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悲しき旅立ちと果てしない目標

 




「ルフィア! 起きろ!」

「ん〜、後ちょっと寝かせて下さい〜」


 小さな動物が青髪の少女を起こそうとしているが、少女に起きる気配は感じられない。寧ろまだ寝続ける気らしい。また毛布に包まった。


「・・・・・・ったく。ルフィア! 学校に遅れちまうぞ!」


 たった一言だったが、飛び起きるには十分だった。


「遅れちゃうっ!?」


 ルフィアと呼ばれた少女は飛び起き、慌てた様子で名を呼んだ。


「レキっ! 服を取って下さい!」


 レキと呼ばれた動物はクローゼットを開け、器用に爪の先だけを使い、服をルフィアに放り投げるように渡した。


「ほらよ」


 受け取ると、ありがとうございます、と言って素早く着替えた後、青色の長い髪を高く結い上げた。


「外でライムとティアが待ってんぞ。早く行ってやれ」

「は、はい! それじゃあ行ってきますね!」


 近くに用意されていた鞄を手に取り、レキに挨拶をした。


「へいへい。分かったからさっさと行け」


 適当に扱われ、ルフィアは少し不満そうだったが、時間も無かったので走って向かった。









 家を出てすぐの所で、二人の人影が見えた。

 更に急いでそちらへと向かう。


「ルフィア〜! 遅れちゃうよっ! 早く! 早く〜!」

「早くしろ! 置いてくぜ!」


 手招きをして、二人してルフィアを急かす。


「ま、待って下さいよ〜っ! ライム、ティア〜!」


 ライムと呼ばれた、明るい緑色の無造作に伸ばされた髪を腰より少し上の位置にまで伸ばしている少年と、ティアと呼ばれた、茶色のセミロングで、右に小さな三つ編みの髪の少女が、ルフィアを急かし続ける。

 二人はいつも、ルフィアの家から少し出た場所でルフィアの事を待っている。その所為で遅刻をする事が非常に良くあり、その度にルフィア達は一緒に、先生に怒られている。

 原因は言うまでもなく、ルフィアの寝坊によるものだ。低血圧なのか、昔から非常に寝起きが悪い。

 ライムはルフィアの密かな想い人だ。見た目よりもうんとしっかりしていて、少し頭が悪いのが欠点。しかし回転は速く、何事にも素早く対応できる。ルフィアとそんなに年齢が変わらないのに、ライムは自分で狩りをして生計を立てている。

 村より少し離れた位置にある小屋のような家に一人で暮らしている。

 両親はライムが幼い頃、旅に出てしまい、それ以来一度もこの村に帰って来てないらしい。ライムは途中まで、村長にお世話になっていたが、暫くするとすぐに自分の力で暮らし始めた。

 弓の腕は若いながらも、この村で一番だ。狙った獲物は逃さず、百発百中と言っても過言ではない命中率で仕留める。

 ティアはルフィアの一番の女友達だ。自分の意志をしっかり持っていて面倒見が良い、明るい少女だ。何事もはきはきとしているが、友達想いの優しいところもある。多少飽きっぽいのがたまに傷。

 両親はこの村で医師をしており、ティアもまた、そんな両親の様に法術師なりたく、今法術を勉強中だ。

 法術と言うのは、別名、癒しの力とも言われており、己の魔力を用いて傷や病気などを癒す力の事だ。その為、法術師になるのは非常に難しい事だ。もし、この力を悪用する事があれば、大変な事になってしまうかららしい。法術を得たものは、それを反対の意味で使えるようにもなるからだ。つまりは、法術で命を救えるとすれば、命をも奪う事が出来る。

 今のところ、簡単な法術と薬の配合を主として勉強している。ティアの両親の話によると、才能はあるらしいが、やはり、飽きっぽいのが難点だと言っている。

 






 学校に着いた三人はその景色を見て愕然とした。

 学校があった筈の場所には瓦礫の山しか在らず、その所々から灰色の煙が上がっている。瓦礫の中からは火がまだちらほらと窺えた。

 地面は血まみれで、誰かの肉体が転がっていた。誰のかは判別出来ない程、形が崩れていてどこの部分かも分からない位だった。


「・・・・・・何これ・・・・・・!」

「・・・・・・皆は何処だ!?」


 三人が周りを見回していた時、ルフィアはとある物を見つけ、ライム達にそれを見せた。


「・・・・・・ライム、ティア、これを見て下さいっ」


 差し出した手の平の上には、紅い布が乗っていた。

 よく見ると、紅い龍の額から剣が突き付けられている刺繍があった。その龍の顔をよく見ると、紅い涙を流している。


「この紋章は・・・・・・!」

「ガイルの紋章! くそっ!」


 ガイルの紋章とは、ガイルという一人の男が率いる軍隊のような組織を象徴しているものだ。

 殺戮、破壊を遊びと思っている、人として最低の男だと、ルフィアは思っている。

 今まで、ガイルが殺した人、村や町は数知れないという。国を一人で滅ぼしたという説もあり、人々は密かに恐れている人物だ。

 そんなガイルの下に居る者達は、大抵ガイルに弱みを握られ無理矢理仲間にされた人達だ。

 ある者は家族を。ある者は村を。ある者は一族を、守る為にガイルに力を貸しているらしい。

 抵抗したくても、その力は絶対的だった。

 たった一人相手が相手だとしても、誰も勝てない。だから、人々はただその影に怯えて生きるしかない。

 ガイル紋章を、地面に叩き付ける様に投げつけた。

 紋章はひらりひらりとルフィア達を嘲笑う様に地面に落ちた。


「・・・・・・二人共、村へ行こう!」

「分かったわ!」

「急ぎましょう!」


 三人は村の皆の無事を祈りながら、急いで向かった。







 村に着いた三人は、壊された学校を見た時のように、村を見て愕然とした。

 家は一軒残らず全て焼かれており、地面には昨日まで一緒に笑いあっていた村人の顔が紅い血を流して転がっていた。地には血がそこら辺にたくさん付いていて、たくさんの種類の武器が散乱している。

 落ちている武器はとても良い物とは言えない代物ばかりで、きっとこれは村の皆が急いで集めた武器なのだと、悟れた。

 それを考えると、いつものように寝坊をしてしまった自分を恨みたくなった。

助けられなかった。

 その気持ちで一杯になる。

 たった一人で国を滅ぼす者に、この村の者全員が武器を持っても勝てる筈がない。けど、もしかしたら、ルフィア達が居ただけで少しは状況が変わっていたかもしれない。そう思うと、悔しさだけが残る。


「酷いです・・・・・・っ。酷すぎます! これも、ガイルの仕業何ですか!? 許せません・・・・・・っ!」


 涙を流しながら嘆いた。今のルフィアに、涙を止める事が出来なかった。ガイルへの恨みが一気に湧き出てきた。


「・・・・・・お父さん、お母さん・・・・・・? ・・・・・・っお父さん、お母さんっ!」


 ティアは泣き叫びながら焼け焦げた我が家へと向かおうとした。しかし、そこにはもう人が居るとは思えない程焼け崩れている。

 我を忘れて家に向かおうとするティアの腕を、ライムが掴んだ。


「ティア、行くな! まだ奴等が居るかもしんねぇんだぞ!」


 自分が泣きそうになりながらも、必死にティアを止めた。今止めないと、きっと大変な事になってしまうからだ。


「だって・・・・・・お父さんとお母さんがっ・・・・・・! みんなが・・・・・・!」

「・・・・・・ティア・・・・・・今の私達は殺されるのが落ちでしょう。一先ず私の家に行きましょう? 朝来る時点で何もなかったですから、まだ大丈夫な筈です。それに、レキも居ますし」

「・・・・・・でもっ!」


 焼けた家々から目を離さない。必死に見詰め続けている。そんなティアは、迷子の子供のような不安げな表情で、いつものティアらしくない。いつもは自信たっぷりで、でもそれが嫌味でない、そんな表情だ。あの明るい表情は、かけらも見えない。


「・・・・・・ティア・・・・・・・・・お願いです・・・・・・」


 ただじっと、泣き叫ぶティアを見詰めた。

 本当は、ルフィアも生きている村人が居ないか探したかった。けれど、もしかしたらまだガイルの達が居るかも知れないと思うと、早く此処を離れるのが良いと判断したから。だから、その事を分かってもらいたくて、ただティアを見詰め続けた。

 想いが通じたのか、ルフィアを見た後、村の方を一目見て、唇を噛み締め耐えるように静かに言った。


「・・・・・・分かった、わ・・・・・・っ」

「・・・・・・ティア、ありがとう・・・・・・・・・」


 くるりとルフィアの家の方向を向き、早歩きで歩き始めた。

 理解してくれた事に安心して、ルフィアはそっと胸を撫で下ろした。ティアに聞こえないような声で、そっと呟いた。







 三人はルフィアの家に着いた後、全ての事をレキに話した。ガイルの紋章、焼け焦げた村と、血まみれだった大地の事、全てを詳しく説明した。


「・・・・・・そんな事が、遭ったのか・・・・・・・・・」


 全ての話しを聞いた後、悲しそうに呟くように言った。


「・・・・・・レキ。私達はこれから一体どうすれば良いんですか・・・・・・?」


 不安を感じ、レキに尋ねた。

 あまりにも、突然過ぎた。昨日までの平和は、本当は幻だったのではないかと疑いたくなる程、ルフィア達のショックは大きかった。

 先程から、ずきずきと頭が痛んで仕方ない。まるで、脳がもう考えるなと言っているようだ。


「・・・・・・旅に出る。今は生きる事が優先だ」


 はっきりとした言葉に、ルフィアは青の瞳を揺らした。


「・・・・・・! でも、此処等辺は魔物が多いんですよ! いくら弱いとは言え、私達だけでは危険です!」


 此処等一帯の魔物は決して強くはないが、数が多い。魔物に集団で襲われたりすると、多勢に無勢。いくら弱いとは言え、ルフィア達が不利な状態になる。

 まだ経験もさほど無いルフィア達にとって、危険な行為に変わりない。


「じゃあ何か? お前は黙って此処に居てガイルの連中に殺されたいのか?」


 その言葉が、深く胸へと突き刺さる。


「・・・・・・っ!」


 黙って殺されるなんで、絶対に嫌だ。死にたくなどないに決まっている。どんなに足掻いてでも生きたいと思う。だから、言い返す事が出来ない。

 何も言えなくなり、黙りこくってしまった。


「・・・・・・」


 暫く続いた長い沈黙を、ティアの力強い、はっきりとした声が破った。


「・・・・・・・・・ルフィアには悪いけど、私は行くわ。お父さんとお母さん、それに村の皆の仇を取ってみせる!」


 その瞳には、強い意志が籠もっていた。それと一緒に、深い悲しみと、切なそうな想いがあった。

 きっともう、分かっているのだ。両親は、きっともうこの世にはいなくなっている事を。だから、そんなにも悲しく切ないのだ。やり切れない想いを、ガイルにぶつけると、決めたのだ。


「・・・・・・ティア・・・・・・」

「ルフィアにゃ悪いが、オレも行かせてもらうぜ! 此処でずっと悲しんでる訳にもいかないし、だいちティアだけじゃ心配だしな! ・・・・・・ルフィアはどうする?」


 ルフィアはライムの瞳を見詰めた。

 瞳には迷いがなく、真っ直ぐルフィアだけを見ている。

 一人でずっと生きているライムは、自分で判断する事がしっかりと出来る。何事も自分で決めなければいけない環境で育ったからかもしれないが、その判断は殆どが正しいものばかりだった。

 意志を変えるつもりは無い、村のみんなの仇を取る。瞳は、そう語っている。


「・・・・・・私は・・・・・・いいえ、私も行かせていただきます!」


 迷いの無い、力強い笑みを浮かべて言った。

 二人が行くからではなく、ルフィアの意志でそう決めたのだ。

 此処に居ても仕方が無い。先に進まなければ、此処に居るだけでは、ただ死を待つ者になってしまう。そんなの嫌だった。それに、ライム達同様、村のみんなの仇をとりたい。

 だから、進む事に決めたのだ。


「よし、決まったぜ!」


 三人はお互いに笑い、頷きあった。


「取り敢えず、少し遠いがシルアに行くぞ」


 港町シルア。

 たくさんの船が行き交う、有名な港町だ。此処の村からはさほど離れてはいない場所だ。

 昔、一度だけレキと一緒にシルアに行った事があった。

 人がたくさん居て、明るい、そんな事を良く覚えていた。


「それぞれ準備をしましょう。なるべく早く。ガイルの人達に見つかるといけないので・・・・・・」


 話し終えるとすぐにライムは立ち上がった。その後に続いてティアも立ち上がる。


「分かったぜ。じゃあ此処で集合な」

「私、少しだけ町の様子見てくる。じゃーね」

「気を付けて」


 手を振りながら、二人は外へと出て行った。






「・・・・・・みんな行ってしまいましたね、レキ。私はこの剣だけで良いですから、少し、寝ておきます。レキ、ライム達が集まったら、私の事を起こして下さいね。後、ガイルの人達が来たら・・・・・・」


 悲しそうに笑って言った。

 きっと村の様子を思い出したんだな、と思い、この会話を早々に打ち切った。


「分かったから寝ろ」


 微かに微笑みながら、ルフィアは静かに眠りに付いた。


「・・・・・・ついにガイルが、此処を嗅ぎつけちまったな」


 レキの呟きは、寝つきの良いルフィアには聞こえていなかった。





(・・・・・・此処は・・・・・・?)


 目を覚ますと見覚えのある、建物の残骸の中に立っていた。

周りには無数の死体と、血と、炎。紅い色と真っ暗な闇。

 身体を動かそうとしても、金縛りがあっている様に、びくともしない。

なんとか首だけ動かし、自分の姿を見ると血まみれだった。


(・・・・・・嫌・・・・・・。・・・・・・嫌、嫌っ! 助けて・・・・・・! 誰か助けて!)


 その時は、何故だかルフィアは自分が死んでしまうかもしれないと思った。

 必死に思った。死にたくない、助けて、と。それでも誰も助けには来なかった。





 耳元で声がする。


「・・・ァ・・・・! ・・・きろ、起きろルフィア!」

「・・・・・・レ、キ・・・・・・?」


 ゆっくり体を起こすと、レキが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫か? 大分魘されてたぞ?」

「・・・・・・そうですか・・・・・・もう、大丈夫です・・・・・・」


 心配掛けまいと無理に笑った。

 その無理をしていそうな笑顔は毎度の事なので、あえてレキも指摘はしなかった。


「・・・・・・またあの夢を見たのか?」

「・・・・・・はい・・・・・・」


 あの夢とは、最近ルフィアが見始めた、血まみれの地面に立っているという夢だ。

 実はルフィアは記憶喪失と言うもので、この村に来た時から記憶が無かった。唯一の記憶の手がかりは、村に来た時に一緒に居たレキだけだったが、レキは記憶について話そうとはしなかった。先ほど見た夢は、過去に繋がっているかもしれないものだった。

 頭の痛みが増していた。

 二人に長い沈黙が続いていたその時、ライムとティアが帰って来た。


「準備、終わったぜ」

「・・・・・・ライム、ティア。お帰りなさい」


 二人を笑顔で出迎えた。


「ただいま、ルフィア。どうしたの? 汗びっしょりだよ? 大丈夫?」


 帰って来てすぐに、ルフィアの様子に気付き駆け寄って来た。

 先ほどの夢を見ていた所為か、いつの間にか汗だくになっていた。


「・・・・・・大丈夫ですよ。少し夢をみただけですから。それより、もう出発しても大丈夫ですか?」


 二人はゆっくりと頷いた。ルフィアとレキも頷き、ティアが家の玄関の扉を開け、勢い良く地面を蹴って歩き出した。

 空は今のルフィア達の想いを励ますかの様に、青く澄み渡っていた。


「それじゃあ、出発〜!」


 不安な気持ちを吹き飛ばすかのよう、明るい声でルフィア達に向かって言った。


「・・・・・・遠足じゃないんだがな」


 レキは呆れたように言った。その後、暫くレキはぐったりと寝ていたとか・・・・・・。






悲しみを背負い、三人と一匹は旅に出た。いつ終わるか分からぬ、復讐への旅へ―――





 

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