まさか断罪する羽目に
国中の貴族が集まるのだから多少の小競り合いはある。
ご婦人も娘達もドレスや装飾品のマウントの取り合いは付き物で今日もあちこちで嫌味の花は咲くのだ。
だがダンスが始まると空気は一変する。
皆この時だけは優雅に輪を描く。
「そろそろ下に行きましょうか、王太子殿下ご夫妻のダンスが始まるわよ。」
「そうだな、食べた分は運動しなくては。ラインハルト達も行くだろう?」
「あぁ、先に行ってくれ。すぐに行くから。」
マーティンとラインハルトは眼で会話を交わす。
「あー、ヴィヴィアン、あのな、」
「今じゃないわ。今じゃなくない?とりあえず下に行きましょうよ。私あのピアノ奏者の音が好きなのよ。踊りやすいから。」
「じゃあいつ聞いてくれるんだよ。もう口から溢れるぞ。」
「こぼれたら受け止めるわ、その覚悟はあるから。」
「口で受け止めてくれよな。」
「・・・いいけど、ラインハルトってたまに中年みたいな事言うわよね。」
ちょっとショックを受けているラインハルトの腕に自分の腕をからませる。それだけで機嫌が良くなるのだから男って単純で可愛いなと思う。
ラインハルトだけかも知れないけれど。
「殿下、踊ってくださる?」
「喜んで。」
2人が輪の中に入ると感嘆の声がちらほらと漏れた。
みんなヴィヴィアンのドレスに釘付けなのだ。
「ドレスが素敵って聞こえてくるわ。良かったわね。私も気に入っているの。」
「ドレスもだがお前が着ているからな。よく似合うって事だろう。」
「そう?嬉しいわ。いつも素敵なドレスをありがとう。」
「生涯作ってやるよ、だから嫁に来い。」
「承りましたー。」
「なんだその答えは。軽すぎないか?」
「軽く言われたんだもの。でも片膝ついて花を渡されるよりずっといいわ、ラインハルトらしくて好きよ。」
曲が終わるころラインハルトはヴィヴィアンに優しく口付けた。
美しい王子と可愛らしいヴィヴィアンの求婚は優しい眼差しで静かに祝福をされた。
同級生達も長かった2人の関係に漸く花が咲き温かく見守る。
きっと何処かでお母様と陛下も見ているだろうとヴィヴィアンは思った。
「ヴィヴィアン、紹介するわ。私の婚約者のピーター・ハウンドよ。ご挨拶がまだだったわね。ピーター、私の義妹のヴィヴィアン・グリフィス侯爵令嬢よ。」
ダンスの輪から出たラインハルトとヴィヴィアンの前に立ちはだかったのは忌々しいマリスだった。
「私に姉などおりませんが。」
ヴィヴィアンは笑顔で答えたがラインハルトはヴィヴィアンを抱き寄せてマリスを睨みつける。
「私より先に話してはならぬとまだ覚えられぬのか。呆れたものだな。ヴィヴィアン嬢に姉がいた覚えはないのだが、そちらは?」
「殿下、私の婚約者のマリスが大変失礼致しました。後から言い聞かせますのでお許しください。マリス、行こう。」
改めて婚約者の方をまじまじと見る。
絵姿に間違いはなく容姿は良い。だが違和感を覚えるのは顔と服装が合っていないからだと思う。
(なんて言うか、若作り?妙に若者に寄せているわね。似合っていないわ。30くらいと聞いたはずだけど痛々しく感じるわ。マリスも少女趣味なところがあるからお似合いだけれど。)
「私の屋敷に何年間か住んでいただけで姉妹ではないわ。何回も言っているけれど姓が違います。貴方とは何の関係もありません。もう絡んでこないで。」
こんな事を公衆の面前で言いたくはないが大勢の前で言われたので仕方がない。
だがマリスは平然としている。
「なによ、侯爵家って言っても名ばかりなんでしょ?あんたの母親じゃ領地を維持できないって聞いたわ。この方をご存知?商社をいくつも経営していらっしゃるの。貴族ではないけれど夜会には招待されるのよ。」
「そんな凄い方と結婚するのね、おめでとう。では。」
「提案があるの、聞きなさいよ。私達の婚約者を変えっこしましょうよ。彼なら貴方の領地経営くらいパパッとやってくれるわ。」
ヴィヴィアンがそっと観衆を見ると皆さん目がキラキラとしていた。
これから始まる、もう始まってしまったしょうもない寸劇にワクワクしているに違いない。
何年も前に流行った婚約破棄断罪と同等と思われるなんて。
阿呆な婚約破棄する人も減りみんなワクワクに飢えているんだ、きっと。
「貴方が殿下と結婚したとしてメリットはあるの?聞かせてちょうだい。」
「私は人とお話するのが得意なの。だから外交に行っても大いに役に立つわ。」
「そう、何ヶ国語を話せるのかしら?殿下の行動範囲は広いですからね。」
「これから習うわ!」
「そうなのね、殿下のお仕事の補佐は出来る?」
「教えて貰えば出来るわ。」
「誰に教えて貰うの?」
「殿下に教えて頂くわ。」
「殿下にそんな暇はありません。学校で習ったらどう?これから諸外国の言葉を習いたいなら学校に行けば良いのでは?マスター出来たなら婚約者になれるんじゃないかしら。名案でしょう?さ、早く手続きしてきなさいよ。急がないと貴方25でしょう、結婚適齢期が過ぎてしまうわ。」
「先に結婚するわ。それから学校に行っても良いのでしょう?」
「・・・もう貴方と話すのも疲れてきたわ。最後の夜会楽しんでいってね。では永遠にさようなら。」
「待ちなさいよ!最後って何よ!」
「ええっと、よく聞いてね?貴方はもう出禁よ。招待状は届かないわ。紙にも書き記しましょうか?何回言っても忘れそうですからね。コトバハツウジテイマスカ?貴方のお父様にも送っておくわね。もう話しかけないでくれる?気分が悪くなるから。この前も同じ事言ったと思うけれど。次はないからね?これ以上醜態を晒すなら鼻フックして街の水門に吊るすわよ。それともこの前水揚げされた巨大な蟹の甲羅の中に入れるわよ、顔だけ出してレストランの看板にしてやるわ。」
笑顔で怒ると怖い。
それが見ていた人たちの感想だ。
マリスを婚約者が慌てて引っ張り連れ去った。
もう本当に来ないで欲しい。
見ていた同級生達は笑いながら寄ってきた。
「はぁ、おもろ。傑作だな、ヴィヴィアン。息子が悪戯したら同じお仕置きをするよ。他に思い付いたら知らせてくれ。」




