小さな復讐
結婚式のあとは盛大なパーティーが開かれた。
披露宴である。
諸外国からもゲストが招かれた。
そこにはラインハルトの実の母親であるジュリエットも含まれている。
「母上、式も参列してくだされば良かったのに。お元気そうですね。寒くないですか?」
「おめでとう、ラインハルト。もうすっかり丈夫になったから心配しなくてもいいわ。式にも参列していたわよ、1番隅にいたの。着いたのがギリギリだったから。」
ラインハルトは母親にそっとハグをした。
「今日のドレスも素敵ですね。」
「ふふふ、わかってるわよ。生地を沢山持って来たわ。」
「さすが、母上。あとから商談になりますね。」
「ヴィヴィアンはダイアナ様と話してらっしゃるのかしら。あとでご挨拶をしなくちゃね。」
少し離れたところでヴィヴィアンは母親と弟と話をしている。
周りにはあのやっかいな義姉もその父親もいないようで安心だ。
ウエディングドレスから新たなドレスに着替えた妻の美しさに満足を覚えたラインハルトは母親を伴い父上の所へ向かった。
「母上は人気者ですね。ご婦人からのお声がけが多くてなかなか父上の所まで辿り着けません。」
「しょうがないわ、皆さん私の顧客なんですもの。私が離縁して国に帰ってからドレスに携わる仕事をしているのを知っているでしょう?女性の一番の関心は今も昔もドレスなのよ。貴方も同じよね、ヴィヴィアンのドレス素敵だわ。でも。」
「でも?」
「あなたの国のご婦人達の流行は随分と個性的ね。」
「あぁ、髪ですか、ごく一部の方だけですよ。」
流行に敏感なご婦人達は夜会でも茶会でも最先端な装いを意識してきた。
誰かが他国では〇〇が流行していると話しているのを聞いては誰よりも早く取り寄せ発信するのだ。
それを周りの仲良しなご婦人が真似をし、また別のご婦人に伝える。
こうして大きなパーティーまでに広がっていく。
だが彼女達は気付いていない。
その《〇〇が流行している》と発信するのはいつも外交官の妻であるマーティンの母親だと言う事を。
この披露宴に招待された盛り髪のご婦人達は居心地の悪さを感じていた。
諸外国の夫人が皆こちらをみて笑っている気がしたからだ。
「髪に乗せているお船は旦那様のタイピンの碇とリンクしているのね。仲が良くてよろしいですわね。」
「大変個性的でいらっしゃるわ。流行という訳ではなさそうですわね。その髪をしていらっしゃるのはごく一部の方だけですものね。」
「まあ、貴方は髪がお花畑だわ。ドレスの刺繍は庭園かしら?」
「つまり髪とドレスで絵画になっているんだわ。良く考えられているわね。どなたの発案なのかしら?」
盛り髪の女性たちは何を言われても馬鹿にされているように感じた。
そうだ、これが世界的に流行っていると言っていた外交官の妻、ロズウェル夫人だ。
彼女は流行とは全く無縁の優美なドレスを着ている。
後で問い詰めてみなければと夫人は噛み締めた唇を扇子で隠し微笑むしか無かった。
マーティンの母、ロズウェル夫人はラインハルトの母親と仲良く談笑している。
遠目で盛り髪軍団が笑われてやり込められるのを見ていた。
「よそのお嬢様の披露宴にお呼ばれしてあの髪で来るとはね。何年たっても非常識のまま成長しないとは。」
「妻があれじゃ旦那様も失脚だわ。そうなる前に離縁するでしょうよ。ロズウェル夫人、貴方のご友人達の仇は取れたかしら?」
「そうね、私の友人達から婚約者を奪った女達ですもの。恥をかいて捨てられれば願ったり叶ったりだわ。けれどアレらを選んだ男達と結婚しなくて良かったわ。」
「本当にそうね、その通りよ。散々嘘の流行りに随分と散財したでしょうしいい気味だわね。」
側で話を聞いていたヴィヴィアンは成程と思った。
ロズウェル夫人が長い時間をかけて友人達の復讐をしたのだ。
それは些細な復讐のようだが貴族の女性にとっては大変不名誉な出来事だ。
狭い社交界で噂はすぐに広まるだろう。
《ダサい》
永久に言われ続けるのだ。
もうどんなドレスを着てもくすくす笑われるに違いない。
彼女達は耐えられなくなり社交界に出てこなくなる。
(全員がそんなノミの心臓の持ち主とは限らないわ。マリスみたいな図々しさを絵に描いたような女もいるはずだから。)
直ぐにでも母親にマリスの事を聞きたいのだが披露宴が済むまではと我慢している。
母は言った。
「名前を聞くのも嫌だったじゃないの。あとから話してあげるけれど興味なんて1ミリもなかったんじゃないの?」
母は少し悪戯な顔をして笑っていた。




