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陛下の意外な趣味

マーティンの家から王宮に戻ると敷地の奥の森から煙が見えた。

夜会の片付けが済んだのかメイドも侍女も見当たらず誰もいない。

冬の大きな夜会が終わると通いの者達はそれぞれ家に帰る。年が明けるまで長い休みをもらうからだ。

ラインハルトとヴィヴィアンは暖かくリラックスした服に着替えた。

最後にフードのついたコートのボタンを1番上までしっかり留めると靴下も3枚重ねてブーツをはく。


「完全防備だな。行くぞ。」



森の奥に向かうと寒さの中でも肉の焼ける良い匂いが漂ってくる。

木々の合間をぬって着いた先には丸太小屋の前で焚き火をしながら談笑する陛下とヴィヴィアンの母親がいた。


「やっと来たな、何しに行っていたのだ?火のそばに座れ。ヴィヴィアンは何を飲む?ワインもシャンパンもあるぞ。」

「こんばんは、陛下。お母様もお酒を飲んでいるのね。私もシャンパンを頂きます。マーティンのお母様に昔の婚約破棄の話を聞きに行っていたんです。誰と誰が因縁があるのか知りたくて。舞い込む苦情が私怨って事がわかりました。」

「もう昔の話だろう?今ではそんな阿呆はおらん。肉はここらが焼けているぞ。お前達も勝手に取って食べてくれ。あの鍋にはスープがある。後ろにはサラダやフルーツがあるからな。」

「婚約破棄していいのはね、ピンクの髪のご令嬢だけよ。」

「ピンクの髪なんて実際に存在しないですよね?」

「それがね、いたのよ昔は。流行っていたからね。流行って厄介なのよ、今の可笑しな盛りヘアもね。」

「あの重い頭のせいで首を痛めたご婦人が病院で列を作っているそうだ。いちいちそんな理由で医師の手を煩わせるとは許し難いな。またキツイ禁止令を作るか。」


陛下は陽気に寛いでいた。

母も陛下にもたれながらお酒を飲んでいる。

ヴィヴィアンはラインハルトの脚の間にすっぽり収まり一緒に毛布をかけているので暖かくて眠くなりそうだ。


この森の丸太小屋は陛下の趣味だ。

登山もキャンプにも行けない代わりに陛下が自ら木を切り建てた小屋は年々増設され設備が整い小屋とは言い難くなっている。


「もう立派に住めそうですね。父上は此処に住むつもりじゃないでしょうね?」

「隠居したら入り浸るつもりだよ。だがあちこち旅行に行きたいなあ。もう譲っても良い頃だろう?お前達の結婚式がすんで暫くしたらの話だがな。」

「俺たちが先に結婚するのを許して貰えるんですね?」

「許すも何も夜会であれだけの振る舞いをしたなら決定事項だろう?ダイアナに言われたよ。まずは子供の幸せを考えろとな。俺とダイアナは結婚でなくとも一緒に居られれば良しとしよう。」

「漸く父上も大人になりましたね。ダイアナ様のおかげです。」

「そうね、貴方達が大人になったからよ。世代交代の時期なんだわ。これまで働き詰めだったからこれからは陛下の側に侍ることを許してちょうだい。」


昨日の夜会は自分達の事しか考えられずに陛下も母にも会っていなかった。

母はこんなに若々しかっただろうか。

学生の冬休みのように寛ぎはしゃぐ母を見るのは久しぶりだ。

まだ長い人生を独りぼっちではなく気の合う誰かと過ごせるならば天国の父も安心して笑ってくれるような気がした。


「また降って来たな。中に入るか、暖炉で暖めてある。その食事を全部運ぼう。」


陛下は自ら運び始めた。

この食事は夜会の残りだ。

家に帰るメイド達に持たせる際に少しだけ避けておき毎年こうして焚き火をしながら食べるのが陛下の楽しみだった。

食材にもシェフにも感謝を忘れず無駄にするなといつも厳しく言われていた。

陛下の考え方は素敵だと思う。

幼い頃は何度か来ていたが今回とても久しぶりに来て部屋が立派になっていて驚いた。


「最初から中で良いじゃないですか。寒いんですから。」

「あほう、焚き火は外でないと味わえん。去年は雪が少なかったからなあ。そうだ、釣りにも行かねばな。」

「風邪をひかないでくださいよ。」

「ふん、お前より丈夫だぞ。俺たちは此処に泊まるがお前たちは帰れよ。寒くて耐えられんだろうからな。」


豪快に笑う陛下はいつもの面影は全くない。

無精髭だらけの顔に無造作に乱れた髪、山男のような服装で誰も陛下だと思わないだろう。

亡くなった父はこの様な趣味はなく音楽や劇や美術が好きだった。


「お母様も本当はアウトドアな遊びが好きだったの?」

「私はどちらも好きよ。遊びならなんでもね。昨日からお酒を飲みっぱなしだから眠くなってきわ。」

「ダイアナが眠ってしまう前にお前達の結婚式がいつになるのかだけ聞かせてくれ。」


ヴィヴィアンとラインハルトは眉間に皺を寄せながら腕を組み考える。

休暇が明けたら友人達の結婚ラッシュが始まる。

王子という立場上出席せねばならない。

だが早めにしてしまいたいのだ、何故ならば子を宿した可能性があるからだ。


「・・・週末は一杯だからなあ。平日にサクッと済ませたい気もする。」

「良いですね、あまり大袈裟な式は気が進まないですし。何なら王宮のお庭でサクサクっと。」

「そうだな、わざわざ大聖堂でなくとも神父さえいれば問題ない。だがドレスは凝りたいからな。一月後にしよう。」


「あははっ、貴方達らしいわね。ヴィヴィアン、私は休暇が明けたら行く所があるの。帰りにノエルにも会ってくるわ。結婚式前には戻るから。屋敷はたまに帰って様子を見てちょうだい。」

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