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ネカフェで偶然出会ったクラスの優等生。節約のために恋人割を提案されて、気づけば狂った距離感で過ごすようになっていた。  作者: ななよ廻る
第1部 第4章

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第3話 日傘を買いに行って、ショッピングモールで着物を着る

 待ち合わせはネカフェの前。

 お互いわかりやすいよなということでそうなった。でも、ちょっと失敗だったと思っている。


「……汗が、止まらん」


 直射日光、ビルの照り返し、地面から立ち上る熱気。全部が暑い。

 待たせるのもどうかと思って10分前に来たが、ギリギリまで粘ってればよかった。いまからでもファーストフードに入って涼みたい。でも、いまさらここを離れるのもなー、と頭がふらふらしてる。


「水、買っておけばよかったな」

「はい」

「うひっ!?」


 首筋に冷たい感触。

 皮膚を貫く水気と冷気に体が震えた。パシッと押さえて振り返ると、楽しげに笑う灰野が歯を見せていた。


「早いね」

「なにか言うことは?」

「はい、どうぞ」


 結露で濡れた水のペットボトルを差し出される。


「…………ありがと」

「どういたしまして」


 イタズラと気遣いがセットなのはどうなのかと思う。文句が言えなくなる。軽く飲んで蓋を閉めようとしたが、そのまま灰野が奪ってくる。


「くれたんじゃないの?」

「私の分しか買ってなかったんだよね」


 それ、俺が口つけたんだけど。

 平然と唇を押しつけて、灰野は喉を鳴らす。半分近く飲んで、「汗かいてたー」なんてどうでもいいことを言う。


 中学生じゃないしな。


「ちょっと顔赤くない?」

「どっか入って涼むぞー」

「はーい」


 と、歩き出したら、ついてくる。

 イタズラするのに邪魔だったのか、地面に置いてあった日傘を灰野は拾い上げる。持ち上げて、そっと影をかけてきた。


「ショッピングモール?」

「かなーって」


 気にするだけ疲れるだけだから。


  ◆ ◆ ◆


 駅を跨いでショッピングモールへ。

 映画館もあって、テナントは充実している。夏の対策グッズも満載で、もちろん日傘だってある。


「これなんていいんじゃない?」

「いいものだけど」


 灰野がおすすめと言って、パッと開いた傘を半目で見る。


「……なんで番傘なんだよ」

「おしゃれ」

「折りたたみ部分あっさり捨てないでくれない?」


 真っ先に和物のお店に向かったと思ったら、なんで番傘引っ張ってくるんだ。俺が欲しいのは傘は傘でも折りたたみの日傘で、おしゃれは二の次なんだよ。


「紅白の番傘と紋付羽織袴が似合うよ」

「チャペルがいい」

「理想の結婚式像があるタイプ?」


 ないよ。


「和装は堅苦しそうってだけ」

「体験に勝る経験なし。店員さーん」


 どこいくねーん。

 手を上げて灰野が小走りする。そのまま和装美人の店員さんを捕まえて、笑顔で頷かれていた。振り返った灰野が笑顔を浮かべて、手で丸を作る。


「着物の試着いいって」

「まず耳から新しいのにしてもらいなさい」


 面倒って言ったろ。話聞け。

 唇を尖らせたところで子どもみたーいって煽ってくるだけで、試着は既定路線だった。着付けを店員さん(男性)に手伝ってもらい、あれよあれよと着せられた。


「へー」

「……なんだよ」


 値踏みするように腕を組み、じろじろと灰野の瞳が上下運動する。


「似合ってる」

「やったー」


 棒読み。

 単衣《ひとえ》の着物。夏仕様らしく、思ったよりは軽く、厚くはない。


「男なら濃紺だね」

「ジェンダーバイアスだ」

「じゃ、次はドピンクの花柄で」

「すみませんでした」


 速攻で頭下げたよね。

 灰野が見たのって和洋合わさったフリフリスカートの着物だし。女装しろって言うのか。


「歌舞伎には女形《おんながた》ってあるし、普通普通」

「それは……いやスカートは違うだろ?」

「宝塚あるし」

「でも」

「ジェンダーレス」


 適当にそれっぽいこと言って、煙に巻こうとしている。このままだと、本当にフリフリスカートのドピンク着物を着せられそうなので、さっさと灰野にバトンタッチすることにした。

 あっさり着替えに行った辺り、本気ではなかった……と思いたい。


「どうよ」

「……」

「ご感想は?」

「…………思った以上に似合ってて、皮肉も言えない」

「可愛いって素直に言えよー」

「ちょーかわいい」

「いえーい」


 灰野が両腕を上げて、ずるりと袖が下がる。

 朝顔が描かれた薄い水色の着物。簪《かんざし》をしていて、長い髪を後ろでまとめている。


「容姿はいいんだよな、容姿は」

「大和撫子だったか」

「内面の美しさ……?」

「脱ぐ?」


 内って物理的な意味じゃないから。


「レンタルできるってー」

「日傘買いに来ただけなのに」


 寄り道の方が長くなるのは、ショッピングあるあるなんだろうけど、随分と大仰になっている。

 店員さんに「いってらっしゃいませ」と手を振られて、ショッピングモール内を練り歩く。けど、歩きづらい。


「下駄に違和感が」

「ファッションは根性」


 女性って、緻密に美しく着飾るけど、最後は力技なのなんとかならないのか。


「コケそうになったら、専用の支えがあるから平気でしょ」


 さらっと腕を絡めてくる。


「一緒にコケて(死んで)くれるの?」

「あ、違った。クッションだった」

「体重は?」

「“私のこと好き?”」

「……重い女だ」


 押し潰されて中身がぶしゃーしそう。

 重い女の柔らかくて重い部分を腕に感じながら、目的であった日傘を見て回る。ひとまず、手頃にアパレル系から。


「セールしてる、これでいいかな」

「私が選ぶって約束しましたー」


 価格に釣られて即決しそうになったところを、灰野が契約を盾に邪魔立てしてくる。そんな約束はしてない……はず。たぶん、あれしたっけ? ノリで喋っていると会話内容をあっさり忘れる。


「――あ、ヤバ」

「や? あ、あ、なー」


 にー、と近くにあった試着室に押し込まれる。

 そのままシャーッとカーテンを閉められて……なんで?


「灰野さんだー!」


 あれ? この声は。


「こんにちは、奇遇だね」


 優等生モードの灰野の声が聞こえて確信する。

 相手、クラスメイトか。


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