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蟹擬どきと泡攻撃




「≪水よ、汝の力で全てを呑み込め!≫」


 巨大な身体を持つ魔物達が、ルフィアが唱えた水属性呪文の水に包み込まれもがき苦しむ。その隙をつき、ライムが矢を放った。


「≪豪烈! −ごうれつ−≫」


 弓からは勢いがある矢が放たれた。見事に魔物には矢が突き刺さり、傷口から青い血が吹きだす。二人の攻撃を受けた魔物達は叫び声を上げたが、すぐに態勢を整え、ライムの方へと突進してきた。

 いきなりの事で、尚且つあまりライムと魔物の間が無かった為、避けるのは無理だった。


「ちっ!」


 舌打ちをしてから、両腕を前に出し、臨時の守りを作った。

 後少しでぶつかる、という時、凛とした声が響いた。


「≪護れ、光の盾よ! バリアー!≫」


 すかさずティアが魔物達の攻撃からライムを、魔法で作った光の盾で防いだのだ。

盾に弾かれた魔物達は、無様にもひっくり返った。

 起き上がろうと、じたばたと手足を動かし暴れている。


「≪水の小精霊達よ、鋭く尖る刃となりて、敵を切り刻め! 水剣! −すいけん−≫」


 暴れる魔物達の上に、ルフィアが魔法で水で創り出した剣を雨のように降らせ、その巨大な身体を貫いた。

 魔物達は水の剣を雨のようにいくつも浴び、青い血を噴出しながら唸り声を上げ、次々に倒れていった。

 息絶えた魔物の身体は、黒い灰となっり、風によってその灰までも消えていった。

 ルフィア達は見事な連携で、魔物に勝利した。

 何度目か分からない魔物との戦闘に、慣れてきた反面疲れが溜まっていた。

遠くから先程の戦いを見ていたレキが、三人に近づいてきた。

 毎回レキは危ないから、と言って、自分だけ安全なところへ逃げる。魔物が完全に周りに居なくなってから、ルフィア達のところへと来るのだ。


「二人共、大丈夫?」


 一息ついてから、ティアが駆け寄ってきた。

 二人の身体をそれぞれ見て、怪我がないか確認する。

 この確認は、戦闘後必ず行う事で、怪我しているところなどがあればすぐにティアは治療をしてくれた。流石は、法術師の卵だけあって、そういうところには抜け目ない。


「あっ! ルフィア怪我してるじゃない!」


 そう言ってティアは、ルフィアの右腕を指した。

 肘を折り曲げ指された部分を見てみると、確かに切り傷のような細長い赤い線が出来ていた。うっすらと血が滲んでいる程度で、決して大きな傷ではない。


「待っててね。≪汝に癒しを与え給え≫」


 ティアは普段から愛用している杖を空に掲げ祈り始めた。

すると、ルフィアの傷口に光が集まり、それ全体を包み込んだ。一瞬青白く光ったと思ったら、光が弾け、傷は綺麗に消えていた。


「ティア、ありがとうございます」

「はい、どういたしまして!」


 お礼を言うと、ティアは嬉しそうに笑い、軽く傷があった場所を叩いた。


「・・・・・・たくっ、あんま無茶すんじゃねぇよな」


 いつの間にか隣に来ていたライムが、溜め息混じりで言った。

 この三人の中で一番怪我をしているのは今のところは断トツ、ルフィアだった。

 前線で戦っているので仕方が無いのだが、怪我をする度にライムに注意をされるのだ。勿論ティアにもレキにもされるが、ライムは本当に毎回だ。

 心配しすぎだとは思うが、想いを寄せている人に心配されるの。密かに、少し嬉しく感じている。けど、心配させてしまっている罪悪感もある。


「ご、ごめんなさい・・・・・・」


 少し俯き、ライムの顔を上目で見た後、済まない気持ちで一杯になりながら謝った。

 横目でルフィアを見たライムは、顔を少し赤らめた。


「こ、今度からは気を付けろよ!」


 不自然なくらいの声の大きさで、普通ならそこで何か変だと気がつくだろう。しかしルフィアは特にそれに気がついてはいなかった。


「はいっ!」


 顔をぱっと上げ、ライムに微笑みかけた。

 それに対し、ライムも照れたように微笑み返した。

 既に存在を忘れられているレキとティアは、地面に座り込み二人だけの世界にいっている人達に気付かれないよう、小声で話していた。


「ねぇねぇ、レキ。あれどう思う?」

「どうって・・・・・・・どう見ても両想いにしか見えないな・・・・・・」


 視線を遠くして答えてレキのように、ティアも二人から視線を遠くへと移した。


「・・・・・・私も〜・・・・・・」

「二人共、鈍すぎ・・・・・・」


 最後の言葉は、二人して見事なまで揃った。

 魔物に見つかるまで、三人と一匹はそこに留まっていた。









港町・シルア


 人の声が絶え間なく溢れている。どれも声も楽しそうで明るいものばかりで、活気溢れていた。建物もたくさんあり、港にはいくつもの大小異なる船が留められていた。一目でこの町がどんなに平和かが分かる。


「うわぁ、広いねっ!」


 喜びのあまり、ティアは飛び跳ねていた。隣では、静かに喜んでいるルフィアが瞳を輝かせていた。

 それもその筈だ。

 村を出た事がなかったティアにとって、ルシアは初めて訪れる町だ。興奮して喜ぶのも当然だ。ライムは極たまに狩りで捕まえた獲物を此処へ売りに出かけているらしく、このような場所には慣れていた。ルフィアはただこういう活気溢れる場所が好きなだけだ。


「あんまりはしゃぐなよ」


 いつまでもはしゃいでいるティアを見かねたレキは、ぴしゃりと叱るが、ティアは無視して辺りを見渡している。流石にルフィアはもう落ち着いたが、まだ少しそわそわとした。

 たくさんの人とすれ違い、迷子にでもなってしまいそうだ。村にはルシアのようにたくさんの人が行き交う場所は無い。物珍しくて仕方が無いのだ。


「・・・・・・・・・此処でヒルド大陸行きの船に乗る。で、大都市カルディアで武器や道具を整える。分かったか?」


 もうティアを放っておく事にしたレキは、ルフィアとライムの方だけを向いて言った。それでもティアは、行き交う人々を楽しそうに見ていた。ルフィアもちらりとそちらの方を見たが、なんだか様子がおかしい人も居た。


「分かり―――」


 取り敢えずは返事を返そうと途中まで言いかけたが、それは男性の大声にさえぎられた。


「魔物だ! 魔物が侵入してきたぞーッ! 逃げるんだ! 速く逃げるんだ!」


 先程からの様子のおかしい人達は、みんな逃げ惑っていた人達だった。

 大声の警告を聞いた人々が北門の方から急いで逃げ回っている。北門から逃げているという事で、そこに魔物が居るとすぐに分かった。


「二人共、倒しにいきましょう!」


 二人が頷くのを確認し、ルフィアは人の波を掻き分け進んで行った。







 三人は魔物の居る北門へ着いた時、驚きで目を大きく見開いた。

 そこに居た魔物は悠に四メートルの高さを軽く越しており、首が痛くなる程見上げる必要があった。重さも、かなりのものであると思える。間違えて下敷きになったら、確実に命はないだろう。

 けれども、さらに驚かされたのは魔物が蟹のような姿をしていたからだ。身体の色は紫色と、なんとも毒々しい色だ。巨大な鋏がついており、あれに挟まれたら一溜まりも無い。

 この蟹のような巨大な魔物を、今まで一度も見た事がない。多分、他の旅人達ですら、見たものは滅多に居ないだろう。


「・・・・・・ティア! 調べて下さい!」


 全く未知なる魔物と戦うのは、不利なだけだ。ただでさえ、巨大だ。此処は魔物の弱手を攻めるべきだろう。

 そう考えたルフィアは、ティアの法術を使い、魔物について調べてもらう事にした。法術は人の身体の状態を調べるものもあり、それを魔物に使えば魔物のステータスが分かるのだ。

 無言でティアは頷き、杖を掲げ呪文を唱え始めた。


「≪汝の全て、我に教えよ!≫・・・・・・弱点は雷属性よ! どうでも良いんだけどそいつ 蟹じゃなくて海老の分類に入るらしいわ! それに海の奴でも特大!」


 それを聞き、ルフィアはすぐに動いた。


「どうでも良すぎ・・・・・・」


 レキの呟きに、ルフィアは心の中で少し賛成をした。しかし、口に出す程勇敢ではない。戦いの最中だが、ティアとレキは一旦姿を消した。だがすぐにティアだけが戻ってきた。レキはどうなったか分からない。

 蟹擬きの魔物の隙をつき、その間に雷属性の魔法を唱えた。


「≪雷よ、敵の自由を奪え!≫」


 唱え終えるといきなり空が曇り、蟹擬きに雷が落ちた。

その雷は見事なまでに当たり、すぐに体力と身体の自由を奪った。

 身体が痺れて動かない蟹擬きの海老の魔物は悔しそうな唸り声のようなものをあげる。けれど、動けはしない。

 まだ魔物が動けぬうちに、ライムが矢を放った。


「はぁあっ! ≪雷撃!―らいげき―≫」


 矢を受けると同時に、魔物は口から勢い良く泡を吹き出した。その泡はルフィアの方へ真っ直ぐに向かった。


「っきゃぁあ!?」


 思ってもいなかった攻撃をまともに喰らったルフィアは、短い悲鳴を上げ、泡の勢いに押され後ろに倒れた。


「ッ! ≪刹那!―せつな―≫」


 その光景を見たライムは、渾身の一撃を喰らわすが、蟹擬きの魔物にはあまり効果が無かった。甲羅が硬く、あまりライムの矢が利かないのだ。

 今すぐルフィアのもとへ向かいたいが、魔物を足止めさせる必要もあり、ティアに任せるしかなかった。


「クソッ!」

「手伝ってやる!」


 苦戦していると、他の黒髪赤眼の剣士が一人現れた。どうやら加戦してくれるらしく、ライムは心の底から感謝した。

 もう一人居たようで、金髪の少女はティアの手伝いへと回ってくれた。

 ライムは一呼吸置いて、目の前の敵にだけ集中した。





「ルフィアッ!」


 魔物の攻撃を受けたルフィアの身体が後ろへ倒れた。それだけならまだ良かったのだが、その際に頭を強く打ち付けていた。

 急いで駆け寄ってみると、頭から多少の出血があった。もしかしたら、内部にも損傷があるかもしれなかった。もしその場合、まだ未熟のティアだけではどうしようも出来ない。まだ外部の傷しか治す事が出来ないのだ。


「大丈夫っ!?」


 そこへ一人の少女が現れた。金髪青眼の少女はティア達と同じくらいに見える。目の端で捕らえたが、ライムの方にも助っ人が居るようだった。


「頭から血が出てるの! 倒れる際に頭を強く打ちつけてて、もしかしたら脳の方にも怪我してるかもしれないわ!」


 口早にティアが説明をすると、少女は返事をせずに、ルフィアの出血している部分に手を添えた。

 ゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。すると、手から光が漏れていた。法術とはまた異なったものらしく、呪文無しで出来るようだ。ティアは初めて見る光景と、ルフィアの傷が治るようにと祈りながら、少女の光が出ている手をじっと見詰めた。





 加戦してくれた、少年にも見える青年は相当の手練で、一気に形勢逆転していた。

 すぐに魔物にはたくさんの切り傷が出来、右の挟みも青年は斬り落としてしまった。ライムの矢も、今まで効かなかったのが嘘のように、面白いくらい甲羅に刺さった。


「てぇいっ!」


 最後に男が蟹擬きを真ん中からぶった斬った。左右に分かれ、魔物は倒れた。ぴくりとも動かず、死んだようだった。


「たくっ、硬い奴だったぜ・・・・・・」


 魔物の血で汚れた剣を、取り出した布で拭き取りながら青年が言った。

 さくさくと音が出てきても良かったくらい青年はあっさりと魔物を斬っていた為、ライムにとってそれが嘘のようにも思える。


「お前、仲間倒れてんだろ? さっさと行ってやれ」

「あ、ああ・・・・・・・!」


 実は先程から、ずっとルフィアの事が気になって仕方がなかった。けど、無断で行くのも失礼と思い、行くに行けなく困っていたのだ。

 礼を言った後、ライムはルフィアのもとまで走った。





「これできっと大丈夫だよ。でも、色々な疲れもあるだろうから、すぐには目覚めないと思う。ゆっくり休ませてあげてね」

「あ、ありがとう!」

「助かった」


 少女がルフィアの治療をしている最中に、遅れてレキが血相を変えてきた。けど、今のルフィアの顔色を見て安心していて、最初は慌てていたが今は落ち着いている。

 先程少女はルフィアの傷を治してくれた以外に、疲れが早く抜けるようにと持っていたらしい薬をルフィアに飲ませてくれた。


「随分と長旅をして疲れているようだね。貴方もしっかり休んでね」


 微笑まれながら少女に言われ、それからどっと疲れが出てきたようにも思えた。

 そういえばどうして長い旅をしていると、少女は分かったのだろう。

 そう思い、ティアは自分の身体を見てみた。

 靴が、たくさんの泥で汚れていて、服もあちこち汚れている。それで気づいたようだ。


「あ、友達が来たみたいだよ」


 そう少女に言われて、少女が向いてる方向を見てみると、ライムが必死な形相で此方に走っていた。その後ろで、青年が歩いてくるのが見えた。

 立ち上がった少女が、青年のもとへ駆けていった。


「ルフィアッ! ティア、ルフィアは大丈夫なのか!?」


 あまりにも必死な表情で、思わずティアは吹き出した。


「だいじょーぶ! 今は寝てるだけよ」


 そう言ってやると、本当に安心したように、気の抜けた顔で笑い、ルフィアの隣に座り込んだ。


「あの人達にお礼を言わないとね」

「そうだな」


 二人は、青年達の方を向いた。

 嬉しそうに少女が青年に話しかけ、笑っていた。ティア達の視線に気づいた少女は、青年の腕を引き近づいてきた。


「ルフィアを助けてくれてありがとう。それに、助太刀までしてくれて」

「ほんとに助かったぜ」

「俺からも感謝する」


 それぞれでお礼をいうと、少女は嬉しそうに笑った。青年は表情を変えずに、レキを不思議そうに見ていた。喋る動物を見て、興味を持っているのだろう。


「私はルカっていうの。こっちはグル。ルカとグルって呼んでね! 貴方達は?」


 にこにこと笑いながら自己紹介をした少女はルカといい、青年はグルというらしい。


「私はティアよ。倒れてる子はルフィア。で、弓使いがライムで、喋るへんてこなルフィアのペットはレキ」

「ペットじゃない!」


 ティアの説明に対し、レキがすかさず訂正を入れる。そんな一人と一匹の会話を聞いて、ルカは吹き出した。


「仲が良いんだね。羨ましい。グルは無愛想だからね。あ、でも本当はとってもやさしいんだよ! 痛っ!」


 幸せそうにグルの説明をするルカの足を、グルが思い切り踏みつけた。恐ろしい形相でルカを睨んでいる。

 あれは相当痛い。ルカは踏まれた足を押さえて痛みを堪えていた。


「酷いよ、グル・・・・・・う〜、痛い・・・・・」

「煩ぇ。自業自得だ馬鹿」


 そんな二人の会話を見て、今度はティア達が吹き出した。

 ルカはそれに気がつき恥ずかしそうにし、グルは苦虫を噛んだような、なんとも言えない表情をした。


「・・・・・・もう行くぞ」

「あ、待ってよグル! ・・・・・・じゃあね!」


 歩き出したグルを慌てて追いながら、ルカはティア達に手を振り、姿を消した。

 まるで嵐のような二人だった。

 二人と一匹は呆然としたが、暫くするとルフィアを休ませる為に宿屋に向かった。






「・・・・・・此処は・・・・・・?」


 目を覚ますと、すぐに茶色い木の天井が目に入った。身体が筋肉痛の様になっていて、動かそうとすると少しだけ痛い。


「あ! ルフィア! やっと目を覚ましたの? 良かったぁ〜!」


 まるでルフィアが起きたタイミングを見計らっていたかのように、ドアが開く音がした後、ティアの声がして、駆け寄ってくるのが分かった。

 上半身だけ起き上がらせ、周りを見てみると、宿屋のような場所で、ベッドに寝かされていた。


「ティア・・・・・・? どうしたんです? 魔物と戦っていたのでは? それに此処は?」


 分からないところを一気に質問をした。するといつの間にかレキがきて、呆れ顔でルフィアに教えてくれた。


「おいおい、覚えてないのかよ・・・・・・。お前はモンスターの攻撃を受けて倒れたんだ。それに此処は宿屋。礼は、助っ人になってくれた二人に言うんだな」


 溜め息をつきながら、レキは言った。

 あの二人とは? と聞く前に、慌てたようなティアの声が先に発せられた。


「そういえばライムが居ないわ! ちょっと探して来るね!」


 そう言うとティアはライムを探しに何処かに行ってしまった。


「レキ、私はどのくらい寝ていたんですか?」


 ティアが立ち去った後、あの二人以外の、もう一つ気になっていた事をレキに尋ねた。

 するとレキはまたため息をついた。


「・・・・・・丸々三日だ」

「ほへッ! ・・・・・・そ、そんなに・・・・・・です、か・・・・・・・・・」


 自分でもその事が信じられなくて、暫くの間、放心状態になった・・・・・・。そのルフィアの姿を見て、レキは必死に笑いを堪えたとか・・・・・・。





「ルフィア! もう大丈夫なのか!?」


 ノックもせず、飛び込むようにライムが部屋に入ってきた。

 その後にゆっくりとティアが入ってきて、その時やっと放心状態は終わった。


「・・・・・・・・・ぐっすり、たっぷり寝てたので大丈夫ですよ」


 ルフィアは、自嘲気味な笑みを浮かべながらもライムに微笑んだ。

すると、そんな二人を見たティアが茶化すように、にやけた表情になって言ってきた。 


「ライムったら〜、ルフィアが起きないけど大丈夫か、大丈夫かって何度も聞いてきたのよね〜。それに、一番ルフィアの傍にいて、なかなか離れてくれなかったのよね〜」

「んなッ!」


 その言葉を聞いて、ルフィアとライム、二人して顔を一気に赤く染めた。

 改めて、といった感じでライムに向き直ったルフィアは、まだ顔を少し赤くしながらも、軽く頭を下げた。


「ライム、心配かけてしまってごめんなさい・・・・・・。それと、あ、ありがとうございました・・・・・・・・・」

「べっ、別に構わないぜっ!」


 両手を振り、何度も構わないと連発するライムは、先程よりもうんと顔が赤い。

 そんな二人の様子を見聞きしながら、一人と一匹は心の中で呟いた。


(早く告れ・・・・・・・・・ライム)


 その想いが通じたか分からないが、二人は、まだ顔を染め続けた。







 目を覚ましてからも、念の為にと三日程休まされたルフィアは、久しぶりに日の光を浴びて大きく背伸びをした。

 先にレキとライムは船のチケットを買いに行き、後からルフィアとティアがそちらに向かい合流する約束をしていて、だらこの場には少女二人しか居なかった。


「ん〜っ! やっとカルディアに向かえるんですね!」

「そうだね! それにルフィアが元気になってよかった〜」


 背伸びしたルフィアを真似るかのようにティアも背伸びをして、にっとしたような笑顔をルフィアに向けた。

 ただそれに言葉を付けづに、ルフィアは微笑み返した。

 あの後、ルカとグルと言う二人組みの存在を詳しく知らされたルフィアは、今すぐにでもお礼を言いたかったが、もう何処かへ行ってしまったと聞かされた時には、どうしようかと迷った。助けてもらった本人がまだお礼を言っていないのだ。ちゃんとお礼がしたい。

 考えている事に気がついたのか、ティアがルフィアの肩を軽く叩いた。


「きっとまた会えるよ!」

「・・・・・・そうですよね!」


 二人の少女は仲良く手を繋ぎ、他の仲間の待つ港へと向かった。









 三人と一匹は船に乗り、大都市カルディアを目指した。

 揺れる船に乗りながら、前日あれ程寝ていたルフィアは、今もぐっすり寝ている。どうすればそんなに寝られるのかと、不思議に思う。

 寝顔は幼く、酷く儚げだ。疑う事など知らない、子供のような。とても繊細で、すぐ壊れてしまいそうな。

 今までは何も知らずに来れた。けど、これからは違う。旅をしている。ガイルを倒すという決意までをもした。今まで通り平和で。なんて、とっくに崩れてしまった。村が滅んだ日から。否、もっと前から―――


(・・・・・・此処まで来ちまった。ルフィアに、思い出させちまうかもしれないな・・・・・・。すまない、ルフィア・・・・・・せめて、もう少しの間でも良いから、良い夢を見てくれ・・・・・・・・・・)


 もう、後戻りなんて出来ないだろう。

 ルフィアの寝顔を見ながら、その傍らで深い眠りについた―――






 


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