初恋
私はおじさんとおばさんに馴染めず、転校先の学校にもなじめず、子供時代を基本的に一人で過ごしていた。引っ越し先は自然豊かなところだったから、森へ行き、川辺へ行き、そして孤独に飽きたなと思った辺りで、シンはいつも私の前に現れた。
私にとって同世代で仲良くしてくれる男の子はシンだけだったから、次第に好意的な感情を持ち始めるのは当然の流れだったと思う。けれど、彼は欠点も多い人だった。例えば、私が同級生に馬鹿にされた時や、おばさんに叱られて家で大泣きしているときは決して私に会いに来てはくれないのだ。私を守ってはくれない。シンが私に会ってくれるのは、決まって私と二人きりになれる時だけだった。
私がはっきりと彼が好きだと自覚したのは、私が十二歳の頃。小学校を卒業する少し前のある出来事がきっかけだった。寒い雪の降る日。私は掃除の手を抜いたということで、寒空の下、おばさんに薄着のまま放り出されて、雪の上を裸足で歩いていた。これくらいはよくあることで慣れ切っていたはずだったのだが、遠くに家族と楽しそうに笑い合って、温かいコートを着て歩くクラスメイトの姿を見た時、私の中の何かが壊れた。
私は裸足のまま、雪が積もる山道を駆け上がるようにして登った。そしてようやく開けた場所に辿り着いた。そこは、私がいつも時間を忘れてシンと一緒に過ごす場所だった。
「シン、ねえ、シン」
彼は雪の積もっていく様子を切り株の上に腰かけて眺めていた。私はシンの肩をゆする。
「なに……うわ、寒そう」
シンは自分の着ていたコートを私に着せて、それでも冷え切っている私の身体を前に、少し迷ったような素振りをしてから、私を抱きしめた。
シンの身体は暖かかった。そう、暖かかったのだ。体温を感じた。なんだか懐かしくて無性に泣きたくなったけれど、私はどうにか泣かないでいた。
「もう私全部終わりにしたい」
相変わらず彼は黙って聞いていた。
「何もかもが嫌、生きていることが苦しい」
「じゃあ、終わらせてあげようか」
私はシンの腕とコートの中に潜り込んでいた顔をどうにか上げた。
「シンが終わらせてくれるの」
それはこの上なく素敵な提案だった。
私にとってこの時から彼は救いになった。何も持たなかった私が唯一持っている大切なものだった。シンは私にどこか似ていて、口下手で人付き合いが得意なタイプではないように見えた。言葉で慰めたり甘やかしたりしてくれたことは恐らくたった一度もなかった。けれど、その分態度で示してくれる人だった。
結局のところ、この提案を受けた上で、私はこの時終わりを選び損ねた。いざとなれば私の最悪な人生を終わらせてくれる人が傍にいる、その事実に救われた気持ちになれたからだ。それで充分満たされたような気がしたのだ。もっとつらいことに出会ったら、その時シンと一緒に終わろうと思った。私にとって恋とは、愛とは、そういう身勝手なものだった。