02) プロローグ2 リュックの独白
「転生」なんて言葉を使うと、アニメや漫画やライトノベルのジャンルについて語っているような気分に陥るのだが、ようは転生なんて言葉は仏教の教えにある『輪廻転生』のことなのだ。――肉体は滅んでも、魂は不滅となって時間と空間を超え、新たな肉体と結合して新たな人生を歩む――
今の最悪な人生を呪いながら、ふとしたきっかけで死を迎えた主人公が、新たな世界でバラ色の人生を送る『転生もの』は、実はそれほど珍しくは無い現象であり、輪廻転生の教えが本当であるならば、誰もが転生してあらたな人生を謳歌するチャンスがある。……ただし、新たな人生がバラ色かどうかまでは言及されていないし、前世の記憶を保持したまま新たな人生を送れる可能性も分からない。
つまり人は死んだら生まれ変わる事を前提とするのが輪廻転生の教え。生まれ変われるけど前世の記憶を持つ者は皆無で、通常ならば前世と現世の比較など出来ないと言う事もその教えに付随している。だがそれが比較出来るギミックが物語における『転生』であり、なおかつ生まれ変わった世界が現代世界ではなく「異世界」であるならば、少年少女の空想をかき立てるに違いない。
悪夢のようだった前世の人生。その忌むべき記憶を胸に秘めながら、それを繰り返さないためにも、生まれ変わった世界での人生を豊かにするには、もう一つ都合の良いギミックが必要だ。俗に言うチート能力。何でも夢が叶う『チート』と呼ばれる特殊な能力も備えて、前世の人生に復讐するかのように、名誉欲や知識欲や金欲や性欲を貪り喰らい、人類の頂点を目指すのが物語における「転生者」の仕草だと言える。
だが、幸か不幸か今のオレには人類の頂点を目指す気概が無い。何故ならば、オレは今現在息をしているこの世界において、人類の頂点などと言うタイトルほど無価値なトロフィーは無いからだ。
オレが生きているこの世界において人類、つまり人間はゴミのような存在であり、この世界で頂点を目指すとするならば、よほどの能力に恵まれつつ、人間を上回る数々の存在を駆逐する必要がある。人間よりも肉体的にも精神的にも優れ、更には神霊的にも優れた存在をも出し抜かなけば、夢に見たような頂点にたどり着く事は到底出来ないのだ。
ファールンテリエ王国は人間の国だ。
巨大なドゥリサル大陸の中央に位置するこのファールンテリエ王国は、人間によって建国され、人間によって繁栄の歴史を積み重ねた、まごう事無き人間の国だ。その国に今、オレはいる。輪廻転生してこの世界に降り立ったんだ。
そしてオレが前世や前前世の記憶と隠された能力を遺憾なく発揮すれば、本来なら人類の頂点にたどり着く事が可能なはずだった。――それが単なる人間だけの世界であれば――
このファールンテリエ王国に限らずこの世界に住まう人間たちは、種としての繁栄を重ねてはいるものの決して君臨する事は出来ていない。何故ならば人間は実は、真なる支配者たちによって『生かさず殺さず』管理されていたのだから……
“そう!この世界で人間とは、真なる支配者たちのための奴隷であり、金になる木の種であり、畑の肥しだったんだ!”
~~苗字すら無い貧民の子リュック、推定15歳の年明けに分かった、この世界の真実~~