私は知っている
注意・この作品は、おかしな表現、間違った知識を意図的に乗っけています。
私は知っていた。
私は知っていた、太陽は眩しいということを。
私は知っていた、空が青いということを。
私は知っていた、風が吹くということを。
私は知っていた、月は欠けて、また満ちるということを
私は知っていた、星は瞬くということを
私は知っていた、鳥は歌うということを。
私は知っていた、私が知っているということを。
この世界で私が私一番賢いとその時が来るまで私はなにも疑いもなくそう信じていた。
げんに私は誰よりもこの世界のことを知っていたし、誰よりもこの世界のことを考えていたのだから。
太陽はなぜ昇るのか?
なぜ月が満ちて欠けるのか?
どうして風が吹くのか?
鳥が歌う歌の意味は?
この世界は何であるのか?
ずっと考えて来たのだから。
太陽が昇りそして沈むのを何度見ただろうか。
月の満ち欠けを何度見ただろうか。
鳥の歌を何度耳にしただろうか。
私自身を何度鏡で見ただろうか。
その度に私は考えたのだ、なぜ、どうしてと。
そして私は至ったのだ、その答へと。
この世界は円いのだ、その周りを太陽と月が回っているのだ。
月が欠けて満ちるのはそう見えているだけで本当は欠けてなどいないのだ、月が欠けて見えるのは大きな影がその姿を隠しているからなのだ。
風は海と山が生み出しているのだ、それを遮ったり急かしたりするから色々な方向に吹き、海と山の加減で強弱が決まるのだ。
鳥の歌は会話なのだ、彼らは歌で会話しているのだ。
私は誰よりもこの世界について詳しいのだ、だから誰よりも賢いのだ。
ある日私は不思議な夢を見た。夢にはわたしが出てきていた
そして夢の中のわたしについて考えていた。夢の中のわたしはなにも知らなかった。
私はそのわたしにずっと私の考えてきたことを自慢げに語っていた。そしてその行為を私が見ていたのだ。
本当に不思議な夢だった、ふいにある考えが私のなかに生まれた。
私は誰かに私の考えを語ったことが無い、そして誰かの考えを聞いたこともない。
急に私は不安になった私は本当に正しいのだろうか、私より賢いものはどこにもいないのであろうか。
私は私の考えを誰かに聞いてもらいたくなった。
誰かの考えを聞きたくなった。
私は必死に探した、私より賢いものを、私の知らないことを知っているものを。
ある日私はついに見つけた、私より賢いものを、ずっと近くにいたのに気づくことができなかった。
私は知っていたのに、知らなかったのだ。
その時私は気付いてしまった。私のなんと小さなことか。
小さな小さなこの私のなんと浅ましいことか。
私など賢くも何ともなかった、私はただ考えていただけなのだ。
私は彼の足元にも及ばないのだ。
そして私は彼のすべてを知った気でいたのだ。
そして私はまた考えた。どうしたら彼のようになれるのかを。
私は考えた、小さな私が彼のことを知るためにはどうしたらよいのだろうかを。
私は考えた、太陽を考えた、月を考えた、星を考えた、風を考えた、雨を考えた、雪を考えた、雲を考えた、海を考えた、山を考えた、川を考えた、草原を考えた、森を考えた、林を考えた、木を考えた、草を考えた、花を考えた、土を考えた、岩を考えた、小石を考えた、鳥を考えた、動物を考えた、虫を考えた、魚を考えた、目に見えないものを考えた、季節を考えた、1日を考えた、昨日を考えた、今を考えた、明日を考えた、時間を考えた、私を考えた、私の中のわたしを考えた、考えを考えた、終わりを考えた、終わりの次を考えた、始まりを考えた、始まりの前を考えた、彼について考えた。
私は賢くなどなかった。
私は彼に及ぶことはなかった。
私は彼に何度も私の考えを話したが、彼はそれを聞いているだけだった。
しかし彼は何も語らなかった。
私は今も考えている。
これから先も考えているだろう。
私は賢くなどない、私のすべてが正しいことではない。
私は私が知らないということを知っている。
ふいに彼が笑ったような気がした。
彼は知っている、私が知っていた、太陽は眩しいということを。
彼は知っている、私は知っていた、空が青いということを。
彼は知っている、私は知っていた、風が吹くということを。
彼は知っている、私は知っていた、月は欠けて、また満ちるということを
彼は知っている、私は知っていた、星は瞬くということを
彼は知っている、私は知っていた、鳥は歌うということを。
彼は知っている、私は知っていた、私が知っているということを。
|彼≪地球≫は知っている、私がわたしであったことを。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字がありましたら教えていただけると嬉しいです。