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後宮の女道士  作者: 深紫
勾魂使者(こうこんししゃ)
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勾魂使者(こうこんししゃ)その6

 入ってきた二人の男たちは夕刻、先生に言われて私が門の外まで呼びにいった人たち。どうやら長安から来た官吏かんりらしい。なんで彼らがそこにいたのかその時は知らなかったのだけれど、彼らは先生と顔見知りらしく、先生の指示で彼らには家の外で待機してもらっていた。


 先生の指示とは――


『夜更けに李の家に忍び込もうとする者らと、その者らに指示をする主犯格の者が来るだろう。家に忍び込む賊は私の方で捕まえるから、君らは外で控えているであろう賊の主犯の方を捕まえてくれ』


と。


 彼らが外で待機していると先生の言ったように、家に忍び込もうとする二人組とその二人に指示をする主犯格らしき男が一人現れた。

 彼らは指示通り主犯格らしき男を一度は捕えた。だが捕えられた男は、彼らが少し目を話した隙に、縄を解いて物置小屋裏に隠していた馬で逃げたらしい。

 まあ、こんな田舎で馬を飼っている家なんかまだまだ珍しいから、彼らも油断していたのでしょう。


「賊はどちらの方角に逃げた?」


 先生は特に動揺することもなく、普通に彼らに尋ねたわ。


「東の方へ」


 むしろ官吏の二人組の方が、すまなさそうな顔をしながら答えていたわ。


「では吾を捕まえに行くとするか。行くぞ、玉葉」


「え? 私も一緒に行くのですか」


「当たり前だろ」


(いえ、先生、何が当たり前なのかよくわかりません)


「さあ、行くぞ。玉葉私につかまれ」


 私は先生の腰のあたりに腕を回し先生に抱きついた。先生はそれを確認すると、「ハッ」という短い掛け声を発した。

 先生の掛け声と共に縮地法しゅくちほうの術が発動。これは地面や空間を圧縮し、物理的な距離を縮めてしまう技。傍から見るとまるで瞬間移動したように見える。


え? その圧縮した空間の中の人や建物はどうなってしまうのかって? さあ? 道術を極めるにはね、あまり細かいことにこだわらないことも肝心なのよ。


 術が発動すると、目の前の景色、畑や木々や山々そして空さえもがもの凄い速さで迫って来るのを感じた。そしてそれらはやがて彩りを失い、ただ一本の光となって次々と我々の周囲を通り過ぎ、遥か彼方後方で一点に凝縮していく。

 

「吾の居場所がわかった。思ったより先に進んでいるな」


 先生の遥か遠くの人や物を霊視する眼通力がんつうりきが吾さんを捉えた。


「よし、奴の前にでるぞ」


 一点に集中した光がまた線になり、そしてその彩りと形とを取り戻す。

 そして先生と私はだだっ広い荒地の一本道にいた。


(結構村から離れたわね、大分吾さんは馬を飛ばしているのね)


「いくら月明かりが出ているとは言え、夜道を馬ですっ飛ばすとは馬鹿な奴だ」


 まあ、普通の人なら灯りの乏しい夜道を、馬で駆け回ろうとは思わない。そうこうしていると、馬の蹄が地を蹴る音が聞こえてくる。姿はまだ見えないけど音は段々大きくなる。


「吾よ、悪事はもう暴かれた。おとなしく馬を止めお縄についたらどうだ?」


 先生は、呪言じゅげんを気にのせて遠くまで飛ばせることができる。私のいた場所では聞こえなかったけど、おそらく吾には、どこからともなく聞こえてくる先生の言葉に相当混乱しているのでしょう。なぜって、吾が(先生に対する)悪態をつきながら馬を駆るその姿が徐々に見えてきたからよ。


 月明かりの中、吾の姿が段々はっきりしてきた。吾の姿を視認した先生は、吾に向かって霊符れいふを飛ばしたの。霊符は一直線に吾と馬の方に飛んでいき、彼らの目の前ですさまじい閃光を放った。すると、馬は金縛りにあったようにその場で動かなくなり、吾は勢いあまって馬から前方に吹っ飛ばされた。

 地面を数回転したあと、丁度先生の前で彼は止まった。


「吾よ、追いかけっこはもうお終いだ」


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