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05) エリアス・ラストと言う名の少年



「時は来た!」

「いよいよ人間も英傑六家族に肩を並べられる!」

「人類の希望、エリアス・ラスト!」

「人類の進化を体現する少年!」

「王立魔法大学に進学する、初めての人間!」


 ファールンテリエ王国の王都パルタモは今、とある少年の噂でもちきり。それは王都に住む荘園農奴や労働者だけでなく貴族までもが話題にするほどの熱狂ぶりだ。

 噂の内容をなぞれば、一人の少年が王立魔法大学への進学が認められたと言う、ただそれだけの話なのだが、実は人間にとっては重大な話題。貧富の差に関係無く、人々が顔を合わせれば挨拶代わりにこの話題を熱く語り合うのには、それなりの理由があった。“人類”……つまり『人間族』の未来が変わると確信させるだけの、期待が込められていたからだ。

 たった一人の少年が、何故人間の未来を変えるのかをたどるには、そもそもこのファールンテリエ王国の中世から現代について語らねばならない。伝説の人物“賢王”ファールンテリエによって建国され、代々のファールンテリエの子孫が統治して、そして今に至るのだが、この大陸有数の由緒正しい国家は二百年前を境として、社会構造を劇的に変化させてしまっていたのである。


  『魔王襲来』

 二百年前の出来事を人々はそう語り継ぐのだが、歴史書的に言えば「初代神聖皇帝を騙るバルノルト・アルベルヒトに率いられた一部の魔族勢力、いわゆるアルベルヒト条約軍による東征進軍」と表記される大陸を揺るがす大戦争が勃発した。

 新興魔族である“悪魔”を主軸とした魔王軍が大陸中に侵攻を始めるのだが、目的は初代神聖皇帝による大陸統一であり、快進撃を続ける魔王軍に対して人間族の各国家は防戦どころか一方的に戦いに敗れ、次々と占領されてしまったのだ。

 ――絶望的なほどに魔力に(とぼ)しく、身長も体力も恐ろしいほどに中庸な人間種と、溢れんばかりの魔力を源として魔法を行使する魔族が衝突すれば、いかに人間種が知略を駆使して集団戦を展開したとしても、総合火力に勝る魔族に対し、勝てる見込みは皆無に等しかったのだ――

 

 破竹の勢いで侵攻を続けるアルベルヒト条約軍が、いよいよファールンテリエ王国の国境に迫って来た時、これで由緒正しい大陸有数の国家が終わると誰もが思った時、状況がガラリと変わった。国境を守るため絶望的な戦いを続けていた王国軍に、大陸中の様々な『亜人族』の軍が合流し、条約軍に対して抵抗を始めたのだ。

 ――身体能力と必殺技に長けた獣人。一撃の重さで敵を屠る巨人族。精霊魔法に長けたエルフやドワーフ、そしてアルベルヒト派に抵抗する魔族と、全能神セレストを祀る天使族などが軍勢となって集まり、人間種に味方したのである――


 魔王の進撃は止まった。止まったどころか押し返されて終わった。百年かけた魔王襲来の戦争は、人間種側の大勝利となって幕を閉じたのだ。


 “だが人間の悲劇は、魔王の終焉と共に終わった訳ではなかった”

 戦後百年経った今も、もたらされた平和は続いているのだが、あの日を境に繁栄と言う名の人間種の幸せは遥か遠くに消え失せた。手を伸ばしても到底届かない場所へと遠のいてしまったのだ。

 何故ならば、戦乱の悲劇と入れ替わるように、貧困と疫病が人間社会を支配するようになったから。(おおやけ)にはされてはいないが、何かの約定をもって人間たちは別の種族に支配され、そして搾取されていたのである。


 誰がきっかけで何を言い出したのかは分からない。

 だが王国の中で亜人たちが支配層に居座り、搾取を重ねているから貧困が続くのだとは、人々の誰もが肌で感じていた。「だからこそ」進化した人間が亜人たちに肩を並べ、対等な関係を築ける時を待ち望んでいたのである。


 魔力を持つ人間、魔力を持って魔法を行使出来る人間。先祖に亜人がいたのかどうかまでは分からないが、少年エリアス・ラストが人間として初めて王立魔法大学に入学すると言うニュースは、貧民や街の人々にそれだけ明るい話題。人々に実りある未来へと期待を抱かせていたのだ。



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