も居ない。つまりは、ルフィアを指名されているのだ。


「・・・・・・ひょっとして、私ですか?」


 自分だと分かっていても、念の為、自分で自分の事を指差し、少女に尋ねる。すると少女の眉間に皺が一気に寄った。


「貴様しか居ないだろう! ところで貴様がルフィ―――」

「よぉっと待ったぁぁあー!」


 いきなりティアが少女の言いかけた言葉を遮りながら叫び、少女の方を睨むように向く。その声に、少女とルフィアと、いつの間にか集まって、一定の距離を置いていた野次馬達が一緒になって驚いた。


「人に名前を聞く時はまず、自分から名乗るのがお約束でしょう!」


 何がお約束なんだ、普通常識だろう。そう思ったものは少なからず居たに違いないセリフだった。


「ティ、ティア・・・・・・?」


 その言葉にルフィアは、驚き、少女はどうしようかと迷っている様子だった。けども、すぐ口を開いた。


「・・・・・・〜っ分かった! あたしの名は八神煉だ! さぁ、貴様の名を名乗れ!」


 思い切ったように名乗られた名は、あまり聞いた事の無い珍しい名前だ。もしかしたらこの少女は、何か特別な文化を持つ一族なのかもしれない。この世界には、そういった存在は珍しくはないのだ。

 煉と名乗った少女は再びルフィアの事を指差し、睨んだ。


「あ、はい! 私の名前は確かにルフィアです。ルフィア・ミッシェルです」


 名を聞いた途端、一瞬だが煉は、とても悲しげな顔をした。しかしすぐにルフィアを睨んできた。

 さっきの表情はなんだったんだ、と悩んでいるうちに、いつの間にか煉は背中に背負っていた巨大な扇のようなものを広げて構えていた。


「やはり貴様がルフィアか! その命、頂戴させてもらうぞ! ≪毒霧―どくきり―≫」

「≪荒風!―あらかぜ―≫」


 大きな扇を扇いだ。すると紫色をした霧みたいなものがルフィアを覆おうとした瞬間、ルフィアのすぐ隣すれすれから矢が飛んできた。矢に巻き込まれていた風が紫色をした霧を散らした。

 驚きのあまり、ルフィアはぺたりとその場にしゃがみ込んでしまった。呆然と、空を見て気を落ち着かせようと努力する。


「大丈夫か?」

「ラ、ライム・・・・・・」


 駆け足でルフィアのもとへやって来たのはライムで、ゆっくりとルフィアを助け起こしてくれた。まだ驚きを隠せていないルフィアは、ひくついている笑みを浮かべながら、助けを借りて何とか立ち上がった。


「あ、ありがとうございます・・・・・・・・・」


 お礼をすると、漸く気分が落ち着いてきた。くるりと辺りを見渡してみると、煉が技を放った後なのからか、少し薬品のような匂いがした。周りの野次馬達は、とっとと逃げてしまっていて、ルフィア達以外、誰も居なかった。居たとしてもすぐ近くの周りではなく大分遠くの位置だ。


「おいお前! 危ねぇ・・・ってもう居ねぇし!」


 煉に文句を言おうとして、煉が居た場所を見るが、もうそこに煉の姿はなかった。ライムはクソッ、と小さく舌打ちをした。


「すごーい・・・・・・何時の間に逃げたのかしら?」


 ティアが辺りを見渡すが、やはり姿はなかった。


「ところで、さっきの小娘は誰なんだ?」


 いつの間にかルフィアの隣に来ていたレキが、怒った様な口調で煉の事を尋ねてきた。

 軽くレキに説明をすると、さらにレキの怒りは膨れ上がってしまったらしい。今日はもう宿屋に行くぞ、という言葉が、やけにとげとげしい。

 歩きながら、ルフィアは先程の煉と名乗る少女について考えた。


(本当に私を殺したかったのでしょうか?)


 あんなに、ルフィアの名前が分かった時の煉の顔は、悲しげだった。すぐに戻ってしまったが、本当はルフィアを殺したくないのではないだろうか。

 仕方なく。そんな感じがする。

 考え事をして歩いていると、一人の女性がルフィアの横を通り過ぎた。

 紅の長い髪に、力強い、髪と同じ紅の瞳。ルフィアと少し似ている顔立ちをしていた。髪は右肩の方に一つにまとめられている。

 女性はルフィアの横を通り過ぎる瞬間、ルフィアにしか聞こえない様な小さな声で囁いた。


「復讐は何も生まない。ただ新たな悲しみを生むだけ―――」

「え・・・・・・?」


 反射的に後ろを振り返ったが、そこにあの紅髪の女性は居なかった。気配すら、残っていない。

 不意に、ルフィアはあの女性を知っているような気がした。とても懐かしくて、でも、とても悲しい。切ない気持ちがルフィアを襲った。けれど、女性の事を考えれば考える程、激しい頭痛がルフィアを襲った。


「おーいルフィア! おいてくぜ!」

「ま、待って下さい!」


 何時の間にか立ち止まり、下を向いて考えていたルフィアは、名前を呼ばれ顔を上げると、ライム達が遠くで呼んでいた。後ろ髪を惹かれるような思いをしながらも、待たせる訳にはいかないと、ライム達のもとへと行った。






 ルフィアから隠れるように、女性は物陰に隠れていた。

 ぎゅっと、胸に手を当てて、痛みに耐える。背中が、燃えるように熱くて仕方が無い。


“復讐は何も生まない。ただ新たな悲しみを生むだけ―――ルシファ、もうあんな悲しみを繰り返してはダメ。思い出すの、記憶を―――”


 女性は、ただただ涙を堪えて祈り続けた。

 強く閉ざされた瞳には、幼い少女の顔が浮かび、幸せそうに微笑んでいる。けどその表情はだんだんと切なげになっていき、涙目になり、最終的には泣いていた。

 下を向いていた顔を上に上げ、青く澄み渡った空を真っ直ぐ見詰めた。


“もう誰にもあんな苦しみを味あわせては、絶対にダメなの。お願い、早く、早く思い出して―――”


 女性はもう一度心の中で名を呼んだ。ルシファ、と―――







 

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