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愛を込めて、アリスに捧ぐ協奏曲  作者: さこここ
第3章 二人の目指す場所

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第35話 空回り

本日も三話更新です。

 翌日の放課後。

 ウォーミングアップと基礎練をこなして、早速『ごしきひわ』の合奏を始める。


「それじゃあアリス、第一楽章からね」

「はい」

「スッ――」


 ピアノの軽やかな音で、第一楽章が始まる。

 私たちの息もかなり合ってきた。


 ユニゾン部分も難なく突破する。

 次にやってくるのは、私の独奏部分。


 思い浮かべるのは、在りし日のヴィヴァルディとピエタ慈善院の女の子たち。

 大きな木の下で、皆が輪になって耳を澄ませている。


 サァァァ……。

 ほら、木々を揺らす風に混ざって、遠くから『ごしきひわ』の鳴き声が聞こえてくるよ。


 私の独奏が終われば、再びアリスのピアノに導かれるようにして演奏が繰り返される。


「――――っ!」


 だけど、合わない。

 ちゃんと楽譜通り吹いているはずなのに、アリスと対話できていないからか、音がピアノに絡めない。


 一瞬、動揺からフルートに混じる息のノイズが増える。

 ダメだ、もっと集中して!


 そんな思いに反して手を伸ばせば伸ばすほど、演奏に乱れが生じて息が合わなくなっていく。


「和奏ちゃん……」

「分かってる、分かってるよ」


 私はその後も空回りし続けて、何も得る事なく貴重な一日を消費してしまった。

 アリスが心配そうに声を掛けてくるけど、焦りと不安が私から余裕を奪い去っていく。


 バスの中で、アリスと何か話をしていた気もするけど、自分のことに気を取られ過ぎて全く覚えていない。


「……」

「……」


 アリスも私の様子を察したのか、帰り道も会話らしい会話はなかった。

 それが逆に気を遣われていると感じて、アリスに余計な心配をかけている自分が情けなくなる。


 残りは一日と半日。

 時間がない。明日はなんとしても、アリスと《《演奏》》をしなければ。


「それじゃ、また明日……」


 アリスを玄関まで送り届けて、別れ際に軽く挨拶する。

 ――軽く挨拶したつもりが、発した声に元気がなさ過ぎて、自分でもびっくりした。


「和奏ちゃん」

「ん?」

「期待、してますからね?」


 思い出すのは四日前の会話。

 あの時も、同じように言葉を交わした記憶がある。


「……うん、ありがと」


 これ以上言葉は交わさずに、私はくるりときびすを返した。

 そうだ、私には落ち込んでいる時間なんてない。アリスの信頼に応えなければ。


 家に帰ってご飯とお風呂を済ませると、すぐにイヤホンを耳に突っ込んで今日の録音を再生する。


「あーっ、清々しいくらいに空回りしてるね」


 ベッドに倒れ込みながら、思わず再生を一時停止する。

 特に、テンポがゆったりとしている第二楽章は聴けたものじゃない。


 フルートとピアノの音が、バラバラに聴こえる。

 あまりの悲惨ひさんさに、つい苦笑いが浮かんできた。


「これは合奏……とは呼べないね」


 テンポが早い第一楽章と第三楽章は、なんとか誤魔化せないこともない。

 だけど、歌うようなメロディーが特徴である第二楽章は、明らかに音が合っていないのが分かる。


「どうすればいいんだろう……」


 なんて考えていたら、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。


「――コーケコッコーォォォ」

「う、うぅ……ん、やばっ!?」


 早朝、近所で飼っている鶏の鳴き声で目が覚めた。

 慌てて体を起こすと、耳からイヤホンがポトリと抜け落ちる。


「気持ちよく寝てたけどさ、何も解決してないじゃん! それに、課題もやってないし!?」


 ただいまの時刻、四時三十分。

 あまり物音を立てないように、机にプリントを広げてガリガリと書き込んでいく。


 幸い、どれも授業で出たところばかりで、難易度は低い。

 だけど、たまに文章を書かないといけない問題があって、手間取ってしまう。


「数学の証明問題って、滅ぶべきだよ……!!」


 そして最後の最後に証明問題。

 八つ当たりではあるのだけど、この一分一秒が惜しい。


 少し字が汚くなるのは構わず、プリントにQEDを書きなぐって課題を終わらせると、机に置いてある時計は五時を指していた。


「うげ……あんまり時間がないじゃん」


 ベッドに放りっぱなしになっていたイヤホンをつけて、昨日の録音を流し始める。

 うん、一晩経って聴いても酷い。


「うーん、思い切ってアリスとキスでもしてみる……? いや、それじゃただの変態じゃん」


 それに安直な欲望が見え透いてて、なんかヤダ。

 結局、いくら考えても答えなんて出なくて、いつもの流れで学校に到着してしまった。


 白いワイシャツと灰色のベスト姿が増えた教室で、焦りを感じながらも五限まで授業を受ける。


「六限目何だっけー?」

「あー、体育だよ」

「えー!? まじかよ……」


 昼下がりの眠たい時間帯に、体育は勘弁して欲しかった。


「おーい、朱莉」

「ん? んーんんん(どーしたん)?」


 席替えによって、斜め前の席に座っている朱莉に声をかけると、栄養補給ゼリーをくわえながらこちらへ振り向いた。


「今日の体育って何やるの?」

「んー、ごくっ……ゴールボールって聞いてるよ」

「ん、ありがとー」


 そういえば、クラスマッチもあと一ヶ月後に迫ってきてるんだっけ。


「アリス、更衣室行こー」

「あ、はい」


 更衣室で体操服に着替える。

 ゴールボールをやる時に、うっかりりむかないようにジャージを履いて、更衣室に入れっぱなしのアイマスクを手に取った。


 ん……? アイマスク?

 その時、脳裏をとあるアイデアが稲妻のごとくかけ巡った。


「――これだッッッ!!」

「きゃっ!」


 アリスが驚いたことで、一気に興奮が冷める。


「ど、どうしたんですか、和奏ちゃん?」

「きゅ、急に大きな声出してごめん……ちょっと、手がかりをつかんだかもしれないんだ」


 そうだ、これを使えばなんとかなるかもしれない。

 私は、このアイマスクにコンクールの命運を託すことにした。

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