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捜査編

 2:捜査編


 それは衝撃的な光景だった。

 世界でも最強に数えられる竜人族を統べた戦士は、もう見る影もない。鉄格子の窓の向こうに見えるクトゥグアの姿は、とても原型をとどめたものではなかった。頭部を切断され、尻尾を切断され、両腕を切断され、両足を切断され、切断されたそれらが密室のあちこちに撒き散らされているのだ。

 そう。密室。

 「……鍵がかかってるねぇ」 

 やる気のない声でそう言ったのは、部屋の前で棒立ちをするナイヤだった。そのガリガリの手で部屋の扉に手をかけている。だがそれは本当に『手をかけている』以上のものでは決してなく、扉は風が吹いたように僅かに震えるだけだったが。

 「う、うう、嘘、嘘でしょう? なな、な、なんでクトゥグアさんが……」

 九頭龍がそう言って顔を青くする。それは恐れるのも無理はない。クトゥグアは四天王の中でも戦闘面では屈指の存在だった。それをこうまでも還付なきまでに、猟奇的に殺害された。

 「そんな……クトゥグアさん。今日、わたしと戦うって約束……」

 ユースが口元に手を当ててそう言った。驚愕が隠し切れない様子だ。それはそうだろう。自分と戦闘することになっていた魔族が、自分の手に寄らぬところでこうも完膚なきまでに殺害されているのだ。

 「……異常だね」

 ハスタールが死体の状況を一言で言い表す。

 「極めて猟奇的だ。そこの闇属性でもここまでえげつないことをやらない。犯人は脳筋バカによほど恨みがあったのかねぇ?」

 「……恨みを買うような人でしょうか?」

 ユースが顔を青くしたまま口にする。

 「あいつだって魔王軍の一員だ。それなりのことを、それなりにしてきている。……四天王としての奴に恨みがあるとすれば、ユース・フーリッジ、君だろうね」

 ハスタールがユースに視線を向ける。ユースは首を振るった。

 「ち……違います。わたしは……こんな……」

 「はん。こいつを殺しにきておいてそれかい?」

 肩をすくめてから、ハスタールは口元に笑みをにじませる。

 「まあ大丈夫だよ。本当は君のことなんかこれっぽっちも疑っていない」

 「どうしてだ?」

 ヨグはハスタールに視線を向ける。ハスタールは小ばかにしたような声で

 「あの訓練バカを人間に殺せるわけがない」

 そう断言する。ヨグにも、これといって異論はなかった。

 「……ならば。こういうことになるけれど……」

 そこで、ナイヤが億劫そうに口を開く。開かない扉を前に、死んだ魚のような目をひたすら正面に向けて微動だにしない。枯れ木が喋っているようだ、ヨグはついそんなことを思った。

 「……クトゥグアを殺した犯人は……ワタシたちの中にいる……」

 「そうだね。動機もある」

 ハスタールがそういうと、九頭龍が怯えたような目であたりを見回して

 「そそ、そ、そんなことって……」

 「動機もある。クトゥグアが死んだことで、ボクらは確かに四天王になったのだからね。そこの脳味噌筋肉バカが死んだお陰でさ」

 「おい、口を慎めっ」

 ヨグは叫ぶ。ハスタールは首を振って

 「犯人はこう思っているだろうってことさ。……そしてヨグ、ボクはその『犯人』がもしやおまえなんじゃないかと少しだけ疑っている」

 「な……」

 ヨグは言葉に詰まる。ハスタールは落ち着いた声で

 「これはボクにも当てはまることだから追求はできないが……ヨグ、君は昨日の深夜、自分の持ち場を離れていた。二時ごろ、ボクらは二階であったよね? あの時君はそのまま自分の持ち場に戻ることなく、クトゥグアのところに向かったんじゃないのか?」

 「……俺からすれば、一階に行っていたというおまえの方が怪しい。疑わしいのはお互い様だ」 

 「確かにね。ただ、自分を卑下するようなことだから言いたかないが、ボクじゃあの脳味噌筋肉バカにはどう逆立ちしたってかなわないよ。不意打ちが通用するような相手でもない。この中でクトゥグアを殺すことができるとしたら、魔王様を除けば、九頭龍か、ヨグ、おまえたちくらいのものだろう」

 「……あ、あたしには無理よ」

 九頭龍が釈明するように

 「そ、そもそも。あたしは昨日は一晩中、寝ていただけだし……」

 「どうだか」

 ハスタールは首を振るった。

 「……とにかく。中を調べてみないことには始まらない」

 ヨグがそう言って魔王様の方を見る。アザトフォートはクトゥグアの死の衝撃からか、少しうつろな表情を浮かべていた。

 「魔王様?」

 「あ……うん。大丈夫だよ」

 アザトフォートは気丈なふうに笑う。

 「クトゥグアのことは、ずっと一緒だったから、残念だけれど……。でも、彼も覚悟していたと思うし。わたしが悲しんでばかりいる訳には、いかないから」

 強い方だ。ヨグは思う。しかし平気そうに振る舞っている仮面の裏で、主が酷く悲しんでいるのは間違いなかった。その優しさゆえ、すべての魔族の為に魔王になった彼女なのだ。仲間の死がつらくないはずがない。

 アザトフォートが片手を伸ばすと……それは巨大な闇へと姿を変えた。闇はヨグたちの視界の中で瞬く間に肥大かし、巨大だが歪に細い人間の腕のような形状をとる。深い闇の手がクトゥグアの部屋の扉に触れる。次の瞬間には、魔王の手が触れたすべて、なんの痕跡も残さず消え去っていた。

 周囲の壁ごと扉が消失したその情景はともすれば恐怖的だ。ユースは信じられないような目でアザトフォートを見る。

 「あなたが……魔王?」

 視線を向けられているのに気づいて、アザトフォートは少し怖気づいた様子でちょんと首を縦に振る。

 「あなたは……勇者?」

 「そう。人間の為に、あなたを殺しに来た」

 ユースはうなずいて、腰の剣に手を触れようとする。それをヨグが制した。

 「待てよユース。君がその剣を抜くなら、俺達は四人がかりで君を殺さなくちゃならなくなる。一切の手加減容赦はできない。一瞬で消し炭になる。分かっているのか?」

 そう言われ……ユースは歯噛みして剣から手を離した。

 「……警告してやるなんて甘いじゃないか。まぁ……今はそんなことより、中の捜査だね」

 ハスタールはそう言ってクトゥグアの部屋の中へと足を踏み入れていく。ヨグが、それに続いた。

 「……君たち二人は、やめたほうが良いかもしれないねぇ……」

 ナイヤがぽつりと言った。小さく陰気な声だったので、聞き取れたのはヨグくらいのものだろう。

 「どうしてだ?」

 「……現場に何か残っているかもしれない」

 「だから調べるんじゃないか」

 相変わらず変な奴だ。思いながら、ヨグは部屋の捜査を始めた。


 部屋に入ったのはハスタールとヨグ、そしてユースの三人だった。

 「……クトゥグアの部屋は、ほかのメンバーが使っているのと同じ。廊下側と外側に鉄格子の窓が一つずつあるだけのシンプルな部屋だね」

 ハスタールがクトゥグアの死体を踏み荒らしながら言った。

 「あちこち血まみれだけれど、足跡やら手形やらの分かりやすい手がかりはない。死体が分解されているということは……犯人は切断系の魔法か剣を使ったということになる」

 「まずは死体を調べないとな」

 言って、ヨグはクトゥグアの分断された体に触れる。

 闇属性の魔術師であるヨグにとって、血まみれの死体に触れることは大きなストレスにはなりえない。だがしかし、長年共に過ごしてきた仲間がこう無残に殺されている様子を見るのは、心が痛むものがある。

 それはきっと……この軽薄に見えるハスタールだって同じことだろう。でなければ、犯人を捜してクトゥグアの部屋の捜査などやりはしない。

 「なぁハスタール」

 ヨグが声をかけると、ハスタールは無言のまま続きを促してきた。

 「クトゥグアをこんなにした奴のこと……恨んでいるか?」

 「そんなことだったのか。無駄話をする前に手を動かしたらどうだ?」

 ハスタールはそうぴしゃりといって……しばらく沈黙してから

 「……犯人を恨むほど情が移っちゃいない。ただ、あいつを含むボクたち四天王は魔王様の手足だ。手足であり、肉体の一部であると誓った。魔王様の手足を魔王様に断りなく捥いだりするやつは、魔王様に忠誠を誓うものとして絶対に許してはならない」

 それから付け足すように

 「例えそれが仲間であっても、おまえであってもだ」

 それっきり、何も言わなかった。

 「俺もだ。ハスタール」

 ヨグは答える。

 「魔王様を悲しませる奴は許さない。九頭龍も、ナイヤも、同じ気持ちだろう」

 だから。必ず見つけ出す。こんなことをした犯人を。

 クトゥグアの体は両手、両足、胴体、尾、それに頭部で分けられていた。切断面は非常に綺麗で、分断に苦労した様子はない。これを魔術でやったにせよ武器でやったにせよ、相応しい使い手でなければ難しいと考えられる。

 「何か見つかったか?」

 ハスタールに尋ねると、彼は指をさして

 「こんなものを見つけた」

 視線を向ける。外側に取り付けられた窓に、黒ずんだような痕跡が見られた。鉄格子は熱で僅かに形を変えており、何らかの手段で加熱したであろうことが伺えた。

 「……奴が火でも噴いたか?」

 クトゥグアは竜人だ。炎を吐く能力を有している。それは生命体として備わっている機関であり、魔術などではない。故に、魔王が魔法封じを使用した後で行われた可能性がある。

 「いつ吐いたかは分からない。ひょっとしたら、昨日の昼間の段階では既にこうなっていた可能性もある。手がかりと言えるかは微妙なところだね」

 ハスタールはそう言ったきり、捜査に戻る。ヨグもそれにならった。

 分断されたパーツを一つ一つ調べていく。戦闘をした形跡が見つかれば、そこから誰の犯行か、目星が付けられると考えたのだ。

 だがしかし、クトゥグアの体はそもそもが古傷だらけで、手がかりといえそうなのはなかった。

 どうしても最後に残してしまう頭部に手をつけたところで……ヨグは『それ』を発見する。

 「おや?」

 クトゥグアの口内で、何かが光ったような気がした。あまり良い気分ではなかったが、中に手を突っ込んでみる。金属のような感触のそれを取り出してみると、はたしてそれはこの部屋の鍵だった。

 「嘘だろ……」

 「どうしたんだい?」

 ハスタールが身を乗り出してくる。ヨグは、クトゥグアの口内から発見した鍵をハスタールに示した。

 「これは……」

 「鍵だ。この部屋の」

 ヨグは答えて

 「これが内部から発見されたということは……どういうことだか分かるか?」

 「……ああ」

 ハスタールは神妙な顔で

 「……面倒なことになったね」

 ヨグは黙ってうなずいた。


 部屋の捜査を適当なところで切り上げ、外で報告を待っていた三人と共に会議室へと向かった。

 魔王様はというと一人で自分の部屋、もとい魔王の間にお帰りになられた。自分は人見知りだし、勇者が城に攻めてきている時くらいは定位置にいるつもりだと建前を言っていたが、実際はクトゥグアの死を受けて参っているのだろう。あの方は誰よりも仲間思いなのだから。

 「……鍵が中から発見された……つまり、あの部屋は完全に密室状態だった訳ですね」

 ユースが言うと、ハスタールがうなずいて

 「この城に同一の鍵は二つない。ほぼ間違いないと言っていいと思うよ」

 「……だが、魔王様が扉を『消し去る』前までは、扉の鍵は確かに内側から閉まっていた」

 ナイヤが死にそうな声で言う。九頭龍が

 「そ、それってどういうことなのよぉ……。もうい、いやだ……」

 泣きじゃくりながら言う。こいつはとても使い物にならないだろう。

 ヨグは口を開く。

 「犯行があった現場について、分かっていることを整理するぞ。

 犯行現場は一階のクトゥグアの寝室。ここは内側からのみ施錠ができるようになっていて、合鍵の類はない。窓は廊下側と、その向かいにある城の外を見通せる窓の二つ。窓には鉄格子がはまっていて、ここからの出入りは考えなくて良い。

 事件が発覚した時点では、部屋には内側から鍵がかかっていた。内部は血まみれで、壁から窓の鉄格子から真っ赤になっていた。足跡など犯人の手がかりはない。

 被害者であるクトゥグアは両手足と尾と頭で、体が七等分にされていた。切り口はすごく綺麗で、何かの心得がないと犯行は不可能であるように思われる。

 部屋の鍵は切り裂かれたクトゥグアの頭の、喉の奥に突き立っていた。

 また、外側の窓の鉄格子に火で加熱したような形跡が見つかっている。相当な火力だったようで、クトゥグアが口から火を吹いたものと考えられる。

 ……ここまでで、何かあるか?」

 「鉄格子の幅はどうだったんですか?」

 質問したのはユースだ。ヨグが答える。

 「ぎりぎり手が通るくらいだ。当然ここからの出入りは不可能だし、また腕より太いものを通すこともできない。九頭龍の触手でもきついだろう」

 「抜け道とかはないんですか?」

 「ない。魔王の城だからって、そんな気の利いたギミックがある訳じゃない」

 「つまり、完全な密室だったということですか?」

 「そうなる」

 改めて確認して、げんなりとした気持ちになる。そう、まさにあの犯行現場は完全密室だった。

 「……では。人の手での犯行は不可能ということですね」

 ユースはそう結論付ける。

 「い、一見、そう見えるわね。本当に、ど、どうやったのかしら……」

 九頭龍が言う。まさにその謎だ。犯人はどうやって鍵を破壊せずにクトゥグアを殺害し、施錠されたままの密室から出たのだろうか。壁抜けでも持ち出さない限り、話を解決できないではないか。

 「だったら……犯人は分かったようなものじゃないですか?」

 ユースは言った。九頭龍がそれに食いついたように

 「ほ、……本当に? ど、どういうことなの?」

 「ええ。犯人は、ハスタールさんです」

 それを聞いて、ハスタールは肩をすくめる。そして興味のあるような表情でユースを見詰めた。

 「へえ。小娘、おもしろいことを言うじゃないか。根拠を聞かせてもらいたいね」

 その余裕のある態度は、人間であるユースをなめているからなのか。或いは、自分に非がないことを知っているゆえのものか。

 「今聞いた話だと、人の手での犯行は不可能だといって良いです。何せ密室なんですから。となると、何か超常的な力が犯行に用いられたと考えるしかありえません。そして、この中にいる魔法使いは、ヨグさん、ナイヤさん、そしてハスタールさんです」

 ヨグは闇属性、ナイヤは地属性、ハスタールは風属性のそれぞれエキスパートだ。

 「ハスタールさん。言ってましたよね。ハスタールさんの得意とするのは、空間を自由自在に行き来する術だって。ハスタールさんなら、鍵のかかったままクトゥグアさんの部屋に入って、犯行を成し遂げて出て行くことができたんじゃないですか?」

 「なるほど……疑う理由はよく理解できたよ」

 ハスタールは余裕の態度を崩さない。

 「確かにボクならば、君のいうとおりのことができただろう。実行したかどうかはともかくね。あの鍛錬バカをどう殺したのかという問題を除外すれば、朝飯前だ」

 「ま、待ってよ」

 九頭龍が口を開いた。

 「ハ、ハスタールさんが犯人だなんて、お、思えない。だだって、もしハスタールさんが空間転移の魔術でクトゥグアさんの部屋に入ったのだとしたら、ど、どうして鍵を開けて出て行かないの? そんなの、密室で死体見つかれば、自分が怪しまれるのなんて、わ、分かりきっているはずなのに……」

 確かにそのとおりだ。ハスタールはバカではない。自分にしかいけないところに死体を転がしておくなどするものか。

 「ハスタールが空間転移でクトゥグアを殺したという説ならば、簡単に否定できる」

 ヨグが言った。ユースは怪訝そうな目をむける。

 「どうしてですか?」

 「昨日、俺は皆が自分の寝室に向かった後で、魔王様のところへ行ったんだ。ユースが城の中にいることを伝えると、魔王様は皆の安全の為に『魔法封じ』の術を城内にかけられた。解かれたのは、皆がここに集まってからだ。その間、魔法を使えたものは誰もいない」

 「本当ですか?」

 「ああ。魔王様のしたことを、俺達は疑えない」

 四天王は一斉にうなずく。ユースは渋い顔をして

 「なら……ハスタールさんは犯人じゃないってことですか」

 「君の言う方法が取れないというだけの話だ。容疑者から外れたわけじゃないよ」

 ハスタールは言って首を振るった。

 「昨日の晩、いつものように研究をしていたら、突然魔法が使えなくなるものだから。びっくりしたよ。そんな芸当ができるのは魔王様だけだと分かっていたから、そのまま寝たんだけどね」

 「じゃ。じゃあ……。犯行に魔法が使われているという可能性は、排除して良いってことですね」

 「……どうかな……本当にそういうことで良いのかな……はぁあ……」

 そこでため息がちに発言したのはナイヤだった。「うわ、喋ったっ」と口にしたのはユースだったが、それも無理からぬことだろう。

 「……ファンタジー的要素の排除……そういうことにしておいたほうが分かりやすいし……誰にとっても幸せなのは間違いないだろうね……。ただ……ミステリとファンタジーは水と油だっていうけれど……はたして本当にそうなのかな。ようは……どう想像力を働かせても思いつかないようなことを後出しされると、謎解きが破綻するというだけの話で……。必要な情報を事前に伝えておくことさえできれば、それはフェアな作品たりえるんじゃないかな……」

 「何いってんだこいつ」

 そう言ったのはハスタールだった。ヨグも同じ意見だった。三行以上の文章を喋ったと思ったら、この理解不能っぷりだ。

 「はいはいっ! 意見がありますっ!」

 ナイヤの意味不明な発言によって停滞しかけていたのを破ったのは、明るい声のユースだった。

 「わたしって結構、町の衛士さんが主人公の町でおこった事件を解決するみたいなお話、読むの好きなんですよ。で、それだとたいてい、事件が起こった後衛士さんは容疑者候補の人たちから『アリバイ』っていうのをきくんです」

 明るく能天気なその声。こんな態度に出られるのは、当然この中ではユースだけだろう。彼女は言ってしまえば完全な部外者なのだ。クトゥグアと旧知の仲という訳でもなく、また容疑者候補としてはもっともシロに近い位置にいる。

 人間に四天王の一角を倒せるはずがないのだから。

 「あ、ありばい? な、なにかしら、それ……?」

 九頭龍が吃音気味に言う。

 「え……えっと。その……上手には説明できないんですけど……それがなかったらとにかく怪しいんですよ。アリバイかあるから犯行は無理ってことになるから、逆にどうアリバイを作るかっていうのが主眼に作られたお話があったりなかったり……」

 要領を得ない。皆がしらける中で、面倒くさそうに発言したのはナイヤだった。

 「……『不在証明』。犯行が起こりえた時間帯に、自分が犯行現場にいなかったことを証明する証言、証拠など。……それがアリバイだね…………」

 「うわまた喋った」

 ユースがあんまりなことを言う。ナイヤはそれを意に介した風もなく

 「……ちなみにワタシのアリバイはないよ……。……昨日は食事が終わったら部屋に戻ってそのまま朝まで何もせずにいたからね……。はあ……」

 この女の『何もせずにいた』は、本当の意味での『何もせずにいた』だ。眠ることすらせずに、ただ椅子に腰掛けて死体のように一晩を過ごしたのだろう。

 「つまるところ、昨日の晩の行動を説明すればいいってことなのかな?

 だったらボクにもアリバイはないね。昨日は食事が終わって十一時、部屋に戻って魔術研究を始めた。それで二時ごろ、ユース、君のことが気になって一階へ見回りに出かけた。その後五階に戻る途中で、そこのヨグと遭遇した。何事もなくお互いの部屋に戻ったよ」

 ハスタールが言う。九頭龍が目をむいて

 「ちょちょっと……まってください。そ、それって怪しくないの? 二時ごろに一階に行っていたなんて……」

 「怪しむなら好きにしろよ。特に否定できる要素もないからね」

 ハスタールは投げやりに言った。

 「そういう九頭龍、あんたはどうなのさ? あんた第一発見者だったね?」

 九頭龍がまず格子の窓からクトゥグアの死体を確認し、驚いて魔王様のいる五階まで行った先で、ハスタールにことを報告したのだ。七時に階段を上っていく九頭龍を確かにヨグは目撃している。

 「あ、あたし? あたしはその……。食事が終わった後は、ヨグさんに城門のことを相談しに行って……それが終わったら部屋に戻って寝たわ。な、何もしてないし、クトゥグアさんだって、殺してないわっ!」

 「どうだかね。で、最後に君だ、ヨグ」

 問いかけられ、ヨグは訥々と

 「食事が終わった後は、九頭龍も言っていたように、城門のことで相談を受けた。城門の前の水掘が乾ききっていたと言われたんだ。それで心配になった俺は、魔王様のところにユースのことを報告に行った。魔力封じが行われたのは、そのタイミングだ。

 そして二時ごろにも五階の魔王様のところへ行った。次に一階のユースの様子を見に来る途中、ハスタールと遭遇した。その後のことは、ハスタールの言っているとおり。

 その後。四時半ごろに魔王様が俺の部屋に来られた。よそ者が城へ来て、やはり不安だったようで、俺は魔王様と一緒に朝を迎えた。つまり、この時刻より後のアリバイは俺にあるということになる。

 そういえば……。この時刻より俺は魔王様をお守りする為に、鉄格子の前に現れるすべての人影に目を凝らしていたんだ。しかし七時が来るまで誰もそこを通っていない。部屋は階段のすぐ傍だから、四時半以降に階段を通過した奴はいないということになるな」

 「魔王様とのアリバイなんだ。立派な不在証明だろうさ」

 皮肉がるような口調だが、認めるようにハスタールが言った。

 「だったら一応これも聞かなくちゃいけませんね。三階以上にいる人はだれですか?」

 ユースが問う。ハスタールが流暢に

 「五階がボクと魔王様。四階がナイヤ。三階がヨグで、二階に九頭龍。一階は君とクトクグア……だったね。それで人間。あんたのアリバイも一応聞いておこうか」

 「はーい」

 ユースが気楽な声で

 「ごはん食べたら部屋に戻ってすぐ寝ました。だからアリバイはありません」

 随分とあっさりしたものだ。しかしこれで分かったことは、アリバイを理由に容疑を逃れられるものは一人もいないということになる。

 「……犯行時刻を特定すれば、一人くらいシロにできる人物が出てきそうなもんだけど」

 ハスタールが提案する。ヨグは首を振ってそれを否定した。

 「なに一つ特定できる要素がない。アリバイの線で犯人を絞るのは無理そうだな」

 「だったら。密室の形成方法から、それが可能な人物という線で考えてみましょうか」

 ユースが提案する。

 「密室の形勢方法なんて……そ、そんなの分かるわけないわよ。だ、だって……一つしかない鍵が、鍵のしまった室内から見つかったんでしょ……? 内側から鍵をかけて、その状態から犯人は外に出たってことになっちゃう……」

 九頭龍が泣き言のように言う。

 「……はあ。口を開けて話すのも面倒くさいんだけどね……。思いついちゃったから言うよ……」

 ナイヤがけだるげにそう口火を切る。流石にもう、ユースも『シャベッタァアアア!!!』ということはなかった。

 「……鍵の閉まった扉を通過したのは、何も犯人とは限らないと思うんだ……」

 「へ? どういう意味ですか? 分かりません」

 ユースが目を丸くする。ハスタールが首を振って

 「戯言だ。犯人以外になにがあの扉を通過するっていうんだい」

 「……か、鍵の方が、何かの魔法で扉を通過して、クトゥグアさんの喉に深く突き刺さった、とか……?」

 九頭龍が意見を言う。ハスタールは一括するように

 「バカを言えバカを。魔王様の魔法封じがあったのにそんな芸当、できるわけないだろう……? いやそうでもないのか」

 ハスタールは吟味するように言った。

 「……どういうことだ? ハスタール?」

 ヨグが言う。ハスタールは真剣な面持ちで

 「一人いる。犯人ではなく鍵の方を、鉄の扉を通過させてクトゥグアの喉に移動させることができた奴が」

 「それって……」

 「おまえだよ。ヨグ」

 ハスタールは敵意に満ちた表情を浮かべていた。

 「……は? おまえ……なにを言って……」

 「あの閉じた鉄の扉を通過して、鍵をクトゥグアの喉に突き刺すことができた人物。それはヨグしかいない。

 何故なら、ヨグ、おまえは『魔王様によって破壊された扉を通過して、クトゥグアの部屋に入っている』。そして『クトゥグアの喉に突き立った鍵を発見した』のもおまえだっ!」

 そのハスタールの発言に、一人が欠けて四人になった四天王と勇者ユースが騒然となった。

 「た、確かに。……よ、ヨグさんしかいないわ……。それがで、できたのって……」

 「そうですそうですっ! ハスタールさん、名推理っ! リスペクトしちゃいますっ!」

 九頭龍とユースが合点したように言った。ハスタールはそれを手で制して

 「……ヨグ。反論はあるか? ないならおまえが犯人ということになるが……」

 「ま、待て。すべては状況証拠だ。俺が隠し持っていた鍵をクトゥグアの部屋で取り出して、さもクトゥグアの喉に突き立っていたように見せかけただって? そうなれば確かにあの密室は崩れるな? しかし、そんな証拠がどこに……?」

 「そうでないという証拠を出せといっている。

 いいか。状況的に、クトゥグアを殺害してあの密室を形成できたのはおまえしかいないんだ。人間の法では一応疑われた方にそれを払拭する義務はないということになっているが、ここは裁判所じゃない。おまえ以外に犯行が不可能で、かつおまえ自身から反論がないとなれば、これはもうおまえが犯人であるという証左に他ならない」

 「……っ!」

 そのとおりだ。そのとおりでしかない。……ヨグは適切な反論を考えようとするが、何も思いつかない。

 「は、ハスタール。おまえだって一緒に調査の為に部屋に入ったはずだ。確かに俺がクトゥグアの喉から鍵を取り出すのを見ただろう?」

 「ブリキ人形の癖におまえは手先が器用だ。いくらでも誤魔化すことはできる」

 ハスタールは厳しい目をして

 「……ヨグ。ボクは正直、おまえが犯人だなんて思いたくない。魔王様の意思を汲む心という点では、ボクだっておまえに勝てるかは分からないからだ。そんなおまえが、魔王様がボクたち魔族同士の殺し合いを望まれていないことを知りながら、こんな愚行に及んだなんて……とても思いたくない……」

 ハスタールは苦しげに言った。……決め付けてかかっているのではない、ということがよく分かる。反論してやりたいが、何も思いつかない自分が憎かった。

 ふとヨグは、ナイヤの方を見る。死んだように椅子に腰掛けるこいつだが、ヨグよりもはるかに賢かった。

 『……君たち二人は、やめたほうが良いかもしれないねぇ……』

 『……現場に何か残っているかもしれない』

 これはつまり、自分やハスタールが証拠隠滅を図ったり、偽の証拠を持ち出したりすることを、危惧してのことだったのだろう。いや、むしろ、そんな風に疑われることを懸念して、というのが正しそうだ。

 九頭龍とハスタールが追求の目をこちらに向ける。無理だ……ヨグはそう思いそうになる。これはもう払拭できない。

 そう、ヨグが途方にくれている中で……

 「……まだ早い」

 ナイヤがけだるげな声を発した。

 「……まだ早い。まだ調べていないことが多すぎる……」

 「そ、そんなこと言ったって……」

 九頭龍が泣きそうな声で

 「これ以上調べたって、な、なにが分かるっていうの……? きき、きっとヨグさんが犯人なのよ……そうだわ」

 「……ふん。まあ今すぐここで自分が犯人でない証拠を出せというのは、確かに早いだろうさ」

 ハスタールは言った。

 「はい。わたしもそう思います」

 ユースが言う。

 「手掛かりっていうのは意外なところにあるって言います。……だからもう少し調べてから判断してもいいかもしれませんね」

 それからユースは首をかしげて

 「というかわたし。どうしてこんなにも馴染んで話し合いに参加しているんでしょうね……。わたしって魔族でもないのに……」

 「一応容疑者候補なんだ。終わるまでいてもらうよ」

 ハスタールは言った。

 「それじゃあヨグ。おまえは全力で自分が犯人でない証拠を見つけろ。別の誰かが犯人だって証拠でもいい。そうしなければ……ボクはおまえを裏切り者として粛清する。おまえに勝てるかどうかはともかくとして……魔王様の眷属としての使命は果たす。いいね」

 ヨグは息を呑んでうなずくしかなかった。


 完全に干上がった水堀を覗き込み、ヨグは思考を始めた。

 カオス・クレイドルは城としては人間のものに負けず劣らず巨大なものだ。魔王様の権威を示す為に築城したものであるのだから、当然それなり以上の規模を誇っている。その周りを一周するこの水堀が、すべて干上がっているというこの状況。

 「……妙だ」

 妙ではあるが、このことが事件とどう関係しているかなど、分かったものではない。否、事件は城の中、水堀は城の外。無関係と考えるのが順当だろう。

 「ここを調べても仕方がないか……」

 そう思い、城に戻ろうとした時だった。

 「……ねぇヨグ。大丈夫?」

 そう、優しげで弱弱しい声がヨグの元に届いた。そこにいたのは小柄な少女の体躯、魔王アザトフォートだった。

 「魔王様」

 ヨグは驚愕する。

 「外を歩かれては危ないですよ……。さあ、中に戻りましょう」

 「平気」

 魔王様は言った。

 「ヨグがいるから」

 その言葉に、ヨグは深く感じ入る。それと同時に、自分が今同属殺しの容疑者筆頭として扱われていることが、口惜しくて仕方がなかった。

 「ねぇヨグ。……疑われてるって。聞いたよ」

 心配げな声で、アザトフォートは言う。

 「……わたし、分かってるから。ヨグがクトゥグアを殺す訳ないって……」

 「魔王様……」

 涙が出そうになる。実際、魔王様の前でなければ泣いていただろう。ヨグは首を振るい、強い決意を胸にこういった。

 「そう言ってくれる魔王様のため、必ずや無実を立証したします」

 そういうと、アザトフォートの顔が少しだけ明るくなる。「うん」と、魔王はちょんとうなずいて

 「そうだね。……一緒にがんばろうね。……えと」

 魔王はそれから堀の向こう側に視線をやって

 「それでね。ちょっと……気になることがあったんだ。付いてきてくれる?」

 断る理由などあるはずもなかった。


 「これは……」

 アザトフォートに連れられてきた場所は、地獄のような焦土だった。文字を描くように焼き尽くされた地に沿って、何人かの騎士らしき者たちが黒焦げになって倒れている。

 「……オソノン騎士団だね」

 魔王が言う。

 「いつも、夜と朝の間くらいの時間に、石を投げてくる人たちだよね……。ちょうどいつも、このあたりから、堀の向こうのお城に向かって……」

 対魔王を掲げるオソノン騎士団の早朝訓練の内容には、人間の城から魔城カオス・クレイドルまでの走りこみ、そして魔王城に向かって石を投げつけるというものがある。毎朝四時半きっかりに行われるそれは、嫌がらせを兼ねると同時に、魔王に対する憎しみの意思を騎士団で共有するという目的もあるらしい。石をぶつけられて死ぬような奴は魔王城に一人もいないので、とりあえず放置という方針はとっていた。

 「……焼き焦げて、いる……」

 焼き焦げている。つまり炎によるもの。炎といえばクトゥグア。クトゥグアのいる部屋から、外に向かって空けられた鉄格子の窓に火を噴けば、ちょうどこのように騎士団の丸焼きを作ることができるだろう。しかしクトゥグアは人間による投石など意にも介さない。今更火を噴いて彼らを殺そうとするはずもない。

 「どうかな。……これ」

 アザトフォートは言った。

 「えっとね。何かのね。その、役に立ったらいいなって。些細なことだけど、もしかしたら手掛かりになるかもしれないし……」

 「……ありがとうございます魔王様。そのお気持ちに、何より感激です」

 ヨグは言った。

 「ところで、これ。……文字に見えませんか?」

 かねてより気になっていたことを、ヨグは言った。「……へ?」魔王はふと目を丸くして

 「……本当だ。ちょっと待って。なんて書いてあるか見てみる」

 「と、いいますと?」

 「うんとね……ちょっと高いところから見たら、分かりやすいかな」

 そう言って、魔王は軽く息を吸って瞑目する。

 小柄な少女の輪郭から、凄まじいまでの邪気が放たれるのを、ヨグは感じ取った。その真っ白い肌はメッキが落ちるように消えうせて、少女の姿が失われていく。小さな体が何度かその場で脈打ったかと思ったら、人間を模したその体はたちまち崩れ落ちて、魔王本来の輪郭がその場に顕現する。

 影そのものが起立したような巨躯に、同じく実態があるのかも定かではない大きな羽を生やしたその姿は、無謀の悪魔そのものだった。見違えるほどもあるその巨躯の頂点に生えた、頭ともつかぬ突起で魔王は足元の小さな焦土を見下ろすと、合点したようにうなずいた。

 次の瞬間には影の体は溶けるようにしてその場で崩れ落ちていく。地面に染み入るようにして消滅した影の中から現れたのは、元の小さな少女の姿だった。

 「分かったよ」

 魔王は言った。

 「……確かに文字が書いてあった」

 「それはなんて?」

 アザトフォートは怪訝な表情で

 「カタカナで『オソノ』だって。あんまり綺麗な字じゃなかった……。オソノン騎士団の『オソノ』まで書いたってことなのかな……? でもどうしてそこでやめたんだろう……?」


 この国での共通文字は『ひらがな』『カタカナ』と呼ばれていた。これに『漢字』と呼ばれる種類の多い記号を合わせて読み書きを行う。世界の誰もが、知っていることだ。

 「……ミステリとファンタジーの親和性が低いっていうのは……こういうことがあるからなんだろうねぇ。……はーあ」

 城に戻って黒コゲになったオソノン騎士団のことを話すと、ナイヤがやる気のない声でそんな風にため息をついた。こいつの言うことはしばしば良く分からない場合が多い。

 「……素敵な発見だね。とめはねはらいはおろか、書き順さえ無茶苦茶とはいえ、クトゥグアには一応字が描けた。……魔王様はいつもワタシたちに恩恵を齎してくれる」

 「ナイヤ。おまえはなにをしているんだ?」

 そこで見たナイヤは珍しく椅子に座っていなかった。二階の九頭龍の部屋で、だらだらと這うようにして歩き回っている。何かを調査しているようでもある。自分の部屋を歩き回られて、九頭龍は困惑した様子だった。

 「……ワタシだって常に安楽椅子探偵を気取っていられる訳じゃないさ……。容疑者だからね……ああ面倒くさい面倒くさい……」

 「だから何を……」

 「お、お城にある全部の刃物の調査だって……」

 九頭龍は言った。

 「ほ、ほら。クトゥグアさん、刃物のようなもので殺害されたじゃない……。だ、だからその、ほ、ほらその人のいる階に刃物が落ちてたら、あ、怪しいでしょ? だから、お、お互いに隠滅できないようにってことで、あ、あたしと九頭龍さんとペアでしているの。ハスタールさんは自分の剣を持っているから、ど、どうせそのことでシロにはならないし……」

 ナイヤはけだるげに

 「……きっと見つからない。四階の武器庫にあるものと、ハスタールとヨグ、ユースという女勇者がそれぞれ身に着けているもの以外、発見されないはずだよ」

 「そ、そう。あたしたちの容疑が晴れるって、す、寸法ね」

 九頭龍が胸を張るようにいう。ヨグは反論する。

 「待て。そうとは限らないだろう。犯行後に外に出て捨ててくればいい話じゃないか」

 「裏は取ってきたさ」

 投げやりな声が聞こえる。それに振り返ると、部屋の前でハスタールがこちらをのぞいていた。

 「水堀の中で門番をやっていた魚の魔族たちに聞いた。大半は水が干上がって死んでいたが、そこは魔族、一晩ビチビチ跳ねながら門番をやりぬいた根性あるのもいてね。そいつらいわく、城門を出て外に剣を捨てたなんて奴はいないそうだよ。窓から捨てたってのもなさそうだ。堀の内側からは剣の一本も発見されていないからね」

 なら四階の武器庫に戻せばいいだけの話だ。そう反論しようとしたが、その前にハスタールに鋭い声で問いかけられる。

 「時期に刃物の調査も済むだろう。それで? ヨグ、自分の無実を証明する準備はできたか?」

 「それは……」

 「まだかい。だったらこんなところで油を売っていないで、考えて行動することだ」

 ハスタールはそう言って

 「自白はいつでも受け入れるよ。そのときは、楽に殺してあげる」

 冷たい声で続けた。

 その後調査が続けられたが、ナイヤの言うとおり。武器庫に収められているものと、ユース、ヨグ、ハスタールがそれぞれ所持するもの以外、刃物は城内から発見されなかった。

 「……大丈夫? ヨグ」

 心配げに、アザトフォートはヨグを覗き込む。ヨグは苦しげな声で

 「ええ。なんとか、考えて見ます。もうすべての情報はそろったと思うので……」

 これで自分の無実を証明できなければ、自分の負け。犯人に仕立て上げられる。

 自分を信頼してくれる魔王様のためにも、考えるのをやめてはならない。ヨグは決意を新たに、自分の無罪証明の為に思考を開始した。

 次話から解決編に入ります。

 この作品をもし斜め読み流し読みでなく真剣にミステリーとして楽しんでくださっている、物好きそのものの方がいるのならば、ここで立ち止まって真相について考えてみてください。

 聡明な方であれば、たちまち辿り着けるはずです。難易度はさほどでもないでしょう。


 まずはヨグが犯人ではないとする根拠を考えてみてください。

 条件は今まで作中で出てきたとおりです。


 より自分の頭脳に自信をお持ちの方は、『誰が真犯人か』ということも考えてみてください。

 あてずっぽうでもかまいませんが、確実にその人物が真犯人であるといえる根拠も同時に考えていただけますと、より楽しく推理を行えるでしょう。


 以下は注意点です。

 一つ:犯人は単独犯であるとします。

 一つ:犯人以外は嘘をつきません。

 一つ:魔王アザトフォートを犯人候補に入れても外しても、フェアな推理が楽しめますが、この場合彼女は犯人ではないと明言させていただきます。よって彼女の証言も真実となります。

 一つ:ヨグも犯人から除外してください。視点となる人物が犯人などというトリックは、本作では使用いたしません。


 それでは推理をお楽しみください。結論の出た方から、どうぞ解決編まで




 こういう挑戦状的なヤツやってみたかった。

 やってみたかった。



 フーダニット(犯人当て)

 ハウダニット(方法当て)

 ホワイダニット(動機当て)

 なんて言葉があるみたいね。ただまあはっきり言って直観に従えば犯人当て自体は楽勝だと思う。根拠云々はともかく犯人当て自体は。

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