国王の野望
「ラインハルト様、無事に帰宅されたようです。ご夕食は如何なさいますか?」
ラインハルト以外誰もいない執務室で長年ラインハルトの世話をしている執事はいつもの優しい笑みを浮かべ話しかけた。
「あぁ、そうだな。湯浴みをしてから部屋で食べるよ。続きは明日にしよう。ヴィヴィアンに聞かなければ解らない件もあるしな。」
「明日はヴィヴィアン様はお休みではないですか?」
そうだったと思い出しラインハルトはあからさまにがっかりした顔を見せた。
「明日はご友人のエリザベス様とご一緒だそうですよ。夜会が近いのでショッピングに行かれるのかも知れませんね。」
「アイツは俺が用意したドレスを見て帰ったか?」
「いえ、そのまま帰られました。」
「やっぱりな。毎回当日まで見向きもしないんだ。」
「ラインハルト様のセンスに絶大な信頼をおかれているからですよ。夜会の度に誰よりも美しく輝いていますからね。」
父である国王とヴィヴィアンの両親は学友で幼少期から仲が良かった。
思春期に差し掛かり王太子であった陛下は当然婚約話がいくつも持ち上がる。
陛下はヴィヴィアンの母であるダイアナが気に入っていたが子爵家の娘だった為に家柄で諦めねばならず異国の娘と政略結婚し2人の息子の父になったのだ。
婚姻後も友好関係は続きお互いの子供達を連れて旅行に行ったりもした。
そして父と同じような環境でラインハルトとヴィヴィアンは幼馴染であり、同級生として育っていく。
(俺は父上とは違う。ヴィヴィアンは亡くなられた侯爵の姓のままだから婚姻に問題はない。あるとすればーー。)
問題は大ありだった。
異国との友好関係の為に母上と結婚したが元々身体が弱く子供を2人授かると寝込むようになってしまった。
父上と母上は長い話し合いのもと離縁し母上は懐かしい自国へ帰って行ったのだ。
「こちらの寒い気候が合わないのだろう。あちらの四季のある国へ帰れば回復すると思う。泣くでない、船で会いに行こうな。文を送ろう。四季に合わせて絵姿も送ろう。」
幼いながらに嫌いで別れた訳ではないんだなと理解していたがヴィヴィアンの父が亡くなった時から父上は自分の気持ちを隠さなくなった。
父上はダイアナ様と再婚を望んでいる。
そしてその気持ちをヴィヴィアンも知っているのだ。
(父上が再婚すれば俺たちは兄弟になってしまう。あ、兄妹だな。あれ?俺の方が弟になるのか?アイツは夏生まれで俺は12月だからな。いやいや、ダメだ。再婚されては困る。父上より先に俺がヴィヴィアンを嫁にしなければ!)
告白する機会など山程あった。
ずっと一緒に過ごしてきたし誰もが俺たちが夫婦になる事を望んでいるだろう。と、思いたい。
手を繋いでも嫌がらないからある日居眠りするヴィヴィアンにそっとキスをした。
何度もこっそりする内にバレてこっそりするなと言われたので堂々としてみたのだが顔を赤くしただけで嫌がらなかった。
(これは勝ち確だと思ったんだがなぁ)
怖くて気持ちを言えないし聞けずにいる。
今ココなのだ。
ラインハルトは食事を終えるとまだ濡れた髪をタオルで拭きながら衣装部屋に向かった。
次の夜会でヴィヴィアンに着せるドレスの腰に腕を回して顔を埋め想いを馳せた。
今夜も寝苦しい夜が待っているのだ。