うっかりラインハルト
仕事は意外に早く片付いた。
お母様が陛下に物申したのだ。
陛下がやるべき案件はラインハルトに回さずに直接陛下がやれば良い。それが国の長なのでは?と。
だから今までの半分くらいは減りこうして湯にゆっくり浸かり癒しの時間が持てたのだ。
屋敷では母とヴィヴィアンのドレスや装飾品が並べられ明日の支度に余念はない。
「お母様のドレス・・・少女趣味過ぎない?この辺の花とか取っ払いましょうよ。」
「そうね、どうせ陛下はわからないもの。色くらいしか覚えてないわ。肩ももう少し出したいわね。ハンナを呼んできてちょうだい。」
こうして昼間は母のドレスの手直しに追われたのだ。
余計な飾りを外したドレスは全く違うものになってしまったのだが母は満足そうだ。
「ヴィヴィアンはいいわねぇ、ラインハルト様のお見立てって言うよりも多分デザインもしてるわよ、これ。あの子いつも洒落てるもの。王妃様もお洒落な方だったからね、遺伝したのよきっと。お元気かしらね。」
(奴ならデザインからやってそうだわ、絵も上手だしね。それにしてもこんなにゆったり夜会の準備が出来るなんて何年振りかしら。)
ヴィヴィアンと母親のダイアナは王家からの迎えの馬車に乗り王宮へ向かった。
入り口は王都中の貴族達でごった返していたが2人はすんなり中に通してもらう。
招待状もいらなければ名を確認する事もない。
「ヴィヴィアン、私はあちらに行くわね。今日は隣に立つ事はないから安心して。側に居なくちゃいけないとは思うけれど。」
母は陛下から言われた通りに広間には行かずに奥へ消えて行った。
ひとりでどうしようかと思い視線を彷徨わせるとすぐ側の柱の向こうにエリザベスとマーティンを見つけた。
「エリザ、マーティン!」
「あら、ヴィヴィアン、ちょうど良かったわ。探してきて貰おうと思っていたの。殿下が待ってるわ。私達用に部屋をキープしてあるから行きましょう。」
「ね、見た?もう少し見ていたいんだけど。」
「見たって言うよりは嫌でも視界に入るわね。マーティンなんて笑いを必死に堪えて涙目なのよ。」
「よ、ヴィヴィアン。部屋に入ったら笑い崩れそうだよ。」
今年の春から急に流行り出した盛りヘアスタイルは高位貴族の夫人から始まった。
流行は若者からでなく裕福な夫人から始まる事が多い。
つけ毛をいくつも組み合わせ地毛に編み込む。その際に中に詰め物を入れてふっくらさせるのだ。その髪にさす飾りの奇妙で豪華なこと!
「ば、馬車が頭についてるわ。」
「ふっ、テーマがあるそうだ。馬車は何かわからんがあちらの夫人は狐狩りがテーマだそうだ。よく見てみろ。小さな馬と狐が乗ってるだろう?」
ヴィヴィアンが上から夫人達を見たいと言うので広間を見渡せるロイヤル席に移動した。
ここは下からは見上げないと気が付かないだろうし音楽隊の上だから会話も聞こえないだろう。
「わぁ、すごいわ、もう見慣れて何だか可愛く見えてきた気がする。テーマを当てっこしましょうよ。ランブル夫人はきっと教会よ、十字架だし。あ、見てあれ。」
目線の先には先日まで屋敷に居候していたマリスが見えた。
隣にいるのは父親ではなく少し歳が上であろう男性だ。
婚約がまとまったのだろうか。
「安いドレスを全部売って手に入れたドレスだ。婚約者殿と来たならば大人しくしているだろう。ダンスが始まるまでは此処にいれば良い。料理も運ばせよう。」
「ダンスの始まりはまさか陛下とお母様じゃないわよね?」
「安心しろ、兄上夫妻からだ。父上には大人しくしていてもらう。その為のダイアナ様だ。」
「なになに、陛下とうとう長年の夢を叶えるの?」
「まだ決めかねている状態だ。結婚なら引退しろって言ってあるからな。その場合は俺たちは執務から手を引くつもりだ。」
「陛下を脅したんだな。悪い奴め。」
「貴方達はどうなったのか聞いてもいいの?」
お母様は陛下との結婚よりもヴィヴィアンとラインハルトの幸せを優先するだろう。
けれど。
「どうもなっていないわよ?だって何も言われていないもの。」
ラインハルトは口をぽっかり開けて固まった。
どうやら思い出したらしい。
プロポーズなどしていない事を。




