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愛を込めて、アリスに捧ぐ協奏曲  作者: さこここ
第2章 目指せ、コンクール
15/41

第15話 休部

「アリスってば大袈裟だなぁ……」

「えぇ!?」


 なんて話をしていると、一年生らしき背の高い男子がやってきたので、場所を譲って昇降口へ移動する。

 ご丁寧に【一年生 下駄箱はコチラ→】なんて張り紙が張ってあったので、迷うことなくアリスの手を引いていく。


「あったあった、ここね」


 私のネームプレートが入った下駄箱に、ローファーを放り込む。

 同じように、アリスのローファーも脱がせて上履きのスリッパを用意する。甲の部分が赤色の、足のつま先が出てるタイプだ。


「私の肩に手置いて」

「ありがとうございます、和奏ちゃん」


 アリスの足元にしゃがんで、片足ずつスリッパを足に突っ込む。

 学校もバリアフリー化が進んでいるみたいで、下駄箱から廊下へ緩やかなスロープが設けられている。


「アリス、点字ブロックあるからね」

「はい、和奏ちゃん」


 スロープを歩いた先には、新品と思わしき点字ブロックが設置されていた。

 それと、張り紙も見つけた。


「また張り紙かい。いや、いいんだけど……」


【一年生 教室はコチラ→】の貼り紙に従って、下駄箱から左へ進む。

 二年生と三年生用の下駄箱が何列かあったすぐ横に、売店があった。


「アリス、今は開いてないけど売店あるよ」

「おぉ……売店! お昼休みになったら、焼きそばパンとか買えるんでしょうか……!?」

「あとで見てみる?」

「はいっ、ぜひ!」


 アリスは、ウキウキとした雰囲気で私の肩をトントンと叩く。

 ぺったんぺったんと、すっぽ抜けそうなスリッパに苦労しながら、突き当りへやってきた。


「このスリッパ、歩きづらいね?」

「少しだけ硬いというか、中学校の頃と履き心地が違いますね……」


 ここはどうやら踊り場みたいだ。

 手洗い場だったり二階へ上がるための階段、左側には『進路指導室』の室名札が掲げられている部屋もある。


 正面には渡り廊下もあって、手前には自販機、奥には旧校舎みたいな古びた建物が見える。


「あ、こっちが教室か」


 右を向くと、長い廊下が目に入ってきた。

 廊下の左側には、おびただしい数のロッカー。右側には教室が一つ二つ……恐らく使ってないであろう真っ暗な教室を二つほど挟んで、もう一つ。


 手前の教室から、頭上に『一年一組』『一年二組』、ぽつんと離れたところに、『一年特進』という室名札が掲げてあった。


「私たち一番手前の教室じゃん。ラッキーだね」


 ガラガラと扉を開いて教室に入ると、私たちより先に来ていた二人の男子から視線が向けられた。二人とも、見事な坊主頭だ。じょりじょり……少し触らせてくれないかな?


「おはよーっ」

「おはようございます」


 とりあえず挨拶。

 入学式だとロクに話すこともなかったし、ファーストコンタクトは大事だからね。


「おぉっ……おはよー」

「……はよー」


 何かをサッとポケットに突っ込んだ男子二人。妙な間が空いた後、二人ともおずおずと挨拶を返してくれた。


 ははーん。さては、早速スマホ使ってたな?

 私は、露骨にホッとした様子の二人に話しかけることにした。


「他の人はまだ来てないんだよね?」

「あぁー……俺たち、早く登校し過ぎたんだ」


 私たちを含めても、四人しか登校してきていないのが気になって、二人に聞いてみた。


「始業時間まで三十分以上もあるからなぁ」

「あぁ、あと早速部活に参加してるヤツもいるっぽいよ」

「えっ? 部活?」


 話を聞くと、ソフトテニス部だったり陸上部に入部希望の一年生は、中学の卒業式後から練習に参加しているらしい。


「へぇ~、あっ――私、南條和奏。よろしくね! それで、こっちの可愛い子は千代野アリス」

「初めまして、千代野アリスと言います。この通り、目が見えなくてご迷惑をお掛けするとは思いますが、よろしくお願いしますね」


 遅ればせながら自己紹介をすると、男子二人も簡単に自己紹介をしてくれた。


「俺、赤川っていうんだ。南條と千代野ね、よろしく~」

「小松です。二人ともよろしく。席順、黒板に張ってあるよ」

「おぉ、小松ありがとう!」

「呼び捨て……」


 なんだか呆気に取られた様子の小松は置いておいて、黒板の方を見ると、確かにプリントが一枚貼ってあった。


 一組の人数は二十二人で、席の配置は縦五列の横四列。ちょうど二人余る。


「私たちの席順はー……おぉ! 隣だよ! やったねアリス!」

「赤川君も、小松君もありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますね」


 私たちの席を確認しようと、教室の一番後ろを見ると長机が置いてあった。

 あ、あれが私たちの机? えーっと……大きくない?


「――? どうしたんです、和奏ちゃん?」

「ううん、私たちの机が長くてびっくりしただけー」

「……え? 長いんですか?」


 どうやら長机のことは、アリスも知らなかったみたいで、驚いた声が返って来た。


「多分、アリスの補助をしやすいようにしてくれたんだと思うよ」

「あの……和奏ちゃん。色々とお願いすることになるとは思いますけど、よろしくお願いしますね?」

「もちろん! 私に任せなさい!」


 アリスを連れたまま、机の間を通るのは危険だ。

 一度廊下に出て、後ろの扉から教室へ入る。


 まさか、アリスと隣の席で勉強できる日が来るとは……。

 高校生活は始まったばかりだけど、何だか無性にわくわくとしてきた。


 数時間後――。


「ソフトテニス部です! 顧問の大島先生指導の下、全国大会でも――」


 学校案内やらクラスで自己紹介があった後、私たち一年生は体育館で部活動紹介を受けていた。私の隣には、もちろんアリスが座っている。


「陸上部です。僕たちは、県大会突破を目指して――」

「私たち茶道部は毎週二日、お茶菓子と――」


 ――ん?

 まだ吹奏楽部が残っているはずなのに、学年主任の先生がマイクを握った。


「えー、次は吹奏楽部の紹介ですが……現在、吹奏楽部には部員が在籍しておらず、現在は休部、という扱いになります」


 …………え?

本日も最後までお読みいただきありがとうございました!

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