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EP-011 SYNC ERROR: 靄の向こうへ

 戦うべきか? 逃げるべきか? それが問題だわ。


 普通に考えれば、逃げるのが正解だと思うんだけど。

 たぶん逃げても、また追いかけてくるんだよね。

 シンクロアを渡しても、わたしとお母さんは無事じゃ済まない。

 なら、戦うしかないじゃないの。


 どう考えても、戦うという結論にしかならない。でも、戦う事を考えると、怖くて身体の震えが止まらない。


「シンクロア、戦ったとして、勝てるの?」


 わたしの恐怖を和らげて貰おうと、シンクロアに尋ねる。


『影崎翔太から、その能力を分析いたしますと、愛衣様が百パーセントの力を発揮出来れば、敵ではありません。しかしながら、現状の愛衣様は、その力の五十パーセントも引き出せていません。そうなると、かなりの苦戦が予想されます』


 シンクロアは、取り払ってくれなかった。


 そうであっても、やるしかない。やるしかないのは解ってるけど、でも、なんでこんな事に。

 戦うとか、わたしの柄じゃないのに。


『もう時間がありません。奴らが来ます。直ぐに決断をお願いします』


 そんな事言われても、決断なんて出来ない。

 結果が先に解っているなら、どっちか決めるけど。


 そうだ。とにかく、いまは、お母さんを守らないと。

 それだけは、絶対果たさないと。

 だから、敵を倒す。

 そう考えると、身体が熱くなり、震えが止まった。


「行くよ。シンクロア」


 呼吸を整えて、ゾーン状態に入る。

 すぅっと、身体が周囲に溶け込んで行くような感覚になる。

 雑念が消えて、頭がすっきりとクリアーになる。


 すると、敵らしき姿が見えた。

 いや、正確に言えば、浮かんだ。

 敵が数人、家の直ぐ側で様子を窺っている姿が、まるで夢を見ているときのように映った。

 こいつらが、教団のやつらか?


「三人も居るじゃない。シンクロア、あの三人とも、影崎くんみたいに強いと思う?」


『強さのレベルは解りかねますが、恐らく三人とも、力の持ち主だと思われます』


「三人も居たら勝ち目無くない?」


『独りずつ戦えば大丈夫です』


 簡単に言わないでよ。FPSじゃ無いんだから。

 まあでも、上手く隠れながら、一対一で戦えって事ね。


『愛衣様、向こうはこっちの動きに気付いていない様子です。ここは奇襲を掛ける事を提案します』


 奇襲。奇襲かあ。確かに最初に一人倒せれば、後は二人だし。


『では、ルートは、二階の窓より飛び降りて一人を倒し、そのまま愛衣様は、逃走してください』


「逃走?! え? 逃げるの? で、でも、それじゃお母さんはどうするの?」


 奴らの目的がシンクロアだとしても、母を人質に取るとかするかも知れない。この家に母だけ残して逃げるなんて出来ない。


『大丈夫です。愛衣様。お母様は既に脱出されています』


 は? なんて? 脱出? わたしを放っておいて?


「シンクロア、ごめん。意味がわからないんだけど」


『簡単な事です。愛衣様と奴らの戦いに、自分が居ると邪魔になる。そう思われての行動です』


 いや、簡単な話じゃないし。ていうか、そーいう事は前もって言わない? お母さん!


『急ぎましょう。奴らが入って来てからでは、奇襲の効果が薄くなります』


「わかったわ。やるしかないのね。なんかいろいろと釈然としないんだけど――」


 シンクロアも母も、何か隠してる。そう感じる。いろいろと今日の動きは不自然だし。

 これは、一段落したら、母を問い質さないとね。


「いくよ。シンクロア」


『駄目です。愛衣様。窓開けたらバレます。裏のバルコニーから屋根に上がってください』


「だからさあー、そういう事は初めに言ってくれないかなあ」


 シンクロアに文句を言いながら、バルコニーに出る。


「シンクロア。このまま屋根に上がるのはいいんだけどさ、わたし靴下だよ。靴持ってきたらよかった」


 とはいえ、いまさら一階の玄関まで降りていたら、奴らと鉢合わせしちゃうよね。


『大丈夫ですよ、愛衣様。ちょうど洗った靴が干してあります』


 見ると、わたしの運動靴がバルコニーに干されていた。

 偶然なの? それともこれを見越して、母が用意してたの?

 母を疑う訳ではないけど、いろいろと裏がありそうで怖くなってきた。

 シンクロアに相談したいけど、こうなったらシンクロアすら信用できない。


 干されていた靴を履き、バルコニーの手摺の上に立つ。

 屋根の上まで普通に飛んだら届きそうにない距離だった。


「シンクロア、ここからジャンプで届く?」


『はい。問題ありません』


 呼吸を整えながらゆっくりとしゃがみ、それから勢いよく屋根に向かってジャンプした。


 夢の中で体験するような感覚で、身体が夜風を斬ってふわりと浮き上がり、自分が飛んでいると感じた。

 屋根の上に降りていく様は、スローモーションに見えた。

 体重が無いかのように、着地も静かに降りる事ができた。


 凄い! 自分がやった事なのに!


 なんだか、今なら何でも出来る気がした。感動で、身体から力が漲ってくる。

 その勢いのまま、屋根の瓦の上を、音を立てないように注意しながら、静かに走る。

 

「シンクロア、このまま飛び降りるよ」


『了解しました。愛衣様』


 シンクロアの返事と同時に、屋根瓦を蹴って飛び上がる。


 家の様子を窺っている、黒尽くめの三人の姿が下に見えた。

 

 落下の勢いを使って、蹴りを、一番端にいる奴にかます。

 ずんという手応えが、足の裏に伝わる。相手の首元に蹴りがヒットして、他の二人を巻き込んで転がる。

 蹴りの反動を使って速度を殺し、うまくそのまま着地に成功した。


 やった! 狙い通り。

 わたし、やるじゃん!


『愛衣様、早く逃げましょう。奴らは直ぐに起き上がってきます』


「そ、そうよね。逃げよう!」


 踵を返して、一目散に道路を走る。

 戦いの興奮が覚めるに連れて、わたしは、重要な事に気付いて愕然とする。


「えっと、シンクロア?」


『はい、なんでしょうか? 愛衣様』


 足を止めずに、まっすぐ全速力で走りながら、シンクロアに聞いた。


「ところで、わたしたち、何処へ行けばいいの?」


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