宇宙飛行士
これも火星の話と同じ日に見た夢です。
凄く怖い夢でした。
国際宇宙センターは2025年に新たな月軌道へと向かう宇宙開発計画を実施した。
それはロケットでは無く、宇宙機を使ったもので、様は飛行機のように飛んで少しずつ高度をあげて宇宙に行くシャトルを使ったものだ。
これまでのロケットタイプと違って完全シャトルタイプのそれはペイロードも大きく費用も格段に抑えることが出来る。
そして俺は、その第一号の宇宙飛行士に選ばれた。
俺以外にもそこには、様々な国の宇宙飛行士が選ばれている。中には自力でロケットを飛ばせないような発展途上国の奴らも大勢いた。
俺の国とは大違いだ。
俺の国はこの計画にも大きく貢献しており、宇宙開発でもTOPクラス。そこらの国とはわけが違う。
シャトルが離陸した後、俺はからかい半分で他の国の奴らの宇宙服を見学していた。
そして、その中でもとんでもなくオンボロな宇宙服を見つけたのだ。
それは信じられないくらいオンボロスーツで、例えるなら「中国大陸の農家が自分でヘリコプター(飛ばない)を作ってみた」いうようなネットで流れるニュースと同じようなレベルの出来だった。
「へぇ?これがあんたの国の宇宙服かい?」
「ああ、そうだ我が国の技術が込められている」
そう言うが、俺から見ると自殺スーツにしか見えないね。
なんだこのおんぼろ宇宙服は?計器類はアナログだし、ツギハギだらけじゃないか?しかも話を聞けば、町工場手の女子供が手で縫っているらしい。彼が言うには女子供の方が手先が起用なんだとさ。信じられねえ。
しかもなんだ?
背中にはパラシュート。
なぜか体の前にはマジックハンドや、発炎筒等わけのわからんアイテムがごちゃごちゃと付けられている。
こいつもこいつの国も宇宙ってモンが何か解ってないんじゃないのか?
「どうだ?我が国の宇宙服は?」
「あ、ああ。まあ良いんじゃない?」
きっとこいつの国は自動車や飛行機もまともに作れないんだろう。
国際宇宙センターが予備の宇宙服をこのシャトルに詰め込んでいた理由が今、解ったぜ。
「そうか、大国出身の君にそう言ってもらえるとは嬉しい限りだ。どうだせっかくだし着てみないか?」
はぁ?なんだと!?このぼろスーツに袖を通せだって?
……しかし、こいつ話してみるとなかなか気の良い奴だ。もし、こいつがこの糞ったれな宇宙服で船外活動をすればこいつは間違いなくおっ死ぬ。それにこいつが、国際宇宙センターが用意した予備の宇宙服を着てくれるだろうか?
いや、着ないだろうな。こいつはこの自殺スーツに惚れ込んでいるようだし。
ここは俺が一肌脱いで、このスーツを着込んで転んで破いてしまえば良い。そうすればこいつは仕方なく予備のスーツを着るだろう。
俺はおもむろに袖を通して着てみた。
重いし、動きにくい。しかも息を吐くたびにメットが曇る。最悪のスーツだ。エアボンベが付いているが機能するかも怪しい。
これ絶対死ぬぞ。
その時だった。船内にアナウンスが流れたのだ。
「現在高度20万フィート(約7万キロ)。シャトル右側に流星雨が確認できます」
そうかそう言えば、そんなことも言っていたっけ。
こんな糞重たいスーツさっさと破って、流星雨をシャトルから見るか?
そう思った時。シャトルに衝撃が走った。
なんだ!?
何が起こった。
船内が慌ただしくなる。
エアー漏れのアラームが鳴り響き、隔壁が閉じる。
そしてスピーカーから信じられない叫び声が起こった。
『嘘だろ流星の一つがぶつかりやがった!!うわああっぁぁぁぁ……』
スピーカーから悲鳴とザーザーというノイズが響く。
アラームは未だ鳴り響いているそしてさらに最悪な事態が起こった。
それは後に分かることなのだが、サッカーボールサイズはある隕石がシャトルを貫き粉々にしてしまったのだった。
メリメリと船体が避け、空気が流れ、ほぼ真空の空に人々が放り出される。
それは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
目の前に居た発展途上国の男も一瞬で吹き飛ばされどこかに行ってしまった。
20万フィートと言うのは人間にとってみればそれはほぼ宇宙空間だと言って良い。放り出されれば十数秒で死んでしまう。
だが俺はおんぼろの宇宙服を着ていた。
くるくると回りながら放り出される人々とバラバラになるシャトルが見える。そして丸い地平線も。
俺はただ一人生きたまま空に放り出され、その光景を呆然と見ていた。
そして、直ぐに自分もこのままでは死ぬことに気付いた。
どのみちこのままでは数時間後に地面に激突する。
確かフリーフォールの世界記録は11万フィート、落下までは二時間程度だったはずだ。
どんどん落下スピードが増していく。
どうする!どうすれば!?
そうだ!!確かこの宇宙服にはわけのわからないアイテムが沢山付いていた。そうパラシュートさえも!!
体に空気の抵抗を感じる所まで落下した後、俺は祈る気持ち腕パラシュートを開いた。
体中にとんでもないGがかかるが、パラシュートは開いた。そして俺は地上へと帰ってきたのだった。
それは死の4時間だった。
俺はその事故で両足を骨折し暫くは車椅子だった。
しかし、奇跡的に生還した宇宙飛行士として有名になった。
俺は病院から退院すると一番に、俺を助けてくれたこの宇宙服を作くり、そしてあの気の良い男の祖国である発展途上国に行き、彼の遺骨も何も埋まっていない墓に献花して彼に感謝の意と謝罪を行った。
「あんたの宇宙服は最高の宇宙服だった。気密性もエアーの供給不具合も無かった。あんたの国の技術は最高だ。あんたの国はきっとこの先必ず、また宇宙に挑戦する日が来るだろう」
その三年後、再び俺は宇宙に発った。
あの時、俺が助かるきっかけになった宇宙服とその宇宙飛行士と同じ国の宇宙飛行士と共に。
勿論、あの時に感じた不具合は治させたけれどね。でもパラシュートだけは残させたよ。