01) プロローグ
〜〜平和とは、次の戦争への準備期間である〜〜
アメリカの南北戦争を経験したジャーナリストがそう論じた一説だと記憶しているが、「言い得て妙」とはこの事だと思える。
人類、人間社会の悠久の歴史において、必ず世界のどこかで戦争が起きている。戦争と言う単語が使われる年が無くても、それに代わって内戦や紛争と言う言葉が定義され、人類史はまさに流血の歴史……血文字で記された争乱の歴史と呼んでも過言ではない。――血みどろの闘いに疲弊した人々は、だからこそ“平和”と言う言葉に価値を感じ、そして平和を尊ぶのだ。
このファールンテリエ王国も数々の戦争、そして内戦や紛争を経て今の姿がある。
二百年前にこの大陸に降臨した魔王が魔族を率い、百年もの間戦争が続いた所謂“百年戦争”を戦い抜き、見事魔王軍を退けた後も、数多の戦乱に巻き込まれつつも大陸有数の巨大王国を維持し続けた。
――だが、やっとの思いで掴んだ平和。平和に包まれたはずの王国において、人々の生活は全く変わらなかったのだ――
戦争で疲弊した経済が回復する事は無く、街は貧しい者たちで溢れ返り、窃盗や強盗殺人が日常的に行われている。そして人身売買の誘拐や奴隷売買が横行し、平和と言う言葉とはまるで縁の無い、闇の時代が続いていたのである。
“なぜ?” “どうして?”と疑問に思うはずだ。戦費がかさみ資源も人もどんどんと消耗して行く『戦争』が終わり、国に平和が訪れたはずなのに。なぜ?どうして人々の生活は向上して行かないのか?と。
この物語は、戦乱の時代が終わった後の物語。戦争の影に怯える事無く、日々の生活を朗らかな笑顔で送れるはずなのに、送れなかった人々の沈鬱な物語。
社会の闇に蠢く悪意がやがて暴かれ、再び戦乱の時代が始まろうとする“偽りの平和”の物語である。