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男爵令嬢アニマシリーズ

男爵令嬢は困ってます!溺愛しても甘やかさないでください!

作者: 広居 かな
掲載日:2026/08/28

婚約クラッシャーと呼ばれていた令嬢がいる。

男爵令嬢アニマ・ライコネン、18歳だ。


下位貴族には珍しい金髪に、くるくると丸く大きな青の瞳、見た目は良い方で、17歳までは幼さが残る体型だったが、今では若干育ってきた胸にホクホクしている。


アニマは友人が多い。

学園に入学するまで田舎の極小領地で育ち、あか抜けもせず自然体の彼女への友愛は、

男女問わず、高位貴族から下位貴族まで、多くの学生から向けられている。



アニマはとにかく惚れっぽい。

初恋は父。2度目の恋は兄。次は……。その次は……。

片手どころか両足を含めても足りないぐらい恋をしてきた。

だが、失恋の経験値が上がるだけで、実を結ばない。


アニマにはmyルールがある。

人のものには手を出さない。人の恋路を邪魔しない。身分の差を自覚する。

学園の初期に学ぶことを、身をもって体験して学んだ。


いや、それ常識だから!……と後に友人に言われたが。


アニマはmyルールに則り、恋に落ちても見つめるだけでいた。


見つめるだけ。

見つめるだけ。

見つめるだけ。


……ストーカーである……。


実害は、……多分ない。

ほんの少し居心地が悪いくらい。


それでも相手はアニマの恋心に誠実に向き合い断りをいれる。


失恋はするが、素晴らしい人を好きになれたとアニマは自分を褒める。


事実、アニマが惚れる相手は実績がある。


父は田舎の極小領地の当主だが、何故か国王陛下の友人で、三ヶ月に一度ほど王宮に上がり話し相手をしている。

領地も順風満帆で領民にも慕われている。


兄も兄で、文官として学生時代の友人である第二王子殿下の側近をしている。


いや、ライコネン家は人たらしなのか!……と友人は言うのだが。


学園を卒業した先輩方も、各々仕事を誠実にこなし頭角を現している。


誠実であり、公平であり、紳士であり。

アニマが惚れた相手は極上なのだ。

だから、アニマに惚れられることは、一種のステータスになっていた。



アニマには人を見る目がある。

学園中が認めていた。



そのうち、「私の婚約者をどう思うか」と相談されるようになった。断りきれず、


「惚れた」

「惚れちゃうかも」

「ふつう」

「イマイチ」

「絶対イヤ」


で答える。


いや、成績表かよ!……と、友人に突っ込まれたが…。


「イマイチ」と「絶対イヤ」の半数以上が、何らかの問題があり、相手有責で婚約破棄をした。


だから、アニマは婚約クラッシャーと呼ばれていた。


アニマのただの直感なのに……。



「イマイチ」と「絶対イヤ」組に恨まれはしたが、

持ち前の直感で回避。


相談した令嬢はもちろん、純粋で弁えているアニマからの好意に、相手もその婚約者も悪い気はしない。むしろ可愛いと思う。


小動物を可愛がるように、アニマの周りには人が増えていった。


いや、さすがに第三王子には遠慮しろよ……と、友人に忠告されたが。



アニマの日常は変わらない。

成績は中の中。淑女教育もついていけるようになった。最終学年だから当たり前だ。


変わらないはずだった。




「うわぁ……」

食堂に向かう中庭を友人達と歩いていると、

この学園では今まで見たことのない景色に、アニマは思わず声が出た。


ピンクブロンド髪の女子生徒と数人の男子生徒。



「あれが噂の男爵令嬢ね。あんなに異性を侍らかして、みっともない」

「見て!あの方達、アニマに絶対イヤと言われた令息達よ」


ああ、なるほど。アニマは納得した。

アニマの目にはその様子がどす黒い塊に見えていた。




マリナ・ハミルトン男爵令嬢。

最終学年で編入してきた男爵の庶子で、美しく育った愛人の娘を引き取ったらしい。


ピンクブロンドの髪に淡い緑の大きな瞳。ぷっくり膨らんだ唇と豊かな胸は、小柄なのに色気を感じる。


同じくらいの背丈なのにずるい…と思ったのは友人に内緒だ。


周りには婚約破棄された侯爵令息が二人、伯爵令息が三人。いずれもアニマが絶対イヤと言った高位貴族。


婚約者はもういないし、性格と環境に難ありだけど、彼女も似たような感じだからいいか。とすぐに興味をなくした。


が、相手はそうではなかった。





数日後、

テラスで放課後の紅茶を友人達と楽しんでいると、


「アニマさ〜ん」

五人の令息を引き連れたマリナに、甘ったるい声で話しかけられた。


初対面で名前呼び&さん付けですと!?

淑女教育の基本中の基本ですよ。

さすがにアニマでもわかる。


「何か用でしょうか、ハミルトン様」


嫌味ではなく、私のほうが賢いわね!と、ちょっと得意気に返事をしたアニマに、友人達は「よろしい」と頷く。

アニマの淑女ぶりが成長したのは、彼女達のおかげであった。


彼らは下を向いて肩を揺らしていたが……。


「え〜、固〜い!同じ男爵令嬢なんだから、マリナって呼んでよ〜」


「絶対イヤです」

即答かよ!と友人達は悟った。


「なんでよ!……聴いた!?私、こうしていじめられてるのよ!」

マリナはそばに居た侯爵令息の腕にしがみつき、胸を押しつける。


「貴様!マリナになんてことを言うんだ!」

大丈夫か?と、他人が、頭を撫で、肩に手を置き、背中を支え、腰に手を回す。


エー、ココハドコデスカ……。

オサワリパブデスカ……。


「え、えーと、ご要件は何でしょうか?」

アニマは呆気にとられたが、話を促す。


くすん、くすんと鼻を鳴らしながら、令息の差し出したハンカチで目元を拭くが、当然濡れはしない。



「……相談があるの。……私、今まで……。」

マリナは出てもいない涙を拭きながら、自分の境遇について話し始めた。


引き取られたものの、正妻に嫌われており、朝の準備から夜の片付けまで、使用人と同様に扱われていると。

母は変わらず別邸におり、父はあまり帰って来ず、味方はいない。

学園が唯一の自由時間だか、帰ればその分仕事を押し付けられる。

くたくたで休みたいのに、部屋は使用人部屋で硬いベッドしかない。


「そんな私を気にかけてくれたのが彼らなの」

顔を上げニコッと周りを見る。

ウンウンと頷きながら、更にマリナの身体を撫で回す令息達。



「でね、もうすぐ卒業でしょ。誰かと婚約しなきゃならなくて……。このままだとお父様に金持ちのジジィに嫁がされるわ。

だけど、この五人がプロポーズしてくれて……。嬉しかった……!」


当たり前だ!

ジジィになんてくれてやるものか!

と、更に更にマリナの身体を撫で回す。



「でも私、選べなくて……。誰を選べばいいか、教えてほしいの!」


「「「「ハアっ!?」」」」

友人達が一斉に声を上げるが、紅茶を飲み込んだ分、アニマは出遅れた。


「こんなくだらない事に付き合わなくてもいいわ!」

「何が相談よ!」

「ただのモテ自慢じゃない!」


「何を!マリナが悩んでるんだ!」

「助けるのが当たり前だろ!」

「性悪な令嬢達め!」


「やめて!私のために争わないで!」



淑女教育はどこへやら。

高位貴族の矜持はどこへやら。

まあ、「絶対イヤ」組には元々ないが…。


そんな言い争いをアニマはずーっと見てる。

ずーっと見てる。

ずーっと見てる。

ずーっと……。


そして、

「はい、わかりました」と答えた。

どうぞお座りください。と着席を促す。


「アニマ、いいの?大丈夫?」

こんな奴ら、ほっといていいのよと、友人達は席を離れない。


「大丈夫です」

何なら面白いものを見せてもらったので、真剣に答えようと思っていた。

ゴクリと令息達はツバを飲む。



「一人を選ぶ必要はありません。誰を選んでも一緒です」

「そうはいかないわ!ジジィと婚姻させられるもの!」


「そして五人で彼女のために家を買ってください」

「私に愛人になれというの!?嫌よ!」


「あなたの母親は不幸に見えましたか?」

「……それはないけど……」


「ならば、それが最善策です」

「……」


マリナと令息達は黙りこむが、アニマは更に念を押した。


「必ず家を買ってください」


ただの直感ですから、言うとおりにしなくても良いですけどね、と言ってアニマは席を立った。





その後、

マリナ達は郊外に家を買ったらしい。

マリナは一人を選べない。令息達はマリナから離れられない。

マリナは愛人の道を選んだ。

結局アニマの言うとおり、それが最善策だったのだ。



「どうして家を買うことを勧めたの?」

友人達に問われ、アニマは自分が感じたことを説明する。


「まず、彼女はダメダメさんです」

アニマの言いっぷりに、思わず笑いが出る。


「ハミルトン様の言っていることは嘘ばかりです。

男爵家で虐待など受けていません。


朝から晩まで働かされているのなら、もっと肌ツヤは悪く、隈もできます。


ですが、彼女は髪もサラサラですし、手先も綺麗でした。


返って家では正妻様に当たっていたのではないでしょうか。見た目の弱さとは真逆ですね」


なるほどと友人達は頷く。


「そして、「絶対イヤ」組さんですが、何も変わっていませんし、更に磨きがかかっていました。もちろん悪い方へ。いずれやらかして、廃嫡になるでしょう。


ならばお金のあるうちに、逃げ道を作った方がいいのではと、家の購入を勧めました」


まあ、借金で取り上げられるでしょうけど……と続けた。


アニマが言うには、

一人で地獄を背負うのではなく、

皆で背負って痛み分けをしなさい。


と言うことらしい。


「優しい子ね」

「……そうでしょうか、不幸を五倍にした気がしてきました」

今になってシュンとするアニマ。


彼女らの周りはどす黒かった。

欲の塊だ。

けれど、誰しも欲はある。

しかし、彼女らは人を陥れ、のし上がる強欲だ。

決して良い方向へ導くものではない。


でもその様子は……。

初めて見たくだらない小説のように思えて、

アニマはちょっと楽しかったのだ。

そこにはアニマが培ってきた図太さがあった。

もうちょっと楽しみたいと思う気持ちがあったのは否めない。

だから今になって、ちょびっと反省している。





「さて、そろそろ私達はお暇しましょうか」

「そうね、婚約ホヤホヤのお二人を邪魔してはいけないわ」


ボッと赤くなるアニマ。

アニマはつい先日婚約した。

相手は一番の友人だった。


学園に入学して、一番に恋した人の友人。

公爵家嫡男、アレックス・ロズベルグ。


見ているだけだったアニマに、

「あいつ、婚約者いるよ」と教えてくれた人。

大切にしてるから諦めたほうがいいと助言してくれた。


失恋しても、「さすが私の好きになった人だわ」と悲しみもせず笑うアニマを、

「おもしれーやつ」扱いをしてからの仲だ。


廊下ですれ違えば声を掛け合った。

図書室で勉強すれば向かいに座った。

ダンスのレッスンではパートナーになった。


公爵家嫡男様だ。

一番親しい異性の友人として線引きしていた。

アニマは田舎の極小領地の男爵令嬢だからだ。


アニマは、アレックスを見なかった。

「さすが私の好きになった人だわ」と言いたくなかった。

この言葉は、失恋した時に使う言葉だ。

アニマの直感だった……。





神殿に行き、この直感力が「鑑定眼」だと判明した。プラス、未来視もわずかだが出来るらしい。


へー、そうなんだ。としか思わなかった。

鑑定眼があろうがなかろうか、アニマの日常は変わらない。


多少のイレギュラーがあっても、

勉学に励み(?)、淑女教育に精を出し(?)、

友人達とカフェに行く。

変わらない日々が続くのだろうと、

アニマは思っていた。



だが、そうは行かなかった。



次の日には神殿から連絡が行き、王宮に参上することになった。

父親が王都に来るまでは日がかかるため、

友人を代表してアレックスが付き添うことになった。


昨日はサラッと流したが、

「鑑定眼」の持ち主は100年に一人現れるか現れないかの、希少なギフトだった。

国で厳重に保護されなければならない存在である。



「ならば、アニマ嬢を私の妻とし、ロズベルグ家が後見となりましょう。


出逢って五年、アニマ嬢を想ってまいりましたが、

公爵家と男爵家、想いを伝えることはないと思っておりました。


アニマ嬢を他人に任せることなど出来ません。

どうか、鑑定眼を守護する役目を私にお授けください」


アニマの涙腺は崩壊した。

淑女たるもの人前で感情を出してはいけない。

高位貴族の友人が見たら怒るだろう……。

いや、優しく抱きしめてくれるに違いない。


「わ、私もアレックス様をお慕いしてますぅ〜


若干、マリナのような話し方になったが、

それはご愛嬌ということで。


こうしてアニマはアレックスと婚約した。

皆が祝福した。

令嬢達はアニマを抱きしめ、

ようやくか!と令息達は、アレックスの背中を叩いた。


卒業したら婚姻することになる。

男爵令嬢が将来、公爵夫人になるのだ。

焦らずにはいられない。

友人達は、さらに厳しくマナーや礼儀をアニマに仕込んだ。


アレックスはそのままでいいと言うが、

友人達は、それはアニマのためにならないと

叱責する。

社交界に出たら通用しないと。



アレックスはアニマに甘い。

今もそばで優しく見つめてくれる。

そんなアレックスをアニマは見つめ返す。

お互いに今まで出来なかったことだ。

幸せで仕方ない。




……なんてしてる暇はない!

今日はアレックスのお母様にマナーのレッスンをしていただくのだ!


「早く行かないと!」

ドレスをまくりあげて走……らない。

アレックスにエスコートをお願いし、早足で歩く。



アニマの日常は変わった。

男爵令嬢は公爵夫人になるために。


惚れっぽい男爵令嬢はいなくなった。

婚約クラッシャーもいなくなった。

今はただ一人を愛し愛される令嬢だ。



でもあまりにも唐突すぎて…。


男爵令嬢は困ってます!







アニマをもう一話書いてみました。

読んでいただき、ありがとうございました。

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